いよいよ島内に大型恐竜が出没し始める件
鳥の巣の中身だが、木の実や鑑定の書に混じって、何と魔結晶(大)が5個も入っていた。これは1個50万円以上で売れるので、これだけでひと財産である。
もっとも来栖家では、合成に使ったりルルンバちゃんの動力や魔導発電のエネルギーにする事が多い。そんな訳で、売りに出す事態は滅多に無いのだが、とっても嬉しい回収品には違いない。
それにしても、やはり8層でのこの手の高額品は大盤振る舞い過ぎる気が。“鬼の報酬ダンジョン”ならともかく、ここはB級ダンジョンって触れ込みなのだ。
素直に喜ぶ末妹に、ぶり返しが来ないかなと慄く護人や姫香。とは言え、貰えるモノはしっかり頂いて帰るのが探索者の流儀ではある。
しっかり回収して、そして階段を降りて次は9層エリアである。出た先は沼地近くの丸太道の上で、その先のルートもしっかり整備されて不便は無さげ。
敵影は今の所は無くて、樹木と大シダの生い茂る方へと道は続いている。それを見定めた先行のハスキー達が、いつものように進み始める。
幸いな事に、沼地での襲撃は無く一行は樹海エリアの獣道へと辿り着く事が出来た。そのまま進んで行くと、やがてぽっかりと拓けた空地へと出てしまう。
まるで樹海の中のリングのようで、その予感は大当たり……顔の襟巻きと3本の角が特徴のトリケラトプスと、背中の扇のようなヒレが特徴のスピノサウルスが数体ずつ群れを成して待ち構えていたのだ。
「おおっ、今回はラプトルみたいな小型恐竜じゃないんだ……どっちも狂暴そうだよね、相手をするのはとっても大変そう。
ここはやっぱり、紗良お姉ちゃんの魔法の出番かなっ?」
「それは良いけど、草食恐竜と肉食恐竜が仲良く待ち構えているってシュールだよね。さて、どっちをメインに氷漬けにしようか?」
「う~ん、どっちも半々でいいんじゃない? ただまぁ、茶々丸がトリケラトプスを相手に、突進ごっこをやってみたそうなんだよねぇ。
それを許可すると、悲惨な事になりそうだからアッチを多めにやっつけて」
姫香の筋の通っているような、通って無いような指示出しに紗良は大真面目な頷きを返す。その頃には、こちらを見定めた恐竜の大行進が既に始まっていた。
ラプトルのような小型恐竜に慣れていると、コイツ等のサイズ感は驚異的かも。何しろ両者とも、象よりも2~3倍の重量は軽くありそう。
そこに吹き荒れる、冷気を纏った範囲攻撃で、突進して来た恐竜たちの足並みは総じて鈍る破目に。そこに姫香の指示が降りて、一斉に迎撃へと向かうペット達。
ルルンバちゃんも一緒なのはご愛敬、大型恐竜に臆する事なく盾役にと出張って行く。最近はそんな感じで、積極性が芽生え始めているAIロボであった。
そして冷気を浴びた敵たちは、最初の勢いもどこへやらな体たらく振り。ハスキー達のスキルや武器攻撃を喰らって、次々と魔石へと変わって行く。
肝心の茶々丸だが、さすがに象より大きな角アリの敵と『突進』ごっこは自重した模様。心配しながら見ていた護人は、一安心しながらフォローへと向かっている。
「茶々丸っ、間違っても相手にぶつかって行くなよ……足を狙えば、敵は自重で動けなくなるぞ。萌もでっかい敵だけど、フォロー頑張れ!」
「茶々丸っ、無茶するんじゃないわよっ……何度も怪我してたら、癖になっちゃって後々大変なんだからねっ!」
後衛からも香多奈の声が飛んで来て、さすがに自重するしかない仔ヤギだったり。そんな波乱を含みながら、重量級の恐竜軍団との戦いは恙無く終了の運びに。
先制での紗良の魔法攻撃が効いて、意外と残された大型恐竜の動きは緩慢だった。そのお陰で、小柄なハスキー達でも大型恐竜の討伐は楽勝で終わった模様。
もっとも、コロ助などは巨大化でトラより大きなサイズになっていたけれど。とは言え相手の方が数倍大きかったので、ハンデは充分に感じていた筈。
落ちている魔石も小サイズばかりで、回収した魔石の4割が小より大きい非常事態である。A級ランクの難易度と言っても差し支えなく、ドロップ品もその良い例かも。
ちなみに今回の回収品も、恐竜の肉やら角やら牙やら皮素材やら割と大量だった。恐竜の肉は、以前に因島のダンジョンで回収した覚えが。
人気だと言うので売り払って食べた記憶はないけど、今回は遠慮なく食する事に。美味しいと話題だったので、ワイバーン肉と較べてみたりも良いかも。
最近は時間操作が可能な貯蔵庫が家にあるので、各種お肉の長期保存も可能になって来た。冬に向けて、色んなダンジョンでお肉を確保して回るのも悪くないかも。
山の上の生活では、雪に閉じ込められて買い物に出かけられなくなる事態も普通にあるのだ。お隣さんを含めると、最近は世帯数も増えて来たので食糧保存はとっても大事。
そんな事を話し合いながら、長女は鞄の中にお肉を仕舞い込んでいる。お肉が回収出来るダンジョンを思い返しながら、一行は小休憩を終えてエリアの奥へと進み始めた。
そして樹海の切れ目で、不意に不思議な建造物を発見。
「あれっ、あの建物はナニかなっ……壊れかけてて、まるで時空を漂流して来たような感じだけど。ハワイのコンビニか何かかな、それとも屋台的なナニか?」
「あっ、本当だ……古びてるけど、屋根とか壁はちゃんとあるねっ。何だろう、ここが無人島と仮定すると、確かに怪しさ大爆発な気もするねっ。
ツグミ、ちょっと一緒に見に行こうっ」
「気を付けてな、姫香……何かの気配が漂って来てる、これは建物の中からかな?」
《心眼》が勝手に発動したのか、そう警告する護人に姫香はオッケーサインを出して慎重に建物へと近付いて行く。ツグミもそれに続いて、敵の気配を気にする素振り。
紗良と香多奈は、息を潜めてそれを背後から見守っている。残りの面々も、何かあったら駆けつけれる距離で姫香とツグミを応援中。
そうして、建物を覗き込んだ姫香に飛び掛かって来た影が幾つか。それを影の触手がインターセプトして、姫香が地面に落ちたそいつ等を退治する。
それはどうやら、三葉虫系の平らな節足動物だったようだ。建物内で何をしていたかは不明だが、続けて数匹が飛び出て姫香に襲い掛かって来た。
今度のインターセプトは、レイジーの炎の鞭だった。器用に姫香に当たらないよう操って、野球審判の防具ほどある平たい敵を次々と屠って行く。
迎撃態勢の姫香は、敵が倒されて行ったのを確認してその構えをゆっくりと解いて行った。それから家族に、もう近付いても大丈夫とのサインを送る。
つまりは、潜んでいた敵は全て退治出来たようで、後は建物内の捜索をするだけ。お土産屋さんみたいだよとの姉の声に、マジでと嬉しそうに駆けて行く末妹。
そこは確かに小店舗みたいな構えの店で、建物はボロいけど中の品は無事だった。雑貨系ではキーホルダーやコインケース、それから花飾りや手作りバッグなど様々な品が置かれてある。
それからTシャツやアロハシャツ、お土産の飾り的なアクセサリーも数点ほど。妖精ちゃんが飛び回っているので、ひょっとしたら魔法の品も混じっているかも。
それは帰ってからのお楽しみとして、手分けしてその辺の価値のある品物を鞄に放り込む子供たち。まるで盗賊行為だが、香多奈はちっとも気にしていないよう。
それが終わって、後は次の層の階段を探すだけ。10層の中ボスの間をクリアすれば、晴れて退去用の魔法陣でこのダンジョンを脱出って寸法だ。
どうせ海岸沿いでしょと、そちらへと進み始める前衛陣は数分後に目的のモノを発見した。優秀なハスキー達は、周囲の安全もしっかり確認して家族をそこへと導く。
「やった、ハスキー達が階段を見付けてくれたよっ。ここが今9層だから、次は中ボスが出て来る感じだねっ!
どんな恐竜が待ってるかな、楽しみっ♪」
「まぁ、9割以上の確率で恐竜だろうけど、間違っても楽しみでは無いよね。しかもかなりの確率で、さっきの恐竜より大きい奴が出て来るパターンでしょ。
さあっ、今回は誰がメインで戦おうか?」
「私もあと1回くらいなら、《氷雪》スキル撃てるよ、姫ちゃん……ミケちゃんも多分MPに余裕があるだろうけど、今日はもう2回も戦ったもんねぇ。
大きい敵が相手だと、MPに余裕のある人が行くべきかな?」
間違っても前衛でのド突き合いは無理があるもんねと、末妹も紗良の言葉に賛同する素振り。護人も余裕はあるよと口にすると、軟体幼児も一緒に行くデシと呑気に立候補してくれた。
ルルンバちゃんでも良いよねと、香多奈は最近は接近戦も勉強中の魔導ゴーレムをプッシュする。とは言え、間違っても大型恐竜と殴り合いはして欲しくない護人であった。
そんな話を家族でしながら、ようやく一行は階段を降りて区切りの10層エリアへ。海岸沿いの風景に、島の中央は樹海が広がっているいつものパターン。
あっちに進めばいいんだねと、ハスキー達はいつものようにチームを先導してくれる。そしてそんなに間を置かず、出現するすっかり慣れたモンスター群。
つまりは海側からはアザラシ獣人が2ダース程度、樹海の樹々の間からはラプトル達が1ダース。今までの最高を更新する、実に分かりやすい大軍での挟み撃ち。
それには後衛陣からも、ヒョエーっと妙な驚きの声が上がる。レイジーも本気を出すかなと、魔法の鞄から『活火山の赤灼ランプ』を出して炎の軍団を召喚し始める。
それを見た護人が、ラプトル軍は自分とレイジーと茶々萌で押さえようかと作戦を表明する。ラプトル軍の背後からは、大型のティラノが複数窺えるけど問題は無いらしい。
それならアッチは、私とツグミとコロ助で相手するねと姫香が元気に請け負って来た。こちらも20体以上のマッチョ獣人に、いささかの気後れもしていない模様。
香多奈がルルンバちゃんの支援はお姉ちゃん側ねと、割り振りを行ってくれている。紗良の範囲魔法は、どうやら中ボス用に取っておこうって作戦みたい。
本気を出した母親に感化されて、ツグミも闇系スキルで2体ほど影の狼を召喚する。さすがに媒体なしでは、レイジーみたいにたくさんの部下の召喚は無理。
「ツグミッ、無理しないで大丈夫だからねっ……いつも通りで、フォロー頼んだわよ!」
「頑張れっ、お姉ちゃんにツグミ……コロ助も、盾役しっかりね!」
香多奈の『応援』を受けて、アザラシ獣人をやっつけ隊も準備オッケーな感じ。距離も段々と詰まって来て、香多奈の命令でまずはAIロボの波動砲が派手に放たれる。
そこから派手な戦いの開始、レーザー砲で吹き飛ばされて行く奴に混じって、反撃の術士の水弾も飛んで来る。それをコロ助の《防御の陣》や、姫香の『圧縮』がすかさずガード。
一方の対ラプトル隊だが、こちらも開始の合図はとっても派手だった。ムームーちゃんの《闇腐敗》が、駆け寄って来るラプトル軍に放たれて何匹かは即座にダウン。
それでも向こうの勢いは止まらず、下手をすると護人&レイジーの防衛ラインも素通りされる心配も出て来た。そのままの勢いで、後衛に到達されたら紗良や香多奈では為す術はない。
そこを見越して、半ダースほど生まれた炎の狼軍団がラプトル達へと突進して行く。そこに混ざる茶々萌コンビは、負けるもんかとお茶目に張り切っている。
かくしてこちらも、10層に入った途端の大規模戦が繰り広げられる流れに。幸いにも、それぞれ指揮を執る護人と姫香に気負いは無さそう。
すっかり慣れっこと言うのもあるが、仲間への信頼が何より大きい。
――その力を借りれば、少々多い敵兵団もへっちゃらだ。
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