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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の秋~冬の件
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ようやく念願のフラダンスを観賞に至る件



 それから来栖家チームは、何事もなく4層へと到達した。そしてすっかりお馴染みの、南国ビーチを海を左手に見ながら進み始める。

 この進路決めは、1層から変わらずこなしていて迷いはないハスキー達。砂地を進むのにもようやく慣れて来て、その足取りは軽快である。


 ちなみにさっきの大波のドロップには、派手なペイントのサーフボードも回収出来た。子供たちの反応は、壁に飾ると格好良いかもねとの評価のみ。

 山育ちの彼女達には、波乗りの感性は刺さらず残念な限り。それでも紗良は、得意のウンチクでサーフィンはハワイが発祥だと言われてるんだよと熱弁する。


「最初は島の間を移動する板に、這いつくばって手漕(てこ)ぎをしてたらしいのね? それがいつの間にか、膝立ちになったり立って波に乗ったりの技術が競われるようになったんだって。

 ハワイ王朝が消滅してアメリカの準州になるゴタゴタで、その辺のハワイ独特の文化は一度隠されてたんだけど。1950年代に固有の文化を取り戻そうと言う運動が起きて、ハワイ語やフラダンスやサーフィンなんかも復活したんだって」

「へえっ……じゃあサーフィンは、乗馬やフェンシングと同じで生活から切り取られたスポーツなんだ。面白いね、島生活から生まれたスポーツがあるって。

 まぁ、剣道やフェンシングとかは戦闘術から発展したスポーツだけど」


 そんな話をしながら、4層を見渡してハスキーの後について行く来栖家チーム。もちろん山育ちの来栖家の面々は、サーフィンなんて無縁の生活でサーフボードも初めて触るレベル。

 そもそも瀬戸内に生活している人達は、大波なんて見た事が無いのだ。波に乗ってスイスイ泳ぐなんて話は、宇宙遊泳なんかと同じで意味不明。


 それは言い過ぎかもだが、(おおむ)ね正しい認識かも……荒れた海を見るのは、台風が接近したとかで年に1~2度くらいだろうか。宮島行きのフェリーが欠航するのも、年にその位である。

 そんな訳で、子供たちの視線も何となく海の方へと向かいがち。また災害級の大波に襲われたら、ちょっと怖いなって感情が働くのも当然の事だろう。


 その時はミケさんお願いねと、あらかじめ保険を掛けておく香多奈も、同じく海から視線が外せない模様。ただし、最初の襲撃は同じパターンで砂の中から。

 分かってましたよと、ハスキー達はそのサンドマン&大フナ虫の群れを駆逐して行く。今回は大カニはいなかったけど、代わりにサンドマンの手だけバージョンが数体出現した。


 そいつらも人の背丈ほどの大きさで、それに掴まれたら割と大変そう。もっともハスキー達は、スピードで攪乱(かくらん)して核を見つけ出す作業は秀逸そのもの。

 護人も《心眼》を駆使して、『射撃』スキルで敵の数減らしに貢献している。茶々萌コンビは、主に大フナ虫を踏んづけての仔ヤギのダンスに夢中。


 そんなペット達の活躍もあって、最初の戦いは5分で終了の運びに。そしてやっぱり、ドロップ品には魔石(小)が半分程度混じっていると言う。

 なかなかタフなダンジョンだが、すっかり慣れた一行はドロップ品の回収と小休憩を挟んでビーチを進み始める。次はどっちが先かなと、今回も大ヤシガニと魚人の挟み撃ちは当然警戒する来栖家チーム。


「それじゃあ、海から来る敵は今回も私が担当するね? ハスキー達は、巻き込まれない様に海には近付き過ぎないでね?

 正直言って、さっきの今じゃ威力の制御は難しいから」

「まぁ、それでも20匹の軍隊を一網打尽に出来る魔法はかなりお得だよねっ! このダンジョンの敵の出現はワンパターンだから、ある程度は出現場所が読めるのもいいよね。

 さあっ、この4層もそろそろ海側に注目だよっ!」

「それじゃあ、俺とルルンバちゃんは大ヤシガニの出現に注意しておこうか。紗良の魔法も、MPがきつくなったら茶々丸の《マナプール》を頼ると良いよ。

 MP回復ポーションは、飲み過ぎるとトイレが近くなるからね」


 それは家族でもデリケートな問題で、ダンジョン探索中のトイレはなるべく減らしたい所。その点、茶々丸の《マナプール》はMP消費を肩代わりしてくれるので本当に有り難い。

 そんな訳で、紗良は素直に茶々丸へとお願いするため、中衛の位置まで出張って行く。仔ヤギは家族のお願いに、すぐに空中に水袋のようなモノを発生してくれた。


 それと時を同じくして、海辺から波をかき分けて出現する魚人の群れが。今回はアザラシ獣人も混じっていて、半裸の彼らはどうやら格闘家っぽい職業みたい。

 どうでも良いが、体格も魚人より優れていてそれなりに強そうだ。もっとも、紗良の《氷雪》の発動で、出会って5秒で氷の彫像に早変わりしてしまった。


 一方のパーム並木だが、こちらもやや遅れて大ヤシガニの群れが出現して来た。青い甲殻の彼らは、先ほどの層の奴らより幾分か体格も良くなってる気が。

 数も5体と増えていて、普通の探索者チームなら総出で掛かってようやく押し留められる感じ。ところが来栖家チームは、護人が前衛で『掘削』を振るって早くも1匹が昇天の憂き目に。


 オマケに後衛から、ルルンバちゃんの魔銃とレーザー砲のダブル射撃が(ひど)い。これによって、追加で1匹が腹に大穴を開けてリタイアする。

 もう1匹は、こんがり焼かれて大ダメージを受けている有り様。


 両方の戦況を見ていた香多奈も、どっちも大丈夫そうだと一安心。近くを飛んでる妖精ちゃんも、早くもドロップ品に期待の目付きである。

 それもその筈、このダンジョンは宝箱こそまだ見つからないが、敵の落とすドロップ品が桁違いに良いのだ。そして今回も、大ヤシガニは甲殻素材とカニ肉とオーブ珠をドロップ。


 うひゃあと変な声を出して喜ぶ末妹は、安全を確認してヒバリと共にそれらの回収作業を始める。一方の海辺側は、コロ助のハンマーで氷を割っての、ツグミがドロップ品回収のいつもの流れ。

 そちらからも、ミスリル装備やトライデントが普通に回収出来ているよう。と言うか、やっぱの気前の良過ぎるダンジョンに護人も顔が引き()り気味。


 どうしたモノかなと思わなくもないが、回収した物は持って帰るしかない。問題なのは、このダンジョンは敵の質も高めであるって事。

 この4層も、恐らくは階段のある位置に野外舞台が見えている。そちらへと移動を再開しながら、今度は何が見れるのかなと妙な期待を口にする香多奈だった。



 そして数分後には無事に舞台前に到着、途中の邪魔は全く無し。そして舞台の上で踊っていたのは、例のハワイアンパペットだった。

 その衣装や花飾りはまさに南国風、どこかからハワイアンな音楽まで流れて来てる始末。おおっと楽しそうに舞台を眺める子供たちは、本当に純粋である。


 そしてペット勢も、邪魔しちゃ悪いのかなと攻撃を躊躇(ためら)っているのは少し異常かも。そんな舞台の上のパペット達は、フラダンスを踊りながら次第に円を作り始めた。

 まるで何かに祈っているような、その動きはまるで召喚士のそれである。それに気付いた時は既に手遅れ、舞台の中央に5メートル級の炎の魔人が出現していた。


「わわっ、パペットの踊りを楽しんでたら、何かヘンなのが横入りして来ちゃった! 何のサプライズかな、魔人ちゃんを思い出すねっ!」

「あっ、私達って召喚術をボーっと見守ってたんだ。ちょっと間抜けだね、敵の強化をただ待ってたとか……まぁ、炎の魔人ならレイジーかミケに任せておけば大丈夫かな。

 それより、次を呼ばれない様に踊り子をやっつけちゃおう」

「そうだな、思わず踊りに見惚れちゃったこちらのミスだな。取り敢えず、全員でこの舞台にいる敵を全部片付けようか。

 反省はその後だ、みんな行くぞっ!」


 護人の号令で、さあ戦いだと勇んで舞台へと駆け上がって行く前衛陣。それなりにガッチリと組まれた頑丈な野外舞台は、しかし炎の魔人の出現で床素材が燃え始めていた。

 フラダンス部隊は、それを全く気にせず踊り続けている。そしてハスキー達の攻撃で、呆気なく倒されて行ってあっという間に数を減らす破目に。


 その姿は何となく物寂しさを感じるが、どっこい召喚された炎の魔人は強烈だった。いきなりの炎のブレスから、大暴れして舞台を壊す勢い。

 それにはさすがのハスキー達も、大慌てで退避行動に出る。支援で飛ばす茶々丸の《飛天槍角》も、ほぼ効いていないようでさすが召喚モンスター。


 その類の敵は、大抵がそのエリアには不釣り合いな奴が出現するのが常である。コイツもそうらしく、大暴れする様はまるで火口から放たれたマグマの(ごと)し。

 実際にハワイ諸島には有名な活火山も多く、ハワイ島のキラウエア火山やマウナロア火山などバリバリ活動中だ。そう考えると、この炎の魔人召喚も当然の成り行きかも。


 ソイツはまさにイフリートで、レイジーも対処には手古摺(てこず)っている感じを受ける。護人やルルンバちゃんもフォローするのだが、大暴れは尚も止む気配は無い。

 既に野外舞台は原型を留めない程破壊されており、イフリート魔人はビーチ方面へと進出して来た。慌てて距離を取る後衛陣と、コイツ生意気だなと《昇龍》を発動するミケ。


 久々の大技発動に、場は大盛り上がりと言うかますます酷い惨状に突入して行く。暴れ回る炎の魔人と雷の龍は、互いをロックオンして死力を尽くして戦う素振り。

 それでもレイジーの横槍で、思い切り深手を負ったイフリートは後は盛り返せずの結末に。(ほむら)の魔剣の一撃は、何と同じ属性にも通用してしまった。


 かくして、大惨事の後の舞台周辺はようやく安全が確保出来た。炎の魔神の退場と共に、燃えていた建物の残骸は鎮火して静寂を取り戻して行く。

 それから、敵のドロップ品を回収しに向かう子供たち。


「うわっ、炎の魔人も魔石(大)を落としたね……それからスキル書と、大きな斧も落ちてるよっ。妖精ちゃんが反応してるから、これは魔法アイテムみたい。

 相変わらず、気前のいいドロップ品だねぇ」

「こっちは、花飾りとかフラダンスの衣装が4人前かな? 宝箱は無かったけど、まずまず儲けは確定してるから嬉しいよね。

 しかしまぁ、フラダンスかぁ……」

「日本でも、習ったり公演で披露したり流行ってた時期もあったよねぇ? 姫ちゃんもやってみたら、案外と楽しいかもよ?」


 似合わないよと思わず口にした末妹だが、姫香に(にら)まれてマッハで明後日の方向を向く事には成功。まぁ、確かに活発な姫香には、繊細な動きの踊りは似合わないかも。

 そう内心で考える護人だが、間違っても表情には出さずにペット達の怪我チェックのお手伝い。茶々丸が火傷していたが、敵の大暴れの規模を思えば仕方が無い。


 それをポーションと紗良の『回復』スキルで治療して、さて後は場所の確定した階段を降りるのみ。香多奈は今回珍しく連戦した愛猫(ミケ)に、MP回復ポーションを与えている。

 それにしても、4層を走破して魔石(大)が2個である……過剰な歓迎ぶりは、何と言うかやり過ぎな気も。もっとも末妹は、サーフィンやフラダンスを撮影出来たと大喜び。


 次はどんな仕掛けが来るかなと、ご機嫌な呟きにジトっとした視線が各所から。アンタは言えば招くから、大人しく口を閉じてなさいの催促に。

 分かってるよと、唇を(とが)らせて反論する香多奈であった。





 ――あんまり老猫をこき使うなと、ミケも同じく批難染みた表情かも?









『ブックマークに追加』をしてくれたら、香多奈が歓喜のダンスを踊ります♪

『リアクション』をポチッてくれれば、姫香がサムズアップしてくれます!

『☆ポイント』で応援すると、紗良が投げキッスしてくれるかも?w

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