初の南国風のダンジョンを家族で満喫する件
海から出没した魚人の群れだが、倒し切るのに5分程度は掛かってしまった。最初の遠隔攻撃で、敵の魔法使いを無力化出来なかったのが地味に響いた模様。
魚人の術士だが、水流の壁など防御魔法にも秀でていたのがその原因だった。お陰で前衛陣にも幾分が被害が出て、戦闘後に紗良も忙しく走り回る破目に。
とは言え大きく怪我を負った者はおらず、コロ助と茶々丸が皮膚を少々切った程度。魚人のトライデントは、切れ味も相当なモノだったようである。
それにしても、1層からこの難易度はB級どころかA級相当な気も。海岸の向こう側に、こんもり盛り上がっているのは次の層への階段だと思われる。
そこに到達するまで約30分程度は、まぁ一般的なダンジョン仕様には違いない。総合して見ると、敵の強さと密度は相当に酷くなっているのは感覚として間違いなさ気。
それを南国風の雰囲気で、全く相殺されていないのが逆に問題な気がして来た。この先もこんな敵が続くと、来栖家としても陣形を含めて考えを改めねばならないかも。
例えばルルンバちゃんか護人を前衛に出すとか、紗良の魔法を解禁するとか。予備戦力を多く持っている来栖家チームは、いざと言う時の対応力も半端ではない。
取り敢えず階段前に辿り着いた一行だが、陣形については保留と言う事に。2層の敵の出現パターンを見て、改めて変えて行こうと言う話に落ち付いた。
そんな訳で、第2層もやっぱり南国のビーチである。ハワイではワイキキビーチが有名だねと、行った事は無いけど護人が一応解説など入れてみる。
それに紗良が付け足して、観光で有名なのは“オアフ島”だねと末妹に注釈を入れる。ワイキキビーチにダイヤモンドヘッド、日本人も昔はよく訪れていたホノルルと言う都市。
「へえっ、でもさすがにそこまでは、ダンジョン内に造られてないよねぇ? 出来てたら、思いっ切り観光出来て楽しそうだったのに」
「いや、町が出来てても敵も出現するなら観光どころじゃないでしょ、香多奈。贅沢言ってないで、ビーチだけでも雰囲気味わってなさい。
まぁ、このビーチも遠慮なく敵が出て来るんだけどさ」
「確かにそうだねぇ、今回は砂から大フナ虫とサンドマンが一緒に出て来たよ……ちなみに、アッチに見えるのは噂のダイヤモンドヘッドなのかなぁ?
実物を見た事無いから、あんまり自信がないや」
そう言う紗良の視線の先には、確かに雄大な山並みが窺える。ダイヤモンドヘッドは火山活動で出来た丘と言うか山で、上から見たら見事なリング状の山となっている。
ちなみに、山の形はダイヤモンドとは関係なく、宝石のダイヤが取れる事もない。昔訪れた人が、ただの石っコロをダイヤだと勘違いして名付けられた山の名前なのだそう。
そんなウンチクを聞きながら、後衛は戦う前衛の応援に余念がない。護人も《心眼》頼りに、『射撃』スキルでサンドマンの核の撃ち抜きを後衛からお手伝い。
1層の敵の分布を見て、決して侮れないダンジョンだと言うのは既に認識済み。それならば後衛も戦力を出し惜しみせず、戦闘時間の短縮に貢献すべし。
それが味方が傷つかずに済む、一番の作戦には違いない。そんな訳で核を撃ち抜かれたサンドマンは、魔石を落としてただの砂へと戻って行った。
大フナ虫に関しては、齧られると少々痛いって程度の雑魚ではある。コイツ等もハスキー達にザクザク刈り取られて、数分後には全ていなくなった。
それでも砂の中からの出現を目にして、周囲をしばらく警戒する一行。魔石拾いが終わって、進む姿も慎重なのは致し方が無い。
それなのに、次の襲撃は砂の中ではなくヤシの木の下からと言う。理不尽ではあるが、それは仕方がないので大ヤシガニの群れを一行は迎え撃つ。
今回は護人も前に出て、シャベルを片手に『掘削』スキルを大盤振る舞い。“四腕”を併用しての活躍に、さっきより随分早く4匹に増えた大ヤシガニを討伐に至った。
やったねと喜ぶ末妹に、姫香は何かお肉がドロップしたよと報告して来た。ヤシガニのお肉だとすれば、それなりに高級品な気がして興奮する子供たちだったり。
「凄いね、これは敵も強いけどドロップも美味しいダンジョンに認定しちゃう? もう少し進めば、多分だけど宝箱もゲット出来ちゃうかもっ!」
「また自分に都合よく解釈する癖が出てるよ、香多奈っ。それがナンチャッテ予知なら良いけど、悪い方の予知は口に出さないでよね」
「そうねぇ、良い方の予言は幾らでもして貰っていいけど……」
そう口にする紗良は、鞄にカニのお肉を仕舞い込みながら少し浮かれ模様。確かに末妹の言う通り、ドロップの美味しいダンジョンなら探索に来た甲斐もあると言うモノ。
他にも何か色々と、変わったモノが回収出来れば山の上の面々も喜ぶだろう。今ではお隣さんもたくさん増えて、留守の度に家畜の世話などでお世話になっているのだ。
その恩に報いるには、やはり一定の賄賂は必要には違いない……いや、つまりは楽しい品物でのご機嫌取り的な意味で。要するに、相手の好意を当然と思い始めたら不味いよって事である。
ただでさえ、来栖家は1度の探索での儲けが半端でないのだ。その辺を嫉まれ始めたら、せっかくの有効な関係が捻じれてしまう可能性が。
その辺もしっかり計算に入れて、近所づきあいは行うべし。幸いお隣さんは良い人たちばかりで、来栖家も頻繁に夕食を振る舞ったりとバランスは取れている。
とは言えその努力を怠ったら、関係は続かなくなる事だって充分に考えられる。縁の下の紗良としては、ご近所とのバランス取りも大事なお仕事。
それはともかくとして、陣形を微妙に調整しながら一行は太陽の輝くビーチを進んで行く。水着姿で無いのが残念だが、その点は仕方がない。
そして同じパターンで海辺から出没して来た魚人の群れを、今度はルルンバちゃんが前衛に出て来て討伐を開始する。
今回も魔術師が後衛に配置されている敵軍だが、その辺は既に織り込み済みの来栖家チームは順調に敵を討伐して行く。
ハスキー達も同じく、まずは厄介な魔術師をツグミとルルンバちゃんで倒して行く。敵の槍持ち前衛陣は、コロ助の『咆哮』でタゲ取りからの引き離し。
華麗に連携を決めながら、なるべく被害を出さない立ち振る舞いは見事。さすがに茶々萌コンビも、さっきので懲りたのか敵との間合い取りは慎重だ。
足場の悪い波打ち際で無理をする事も無いと、コロ助が引っ張って来た魚人の背後から奇襲を見舞わせる。仔ヤギの脚力は凄まじく、魚人の団体を突き破って場を荒している。
「いいよっ、コロ助っ……茶々丸もナイスっ! ルルンバちゃんは、まだ水の中にいる魔法使いを先にやっつけて!」
「レイジーの動きが凄いねっ……ああっ、ひょっとして『歩脚術』を使っているのかなっ?」
「そうみたいだな、これなら俺は前に出なくて大丈夫そうだな。ルルンバちゃん、海に入らないでいいから射撃で頑張れっ……ああっ、水の壁が邪魔なのか」
防御魔法を持つ魔法使い魚人は、かなり厄介で前衛への『鼓舞』魔法も使っているみたい。とは言え、ツグミの奮闘で残りは2匹+護衛役の魚人も3匹いる。
コロ助の挑発スキルを耐えるとは、他の者達よりスペックは上なのだろう。それだけでも、ここのダンジョンが要注意ってのが浮き出てしまっている。
まるで久し振りの客人を歓迎しようと、張り切ってご馳走を用意しまくるレストランのよう。こちらとしては有り難迷惑だが、出された物は全て平らげるしかない。
ちなみに、水の壁魔法で頑張っていた術士は、ルルンバちゃんのレーザー砲で丸焦げに。護衛役も同じく、護人も『射撃』スキルで討伐をお手伝い。
そうこうしている内に、ようやく魚人の群れも討伐終了の運びに。さっきの1層目よりは短い時間で済んだけど、やはり手強い印象が色濃く残ってしまった。
ただ、先ほどと違って怪我人は出なかったので、その点に関しては良かった。ツグミとルルンバちゃんで落ちていた魔石とドロップ品を拾って、それを紗良と香多奈が受け取る。
その中にスキル書が1枚と、ミスリル装備が混じっているのに気付いて思わずギョッとする姉妹。まるで卵かけご飯を頼んだら、その上にキャビアが乗っかって差し出されたような表情。
護人も困惑して、サービス過剰なダンジョンにややビビっている感じ。まるで新造ダンジョンみたいなドロップ率に、この先の演出も心配が先に立ってしまう。
「いいじゃん、出されたモノはちゃんと貰っておけば。何かさ、ハワイの精神がそんなんじゃないの、紗良姉さん?
南国の人って、穏やかなイメージあるけど違うのかな?」
「ああっ、確かに……例えば「アロハ」って言う言葉は、相手に“レイ”を感謝や敬愛の気持ちをこめて送るって意味らしいんだけどね。
そんで、“レイ”って言うのが自然のパワー的な意味合いなんだって」
「それは凄いね、確かにダンジョンにも通じてるかも……ここで頑張って探索すれば、経験値とドロップ品でパワーアップするもんねっ。
なるほど、紗良お姉ちゃんの見解では「アロハ」はダンジョンに通じてるんだ!」
香多奈の推測に、そうなのかなと戸惑った紗良の返答である。本人はそんなつもりは無かったようだが、末妹の考察自体は面白いと思う。
元々はハワイ諸島は、自然崇拝信仰が盛んだった模様。フラダンスにしても、当初は神々に捧げる民族舞踊の「フラ」が発祥だったそうな。
選ばれた者しか踊れない神聖な宗教儀式だったのが、次第に歴史や出来事を伝えるツールになっていったみたい。さすが情報通の長女は、そんな説明もスラスラ出て来る。
それを休憩しながら感心して聞く家族は、神楽に似てるねとの末妹の言葉に思わず頷いてしまった。確かに日本にも、神楽やお祭りなど神々に感謝する行事はたくさんある。
「夏の盆踊りは、あれはお盆に戻って来た祖霊を慰めて送り出すための仏教行事だもんね。フラダンスも似たようなモノだったのは、何となくしっくり来るかも?」
「それは良いとして、進行方向に何か舞台場みたいなのが見えないか、みんな? ひょっとして、ダンジョンがサービスしてフラダンスでも披露してくれるのかな?」
「ああっ、あれって何かの会場施設だったの、護人さんっ。次の階段の場所かなって、何となく思ってて気にして無かったよ。
それじゃあ、しっかり見学して行かないとねっ!」
半ば冗談のノリでの姫香の返答だが、香多奈も悪ノリして面白そうと先に進むのを急かして来る。それに応じて、休憩が終わったと判断したハスキー達が先行して歩き出す素振り。
それを追う中衛の姫香と茶々萌コンビ、それから後衛組もすかさず歩き始める。ヒバリも自分で歩くんだと、籠から出て勇ましく姉妹の隣を跳ねる様について来ている。
最近は自立を促す意味でも、それを許している子供たちだが心配なのも確か。近くを離れちゃダメだよと、末妹は口が酸っぱくなるほど注意を飛ばしている。
そんな呑気な一行は、数百メートルほど戦闘無しでビーチを進む事に。敵が一転して出て来なくなって、逆に不信感を募らせる前衛のハスキー達。
その分、前方に見える会場みたいな施設は、際立って怪しさ満点って感じ。護人はダンジョンのサービスと評したが、まさにその舞台ではファイヤーダンスが行なわれていた。
意表を突かれた面々は、それを行うパペット達を唖然として見遣るのみ。フラダンスじゃないんだと、ガッカリ模様の香多奈だが炎のショーもそれなりに迫力がある。
同じくパペット兵が叩く太鼓のリズムに合わせて、その炎のショーは続いて行く。先端が燃え盛る棒を見事に操るパペット兵は、真剣そのもので思わず子供達も息をのんで見守る程。
それが罠だったのか、ダンスはいきなり攻撃モードへとシフト!
――突然の舞台上からの炎のブレスに、反応出来たのは誰?
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