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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の秋~冬の件
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周防大島の宿泊施設で一夜を過ごす件



 2戦目は、ヤン茶々丸と戸谷(とたに)の戦いが行われ、数分後に派手に茶々丸の壁ビターンが炸裂する事に。相手の戸谷は確かC級で、動きからして恐らく索敵役なのだろう。

 それでも暗器系の扱いは堂に入っていたし、子供の(りょう)の姿の仔ヤギが相手と完全に(あなど)っていた。それを見越しての、茶々丸の頭突きは見事の一言。


 一応は、角とスキルは使っちゃダメと念は推していたけど、言いつけはちゃんと守ってくれた模様だ。そう言う意味では、仔ヤギの成長は何とも微笑ましい気も。

 ただし、レイジーまで対人戦に向かわせる気は全く無い護人である。彼女もその気になれば、恐らく手加減は出来るとは思うがどうだろう。


 対戦を終えた茶々丸は、ボクの方が上手く相手をビターン出来たよと誇らしげ。高さも出たし、ビターン音も確かに明確で派手ではあった。

 2連敗を(きっ)した元企業チームは、呆気にとられた表情でその事実を受け入れられていない様子。どうやら自分達のチームの実力を、信じて疑っていなかったみたい。


「ふむっ、茶々丸も問題無かったみたいだなっ。それじゃあ向こうの女性2人の相手は、私と柊木(ひいらぎ)で務めようか。1人はB級ランクらしいな、私もB級だから遠慮はいらないぞっ!

 こちらのトリには、まだ鬼より怖いムッターシャが控えているからな」

「そうっスね、さっさと終わらせて私も遊び組に合流したいっスよ。お洒落なバーもプール際にあったし、ここは夜も楽しめそうな良い施設じゃないっスか。

 先輩、さっさとお仕事終わらせちゃってください!」


 そんな調子の良い柊木の声援に支えられ、土屋女史も青桐(あおきり)との模擬戦に見事勝利した。続く柊木VS室井(むろい)戦も、時間はやや掛かったけど柊木の勝利と言う結果に。

 これでギルド『日馬割』の完勝で、ヘンリー達の思惑通りに天狗の鼻はキッチリとへし折る事に成功。依頼は無事果たせたと、ホッと安堵の表情を浮かべる護人である。


 ところがムッターシャ師匠は、そんな相手の鍛え直しを依頼とみなした模様。ポーションで何とか回復した小鉄(こてつ)と戸谷の男性2人を呼び寄せて、再度の模擬戦を始める始末。

 ハッキリ言って、例え2人掛かりでもこの異世界出身の戦士から1本を取るのは至難の(わざ)である。護人とレイジーのペアでも、或いはちょっと難しいのではなかろうか。


 そんな鍛錬組手は、実は来栖家の敷地での夕方の特訓でも良く行われていたりする。他人でも容赦のないムッターシャ師匠は、相手を打ち身だらけにしながらその切っ先を緩めない。

 仲間には、回復役が紗良と星羅(せいら)と2人もいるので、割と追い込んだ鍛錬は日常茶飯事のギルド『日馬割』である。そんなペースに付き合わされた元企業探索者達は、5分で既に顎が上がって息も絶え絶えと言う。

 ちょっと可哀想だが、成長とは限界を超えた先の景色を見る回数である。


「いや、そんな上手い台詞で何度血反吐(ちへど)を吐かされた事か……ハッキリ言って、異世界チームの鍛錬は鬼仕様ですよっ、先輩」

「そうかな、姫香とかお隣のキッズ達とか、いつもノリノリじゃないか……お泊まり組の娘さん達も、嫌がらずに毎日参加してたぞ?

 ギルドでサボり癖があるのは、お前くらいじゃないのか、柊木?」


 そ、そんな事は無いっスよと早くも逃げ口上の柊木は置いといて。その隣では、ヘンリーやギル達岩国チームの前衛陣も鍛錬組手を始めていた。

 この辺は、練習熱心と言うか体を動かすのを苦と(いと)わない精神構造の賜物(たまもの)だろうか。それを見て、土屋も再び女性たちと鍛錬を始める。


 護人としては、もう充分だろうと言う気持ちは強いし部屋に戻って休みたい。今日は数時間も運転手を務めたし、一息つく位は許される筈。

 そんな気持ちで茶々丸の手を握って、もうお仕事は終わりだよとペット達を(いさ)めていると。何故か隣にいた柊木が、温水プール組と合流しましょうと誘いをかけて来た。


 要するに、ここはヤル気のある連中に任せて自分達は遊びに行こうと。魅力的過ぎるお誘いだが、さすがにギルドのリーダーが職場放棄は不味いだろう。

 取り敢えずレイジーを撫でて気持ちを落ち着ける護人に、柊木は意気地なし的な視線を送って来る。とは言え、既に時刻は夕方過ぎだしもうすぐ夕食の時間だ。


 移動の果てのこの鍛錬組手も、そうは長くは続かないだろう。異世界チームの方は、運転手を土屋や柊木で交替してここまで運転して来たらしい。

 なので疲労もそんなに感じて無いかもだが、さすがに夕食の時間にはそっちに向かう筈。そうすれば、この地獄の訓練も終わりとなってくれるだろう。


 まぁ、地獄と感じているのは向こうの元企業チームのみだろうけど。聞けば、彼らのチーム名は『地獄への片道切符』と言うらしい。

 何とも皮肉である、切符を持っているのは確実に彼らの模様。


 そうこうしている内に、水着姿の姫香とザジが食事に呼ばれたよと一行を呼びに来てくれた。向こうは温水プールを存分に楽しんでいたようで、この施設を気に入ってくれた様子で何より。

 ここの払いは岩国チームなので、護人の懐はちっとも痛まない点も良い。今夜は食事と宿泊を存分に楽しんで、明日の観光に備えるべし。




 そんな夕食には、噂のミカン鍋が出て子供たちは興奮していた。ミカンを鍋に丸ごと入れるとは、相当変わっているけど意外と相性は悪くない。

 そもそも柑橘(かんきつ)類は、鍋の味付けにもよく使われる。ちなみに焼き色の付いたミカンは、少し冷まして皮ごと食べるのが良いとの事。


 一緒に煮込まれているつみれもミカン風味で、サッパリしていて美味しい。最初はこわごわ食べていた子供たちだったけど、これはこれでアリかなって表情に。

 護人も同じく、話のタネになる郷土料理はなかなかお目に掛かれないのが実情。それがこのインパクト、味も悪くないとなれば丸儲けである。


 ただまぁ、家で真似しようとは紗良も思っては無いみたい。料理は他にも、海の幸やら何やらがたくさん並んで大御馳走(ごちそう)である。

 さすが高級宿泊所、こんな所を押さえておけるとは岩国チームも儲かっているようだ。まぁ、探索稼業でいつも命懸けなのだし、羽根を伸ばす場所にお金を掛けて悪い事は何も無い。


「凄いね、これがミカン鍋かぁ……取り敢えず動画には撮っておこうっと、みんなの反応が楽しみだよっ。

 それより叔父さん、明日は何して遊ぶのっ?」

「そうだな、ここの宿泊施設でゆっくりしても良いし、島を観光して回ってもいいね。今の季節だと、海岸線で遊ぶのは微妙だけど他にも面白そうな場所は無いかな?」

「そうだなぁ……“なぎさ水族館”はダンジョン化して閉館しちゃったし、行くとしたら“ハワイ移民資料館”かな? 実はここもダンジョン化してるけど、建物には入れるそうだね。

 後は“星のビーチ”を散策するとか、“厳島神社”の分社も島にはあるよ」


 どうやら、周防(すおう)大島もダンジョン化の波には逆らえなかった模様で悲しい限り。ところが、それを聞いた末妹の瞳がキラッと明らかに輝き始める。

 解説をしてくれた鈴木に、島のダンジョン事情を詳しく聞き始めるに至って。護人は物凄く嫌な予感、何しろ今回の旅の主役は末妹の香多奈だと言い渡しているのだ。


 鈴木はそんな事に構わず、この辺りの有名なダンジョンについて教えてくれる。さっき言った“なぎさ水族館ダンジョン”は、B級ながら割と人気があるみたい。

 最近は水耐性の装備が人気だし、ここはそっち系が狙えるそうな。それから同じくB級の“ハワイダンジョン”は、南国風のフィールド型ダンジョンとの事。


 出現する敵は魚人やパペット(南国風)に、深層になると恐竜タイプも出て来るそう。因島(いんのしま)も確かそうだったが、ここも同じ感じみたい。

 後は島の中心の山間に、C級ダンジョンが2つ程生えているとの話。少し戻った岩国寄りの場所には、“ミクロ生物館ダンジョン”なんてのもあるらしい。

 その辺は、是非(ぜひ)お勧めだと余計な気遣いの鈴木であった。


「そのダンジョンもゲート型の入り口だから、帰りにワープ拠点の開通をすればいいんじゃないかな。そうすれば、岩国の沿岸沿いに一瞬で飛ぶ事が可能だから。

 瀬戸内海側って滅多に雪は積もらないし、電話をくれれば岩国の協会から車で誰かが迎えに行くよ。冬の間だけでも、そんな対応をすればいいんじゃ、護人さん?」

「そ、そうだな、それは確かに便利だが……ただまぁ、ウチはペットの数も多いから、拠点のキャンピングカーがあった方が落ち着きはするんだよ。

 サッと仕事をしてサッと帰るんなら、ワープ運用は全然アリなんだが」

「そうだよねぇ、旅先でもペット達同伴は凄く気を遣うし。キャンピングカーごとゲートを潜れたら、それが一番楽なんだけどね。

 妖精ちゃん、やっぱりそれは無理かなぁ?」


 姫香のそんな問いに、当たり前ダロと冷たい妖精ちゃんの返し。そんな小さな淑女は、(はし)を持って鍋に浮かぶミカンを突くのに夢中な様子。

 そんなチビ妖精を、食べ物で遊んじゃダメだよと叱っている香多奈は食に関しては至極真面目かも。そんな末妹は、茹でミカンを妖精ちゃんに分けてあげようとして無視されている。


 それでもめげない末妹は、叔父に向けて明日の計画についておねだりを発動する。つまりはどうも、少女的には“ハワイダンジョン”が凄く気になるらしい。

 上手く行けばハワイのお土産も手に入るかもだし、そうしたら留守番組も喜んでくれる筈。冬に着るアロハシャツも、きっとオツだよと猛プッシュを始める香多奈は感性が独特な気も。


 それを横で聞いていた姫香も、面白そうだねと賛同して話はほぼ本決まりに。周りの面々も、それじゃあそれに沿って明日の計画を立てようと対応もバッチリ。

 護人としては、まさかドライブ旅行の先でもダンジョン探索に(おもむ)くなど予想外。とは言え、それを聞いたペット達は大いに喜ぶかも。


 特にハスキー達など、家族が観光を楽しんでいても護衛業で気は休まらないのだ。その点、ダンジョン探索なら敵をド突けばその分ストレスは発散される。

 長女の紗良も、多少驚いたようだが後で情報収集しなくちゃと一応は前向きみたい。そんな訳で、明日は朝から島内の“ハワイダンジョン”に家族で出掛ける流れに。


「それにしても、瀬戸内の島にハワイのテイストかぁ……確かに山の上に較べたら、冬は多少は暖かいだろうけどさ。

 ハワイって南国でしょ、行った事無いけどこことは随分違うよね?」

「そりゃ違うだろうけど……ここの“ハワイ移民資料館”は、ハワイとの昔からの交流があったのが前提らしいからね。

 その辺の設定をパクったダンジョンを、批難しても始まらないだろう、姫香」


 そりゃそうだけどさと、どうも納得のいって無さそうな姫香は安直な設定の流用にモノ申したいお年頃。一方の紗良は、香多奈を相手にハワイクイズで盛り上がっている。

 ハワイ諸島は全部で幾つの島があるでしょうとか、ハワイ王朝を創立した王様の名前は何でしょうとか。そのクイズに、何故かヘンリーやギルも混じって場は白熱模様。


 賑やかな夕食となってしまったが、盛り上がったので良しとする事に。ところがムッターシャやザジは、腹ごなしに例の新人を鍛えようかと言い出す始末。

 明日も彼らは、周囲の散策のついでに新人の鍛え直しを買って出てくれるそうな。どうやら教え魔のこの両者、見込みのある若者を見たら歯止めが効かないみたい。


 それを聞いた『地獄への片道切符』チームの面々は、食事後にも関わらず顔面蒼白状態に。程々になと護人も注意するけど、それがどの程度聞き受けられるかは全くの不明。

 護人としては、彼らの健闘を祈るしか手はない。





 ――とは言え、岩国チームの依頼に関してはこれでオッケー?







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