岩国チームと合流して周防大島を楽しむ件
岩国市での2号線の分岐で、無事に岩国チームの車と合流を果たす事の出来た来栖家チーム。少々休憩を挟みつつ、残り40分程度の距離のドライブを楽しむ。
この辺は、護人にとっても何度か走った事のある街道である。周囲の風景も、山道を脱して街並みが多くなって来た。そしてようやく、437号線で沿岸沿いへと抜ける事が出来た。
こうなると、目的地までもう少し……前を案内する岩国チームの装甲車と、後ろの異世界+土屋チームのキャンピングカーに挟まれて、来栖家の車は順調に距離を稼ぐ。
そうして、いつしか一団は大島大橋を渡っていた。
「おおっ、この橋を渡って島へと渡るんだ……凄いね、目的の島って何て名前だっけ? そこって宮島より大きいの、紗良お姉ちゃん?」
「周防大島は、瀬戸内海では3番目に大きな島で宮島より大きいね。瀬戸内のハワイと呼ばれていて、実際にハワイとの交流の歴史もあるそうだよ。
島の中にはパームツリーの並木もあって、ハワイアンな雰囲気の海岸もあるのかな?」
「へえっ、そうなんだ……今回は、香多奈の誕生日のお祝いに旅行の日程を組んだんだっけ? それとも、そっちはついでで岩国の依頼がメインなんだっけ?
企業依頼って言ってたけど、実際は岩国の協会の新メンバーの顔合わせ?」
観光を半日で切り上げてこの島に来た目的を、どうやら子供たちはよく理解していなかった模様。とは言え、護人も良く分かっていなくて姫香の言葉が一番しっくり来るかも。
どうやら岩国チームの『ヘブンズドア』と『グレイス』だが、新加入メンバーを増やしてもう1チーム作る予定らしい。その新メンバーを、ちょっと鍛えてくれって依頼が岩国の協会からあったのだ。
懇意にしているチームからの依頼だし、対人戦に関しては夕方の特訓でそれなりに経験はある。と言うより、異世界チームを差し出せば教官役はバッチリな気が。
そんな安請け合いと、それから島での観光をこなすのが今回の目的である。何しろ瀬戸内のハワイなのだ、一度は家族で訪れておきたいってのが本音。
寒い時期に温かい地方に向かうとは、何とも贅沢の極みのする面々。とは言え、さすがに瀬戸内の島も11月はやっぱり寒くてハワイの面影は無くて残念。
もちろん、来栖家の地元の山の上よりは幾分か気温は高い筈である。何より夕暮れの海岸線をドライブ中、家族の盛り上がりは今日一番かも。
そうして来栖家と異世界チームのキャンピングカーは、岩国チームの先導で橋を渡って島へと辿り着いた。少し進んだ先に、今夜の宿泊施設がある筈。
しかも企業のバカンス用高級施設らしく、中庭には温水プールまであるとの事。こんな時代に何て贅沢、ペット達も大喜びに違いない。
今回は貸し切りなので、どこに気兼ねをする必要もないのは良い点である。そう言う意味では、香多奈の誕生日を祝う場としても恰好の施設には違いない。
まぁ、一緒に岩国チームも宿泊するので、完全に羽目を外す訳には行かない。それでも週末のお泊まり旅行は、子供たちには良いご褒美になってくれる筈。
今回の目的は、企業の探索者の鍛錬手伝いとなっているが、全ての時間をそれに充てる必要もない。それに加えて、今回は異世界チームも連れて来ている。
ムッターシャなら、教官役にこれ以上の適任はいない。丸投げする訳では無いけど、こちらは家族サービスに全力を注ぐ予定。
「海岸線のドライブは、凄く気分がウキウキするよねぇ……この島は宮島よりも、みっちゃんの因島よりも大きいんだっけ?
それなら、ダンジョンの数もやっぱり多いのかなっ?」
「どうだろうね、その辺は岩国チームに訊いてみなきゃ分からないな。取り敢えずは今夜を過ごす宿に……おっと、あの建物みたいだな。
ふむっ、海も見晴らせてなかなかいい場所じゃないか」
本当だねと、子供達も立地場所にはまずは合格点を出してくれる。施設の構えも重厚で、宿屋には見えないが中庭が広く取られているようで面白い造りだ。
そこに恐らく、温泉プールや鍛錬施設が設えてあるのだろう。駐車場も割と広くて、キャンピングカーが数台停車してもまだ余裕がある。
長旅と言うか山陰から瀬戸内海へと横断を果たした一行は、ヤレヤレと言った風情で駐車場で伸びをする。ペット達も同じく、ただしハスキー達は危険は無いか一斉に警護モードに。
荷物を降ろしに掛かる子供たちは、そんなペット達を率いて今夜の宿を見定めに掛かる。岩国チームが近付いて来て、さっそく一行を案内に掛かってくれた。
異世界+土屋チームも車を降りて、凄いねと景色と建物に感心している。時刻はまだ夕方に差し掛かった頃で、近所の散策やプールてひと泳ぎも余裕でこなせる。
真面目な護人は、依頼の鍛錬の相手が気にかかっているようだ。それを見越したのか、ヘンリーとギルが取り敢えず顔合わせだけでもと、一行を鍛錬場へと案内してくれた。
そこはやはり中庭の敷地に造られていて、かなり立派な設備となってした。広さも充分で、トレーニング設備も近代的な奴が幾つか置かれている。
そんな場所で、汗を流していた若者の姿が数名分見受けられた。
「みんな、今回のゲストだ……A級探索者チームの来栖家と、それから特別ゲストの異世界チームの皆さんだ。実力はもちろん君らより上だ、今日と明日で充分に鍛錬して貰うと良い。
こちらが企業チームのリーダー、宇隆小鉄だ。B級ランクで、戦闘の申し子と呼ばれている……ぜひ伸び切った鼻をへし折ってやってくれ。
それからこっちから、同じくB級の青桐とC級の戸谷と室井だ」
「よろしく、ギルド『日馬割』の来栖家チームのリーダー、来栖護人です……こっちがウチの子供たちで、向こうが実力は一番の異世界チーム。
それから協会のお目付け役の、土屋チームとなっています」
「……よろしく、それじゃあさっそく手合わせを?」
まだ20代の小鉄と紹介された若者は、ヘンリーの鼻をへし折ってくれとの発言に敏感に反応していた。そして発された殺気に、ハスキーやペット達が反応する。
喧嘩っ早い面々を何とか制して、荷物を置いて着替えて来るよと軽くいなす護人。ヘンリーやギルは、その対戦を見越して早くも楽しそうな表情。
この両者だが、実は接近戦に関してはそこまでエキスパートと言う訳ではない。岩国チームは伝統的に、銃火器で敵を制圧するスタイルが身に沁みついているのだ。
接近戦も多少はこなすが、どちらかと言えば遠隔の止めまでの時間稼ぎの側面が強い。そんな訳で、この新米たちの制御には苦労している模様。
企業チーム出身のこの4名は、ヘンリーをリーダーに岩国チームの3つ目のチームに編成される予定らしい。詳しい経緯は知らないが、実力は確かな問題児集団だと前段階で聞き及んでいる。
そこの矯正及び鍛え直しが、今回の岩国協会からの依頼だったりする。それに加えて、岩国市にもワープ拠点を開通させるのがこの旅行の目的である。
それから、観光と末妹の香多奈の誕生日のお祝いも兼ねる感じ。
かなり詰め込み過ぎのスケジュールだが、香多奈も学校があるので休日しか自由な時間が無いので致し方なし。それでもワープ装置があれば、今後は移動時間も随分と短縮出来る。
今回は移動ばかりのドライブ旅行になってしまったが、観光やお祝いも何とか頑張るつもりの護人。まぁ、子供たちは放っておいても勝手に楽しんでくれるとは思うけど。
案内された部屋は、ムッターシャとの相部屋となっていた。それは全然構わないし、むしろペット同伴で良いらしくてその点は本当に大助かり。
そんな訳で、室内にはレイジーや茶々丸やムームーちゃんも一緒である。ミケやルルンバちゃんは、子供たちの部屋で今夜は過ごすみたい。
もちろんツグミやコロ助も一緒で、警護に関してはこれ以上ない万全振り。そんな子供たちは、ザジや星羅たちとさっそく温泉プールを楽しむみたい。
男性陣に関しては、売られた喧嘩は買わねばとジャージに着替えて訓練施設へ。とっても楽しそうなムッターシャは、既に師範の顔で若手を導くモード。
土屋や柊木も、一応は協会の職員として合同鍛錬には顔を出すみたい。まぁ柊木に関しては、プールに行きたかったと思い切り顔に書いてあって悲しそう。
ちなみに新人の4名のうち、青桐と室井の2名は女性である。どちらも短髪で快活そうな容姿だったので、接近戦闘もそれなりにこなすのではなかろうか。
ザジや姫香がこちらに来なかったのは、逆に拍子抜けだがそこは仕方がない。あまり向こうの遊びチームが少なかったら、香多奈も寂しがるだろう。
そこは、今回の主役の末妹を楽しませようとの、周りの年長者の計らいだったのかも。とにかく貧乏くじを引いた護人は、義務をこなすべく鍛錬施設の扉を潜る。
それにくっ付いてきた、レイジーや茶々丸は逆にとっても楽しそう。もちろん、肩の上のムームーちゃんも戦闘デシかと何故か興奮模様である。
薔薇のマントも、風もないのに派手にたなびいてご主人を派手にアピールしようと努力中。頭を抱える護人だが、本人に全く悪気はないので如何ともし難い。
「さて、それじゃあさっそく手合わせと行こうか……モリト、まず君が向こうのリーダーと対戦してみるかい? おっと、公正を期すためにペットの参戦は無しにしよう。
スキルもまぁ、なるべく使わない方向で」
「そうだね……ポーションはあるけど、癒し手は今は温泉プールを満喫中だし。それじゃあ、ムームーちゃんを頼んだよ、レイジー。
薔薇のマントは……こっちは仕方ないか」
「スキルに関しては、勝手に発動する奴は勘弁してくれよ……お互いレベルの高い探索者なんだ、刃のない武器で殴られても大した怪我は負わないだろう?
ボコボコにされても、文句は言わないでくれよ!」
その言葉と共に、いきなり長い棒をしならせて突きを放って来る小鉄である。護人はそれに応戦しながら、木刀での反撃の機会を伺いつつ距離を取る。
相手は棍だか槍だかの使い手で、その動きはザジ並みに素早くて捉えるのは相当骨である。さすが戦闘特化の期待の星だ、B級の実力も頷けると言うモノ。
ただし、恐らくはスキル頼りの戦いに慣れてしまっているのだろう。高速移動もワンパターンで、一度見切れば罠を仕掛けるのも比較的に楽そうだ。
棍棒での突きにしても、同じく癖を見付けるのは容易い作業ではあった。力は程々のスピード勝負の小鉄は、それが通用しないと分かって焦りの表情を浮かべ始める。
それは壁際で観戦しているチーム員も同様で、これがA級とB級の差なのかと驚愕している。護人に言わせれば、毎日の鍛錬の賜物なので驚かれてもピンと来ない。
そんな訳で、相手の速度を逆手にとっての、足払いから1本の先取に。こんなモノかとホッと息継ぎした途端に、薔薇のマントのお茶目な追撃が発動した。
いや、恐らく向こうも何クソと反撃しようとしたのだと思いたい。掬い上げるような見事な赤い拳のアッパーが決まって、哀れ小鉄は鍛錬室の壁にビターンと張り付けに。
驚いて声も無い小鉄のチーム員と、容赦ないなとの岩国チームの呟きに。いや違うんだと、護人の言葉はしかし誰の耳にも届かず終い。
やり過ぎは良くない、これは単なる鍛錬の手合わせなのだから。
――いやしかし、本当に相手の小鉄は綺麗にふっ飛んでくれたモノだ。
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