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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の秋~冬の件
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津和野の観光をしてお昼から中国地方を南下する件



 ペット同伴のお宿を探すのは一苦労だったけど、旅館タイプなら幾らか融通が利くのは経験から分かっていた。そんな訳で、無事にペット達をお庭に放置で、一晩過ごして今は朝である。

 そもそもA級ランクの探索者は、今の時代は随分と下にも置かない持て成し方をされる傾向にある。それはまるで、地方の議員にでもなったように錯覚する程。


 それでも夕食と朝食は美味しかったし、お酒を飲む連中は随分と昨夜は楽しんだ模様。生憎と、早起き習慣の来栖家の面々は9時過ぎには寝てしまったけど。

 そのお陰で朝から元気で、今日の観光もたっぷりと楽しめそう。姫香も朝食前に、ハスキー達&茶々丸の散歩はキッチリと済ませていつもの習慣も終わっている。


 ペット達にも朝ご飯をあげて、さてお待ちかねの観光のスタートである。津和野の町は、遠くからの来訪者を歓迎するように良い天気。

 異世界+土屋チームも上機嫌で、殿町(とのまち)通りを散策している。通りに沿ってお堀があるのだが、その水の中には元気に鯉が泳いでいる。


 通りによっては、銀杏(イチョウ)並木が鮮やかに目に飛び込んで来てさすが小京都と呼ばれるだけはある。そんな感想を述べる土屋女史は、紗良と一緒に最後尾を歩いていた。

 先頭は香多奈とザジで、この辺の元気者は(はしゃ)ぎ過ぎが心配なレベル。古風な街並みを元気に進んでいるのだが、幸いにも観光客はそんなに多くない。


 一応のマナーとして、ハスキー達をリードで(あやつ)るテイの護人と姫香も団体の前の方に位置している。そんな姫香の(たしな)めの言葉は、しかしこの両者には届かないよう。

 ただまぁ、屋台やお土産屋さんなどがたくさん並んでいる訳でもなく、その辺はガッカリ模様の末妹である。興奮しているのはムッターシャやリリアラの方が大きく、宮島訪問からの観光ブームは増々膨らんでいる模様。


「凄いな、これが昔の移動手段だったのか……異界には無かった大型運用機械だな、形もやけに格好良いと言うか攻撃的じゃないか。

 これは車みたいに運転出来ないのかい、モリト?」

「これは線路の上しか走れない、人や物を長距離運ぶ目的で造られた乗り物だね。ムッターシャも、現代の列車は日馬桜(ひまさくら)駅で見た事あるだろう?

 昔はこんな形で、石炭を(かま)にくべて蒸気機関で走ってたんだよ」

「これはD51(デコイチ)って名前の、有名な蒸気機関車だね……石炭で走るから煙が凄くって、トンネル入ると乗客席にも入って来て大変だったそうだよ。

 今の列車は、ほぼ電気で動く仕組みになって、この型は(すた)れて行ったんだね」


 なるほどと感心するリリアラは、異界はゲート魔法も一部で運用されているからと呟いている。そのせいで大型運用手段が発展しなかったとしたら、勿体(もったい)無いと思っているのかも。

 確かに魔法は便利だが、誰でも使える訳ではない。特に貴族や金持ちは、自分たちだけで囲い込みを行なって一般流通はしない事も多い。


 その点、お金さえ払えば誰でも乗れる遠距離移動手段は、魔法より余程便利には違いない。そんな感想を述べあって、この世界の発展の手腕を褒める異世界人である。

 それを“大変動”のダンジョン出現が、破壊してしまいそうになったのは皮肉な話。そこから人類は、スキル書やオーブ珠を(かい)して魔法みたいな手段を得た訳だ。


 新時代と言っても良いが、同時にオーバーフロー騒動と言う厄介事も押し付けられた格好に。探索者としての立ち位置も、今後一層問われる問題になって来るかも知れない。

 そんな話をしながら、一行は津和野の町をあちこち移動する。探索者活動で鍛えた足腰は、数時間の移動では大した疲れも感じない。


 ちなみに今回の観光旅行には、残念ながらズブガジは不参加である。さすがの彼も、こんな長距離を移動して他の地を見て歩く活動に、楽しみは見いだせなかった模様。

 これが戦いが待っているとなると、戦闘用魔導ゴーレムの彼は参加も(いと)わないのだろう。まぁ、いざとなれば『ワープ装置』は持って来ているのだ。

 つまりは、いつでも敷地のゲートと繋ぐ事は可能となっている。


 今回の週末旅行にはダンジョン探索は含まれてないので、それを活用する可能性も少ない。ちなみにルルンバちゃんは、魔導ボディはカーゴ車に残してお掃除ロボ形態でご機嫌に観光中である。

 茶々丸も同じく、《変化》スキルで(りょう)の姿になって大人しく一行について来ている。紗良と手を繋いで、その姿はまるで本当の姉弟のよう。


 ただまぁ、仔竜姿の萌を抱っこしているので、間違っても普通の観光客には見えそうもない。ヒバリの入った籠だが、こちらは家族で交替で(かつ)いで回っている。

 ミケに関しては、定番の紗良の肩の上がすっかりお気に入りのポジションらしい。ペット達は、キャンピングカーでお留守番していても良かったのだが、末妹が寂しかろうと強引に連れ出したのだ。


 お陰で、お昼を食べる場所に苦労する有り様……3軒ほど入店を断られて、ようやく町の外れで何とか許可を貰う事が出来た。そこはテラス式と言うか、道路に面したテーブル席でほぼ野外である。

 それを気にする面々では無いし、観光地のお昼にしては美味しく頂けた。ハスキー達も、香多奈からおこぼれを貰って上機嫌。


「えっと、午後は太鼓谷(たいこだに)稲荷神社にお参りして、それからまた移動になるんだっけ? 考えてみたら、日本海側から瀬戸内海に移動するって凄いよねっ!」

「まぁ、厳密には津和野は日本海には面して無いけどね。それでも中国山脈を越えての移動は、大きい道に関しては何本も無いから大変には違いないかな。

 午後からの目的地は、瀬戸内の周防(すおう)大島になるよ」

「それより叔父さんっ、ここに前にお参りして不思議な夢を見たんでしょ? お稲荷様が夢に出て来てくれたって、昔話してくれてたでしょ。

 あの不思議なお話、もう1回してよっ!」


 夢と言うのは大抵は不思議で脈略が無いのだが、その夢は何と言うかキャストが壮大だったらしい。前振りとして、護人は昔にこの神社に友達とお参りして、交通安全のお守りを買った事があるそうな。

 それは昔の友達が里帰りして、一緒にどこかドライブに行こうって流れだった。そこで津和野へと遊びに訪れて、太鼓谷(たいこだに)稲荷神社にも参ったのだった。


 観光ついでのお参りだが、交通安全のお守りを買ったのも事実。そしてお守りの類いと言うのは、実は有効期限と言うモノが存在するみたいで。

 大抵は1年程度で、そうすると古い物はお返しして新しいのを買うのが作法としては良い。それを(おこた)った護人の夢枕に、お稲荷様が3人ほど現れたそうなのだが、残念ながらその時は言葉が通じず。

 と言うより、会話自体が無くてその真意を推測するのに数年以上掛かった次第。


「いやぁ、突然天から近くの岩の上にドーンって大きな音で何かが降って来てね。ビックリして物陰に隠れたんだが、見えない力でその前に運ばれて行って。

 パッと見たら、3体の神主(かんぬし)衣装のお稲荷様が立っていらしてね。思わず興奮して握手を求めたんだけど、応じてくれたのは指先のチョンタッチだけだったなぁ。

 それでも、一番位が下のお稲荷様はちょっとビックリしてたね」

「面白いよね、お仕事熱心なお稲荷様って……アフターケアもバッチリとか、島根の神様は本当に凄いなぁ」


 そう感心する子供たちだが、この推測が100%本当たってる保証はどこにもない。そんな感じでお参り前に、期待感が爆上がりしてしまった太鼓谷(たいこだに)稲荷神社である。

 ところが、お参りして見てもその景観は凄いの一言だった。表参道の千本鳥居の連なりや、立派な境内も当然ながら見応えがある。


 予習好きの紗良が、ここは日本5大稲荷の1つだと説明して、島根県でも出雲大社に次ぐ年間参拝客数を誇ると言って来た。通称は「津和野のおいなりさん」として、地元の人にも親しまれているそうな。

 姫香はおいなりさんっていっぱいいるんだと、境内でキョロキョロその存在を捜す仕草。さすがに境内にペットを連れて来れないので、ハスキー達は敷地の外で待って貰っている。


 異世界チームの面々も今日一番の興奮で、働き者のお稲荷様と言う言葉に感心の素振り。彼らも神様の下で修業が大変みたいで、護人の夢に出て来た3名も明らかに(くらい)の違いがあったそうな。

 中央に立っていたお稲荷様が一番立派で、端にいたお稲荷様はやや仕事に慣れてない感じを受けたそう。握手は確かに失礼だったかなと、護人も夢での行動を後悔しているみたい。


 異世界チームは、向こうにも人間を化かすモンスターはいるよと話しに乗って来る。そんな連中も、何かの出会いをきっかけに神格を得るのかも知れない。

 そんな話をしながら、賑やかな参拝は終了の運びに。ペット達を待たせているので、各々が買い物を済ませてそそくさと境内を後にする。

 こんな感じで、数時間の津和野の観光は終わりを迎えたのだった。




 今ではすっかりスマホの扱いを覚えた異世界チームは、観光の途中で写真を撮ったり動画を撮影したりと忙しそうだった。それはこちらも同じで、来栖家の撮影係を自称する末妹は今回の旅行の動画もバッチリ撮影済み。

 これも編集して、サイトにアップする気満々の末妹は編集の技術も実は勉強中。姉の姫香が割とパソコンに強いので、ちょくちょく教えて貰っているのだ。


 今回も素材はたっぷり稼げたし、ドライブ中の車内も映して盛り上がっている。そんな来栖家のキャンピングカーの車内は、実は割とぎっちぎちである。

 何しろハスキー達が既に大型犬なので、通路を占領してしまって移動も大変と言う。姫香は(いさぎよ)く助手席に座って、ミケに膝を貸したりヒバリを抱っこしたり。


 そんな彼女の助手席の窓際には、買ったばかりの稲荷神社のお守りが揺れていた。出来れば今回の旅行中も、事故を起こさず無事に家まで帰り付きたい所。

 そして次の目的地だが、順調に進んでも山の中を2時間以上の時間が掛かってしまう。ルート的には、ずっと187号線を進めば良いので問題はあまり無い。


「取り敢えず、岩国チームにも連絡を入れておこうか。まぁ、向こうにつくにもまだ2時間以上は掛かるだろうけど。最終的には、周防(すおう)大島で合流で良かったのかな?」

「その辺も電話で聞いてみよっか、じゃあ私がするね……それにしても、津和野じゃ地元の協会とか探索者チームに会わなかったね。

 安芸太田(あきおおた)町の待遇とは大違いで、ちょっと肩透かしを喰らっちゃったよ」

「確か、地元のチームで有名な所は無いって話じゃ無かったかなぁ? それにしても、確かに地元の協会くらいは確認に来ても良かったわよねぇ」


 姫香の言葉に紗良も同意するが、A級の“津和野ダンジョン”がオーバーフロー騒動を起こせば洒落では済まないのも事実。地元の関心が薄いって事は無い筈なのに、確かに何とも肩透かしな対応であった。

 それはともかく、岩国チームとは無事に電話は繋がって、待っているよとこちらは熱烈対応振り。2号線との分岐まで迎えに行くよと、下に置かない対応を口にして来る。


 そこからの山道は、割とあっという間に過ぎて行った。運転役の護人としては、それなりに大変だったけど事故もなく順調な道のりで島根県を後にする。

 来栖家の車は、いつの間にやら山口県に入っており、いつかの“美川ムーバレーダンジョン”へのルートに差し掛かっていた。もうすぐ岩国チームとも合流出来そうで、本当に順調な旅程である。

 それもひょっとして、さっき買ったお守りの効果なのかも?





 ――或いは信仰心って、そうやって(つちか)われて行くモノだったりして。







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