中国地方を南から北へ縦断ドライブする件
きっかけは約束のドライブ旅行だったけど、何故か探索系の案件が幾つか重なってしまった。それに香多奈の我が儘が重なって、金曜日の午後からの旅行は大変な事に。
大筋の目的は、安芸太田町と島根の津和野にドライブで寄ってのワープ開通作業である。それだけなら、別に金曜日から家を留守にする必要は無い。
それに乗っかって、岩国の協会からも変わった依頼が舞い込んで来たのだ。何やら懇意の企業チームに、A級チーム直々に訓練をつけて欲しいとの事。
断っても良かったのだが、その場所が周防大島で豪華な宿泊施設も使い放題との話。それを聞いた子供たち、特に末妹がノリノリとなって受ける破目に。
香多奈の我が儘は今に始まった話では無いけど、実は末妹の誕生日がもうすぐなのだ。そこでお祝いとして外泊旅行もいいねとの、優しい長女の言葉も1つの引き金に。
それなら、寒くなって来たのでお鍋が食べたいとの末妹の提案に。ちょうどその周防大島に変わったお鍋があるよと、二泊三日のドライブ旅行計画は完成する形となった。
ただし、それを耳にした異世界チームが、自分たちも行くと言い出したのは完全に計算外。どうやら前回の宮島訪問で、観光旅行に味を占めたらしい。
それは構わないのだが、こちらは半分仕事である。それを了承して貰って、それならと2台のキャンピングカーでのレイド形式ドライブの敢行となった次第。
道順は、まずは吉和へと赴いて、インターから中国自動車道で戸河内へ。そこのインターで降りて、国道191号線で安芸太田町の町内を移動する。
それから1つ目のワープ拠点の設置を行って、予知に対処する予防線を確定。何か起きたと報告があれば、そのルートで地元から駆けつける作戦である。
その作業にはほとんど時間が掛からないので、今回は安芸太田町を素通りして島根へと入る事に。まずは益田市を目指して、そこから9号線で南下して津和野を目指す。
他にも道は一応あるけど、大きな路だとこんな感じだろうか。そこで1泊して、次の朝に2つ目の拠点開通と観光をお昼過ぎまで行う予定。
これは家族サービスの時間でもあるし、恐らく同行を決め込んだ異世界チームも喜ぶだろう。土屋チームも同行するそうで、観光を満喫する気満々である。
向こうのキャンピングカーは、さぞ賑やかだろうがこちらも負けてはいない。麓で拾った香多奈は、数日前からこの旅行計画を姉達と散々に練り上げていたのだ。
ちなみに隼人の送迎車に乗った和香と穂積は、いいなぁと来栖家の週末旅行に羨ましそう。気の毒ではあるが、仕事も含むので勘弁して欲しい。
凛香チームも生活は安定して来たので、年末に家族旅行でもする余裕はあるだろう。姫香も年少組を気遣って、凛香をそれとなくプッシュしておくよと約束する。
そんなやり取りを経て、週末の家族旅行はスタート。ペット達ももちろん同伴しており、留守は凛香チームやゼミ生達にしっかりと任せてある。
いつものパターンだが、A級になって遠征が多くなった来栖家チームにとっては有り難い限り。今となっては、本当に頼りになる上にかけがえのない存在のお隣さん達である。
ちなみに旅行の後半だけど、津和野から187号線をずっと南下して山陰から瀬戸内へと抜けるルートへ。それから2号線と437号線を使って周防大島へ寄る予定。
この周防大島だが、瀬戸内海で3番目に大きな島である。そこで岩国チームと落ち合って、宿泊施設を利用させて貰う手筈になっている。
そこからの帰りは、188号線と2号線で岩国から大竹経由となるだろう。大竹から186号線に乗って、後は北上したら地元へ戻れる塩梅である。
ひょっとしたら、キャンピングカーを一時向こうに預けて、ワープ装置で家族だけ戻るかも。その辺は時間の都合もあるので、判然としない所ではある。
「えっ、そんなギチギチに予定を詰め込んだっけ……まぁ、北に行ったり南に下ったりと中国山脈を縦断する大変な日程ではあるけどさ。
それから、念の為に岩国にもワープ拠点を開通しておくんだっけ?」
「そうだね、この3日で3か所ルート開通して回る、割とハードな旅程ではあるね。とは言え、観光も組み込んでおかないと本当にドライブだけになっちゃうからね。
津和野方面は、みんな初めてだったかな?」
「初めてかもっ、出雲にも行った事は無いかなぁ……島根も近いんだから、もう少し旅行とかで訪れたいよねぇ」
紗良のそんな呟きに、その通りと元気に挙手する香多奈である。まぁ、この辺は家畜業を営んでいると、普通に起きる悲劇だったりする。
家畜の世話は農業と違って、寒くなったからお休みって事にはならない。それが最近、ようやくお隣さんに頼れるようになって解消し始めた感じだろうか。
その分、探索依頼も多くなって純粋に観光とは行かなくなったのはアレだけど。子供たちは、ダンジョン探索も遊びの一種と思っているので護人的には有り難い限り。
そんな事を話し合う車内は、相変わらず賑やかで話題には尽きない感じ。茶々丸も遼の姿に変化して、大人しくレイジーとツグミの間に収まっている。
ルルンバちゃんの魔導ゴーレムボディは、ちゃんと後ろのカーゴ内に収納済み。お掃除ロボの本体は、キャンピングカーの狭い室内を快適に走り回っている。
姫香は助手席に座っており、その膝の上にはミケとムームーちゃんが丸まっている。両者とも撫でる感触が違って気持ち良く、撫でられてる両者は満更でも無い感じ。
そんな姫香のナビで、来栖家のキャンピングカーは吉和インターから中国自動車道へ。相変わらずステッカーを強要されるが、生憎と今回の目的地はすぐそこである。
それでも高速道路を走る大型トラックの運ちゃん達は、束の間の護衛車に心強い気持ちになったのは確か。それから目的の戸河内インターで降りると、186号線での移動となる。
ちなみに安芸太田町の主要道路は、もう1本191号線も存在する。そのどちらも、市街地を過ぎれば険しい山道となる。それもその筈、安芸太田町の土地の9割は山林なのだ。
護人の運転するキャンピングカーも、市街地を過ぎて今まさに山道ルートへと差し掛かった所。ただまぁいつも運転している道も、似たような場所ばかりで不便は何も無し。
午後の曇り空の中、2台の車はそんな感じで山間を走行する。
「後ろの車も、迷子にならずにちゃんとついて来てくれてるねっ。一度、ザジ達に通信を入れてみようか、叔父さんっ?」
「それもいいけど、そろそろ目的のダンジョンが近くじゃ無かったかな? 出掛ける前に、ダンジョン前に地元の自警団の人が待ってくれてるって話だったんだが。
姫香、そっちに携帯で連絡を入れてみてくれないかい?」
「了解、それじゃあ護人さんの携帯借りるねっ」
そんな感じで慌しくなる車内、香多奈も巻貝の通信機で後ろの車にもうすぐ目的地かもと連絡を入れている。家を出発して既に1時間以上、良い休憩のタイミングかも。
ちなみに辿り着いた芸北運動公園は、それ程の規模ではなくて残念な施設ではあった。まぁ、田舎の山の中の運動公園なので、その辺は仕方が無い。
ただし、そこに生えた“芸北運動公園ダンジョン”は、立派なゲートを見せてなかなかの大きさ。紗良の説明では、獣人系がわんさか出て来るB級ダンジョンだとの話。
そして、出迎えて来てくれた自警団の団長の遠藤と、若い団員数名と無事に合流を果たした。取り敢えず来栖家もキャンピングカーを降りて、挨拶や途中休憩を始めている。
「いや、お待ちしておりました、護人さん……あちらは、噂の同じギルドでA級ランクの異世界チームですか。
凄い迫力ですね、魔導ゴーレムも仲間にいるとは」
「ええ、我々が津和野方面に行くと聞いて、観光がしたいとの理由で同行した次第です。それじゃあ、早速ですが『ワープ装置』で位置情報を記憶させて貰いますね。
紗良、済まないが装置の起動を頼むよ」
「了解しました、護人さん……ハスキー達も散歩に出ちゃったけど、うろつき回って大丈夫かな? 家族のいる近くからは、そんなに離れないとは思うけど。
茶々ちゃんとかも、楽しそうに駆けて行っちゃったかも?」
それを聞いた香多奈が、戻って来なさいとペット達に大声で怒鳴っている。元気な少女は、今日はここのダンジョンに潜るんだっけと、素っ頓狂な質問を飛ばして来た。
それを呆れた表情で、そんな時間は無いでしょと否定する姫香。異世界チームと星羅チームも、田舎のダンジョンゲートにさほど関心も無い模様。
世間話を始める護人と地元の自警団チームを尻目に、彼らはのんびりと周囲を散策する。今はお昼の3時過ぎ、狭いキャンピングカー内にいた面々は伸びをしたり景色を眺めたり。
見慣れた田舎町には、異世界チームも星羅チームも特に反応もなし。駆け回っているハスキー達や仔ヤギを追いかける末妹を、平和だなぁって表情で見詰めている。
ダンジョンの入り口ゲートは、丁度運動トラックの中央に出来ていて情緒もクソも無い。そこで紗良が、妖精ちゃんに見守られて位置情報の登録を行なう。
これが終わったとの言葉が長女からもたらされ、これにてこの地でのお仕事は完了の運びに。自警団の言葉も、何卒よろしく程度で長く続ける会話でも無し。
そんな訳で、有事の際には連絡をお願いしますの言葉と共に、再びキャンピングカーに乗り込む一行。ペット達も小運動を満喫して、ご主人の号令にさっと戻って来てくれた。
それを追いかけていた香多奈も、何故か汗を掻いていて紗良にタオルを渡されている。風邪をひかないようにねと、優しい言葉を掛ける長女はまるでお母さん。
ほのぼのとした空気の中、再び出発する2台のキャンピングカーは山の中を快走する。ここからは細い県道を使って、191号線へと西に移動する予定。
大きい道を使うと、やや遠回りになってしまうが致し方ない。今の時代、細い道のメンテはおざなりで大きい車が通れない事態も間々あるのだ。
そんな感じで益田市へと辿り着くまで1時間、そこから9号線へと乗り換えて津和野を目指して更に1時間余り。すっかり周囲が薄闇に包まれる頃、一行は目的地へと到着した。
ヤレヤレと言う感じで、“津和野ダンジョン”前で車を降りるチームの面々。とは言え、今から突入する訳ではなく、今回はゲートの位置情報の記憶のみである。
それを毎度の紗良に任せて、姫香や柊木もそれを興味深く近くで観察している。観察と言うより、ゲートの近くは万が一があっては危ないと、護衛役に立っている感じだろうか。
他の面々は、今夜泊まる宿についての情報を交換し合っている。
さすがに今から観光は時間的に無理なので、そっちは明日の朝からと決まっている。今夜は長時間のドライブの疲れを癒し、宿でゆっくりするだけに留める予定。
ペット達も降りて来て、周囲を自由に散策し始める始末。茶々丸も、人間の姿での継続疲れのせいか、今は仔ヤギの姿に戻ってぴょんぴょん跳ね回っている。
そしてやっぱりそれを注意する末妹は、割と無視されて悲しい結果に。萌とルルンバちゃんの模範生2名のみが、お行儀よく近くに鎮座している。
そんな中、本日2つ目のルート開通も無事に終了。
「よしっ、それじゃあ宿に移動しようか……香多奈も怒ってないで、もうすぐ宿で夕飯だからね。そして明日は、朝から津和野の町の観光だよ。
ここは小京都と呼ばれる程に、町の景観からして見ものだからね」
「それは良いけどさっ……ハスキー達とか燥ぎ過ぎだから、注意したのにちっとも聞かなんだもんっ!
叔父さんから怒ってよっ、茶々丸とかも酷いじゃん!」
「まあまあ、香多奈ちゃん……ずっと狭い車内で我慢してたんだから、ペット達も体が固まって運動したいんだよ。これから宿だと、もう運動する時間も場所も無いからねぇ。
茶々ちゃんなんて、今日は探索するんだってずっと思ってたみたいだし」
――憂さ晴らしに末妹に体当たりする仔ヤギは、やっぱり叱られる運命?
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