“峠の沼地ダンジョン”をキッズチームで順調に進む件
不思議な事に、その後のキッズチームの探索は順調に過ぎて行った。龍星の1トップの斥候役と、その後ろに控える久遠の盾役も意思疎通は割と上手く行き始めている。
後衛のフォローも同じく、2度目の大ネズミの集団との戦いもバッチリ支援に回れていた。それを眺めていた保護者達は、揃って合格のサインを出す始末。
そんな感じで1層を踏破して、2層への階段を降りたのは潜って30分後の事。最初の層こそ手間取ったけど、その分2層の探索は割と順調に進めているようだ。
風景も変わらず、山の中の沼地って感じでじめじめ感が凄い。そして家電や家具やらの放置品も、何故かダンジョンは設定に拾っアクセントにしている模様。
自然派の姫香や土屋女史は、それを見て顔を顰めて嫌そうな表情。ただし探索しているキッズ達は、中に何か無いかなとチェックが楽しそう。
そして、半分泥に埋もれたタンスや電子レンジの中に、鑑定の書や魔玉(水)や薬品類を見付けては喜んでいる。薬品系は廃棄ペットボトルに入っており、茜はすかさず持ち込んだボトルへと移し替えていた。
気分的な問題だけど、売り物にしたり自分達で使う薬品だけにそう言う気配りはとっても大事。土屋女史も、そんなリーダー役の茜を温かい眼差しで見詰めている。
そして2層の敵も、似たようなラインアップ。沼から這い寄る大トカゲや大蛙は、単独なので始末は比較的楽である。前衛の龍星と久遠で、サクッと始末して次へと進んで行く。
「何か安定して来たねぇ、キッズチーム……やっぱり若いから、すぐに対応出来ちゃうんだねぇ、凄いっ♪」
「あなた達も、私から見れば充分に若いけど……まぁでも、対応力があるのは確かかな。ようやく安心して、撮影に専念出来そうで良かったよ」
「そうだね、予定では今日は10層まで潜るつもりだから。1層を、20分程度のペースが理想かしらねぇ」
土屋の安堵の言葉に、姫香が今日の大まかな探索予定を口にする。そんな課題を出されたキッズチームは大変だが、同伴する保護者達もそれなりに大変。
それもこれも可愛い後輩たちの為と、お泊まり組も気合いを入れて後に続いている。ギルドの発展を願う気持ちは、3人とも大いに高い模様で何より。
2層で一番盛り上がったのは、木の枝にくっ付いていた大ゲジゲジを遼が発見した時だった。ソイツは50センチサイズで、多足のフォルムはかなり気持ち悪い。
拒絶反応を示す女性陣は、早く倒してと龍星と久遠に必死の懇願を飛ばす。久遠も顔が引き攣っており、結局は遼が影縛りで捕獲して龍星が『伸縮棒』で潰す事に。
こんな時は、男の子の無邪気さは本当に有り難い。ソイツの落とした魔石(微小)を拾う遼少年は、誇らしげにそれを茜に手渡すのであった。
受け取る茜が、ちょっと嫌そうな顔だったのはご愛敬。
他に2層で目立ったイベントは無く、目標の20分程度で3層の階段を発見する事が出来た。それを褒めると、子供たちは総じて嬉しそうな笑顔に。
褒めて伸ばすのが上手いなぁと、その姫香の手腕を感心しながら眺める陽菜である。子供たちは皆可愛い後輩なので、全員が無事に成長して行って欲しい。
そのために、厳しく接するのか時に甘やかすかの塩梅は難しい所。育成に愛情は大事だが、そのせいで指南を誤るのは往々にして起き得るのだ。
そんな話を最後尾の保護者たちでしていると、いつの間にか母性が強いのはこの中で誰かと言う話題に。紗良がいればぶっちぎりなのだが、長女は現在家でお留守番である。
「難しい問題だねぇ、この中だと……う~ん、土屋女史はそのタイプには見えないし」
「怜央奈っ、私や陽菜を最初からリングに上げないのはどう言う理屈よっ!? でもまぁ、土屋女史は意外と母性あるタイプかもよ?
桃井姉弟を連れて来たのもそうだし、今は異世界チームのムッターシャと良い具合だし」
「えっ、まさか土屋さんとあのムッちゃん師匠がくっ付くっスかっ!? これは意外、柊木さんの次はてっきり美登利さんかなって予想してましたけど。
これは大穴っスね、いやでも応援しますよっ!」
そんな感じで、何故か妙な恋バナに脱線して行く保護者チームである。土屋女史は真っ赤になって、そんな事実は無いぞと否定しているのが逆に怪しい。
リリアラやザジ師匠は、ライバルにならないのかなと陽菜の素朴な疑問には。異世界チームは家族感が強くて、チーム内に恋愛感情は無いかなと姫香の弁。
こう見えて、意外と他人の恋愛事情を把握している来栖家の次女である。ちなみに本人の姫香の恋愛は、ちっとも進展していないのは誰にもナイショである。
もっとも、身内の長女の紗良や目敏い人たちには、モロバレなのは本人は知る由もない。その恋を秘かに応援されている事も、同じく公然の秘密だったり。
話は二転三転して、みっちゃんの彼氏の話や陽菜のお相手はいないかなどを掘り下げている間に。真面目に探索に励んでいる新人ズと双子のチームは、順調に2層を突破に至った。
そして沼地エリアの3層目を、同じ陣形で進み始める。やたらと騒がしい保護者の面々を、敢えて無視する胆力は将来なかなかの大物になる予感。
それはともかく、この層も大ネズミやゴキの群れを苦労して倒して行くキッズ達。やはり敵の数が多いと、多少慌ててしまうのは仕方のない所だろう。
それでも最初の戦いよりは、随分とこなれて来て戦闘時間もどんどん短縮出来ている。茜もリーダー役を無難にこなしており、双子チームとの連携も随分と良くなって来た感じ。
「あっ、あそこに壊れた放置車があるね……ダンジョン内なのに、あんなオブジェも再現されてるのは凄いよね。
どうしよう、中に何か入ってるかも?」
「そっ、そうね……敵の待ち伏せとか罠に気を付けて、ちょっとだけ見てみようか。久遠、龍星君のサポートをお願いね」
「了解っ……窓も壊れてるから、確認だけならすぐ終わりそう」
そんな久遠の返答を確認して、ゆっくりと先行して行く龍星である。この頃にはキッズチームも、背後の保護者の存在をすっぽりと忘れて探索に集中していた。
その集中力が功を奏して、接近した途端に車から飛び出して来た大ムカデを華麗に躱す龍星。不意打ちを失敗した大ムカデは、控えていた久遠にカウンターで串刺しにされる破目に。
止めとばかりに、龍星も『伸縮棒』でぶん殴りを敢行する。『辣腕』スキルの乗ったその一撃で、3メートル級の大ムカデは何も出来ずに昇天して行った。
そして残された魔石(小)を拾って、してやったりと笑顔の子供たち。ちなみに、車のシートの上にも鑑定の書やペットボトル入りのポーションやエーテルが転がっていた。
後は魔玉(水)が4個に、発煙筒やロードマップが何冊か。車の芳香剤や交通安全のお守りも出て来て、お守りに関しては果たして効果があるのかは怪しい所。
それでも嬉しそうな表情の遼は、チーム内で癒しの存在として認定されている。良かったねと茜に言われて、うんと頷く最年少のチーム員だったり。
3層ではそれ以上のイベントは起こらず、何事もなく通過して次の層へと辿り着いた。そんな4層では、いきなり近くの茂みから大蛇が這い出て来て子供たちがプチパニックに。
不意を突かれたってのもあるけど、皆して蛇が生理的に苦手だったのだろう。遼だけが平気だったようで、影縛りで飛び出た大蛇を捕獲してくれた。
そこからは多少慌てつつの討伐に及んで、何とか被害もなくこの遭遇戦を終えた一行。などと安心していたら、沼の方からイモリ獣人が数匹飛び出て来た。
小柄なコイツ等だが、手には槍を持って動き自体は素早くて弱い獣人ではない。保護者陣からも注意が飛ぶ中、久遠と龍星がガッチリとブロックへと動き出す。
そしてチビッ子たちによる、獣人との派手な戦いが繰り広げられる事に。天馬も中衛の動きで、幅広の短刀と『自在針』で積極的に戦闘に参加している。
敵の数は5体だったのだが、久遠が今回は『盾術』スキルで敵のブロックに成功している。ある程度大きな敵でないと、このスキルは上手く働いてくれないようだ。
そして3体同時の足止めに、龍星が上手に立ち回って敵の数を減らして行く。1匹目を退治すると、後は双子のコンビネーションが華麗に決まって数減らしはあっという間に。
お陰で5分と掛からず、獣人の群れの退治には成功して保護者達もホッと安堵のため息。獣人ともなると、知能のある動きをするので手強い奴が多いのだ。
初心探索者の中には、人型の獣人と戦って殺すのを忌避する者もいる。それはある程度は仕方無いのだが、幸いにも新人ズに関しては大丈夫なようだ。
ダンジョン産の獣人は、倒せば魔石になってくれる点も嫌悪感が薄まる要因なのかも。そんな感じで落ちた魔石を、遼が嬉しそうに拾って回っている。
「このダンジョン初の獣人の群れも、何とか上手に始末出来たねっ……なかなかいい調子だよ、みんなっ!
このまま油断せず、最初の中ボス部屋まで頑張って!」
「ようっし、中ボス部屋のモンスターはどんなのがいるかなっ? 楽しみだねっ、茜お姉ちゃん!」
「そ、そうだね……この調子でガンバろっか、遼はまだ疲れてない? 今回の探索は、10層まで行って帰るそうだからね」
後衛組はそんな感じで、頑張るぞとお互いに気合いを入れ直して良い感じ。前~中衛の3人も、5層が終わったらお昼休憩かなと呑気なお喋りに興じている。
そうして4層は、それ以上のハプニングも無く沼エリアを半周して階段を発見の流れに。たまに池から出て来るのは、それ以降は大蛙が3匹のみ。
イモリ獣人に較べると、動きが遅いそいつ等は久遠と龍星が簡単に始末出来る敵である。そんな感じで4層を攻略して、一行はいよいよ5層へと到着した。
そしていきなり、イモリ獣人の襲撃が……そいつ等は5匹いて、忍者風の手裏剣使いも混じっていた。飛んで来たその暗器を、咄嗟に盾で弾き飛ばす久遠はナイスプレー。
リーダーの茜の号令で、遼はその厄介な後衛イモリ獣人を影縛りで捕獲に掛かる。ついでに忍ばせた闇の短剣で、急所を攻撃出来れば上出来である。
茜も魔玉と『炎の扇子』を使って、前衛陣を必死のサポート。最近の練習で攻撃魔法を何とか発動出来るようにはなった彼女だが、まだまだ集中が必要で実戦レベルには及ばない。
そんな訳で、頼るのは魔法アイテムだがこれも工夫次第で充分に強い事が判明した。使う際に己の魔力を流し込むと、威力や射程が強まってくれるのだ。
この小さな発見は、いつも気弱な茜に多少の自信をもたらした。自分の力でそれを見付けたのが大きく、これで苦手な戦闘でも活躍出来そうな気配が。
隣にいた遼が、茜の攻撃の仕草に気付いてくれたようだ。影縛りを最大限に発動して、前衛の邪魔にならない場所に捕らえたイモリ獣人を引っ張り出してくれた。
忍者風味のそいつは、残念ながら火遁や土遁の術は苦手だった様子。
茜の『炎の扇子』から放たれた炎の威力は、前回の探索の時とは比較にならない程。そのパワーで、哀れな捕らわれのイモリ獣人はあっという間に黒焦げに。
まだ戦闘中にも関わらず、やったぁと燥ぎ回る遼を保護者の姫香の声が窘める。前衛陣は、まだバリバリ戦闘中で戦闘の騒ぎで大トカゲも沼から這い出して来ていた。
それでも子供たちの成長を目の当たりにして、何となく口元の緩んでいる姫香だったり。慌てて戦闘に戻って行く茜と遼は、これからもどんどん成長して行く事だろう。
それが楽しみで仕方無いのは、土屋女史も同じである。
――沼地の側の戦いは、もう少しだけ続きそうな気配。
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