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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の秋~冬の件
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露天風呂エリアから難易度が上がって来た件



 その頃、前衛陣に追いついた姫香は、ハスキー達と巨大サルの壮絶な戦いを目にしていた。茶々萌コンビも参戦していて、お供のカッパにやや苦戦中。

 カッパは露天風呂のお湯を上手く利用していて、茶々丸の『突進』を受けないような立ち回り。しかも水系のスキルで、弾いたり窒息させようとしたりとかなりの戦闘巧者振りだ。


 萌が途中から騎乗を解除して、数の優位で揺さぶりをかけようとしている。しかしカッパも2匹いるようで、得意の肉弾戦を上手く避けられていた。

 一方のハスキー達は、咆哮(ほうこう)技や岩石投げを使って来る巨大サルにこちらも苦戦中。巨大化したコロ助が片腕に咬み付いているのだが、意にも介さず暴れ回るタフネスさである。


 しかも、騒ぎを聞いてサル獣人が周囲からぞろぞろと集まって来ている気配が。それに気付いた姫香も、フォローにと戦闘参加を決意する。

 ツグミもそれに気付いて、そつなく姫香の方のフォローへと回って来た。それと同時に、ジャングルのような茂みからサル獣人の団体さんが、半ダースほど勢い良く飛び出て来る。


「あっ、撮影機器が1個もないっ……まぁいいや、さっさと片付けて後衛陣と合流するよ、みんなっ! 中庭エリアは意外と広いね、露天風呂もくっ付いてるんだ。

 探せば、他にも露天風呂があるのかなっ?」


 姫香の問いに、ツグミは何も返答せず……それでも元気に、サル獣人との戦闘には参加して数減らしに貢献してくれる。姫香もさっきの中ボス戦の恨みとばかりに、武器を片手に暴れ回る所存。

 一応は背後の露天風呂の戦いも気にしつつ、ギャーギャー(うるさ)い獣人達を切り刻んで行く。向こうも棍棒や槍を手にしていて、殺傷能力は(あなど)れなさそう。


 それでも数分で討伐戦は終了、ドロップもまずまずでこの6層から急に難易度が上がった感が。ハスキー達も手強い敵の一団を倒し終えていて、魔石(小)の束を見せびらかせて来る。

 それを褒めてやって、姫香はペット達の怪我チェックをしながらしばし脳内思考。このまま中庭エリアの間引きを、ハスキー達とこなすべきだろうか。


 巻貝の通信機で香多奈と話したところ、向こうは宿泊エリアで回収作業に精を出しているそう。ついでに次の層への階段も見つけたので、合流してとの事。

 こっちはまだ中庭エリアの探索と間引きが中途半端で、もう少しやっておきたいかも。そう通信機に告げると、了解との元気な相槌が返って来た。

 そんな訳で、もう少しこの周囲をうろつき回る事に。


「それじゃあ探索の続きに行くよ、みんなっ……アンタ達が勝手に先行するから、後衛陣と別行動になっちゃったんだからね!

 本当に、ちょっとは先行のし過ぎを反省しなさいっ、アンタ達っ!」


 姫香の叱責に、えっマジと言う表情のハスキー達は、真面目に働いているのに不条理な扱いに納得がいかない様子。それでも姫香の言葉に従って、敵の気配を捜して進み始める。

 そんな前衛陣の間引き作業は、そこから約15分ほど続くのだった。




 そして中庭エリアの、大体の広さを確認し終えて後衛陣との合流を果たす。姫香とハスキー達の探索では、中庭には大小3つの露天風呂を確認出来た。

 それから東屋(あずまや)やらお洒落な小路やら、立派な鯉の泳ぐ池やら散策には良さそうな雰囲気を堪能しつつ。敵との戦いを3度ほど挟み、一通りぐるっと回って来た次第。


 ご苦労様と出迎える護人だが、それを見たハスキー達は怒られないと分かってホッとした表情に。姫香は内心で怒ってよとは思ったが、まぁその辺は仕方がないと諦め模様。

 代わりに、次のエリアもこの方式で行こうかと提案する。


「二手に分かれての探索は、ウチのチームでは初だけど面白そうだねっ! 実際、ハスキー達が敵を全部倒しちゃうから、後衛陣が戦う機会が極端に少ないもんね。

 建物内の敵はそんなに強くないし、姫香お姉ちゃんの案で良いんじゃないかなっ?」

「う~ん、危ない方法はなるべく避けたいけど、この位の難易度なら問題は無いかな? 時間の節約にもなるし、10層まではお試しでやってみようか。

 姫香、片方の指揮は任せるけど、充分に注意してくれよ」

「了解、それじゃ引き続き私とハスキー達で中庭エリアを探索するね。香多奈、萌に動画の撮影機を取り付けてあげてよ。

 さっきの戦闘シーン、丸々撮れてないよっ!」


 確かにそうだねと、末妹はルルンバちゃんに取り付けてある予備の撮影機を萌の鎧の肩口へと取り付け直す。茶々丸でも良いが、この子は突進したり飛び跳ねたりブレが大変そう。

 それは茶々丸に騎乗している萌も同じだが、安心感は仔ヤギに較べて5割増しの萌だったり。信頼と言うのは、やはり日々の行いで(つちか)われて行くモノなのだろう。


 これで一応、2チーム制になっても撮影に関しては大丈夫になった。巻貝の通信機があるので、定期的な報告もバッチリ可能である。

 それを聞いて、逆にハスキー達の方が不安になった感じも受ける。やはり彼女達の存在意義は、敵の殲滅(せんめつ)ではなく主の護衛なのかも。


 それを一度思い知らせるのも悪くないねと、姫香は7層に降りて計画を実践する。そんな訳で、姫香はハスキー達と茶々萌を連れて中庭エリアの奥を目指す。

 そして後衛陣は、さっきと同じく建物エリアを目指して進軍開始。多分こっちの方向だよねと、末妹が先ほどの経験を()かして元気に指示を飛ばす。


 それに従って先頭を進むルルンバちゃん、彼もチーム員が半減してちょっと不安そう。それでも護人も一緒に前を歩いてくれて、それを励みに意気をあげるAIロボ。

 香多奈の勘は大当たりで、数分も進まずに古風な銭湯みたいな建物が見えて来た。長く伸びる煙突は、どこから見ても良い目印には違いない。


 その発見を律儀に姉に知らせる末妹は、通信機をオモチャ代わりに楽しんでる感じ。それでも了解との姉の返事に、気を良くした香多奈はルルンバちゃんに突撃指示を下す。

 そんな感じで、護人と一緒に建物内へと突入して行くAIロボ。そこにいたパペット兵やヤモリ獣人を、魔導アームと魔銃を駆使して倒して行く。


 それを護人もお手伝い、何だか久し振りにしっかりと働いている気がする。体を動かす事が苦ではない護人は、やっぱりもう少し出番は欲しい所。

 ムームーちゃんはそうでは無いようで、今回は見学モードで手出しは無し。案外と、さっきの失敗を引き()っているのかも。


「お疲れさまっ、叔父さんにルルンバちゃん……そろそろお腹が空いて来たかな、次にみんなが合流したら、お昼休憩にしようよっ!」

「おっと、そろそろそんな時間か……それじゃあ建物内を探索して、敵を全部倒してフロアの安全を確保しようか。

 それとも、開放的な中庭で食べる方がいいかな?」

「宿泊施設の宴会場なら、広いし良いんじゃないですか、護人さん? それでいいなら、姫ちゃんにも連絡入れておかないと」


 オッケーと上機嫌な末妹だが、明らかに連絡のスパンが短いような。そのうち怒られるぞと思いながら、護人達は建物内の探索を続行する。

 試しに銭湯フロアを覗いたら、先ほどと同じに次の層への階段を確認出来た。敵もボチボチいたので、一応は護人とルルンバちゃんで狩っておく事に。


 ここの敵は、毎度の蒸気ガストやお湯の中を泳ぐ灰色ウナギがメイン。油断するとカッパやカエル男が物陰に潜んでいるので、後衛陣は入り口で見学となっている。

 そんな戦闘シーンを見ながら、香多奈が不意に思い付いたように妖精ちゃんに質問した。水の精霊は呼び出した事は何度かあるけど、お湯の精霊っているのかなぁと。


 妖精ちゃんは、何故か大威張りで霧の精霊ならいるけどナと簡単に種明かし。試しに呼び出してみようと画策する末妹だが、その願いは残念ながら届かず。

 相変わらず召喚のスキルを上手く使えない香多奈は、がっかりした表情で取り出した杖の先を見遣る。代わりに水の精霊を呼び出したら、ヨッとお気楽に召喚に応じてくれた。


 それで一転して機嫌を直す香多奈は、間違いなくお調子者の素質がある。隣の長女は、MP管理はしっかりねと助言をするのみで、召喚訓練には敢えて触れず。

 そんな事をしている内に、護人とルルンバちゃんの間引き作業は終了した。お次はお隣りの宿泊施設だねと、増えた仲間と騒がしく音頭を取る後衛陣。


 そちらも10分もかからず終了し、回収品としては広場に置かれてあった卓球台からラケットと球をゲット。ついでに番台みたいな場所から、古いコインを結構な量回収した。

 それに気を良くしていたら、姫香とハスキー達が合流して来た。向こうも何事もなく間引きを終えたようで、特に疲れも怪我もないとの事で何より。

 そんな訳で、予定通りに建物内で昼食休憩に移行する流れに。



「宴会場が広くて良かったね……土足なのは何か申し訳ないけど、ペット達もいるから今更だもんね。舞台まで付いてるし、本当に立派だよねぇ。

 香多奈、ついでだから1曲歌ってみたら?」

「嫌だよっ、ご飯食べるの遅れちゃうもんっ! そんなに見たいなら、ルルンバちゃんや萌に踊って貰えばいいよっ。

 2人とも、ご飯の必要ないんだから」


 恒例の口喧嘩をスパイスに、賑やかなお昼は進んで行く。紗良が召喚しっぱなしの水の精霊を見て、MP管理は大丈夫なのと心配の言葉。

 その水の精霊は、妖精ちゃんと共にお菓子を食べるのに夢中の様子。お食事中にアッチに帰すのは可哀想と、その辺は人情が勝っている末妹である。


 来栖家には食いしん坊が多いので、そう言った気遣いはピカ一の香多奈である。ところで、いつもはそんな末妹をロックオンして、お裾分けを狙うハスキー達の様子がヘン。

 特にレイジーは、護人の側から離れようとせず、甘えた声を発してご主人の手をペロペロ舐め続けている。どうやら先ほどの処遇が、彼女的には見放されたみたいで心細かった模様。


 それを見遣る姫香は、だから言ったでしょって厳しい視線をハスキー達に向ける。叱られないからと言って、チームでの勝手な行動は許されるモノではない。

 護人も怒ってないよと愛犬をフォローするが、ここは怒るべきでしょと姫香は思う。何より、上手く行っているとは言え、やはり二手に分かれての探索は危険である。


 そうは思うけど、末妹の差し出すハムにも口をつけないレイジーを見ると、やはり憐憫(れんびん)の情が湧いてしまう姫香である。同じくすり寄って来るツグミの頭を撫でて、それじゃあ午後は一緒に探索するよと告げてやる。

 その言葉に、一斉に喜びの尻尾振りを始めるハスキー達は超現金かも。とは言え、来栖家の欠かす事の出来ない戦力が落ち込んだままでは、午後の活動に不安が残ってしまう。


「そんな訳で、午後からはみんなで中庭と建物内を回るけどいいよね、護人さん? それでも多分、1層を30分ちょっとでクリア出来ると思うし。

 結果的に、ハスキー達にはいいお(きゅう)になってくれたよ」

「そうだな、やっぱり別々での探索は事故があった時に怖いからね。香多奈の体力的には、移動距離が少なくて助かってたけどやっぱり安全が優先だな。

 ハスキー達も、チームで一緒が良いみたいだしな」


 護人の言葉に、その通りとワンと珍しく吠えるレイジーは上機嫌。良かったねぇと微笑ましくその光景を眺める紗良と、再びお肉を勧める末妹。

 今度は喜んで食べて貰えて、これで仲直りは完了である。家族の(きずな)は、少々ひびが入ってもお互いの歩み寄りで修復が可能なのだ。

 雨降って地固まる、そんな情景に皆がホッコリ気分。





 ――温和な来栖家には珍しいけど、これもまた成長の糧には違いない。







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