B級ダンジョンの温泉施設を順調に探索して行く件
さて、3層へと降りて来た来栖家チームは、順調に宿泊施設エリアを巡って行く。突入から1時間が過ぎ、このダンジョンの造りにも慣れて来た感じ。
ハスキー達も適当に間引きをしながら、建物内を駆け抜けて行く。全部を手に掛けないのは、中衛の姫香達にも獲物を残してあげる優しさである。
それで喜んでいるのは、一緒に組んでいる茶々萌コンビだけだったり。ただまぁ、暇過ぎてついて行くだけの状態よりは、姫香もよっぽど健全な気もする。
後衛陣も、隙間に潜んでいたモンスターを倒したり、宴会場に置かれていた酒瓶やビール瓶を回収して回ったり。瓶類は、もちろん中身がしっかり詰まっている。
これは山の上のメンバーも喜ぶし、青空市で売ってもすぐに捌けて行く商品である。嬉しそうにそれらを回収する子供達は、もっと無いかなと周囲を窺う素振り。
そして隣の個室で開け放った押し入れに、満杯に詰まっていたスライムに絶叫する。とんだサプライズに、護衛についていた護人やミケも驚いた表情。
ところがそいつは、お前は邪魔だと言わんばかりのムームーちゃんの魔法攻撃で呆気無く昇天の憂き目に。近親憎悪と言うか、軟体幼児は自分に似たスライムと言う存在が大嫌いみたい。
ミケもそれには、仕方無いなと言う表情……アレはサイズが大き過ぎて、子供たちの経験値稼ぎに向いていないと思ったのかも。
そんな感じで、宿泊施設エリアの探索は無事(?)に終了。
「さっきのスライムにはビックリしたけど、相変わらずこっちのエリアは大ネズミとかゴキブリとか雑魚しかいないよね。本当にB級なのかな、どう頑張ってもC級の難易度だけど。
魔素も高いって言ってたのに、拍子抜けだよねぇ?」
「そうだねぇ、でも敵が弱いのは良い事なんじゃないのかな? 魔素の濃度は、ダンジョン内の回収品に使われてるかも知れないし。
例えば魔石がたくさんとか、魔法アイテムとかが豪華になったりとか?」
そう口にする紗良は、末妹を乗せるのが本当に上手い。その可能性もあるのかぁと、まんまと乗せられた香多奈はご機嫌にチームの後に続いて歩く。
それからヘスティアちゃんの、呼び鈴を使おうかなぁとせっかちな発言。
「アレは回数制限もあるし、もっと後半でいいんじゃないかな。それよりハスキー達は、もう庭に出てこっちを待ってるみたいだぞ。
俺たちもさっさと移動して、仲間と合流しようか」
「そうだよ、香多奈ちゃん……こんな浅い層では勿体無いよっ。もっと10層とかその辺じゃないとね、良いアイテムもきっと出てくれないよ」
そんな事を言う護人や紗良は、末妹を乗せるのは上手いが操縦は大変そう。少女に担がれているヒバリも、さっさと進もうとばかりにピィピィと抗議して来る。
相変わらず賑やかな道中だが、騒ぎは中庭でも起きていた。石像に扮したガーゴイルがいたようで、その処理をハスキー達が行っている模様。
そいつはパペットよりは強かったようだが、コロ助のハンマーで高く飛翔する前に粉砕されて行った。そして、これにて中庭のお掃除はほぼ完了したらしい。
そこに後衛組が合流して、さて例の温泉エリアの探索開始である。今回も、脱衣所を通り過ぎた途端に、浴槽エリアで盛大な湯気の幕がお出迎え。
その中には蒸気ガストが混じっていて、それらを察知して倒して行くハスキー達&茶々萌コンビ。そんな最中に、何と突然カッパが割り込んで来た。
そいつは半裸で、立派な甲羅を背負って頭の上にはちゃんとお皿を持っていた。おおっと驚く姫香だが、ハスキー達は単なる敵の1匹だと判断した模様。
緑色の肌も、敵モンスターだとそんなに珍しくもない。そんな訳で、初出の河童もハスキー達によって簡単に倒されて行って盛り上がりも無し。
後衛陣は、脱衣場の浴衣や脱衣かごを呑気に回収し終わって合流。そしてカッパがいたよとの姫香の言葉に、あそこにカエル男もいるじゃんとの香多奈の返し。
えっと驚く前衛陣だが、確かに檜の水風呂の中にそいつはひっそりと潜んでいた。その隠密能力はツグミを欺く位だったので、相当に高かったようだ。
それを視覚情報だけで、末妹の香多奈は良く特定出来たモノである。そこからのハスキー達の怒涛の詰め作業は、鬼気迫る勢いだったのは致し方が無い。
特にご主人に恥をかかされたレイジーやツグミは、呑気に湯船に浸かってんじゃねぇって怒り具合。喉や急所に牙を突き立てて、浴槽からカエル男を引き摺り出している。
気の毒な事に、ただ水浴びしながら隠れていただけのカエル男は、その時点で魔石へと変わって行った。凄く怖かっただろうねぇと、末妹などは相手を憐れむコメントを発している。
「カエル男って、あんな発見しにくい敵だったっけ……? 何か、平然と居座ってて逆に見つけづらかったねぇ!」
「本当、ちょっとビックリしちゃった……ハスキー達も、物凄い形相で突っ込んで行ったからねぇ。香多奈ちゃんに言われて、ようやく気付いた感じかな?
そう思うと、意外と怖い敵なのかもねぇ」
確かにそうだねと話し合う子供たち、まだ隠れている奴いないかなと末妹も周囲をキョロキョロ窺っている。ハスキー達も、安全確保に浴槽内の敵の殲滅を開始。
茶々萌コンビも手伝って、場は一種のカオス状態に。バシャバシャとお湯をかき分けて、ペット達はまるで水遊びをしているような絵面である。
そして倒されて行く、お湯の中を泳ぎ回る灰色ウナギの群れ。今回もお茶目に痺れる茶々丸と、華麗にスキルで討伐して行くハスキー軍団。
萌も器用に、細い槍の穂先でウナギを切り刻んで倒している。そんな萌が、浴槽にぷかぷかと浮かんでいる木製の風呂桶を発見した。
それを手に取って、中身を確認した仔竜はそれを後衛陣の元へと運んで来た。どうしたのと対応する紗良は、桶の中に薬品や木の実や魔玉(水)が入っているのを確認する。
それを見た香多奈も大喜び、2人に褒められて萌はとっても嬉しそう。それから茶々丸を助けて来てとお願いされて、痺れている相方を回収しに向かう。
そんなやり取りは女湯でも行なわれ、こちらにはカッパはいたけどカエル男は存在せず。毎度の蒸気ガストと灰色ウナギを倒して回って、安全確保に余念のない前衛陣。
それが終わって、どうせここに階段があるんでしょとの露天風呂の方向への移動。その推測はバッチリ当たって、さてこれで次は4層である。
今の所はとっても順調で、意外と日用品の回収も多くて助かっている子供たち。11月の青空市も控えているので、そっち系の回収品は多い方が嬉しいのは確か。
特に消耗品のシャンプーやタオルは、ダンジョン産でも売れ行きは好評である。何しろ店売りの半額近くでの販売なので、今では固定客も出来ているほど。
今月もダンジョンはたくさん廻ったけど、日用品の回収はあまり無かった。それを挽回するぞと、特に紗良の意気込みは高めをキープ。
そして4層だが、ここもやっぱり宿泊施設からのスタート。いきなり戦闘が始まったのは、階段を出た先に大ネズミの群れが屯していたから。
コイツ等はハスキー達の敵では無いけど、噛み付き攻撃はそれなりに獰猛で凶悪だ。それらを華麗に躱しながら、敵の群れを駆逐して行くハスキー軍団。
4層の出発地点の安全を確保して、颯爽と先行偵察に向かうその勇姿はお仕事が楽しくて仕方ない感じ。茶々萌コンビも遅れじと、姫香を気にしながらそれに続く。
その辺は真面目な茶々丸と萌である、中衛と言われたらあまり出過ぎたら駄目なのだ。と言うより、今回の相棒は姫香なので置いて行くと怒られそう。
そんな判断を萌が行なって、先走りそうな茶々丸を操っている感じ。ハスキー達も、敵を全滅しない様に探索しているので暇と言う事もない。
姫香も中衛で指揮を執りながら、今回の探索の目的である間引きを真面目にこなしている。探索もまだ中盤だが、今の所は順調と言って良さそう。
そんな感じで、10分もかからず宿泊エリアは探索終了。
「今回は宴会場は無いみたいだね、残念っ……座布団とかカバー類とか回収しても仕方無いし、この層はスルーかなぁ?
姫ちゃんも玄関先で待ってるし、さっさと降りようか」
「そうだね、まだまだ先は長いもんね。前衛陣も、敵が強くなくて物足りない感じみたいだねっ。でも多分、どっかで敵も強くなって行く気がするなぁ。
だって、仮にもB級ランクのダンジョンだもんねっ!」
そう言い切る香多奈だが、隣の護人はちょっと迷惑そうな表情。何しろ末妹のナンチャッテ予知は、家族内でも良く当たると評判なのだ。
敵の強さがちょっとくらい強くなる程度なら良いけど、急に難易度が上がっては堪らない。確かにB級ランクにしては敵が弱っちいが、順当に間引き出来てるので問題は無い訳だ。
それに対して何の文句も無い来栖家チームだが、確かにこの先もそうだとの保証はない。或いは、ハスキー達はもっと骨のある敵の出現を待ち望んでいそう。
それは後衛が玄関先に到着した際の、ハスキー達の表情を見ても良く分かった。すぐ次のエリアへと駆けて行って、暴れ足りないのが丸分かり。
それに続いて茶々萌コンビも、姫香をせっついて追い掛けて行く素振り。後衛陣はそれを見守りながら、温泉エリアの入り口へと移動する。
恐らくは中庭エリアの制圧も、ハスキー達は5分と掛からず終わらせてくれる筈。それを待って、こちらも温泉エリアへと入って行けば、スムーズに探索は進んで行くだろう。
そんな待ち時間に、余りに暇だと思ったのかムームーちゃんがぐずり始めた。要するに、最近練習しているオートマタを操縦して、自分も活躍したいとの事。
“浮遊大陸”の宝物庫で入手した、この完全水耐性の全身鎧はかなりの良品の魔法装備である。それを粘体生物のムームーちゃんが、扱えると判明したのはつい最近の事。
そして夕方の特訓で、鎧の中に侵入してこの鎧を動かす練習をこなしている軟体幼児である。その特訓の成果を、皆が見ている前で披露したいそうな。
その辺はまるっきり子供の我が儘、肩の上で駄々をこねられて困り顔の護人である。とは言え、紗良や香多奈がそれを擁護するのはいつもの流れだったり。
そんな訳で、ムームーちゃんの前衛デビューが着々と準備されて行く事に。紗良が魔法の鞄から取り出したオートマタに、嬉々として潜り込んで行く軟体幼児。
その魚人みたいな外装の魔法の鎧は、ギミック満載でとっても強いのには間違いはない。ただし、それをムームーちゃんが上手く扱えるかは全く別の話。
「大丈夫かな……ここの敵はそんなに強くは無いとは言え、反撃はして来るからなぁ。取り敢えず、俺がフォローするから皆も見守りを頼むよ」
「了解っ、初めてのお遣いみたいな感じだねっ! 頑張れムームーちゃん、でも無理してトラウマにならないようにねっ。
怖くなったら、すぐに戻って来るんだよっ!」
「そうだね、怪我だけはしないでねっ」
温かい言葉を貰った軟体幼児は、多少の緊張感と共に温泉エリアへと入って行く。この魔法の鎧があれば、温泉で泳ぐ敵が相手でもへっちゃらだ。
そして大活躍して、家族にたくさん褒めて貰うのだ。
――そんなムームーちゃんの目論見は、果たして成功するのか否か?
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