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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の秋~冬の件
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隣町の“温泉旅館ダンジョン”へ間引きに赴く件



 その週の休日に、来栖家チームはキャンピングカーに乗り込んで隣町へと遠征へ出掛ける事に。とは言っても、片道約30分程度で目的地に到着する予定。

 その旧温泉旅館は、日馬桜(ひまさくら)町から県道を使って進んだ先にあった。まぁ、県道と言っても山の中なので、その幅はとっても狭くてカーブもキツい箇所が多い。


 それでも山道の運転に慣れている護人は、何事もなく目的地へと到着する。そしてちょっとした驚き、隣町の依頼者とナンとかプランナーもその場にいたのだ。

 どうやら顔繫ぎに必死らしいが、こちらとしては良い迷惑である。しっかり仕事は遂行するので、そのやり方にまでは口出ししないで欲しいってのが本音。


 ハスキー達も、ご主人の困惑を嗅ぎ取ってかやや警戒模様。そして姫香と香多奈も、こちらの仕事に口出しされたら(たま)らないと直感的に感じたみたい。

 勇ましい姿ですねとか、さすがA級チームですとお世辞を並べる大人たちに対し。探索は遊びじゃないんだよ的なオーラを発しつつ、まずはレイジーを招き寄せる姉妹である。

 演者に指名されて戸惑うリーダー犬だが、即興劇は既に始まっていた。


「この子の毛並み、一部が赤いでしょ……元は白かったのに、モンスターの返り血を浴び過ぎたんだね。今じゃすっかり狂暴になって、家族以外を肉の塊としか見てないんだよね。

 護人さんは鎖をつけなさいって言うけど、可哀想だと思わない?」

「ルルンバちゃんも紹介しておくね、凄い魔導ゴーレムでしょ? この子は異界で発見した殺戮(さつりく)兵器で、向こうの千年戦争では街や都市を幾つも血の海に沈めたそうだよっ。

 A級チームって、メンバーの半分が殺戮マニアになっちゃうんだよね」

「あっ、そうなのですね……ひいっ、近付かないでっ!」


 次は自分が紹介される番かなと、近付こうとした茶々丸は一方的にNGを出されてしまった。一番平和な顔付きの仔ヤギは、そんな相手の反応にショックを隠し切れない様子。

 同じく近付こうとしたルルンバちゃんは、殺戮兵器と呼ばれてもピンと来ない。レイジーは与えられた役割を完璧に理解して、過剰演出気味に(うな)り声などあげてみたり。


 それを駄目だよと制止する姫香は、半分顔がにやけてちょっと楽しそう。香多奈も同じく、ダンジョンに入るまで殺戮はお預けだよと笑いをこらえて口にしている。

 その頃には、出迎えに来ていた連中はすっかり逃げ出す気満々。挨拶もそこそこに、車に乗り込んで山道を飛ばしてこの場を離れて行く。


 この辺の山道は、片側は山の斜面でもう片側は切り立った崖が多い。しかも谷底まで割と深いので、スピードを出すと危ないのは近辺住人には周知の事実。

 脅し過ぎたかなと反省する姉妹は、過去に何度も事故を起こしたボコボコのガードレールを拝見済みである。一方のレイジーは、お前は良い子だよと護人に頭を撫でられ嬉しそうに尻尾を振っている。




 そんな探索前のゴタゴタをこなして、ようやく来栖家チームは“温泉旅館ダンジョン”を確認に至る。潜る前の恒例の魔素チェックだが、意外と高い事が判明した。

 話半分に聞いていたのだが、どうやらオーバーフロー間近なのは本当らしい。これは気合いを入れて間引きしないとねと、子供たちはペット達にも通達している。


「えっと、事前の情報収集では、このダンジョンの動画アップは見付からなかったんだけど。協会の資料によると、蟲系やカエルやカッパ系が多い印象みたい。

 総合すると、難易度はB級クラスかな……建物風のエリアのダンジョンだから、探索時間は少なくて済むかも。

 ただし、罠とかそっち系には注意が必要かも?」

「了解、温泉旅館の建物内の探索だねっ! “浮遊大陸”帰りの私たちのチームには、物足りないかもだけど注意して探索して行こうっ。

 でないと、叔父さんの血圧が上がっちゃうもんねっ!」

「お心遣いありがとう、香多奈……そんな心配までしてくれるとは、香多奈も段々とお姉さんになって来たんだなぁ」


 妙な所に感心する護人だが、姉の姫香は疑心暗鬼の表情で末妹に視線を送っている。何しろ、一番血圧をあげてる張本人は誰あろう香多奈なのだ。

 それを知ってる末妹は、姉の視線から必死に逃げる素振り。そんなやり取りを交えつつ、一行は(さび)れて半ば廃墟と化した山の中の“温泉旅館ダンジョン”へと入り込む。


 その入り口だが、敷地内の露天風呂の側に出来ていた。入り口の大きさはそこまで大きくは無いけど、雰囲気からして結構深そうな感じを受ける。

 先行するハスキー達は、敵よ出て来いと勇ましい限り。そして出て来た大ムカデを、あっさりと返り討ちにして他に敵はいないかと探し回っている。


 結果、またもや後衛陣との距離が開いてしまう問題が発動する破目に。これはハスキー達の熱心さが原因なので、護人も厳しく叱れない。

 そんな“温泉旅館ダンジョン”の第1層だが、モロに温泉旅館の建物内だった。ただし中庭や離れの建物も存在するので、完全に建物だけって訳では無いようだ。


 その分、探索範囲も広くなって捜索も少し時間が掛かりそうな気配。ここは階段を降りて行くタイプだが、幸いな事に中ボス部屋には退去用の魔法陣も用意されているとの話である。

 と言う訳で、探索目標はキリの良い10層か、もしくはもう少し頑張って15層程度だろうか。敵がそんなに強くないと分かれば、15層までは可能かも知れない。


 そんな目論見(もくろみ)通りに進むかは不明だが、続いて出て来た大ゴキブリや大ネズミをスパッと倒した前衛陣は、チョロいなと言う表情。

 そして再び、次の層への階段を捜しに先行偵察へ。


「ああんっ、ハスキー達ったらまた勝手に自分達だけで進んで行っちゃって! 撮影が大変なのに、ダメだって叱ってやってよ、叔父さんっ!」

「いやまぁ、レイジー達も仕事は熱心にこなしてくれてるからなぁ。前回の“浮遊大陸”での探索に較べたら、確かに敵が弱過ぎるってのも分かるし。

 姫香と茶々萌で、中衛を組んでくれてれば大丈夫だろう」

「今回は、茶々萌コンビを勝手させないってのが、チーム的な1つの目標だからね。ついでに“浮遊大陸”で入手した、スキルや装備品を試すのも手かな?

 どれも強力だから、敵が弱過ぎると上手く行かないかもだけど」


 それもそうだねと、中衛の姫香の呟きに悩み顔の末妹である。死霊軍団の王たちは、それはもう大盤振る舞いで宝珠やら魔法アイテムやらをくれたのだ。

 スキルと言うのは、覚えたから手足のように使いこなせると言うモノでは無い。武器や装備と一緒で、ある程度は馴染ませたり練習したりが必要なのだ。


 ダンジョン探索の途中でも、弱い敵を相手に練習するってのは大いにアリ。ただし強力なスキルに関しては、敵が弱過ぎると効果がイマイチ分からないって事態も起きてしまう。

 そんな訳で、訓練込みの探索だと言うのに、ハスキー達が張り切り過ぎ問題をチーム内に抱えつつ。チームは、旅館の建物の中を彷徨(さまよ)って移動中。


 探すのは次の層への階段と、それから宝箱などの回収品である。前回の失踪者の痕跡だとか、ダンジョン査定とかに較べたら間引き案件の何て明快な事か。

 そんな話をしながら、お気楽な雰囲気で一行は建物内を進んで行く。さすがにダンジョン内の通路や建物は、古びて見えるけど構造自体はしっかりして崩れる事は無さそう。


 ある意味安心して探索出来るのは良いけど、何となく家探ししている犯罪者感は(いな)めない。そんな事を気にしない末妹は、室内の物色に気合を込めていて頼もしい限り?

 妖精ちゃんも参加して、和室の泊まり部屋をあちこち飛び回って楽しそう。ルルンバちゃんは、手伝おうにもサイズ的に難しいので大人しく廊下で待機している。


 そこに騒がしい音がして、廊下の奥からパペット兵が2体ほど連なってこちらに向かって来た。浴衣姿なせいか怖くは無いが、アレも恐らく敵である。

 倒しちゃっていいよとの護人の言葉に、魔銃を撃ち込むAIロボはとっても素直。それで簡単に倒れてくれて、落ちた魔石はやっばり微小サイズ。


 それを拾いに行くルルンバちゃんは、仕事が果たせたと喜んでいる。対する室内物色組は、3部屋を漁るも何も発見出来ずにガッカリ模様。

 まぁ、香多奈も1層目からお宝が見付かるとは思っておらず、次に行こうと元気はすぐに復活。それよりハスキー達は、建物の2階を早々に切り上げて離れに向かっていた。

 そう報告するのは、出口に控えた中衛組の姫香である。


「護人さんっ、ハスキー達が離れの温泉施設にまで行っちゃってるんだけど。さすがにこれじゃ、本隊と離れ過ぎだよねっ?

 取り敢えず、みんなが合流するまで待たせておくよ」

「了解、こっちも2階の家探し終わったからすぐに降りて行くよ。思ったより旅館の建物は大きい造りだね、間引きはともかく宝物の回収は大変そうだよ。

 とは言え、全部見て回るのに10分も掛からない感じかな?」

「そうだねっ、だから魔法のコンパスも呼び鈴も使わない方向で行くよっ! どうせ間引きしながら建物の隅々まで回るんだし、それでいいよね、叔父さんっ?」


 護人はそれでいいよと答えたので、今後の方針はそんな感じで便利系アイテムは封印の運びに。便利過ぎなアイテムに頼り過ぎて、探索の勘を鈍らせるのも(よろ)しくは無いって考え方も当然ある。

 そもそもこの“温泉旅館ダンジョン”が、当初の見立て通りに敷地面積が広くないのもその要因の1つ。これならハスキー達の鼻と勘で、簡単に目的の物は確保が可能だろう。


 何しろ、1層で見掛けたのは大ムカデや大ゴキブリ、それから浴衣を着たパペット兵である。B級ランクとの紗良の報告だが、下手するとC級を通り越してD級かも知れない。

 そんな事を話し合いながら、建物の2階から1階へと降りて行く面々。


 温泉旅館の本館は、多少の時代の経過は見られたけど建物自体はどっしりとしていた。それから離れや駐車場、中庭などがエリアとして存在している感じ。

 それ以外は、モザイクが掛かったかのような雑な背景が広がっていて、どうやっても進めない仕様らしい。簡易的なフィールド型には、たまにこんな通行止めの背景が散見する。


「あっ、向こうには裏庭もあるんだ……えっと、離れは温泉施設になってるんだっけ? あの垣根の向こうは、ひょっとして露天風呂でもあるのかな?」

「入った温泉旅館とは、微妙に建物の配置や施設の規模が違うよね……潰れる前の羅漢温泉って、ここまで大きな建物じゃ無かったよね?」

「おっと、ハスキー達が早く行こうって催促してるな……そもそも元の羅漢温泉は、離れの温泉施設なんか無かった筈だね。

 ダンジョン内とは言え、勝手に増築されてるのは面白いな」


 或いはそれに目をつけて、例のナンとかプランナーはこんな田舎の温泉に目をつけたのかも。つまりは宿泊は別にして、訪れた客はダンジョン内でひとっ風呂浴びて来いと。

 そんな乱暴な計画は立てていないだろうが、ところがチームで進んだ先の温泉施設は物凄かった。立派な脱衣所はしっかりと男女別に分かれていて、その奥の浴槽の種類と来たら。


 まずは男風呂を覗いてみた一行だが、軽く4種類は浴槽が(しつら)えてある。檜風呂から白く(にご)った水質の奴、それからメインらしい泳げそうな広い浴槽まで。

 それを目にした子供たちは、おおっと感嘆の素振りで興味深そうにあちこちに視線を飛ばしている。湿度の高いその空間には、しかしモンスターも配置されていた。


 温泉気分が台無しだねと、ハスキー達に討伐を命じる末妹はある意味肝が()わっている。そして浮遊する蒸気のような敵を、(ほむら)の魔剣で切り刻むレイジー。

 この調子では、捜せばもっと敵は潜んでいそう。





 ――そんなダンジョン内温泉に、お客を招くのはかなり不都合が生じる気が。







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