久々の企業依頼が来栖家チームに舞い込む件
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10月も中旬を過ぎて、すっかり山の上も晩秋かなぁって感じの平日の午後。護人はいつものように、小学生ズのお迎えに白バンで麓へと降りていた。
来栖家は立派なランクルもあるのだが、近所に出掛けるには断然白バンの方が勝手が良い。荷物の乗る量が違うし、作業着でも気楽に運転が出来る。
凛香チームの隼人も、自分の所も軽トラか白バンが欲しいなと毎回のようにこぼしている。確かに田舎の農家では、軽トラを持っていない家庭を探す方が難しい。
それだけ凛香チームも、今や安定して探索で稼ぎを出せているみたい。頼もしい限りだが、隼人などは体型からしてすっかり逞しくなって見違えるほど。
同じく慎吾や譲司も、少年と言うよりすっかり若者である。年齢的にはまだ高校生なのだが、生きてきた環境がその辺の若者とはまるで違う。
そんな凛香チームの子供たちも、今では農作業の方も立派にこなせるようになって嬉しい限り。来栖家から分けた鶏も順調に成長して、今ではしっかり卵を産んでくれている。
それはともかく、山々の紅葉を楽しみながら麓への道を楽しむドライブはそれなりに贅沢だ。後部席のレイジーとムームーちゃんも、心なしか楽しそう。
そんな車内に、気紛れな風が1枚の落ち葉を運んで来た。護人は基本、車の空調は余程でないと使わない主義。それをキャッチしたムームーちゃんは、体内でそれを弄び始める。
レイジーは、そんな軟体幼児の1人遊びを眺めて不思議顔。この遊びは面白いのかなと、そんな疑問を抱いているのだろう。
そんな車内は、至ってお気楽な雰囲気を維持しつつ麓へと至る。
その瞬間を待っていたように、護人の携帯が着信を知らせて来た。慌てて車を道の脇に寄せ、電話を取っての応対。相手は末妹だと思っていた護人は、その相手にちょっと拍子抜け。
何と地元の協会からで、今から時間を取れませんかとの内容である。この時間は大抵、護人が手すきなのを良く把握している能見さんからの電話だった。
「別に構いませんが、子供の送迎中なんでそんなに時間は取れませんよ? 精々10分かな、どうしても今日中じゃないと駄目なんですか?」
『実は、隣町からの急な来客でして……企業依頼と言うか、町興しのアドバイスを貰えたら的な変わった案件でして。
ついでにダンジョンの探索依頼も、ウチに持ち込まれてどうしたモノかと。仁志支部長とも相談したんですけど、確かに隣町だし無視も出来ないかなあって』
「はぁ、それはまぁそうですけど……」
地理的に近い場所だと、オーバーフロー騒動を起こした場合はこちらも被害を被る理屈は良く分かる。とは言え、こちらも25以上ものダンジョン管理を抱えているのだ。
地元の間引き位は、そっちでやってくれと思わないでもない。ランクが高いダンジョンだと言われれば、確かに仕方のない部分もあるかも知れないけれど。
そんな訳で、10分後に伺いますと約束して、取り敢えず植松の爺婆の家へ。山の上の子供たちは、こちらが車を降りるまでもなく家から飛び出て白バンへと乗り込んで来た。
それから口々に良く分からない話をしたり、レイジーとムームーちゃんに挨拶をしたり。コロ助と萌も回収したのを確認後、護人は車を出発させる。
それから少し寄り道するよと、協会への道のりを進み始める。目敏い末妹は、すぐに目的地に見当がついた模様。協会に何の用事と、ムームーちゃんを抱えて質問して来る。
探索依頼かなと楽しそうな少女は、放課後のテンションそのまま。和香と穂積は、依頼が来るって凄いと羨ましそうな表情である。
どうやらこの両者、探索者への憧れはまだ心の中で育ちまくっている模様。そんな中で同い年の遼が、後からギルドに加わってデビューしてしまったのだ。
そのために、最近では姉の凛香への熾烈な探索への同行交渉が、始まっているとかいないとか。ギルマスとしては大変、心配の種はそこかしこから芽吹いて来るのだから。
そして辿り着いた協会の敷地内だけど、子供たちは車で待機などまるで考えていない模様。ハスキー達も一緒に降りて来て、護衛任務に忠実な構え。
恐らくは建物の中に知らぬ者の気配がするのだろう、その点は仕方ないし子供たちの同伴も仕方ない。諸々を諦めて、急な呼び出しが全て悪いと護人は悟った表情。
そもそも護人の今の格好も、バリバリの農作業着で客に会う服では決してない。協会の建物の扉を開けて、見知らぬスーツ姿の中年男性を発見するに至ってそう思う。
とは言え、向こうも田舎の親父感が浮き出て緊張の面持ちで待ち構えている始末。全部で3人だろうか、1人は若い女性で仕事が出来るイメージを振り撒いている。
「ああっ、護人さん……お忙しい中、足を運んで頂いて本当にありがとうございます。こちら隣町の自治会長と、それから復興マネジメント会社の方々だそうで。
何やら日馬桜町の探索者の増加と、それから青空市の成功にあやかりたいとウチに相談に来られたそうで。
それから出来れば、あるダンジョンの間引き依頼も受けて貰えば」
「はあっ、かなり込み入った話し合いになりそうですね。こちらは送迎の途中だし、この後にも用件を抱えてるんですが」
半分は嘘だが、妙な要件を押し付けられたくない護人は早くも逃げ腰。こんな名声にすり寄って来る案件は、実は意外と多くて困っているのだ。
誰かが金持ちになったと知れ渡ったら、途端に親戚が増えると言うあの方式なのだろう。A級探索者を抱えている『日馬割』ギルドに渡りをつけようと、有象無象の各方面の輩からアプローチを受ける機会が多くなっている。
現在は、日馬桜町の協会支部を防波堤にして、振り分けをして貰っている次第。そんな感じで楽をさせて貰っているけど、こうしてすり抜けて来た相手にはやはり会う義務が生じる訳で。
どうやら協会側も、復興マネジメントやらはともかくとして、間引き問題は無視出来なかったよう。それを組み合わせて持ち込むとは、なかなかの策士が向こうにいるみたい。
子供たちはそんな雰囲気に構わず、大好きな能見さんに早速じゃれついている。心得た彼女は、そのままブースとは反対方向へと子供たちを導く構え。
護人は仕方なく、レイジーを率いてブースへと野良作業着のまま近付いて行く。
そこからは差し出される名刺と、大仰な挨拶が始まってしまった。そう言うのが苦手な護人は、作業着で済みませんと自分は大した人間ではないアピールに余念がない。
向こうは面白い冗談を聞いたようなリアクション、A級探索者が何を仰るやらって感じである。それからようやく、向こうは本題へと入ってくれた。
「ええっとですね、ここから山に入る道の途中に“羅漢温泉”と言う温泉旅館があったんですが。そこがダンジョン化してしまって、まぁ現在は誰も寄り付かない状況なんですわ。
そこを何とか、集客目的な施設に出来ないモノかと」
「ここは昔は、スキー客やトレッキングなどの登山客に対しての、温泉付き旅館だったんですが。現在はB級ダンジョンが発生して、建物も放棄されて数年が経っております。
そう言う勿体無い建物の、再利用が出来ないモノかと私どもは企画しておりまして」
「はぁ、再利用ですか……」
確かにそれが出来れば一番良いが、ダンジョンの入り口が近くにある場所に客が来るだろうか。ましてやのんびり風呂に浸かるとなると、相当な胆力が必要になって来る。
来栖家の立地などがまさにそうだが、ここはハスキー達がこれでもかと毎日巡回してくれている。探索者も延べ10人以上住んでるし、だから呑気に露天風呂に浸かれている訳だ。
面白い試みだとは思うが、それを実行するとなると慎重に事を運ばねばならない。何しろダンジョンのオーバーフローは、何年経とうが危険に変わりはないのだ。
日馬桜町の青空市は、言わば戦後の闇市みたいなところがある。少々危険な場所だけど、安く野菜や品物を入手出来るならと人が押し寄せて来たのだ。
これが行楽とかになると、生活に余裕の戻った家庭が幾つあるやらって感じ。ただまぁ、そこを考えるのは護人の役目ではない。
要するに、ダンジョンの間引き依頼のみなら引き受けますよと、冷たい言い方だがそんな感じの返答をする護人。継続して雇われるなんて御免だし、相手にそんな財力があるとも思えない。
まかりなりにもA級探索者の来栖家チームは、1度の探索の稼ぎが数百万に及ぶ事も間々ある。そんなチームを、地方の温泉の番台さんになんてもっての外。
そんなニュアンスを、仁志が相手に伝えてくれるのは本当に有り難い。間引き依頼料こそ10万円台と少額だが、探索での儲けはそれを遥かに上回るのだ。
ゴネる気配を見せる向こう側だったが、田舎の探索者ギルドだと侮られるのも心外である。護人の恰好からして、農作業着なのでその辺は仕方がないとは言え。
いきなり成金の格好をして、田舎道を練り歩くのもどうかなと護人は思う次第。
そんな訳で、主に仁志支部長の尽力で、何とか間引き依頼のみで収まった今回の隣町の訪問である。やり手の営業トークの相手は、本当に疲れると護人は早々に退散する事に。
逆に子供たちは、貰ったお菓子を頬張りながらご機嫌な模様。香多奈たちは単純に、色んな所から指名依頼が来るのは凄いと誇らしげな表情だ。
「いやいや、単に面倒なだけだよ……子供相手に愚痴るのは、本当は良くないんだけどね。力があったりお金があったりすると、それを目当てに集まる連中も増えて来る訳さ。
その中には、どうにかして楽にその富や権力に乗っかろうとする輩もいるんだよ。さっきの人達がそうだって訳じゃないけど、知らない人たちが言い寄って来る度にそう思ってしまうからね。
実際、そんな事ばかり考えて気が滅入るばかりさ」
「ふ~ん、確かに子供に話す内容じゃないよねぇ?」
そうバッサリと香多奈に返されて、ぐうの音も出ない護人である。とは言え、依頼は受けてしまったので、間引きは今度の週末にチームでこなさなければ。
和香と穂積は、大人って大変だねぇとギルマスを気遣う素振り。その純粋な心の温かさに、思わず泣きそうになる護人であった。
それを心配そうに気遣ってくれるのは、ムームーちゃんも同じく。レイジーも後ろの席で、元気出してとご主人を心配そうに見守ってくれている。
それにしても、温泉旅館を復活するとは思い切ったねぇと子供たちは呑気な討論。昔はスキー客とかの訪れはあったけど、今は難しいだろうねと護人も話に参加する。
ましてや、ダンジョンがすぐ側に出来てしまって、宿泊客も湯治客も気は休まらないだろう。香多奈など、ダンジョン温泉ならポーションをお湯に混ぜれば良いよねとか言い出す始末。
それは薬効がありそうだねと、和香と穂積も楽しそうに追従する。薬効と言うか、ポーションは薬品なので、確かに効き目はバリバリあるに違いない。
「それは確かに効きそうだけど、間違ってもさっきの復興マネジメント会社の人に言っちゃ駄目だぞ、みんな。
余計な仕事が増えるかもだし、そのポーションは誰が都合するんだって話だよ」
「そうだね、するなら自分達でプロデュースして儲けなきゃね。隣町になんかに任せずに、ウチの町で旅館とポーション温泉を企画して観光名所にしないと!
取り敢えず、場所はどの辺にしようか、和香ちゃんに穂積ちゃん?」
屈託のない話は車内でなおも続き、子供たちは本当に元気である。護人はそんなよもやま話を聞き流しながら、敷地内の温泉で疲れを洗い流す時を想像する。
ある意味贅沢なその施設は、探索者をやっていたから叶ったモノではある。それを考えれば、家族での探索業も悪くは無いのかも知れない。
和香と穂積も、将来は大いに稼いでくれる可能性だってあるのだ。
――そう考えれば、山の上のギルドも安泰には違いない?
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