長かった“浮遊大陸”遠征にようやく区切りがつく件
そんな訳で、来栖家は最初の倉庫型の部屋での昼食タイムに突入。とうとうご飯も尽きて、カップ麺だけなのは寂しい限りだが会話は弾みまくっている。
それもその筈、さっき覗いた宝物庫の中身はまさに宝の山だったのだ。魔石や魔結晶も仕舞われていたようで、しかも全てが中サイズ以上と破格の儲け具合。
そのせいで、食事中もどことなく浮ついた表情なのは致し方が無い。宝の地図も何度かゲットした事のある来栖家だけど、この規模の当たり物件は初めてかも。
しかももう1つ確認していない部屋もあるし、魔法アイテムもちゃんと検査したら増える可能性も。ここまで頑張って来た甲斐はあったねと、末妹は未だ不機嫌なミケに語り掛けている。
残念ながら、そんな事ではミケの機嫌は治りそうには無いけれど。ただし目的の場所は探し当てたので、後はゲートを見付けて地上へと戻るだけ。
そのゲートも、以前に仲良くなった機神兵団と言う伝手が近くにあるのだ。そこまで行くのは大変だけど、ヘスティアの話ではそんなに離れてはいないそう。
「それは良かったよ……お宝はゲットしたんだから、敵の多いこの“浮遊大陸”からはさっさと離れた方がいいよね。
っと、別にヘスティアちゃんと早く別れたいって意味じゃないからね?」
「もうっ、姫香お姉ちゃんは本当にデリカシーがないんだからっ! ヘスティアちゃん、ウチはいつでも遊びに来るの大歓迎だからねっ。
敷地にはハスキー達や、異世界から来た冒険者さんだっているんだから」
「そうだねぇ、確かにヘスティアちゃんは食べたり飲んだりは出来ないけど……みんなと一緒に歌ったりとか、色んな場所に出掛けたりは出来るもんね。
そう言う意味じゃ、ウチの敷地には若い子もいっぱいいるから楽しいかもっ?」
そう言う長女の言葉に、パッと明るい笑顔になるメイドゴーストであった。確かに食事はエネルギーの補充だけではなく、生きている者には様々な付加価値がつく。
家族と一緒に地元の土地の食べ物を、体内に摂取するのはとても大事な儀式。それが不可能になったゴーストの身体だが、他にも楽しみは色々とある筈。
そう提示をしてくれた紗良は、とっても性根の優しい娘には違いない。それが分かって、幽霊メイドも守ってあげなきゃ的な優しい表情に。
そんな感じでホッコリしながら、来栖家のお昼タイムは滞りなく終了した。食休みを挟んで、さて宝物庫の回収の続きである。
3つ目の宝物庫の中身に関しては、ほぼ考える事もなく全てを回収して行く流れに。幸いにも魔法の鞄も5個くらい、この場で回収出来たので持って帰る方法に不便は無い。
こんなのがあったよとか話をしながら、護人と子供たちは室内の財宝を鞄の中へ片付けて行く。時折、妖精ちゃんが呼ばれて魔法アイテム鑑定が即席に行われる。
「う~ん、魔法の鞄に鑑定プレートに……錬金本もあったかな、なかなかの品揃えだったね。あとは、宝石や金やプラチナなんかの装飾品が大半かな?
妖精ちゃんが反応するような、魔法アイテムは意外と少なかったねぇ」
「そうだね、でもまぁ換金すれば凄い額にはなりそうだねっ。ここまで来た甲斐はあったし、次の部屋も楽しみで仕方無いよっ。
回収に30分以上掛かったのは、ちょっと誤算だったけど」
「そんだけたくさん、お宝があった証拠だもんねっ……さっ、最後の部屋の確認に行くよっ!」
末妹の号令で、部屋の外で待機していたペット達がぞろぞろと移動を開始する。そして同じく、巨体が災いして室外待機のルルンバちゃんと共に4つ目の扉前へ。
それからツグミとAIロボの鍵開け作業から、子供たちの室内への突入の流れに。この4つ目は武器防具庫だったみたいで、豪華な装備がズラリと並んでいた。
来栖家も何度も見てお馴染みの、ミスリル装備や重オーグ鉄製の防具がセットで並んでとっても荘厳な雰囲気。武器に関しても、各種立派なのが選り取り見取り。
これは凄いねと興奮する子供たち、妖精ちゃんも進んで鑑定に飛び回ってくれている。これも時間が掛かると踏んだ護人は、どんどん鞄に放り込むぞと進言する。
は~いとご機嫌な返事の香多奈は、萌を呼び寄せて重い鎧の回収作業を始める構え。妖精ちゃんは尚も宙を飛び回りながら、魔法アイテムが無いかと目を光らせている。
そんな中、やや小柄の全身鎧を発見して興奮し始める小さな淑女。これはレア物かもと、まるでオートマタのような人形っぽい全身鎧を前に狂喜乱舞している。
外から覗いているペット達も興味深そう、護人の肩の上のムームーちゃんも同じく。お魚みたいデシと、その人形型の全身鎧を見ながら素直な感想を述べている。
結局それも萌が鞄の中に回収して、そんな調子で順調に作業は進んで行く。4つ目の宝物庫も、そんな感じで回収作業は残りあと僅か。
そこで萌が発見したのは、奥の方に仕舞われていた小箱に入った宝物だった。それを姉妹の元に持って行くと、途端にでかしたよと興奮し始める末妹。
これは大物に間違い無いと、姫香も張り切って中身の確認を始める。その中には豪華な輝きを発する宝珠が1つ、何とこの“浮遊大陸”で4つ目のゲットである。
おおっと驚き声を発する子供たちだが、まさかこれが後にあんな騒動を引き起こすとは。その時はツユほども思わず、誰が使おうと単に盛り上がって終わる流れに。
その宝珠だが、妖精ちゃんの鑑定によると《竜化》が覚えられるそう――
そこから地上に出るまで、紆余曲折あって1時間以上掛かってしまった。それでも何とか、再び日の目を見る事に成功した来栖家チームである。
中の施設はかなり通路が複雑で、階段を見付けるのも一苦労な有り様。そこも風化して途中で途切れていたりと、大回りを余儀なくされた結果の時間ロス。
時間を掛けて地上に辿り着き、ハスキー達の偵察では周囲に敵の気配は無いとの事。そこで護人は、ここからはなるべく高速での移動を提案する。
来栖家としては、後は機神兵団の領地に無事に向かって、挨拶してからゲートを借りる許可を貰えば良い。とは言え、ヘスティアの話ではその領地まで1時間は掛かるとの事。
それまでに、一体何度他の陣営にちょっかいを掛けられるか分かったモノではない。そこで家族内で相談した結果、子供たちはルルンバちゃんに騎乗して進む流れに。
改造後のルルンバちゃんだが、立派なアーム以外も安定した姿勢での移動は変わりない。多脚の操作も随分と慣れていて、ズブガジ程ではないが高速移動は可能である。
そんな感じで頼られたAIロボは、任せておいてと誇らしげ。そんな訳で、子供たちは何とか簡易シートに収まって移動中はその姿勢で我慢する事に。
ハスキー達や茶々萌コンビは、ハッキリ言ってルルンバちゃんより速度が出せるので大丈夫。護人も薔薇のマントでの自力の飛行で、チームを上空から警護する構え。
長距離移動はさすがにスタミナが持つか不安だが、1時間程度なら何とかなりそう。そんな訳で、お宝をガッポリ回収した一行は移動を開始。
AIロボの高速移動は、まずは順調で左右をペット達に挟まれてご機嫌そうで何より。低空を飛行中の護人も、周囲を警戒しながらひたすら目的地を目指す。
「あっ、何とか危険エリアを抜け出せたってヘスティアちゃんが言ってるね! この辺りからは、もう機神兵団の領地みたい。
目的地の砦も、もうすぐ見えて来る筈だって」
「それは本当に良かったよ……ルルンバちゃんの簡易シートは狭いから、3人でこの姿勢を維持するのは大変だったからね。
ルルンバちゃんは気を使って走ってくれてるけど、結構揺れも酷いし」
「それは仕方ないよ、姫ちゃん……でもまぁ、確かにそろそろお尻と腰が痛くはなって来たかなぁ。
あっ、確かにこの辺りの景色に見覚えはある気がするねぇ?」
そんな事を話し合う子供たち、さっきまで緊張気味だっただけに安堵感の混じる口調は滑らか。そしてそれは、案内役のヘスティアも同じだった模様。
何とか任務を全う出来そうと言う感情は、出迎えのゴーレム達を見掛けて報われる事に。その中にしっかりと、フード姿のパペット領主を見掛けて声を掛ける末妹。
ちゃんと萌も連れて来たし、ルルンバちゃんもいるよと香多奈の売り込みは忙しない。それから『コアイミテーター』もお土産にあるよと、絶好調の殺し文句である。
AIロボには同族意識は無かったけど、妖精ちゃんはまた来たぞと接待を大いに希望している口調。いつものように偉そうな小さな淑女も、同じく絶好調。
そんな来栖家一行を、パペット領主は快く砦へと案内してくれた。迎えに来てくれたゴーレムは、どうやら普段から領地の警護をしているみたい。
午前中の出来事を思えば、その巨体のゴーレム達は本当に頼もしい限り。
“双子の宝石”の片割れが領地の縁まで来ていたのは、どうやら萌の存在に気付いたかららしい。そこで賑やかに移動する来栖家チームを発見して、今に至る感じ。
明らかに安堵した子供たちは、香多奈を通訳にして領主パペットと近況などの情報交換。それによると、この“浮遊大陸”の領土争いは相変わらずみたい。
獣人軍とホムンクルス軍との抗争で大変な機神兵団だが、向こうも本気でこちらを怒らせたくはない模様。何しろあの10メートル級のゴーレムに、暴れられたら向こうも被害は甚大だからだ。
そう言う意味では、もう一方の“双子の宝石”の取った戦略は見事と言う他ない。そのせいで、比較的安全なダンジョン内に入れなくなったのはアレだけど。
その辺の事情を聞いた紗良が、《巨大化》の魔法アイテムがあるなら《縮小》系のもあるかもねと発言。それを聞いた末妹も、今度捜して持って来るねと気安く請け合う。
相変わらずの友愛振りに、護人や姫香もやや呆れ顔……天然の人(?)たらし振りに、長女の紗良も苦笑いである。それでも誰かが喜ぶなら、苦労を厭わない姿勢は立派かも。
そんな雑談を交わしながら、いつの間にか『コアイミテーター』の贈与も完了。そのお礼に、向こうもアビスリングとメダルを100枚ずつプレゼントしてくれた。
どうやら“太古のダンジョン”と“アビス”の繋がりを、彼らは上手く利用しているみたい。恐らくその両者は、遥か過去に株分けされた“ルーツを同じくするモノ”なのだろう。
そんな雑談は、安全な砦内で1時間以上に及んだ。本当に良好な関係を築けた勢力が、この“浮遊大陸”にいて良かったと思う護人である。
そうこうしている間に、異世界チームの連中が宮島にお迎えに来てくれたとの報告が。それに巻貝の通信機で対応する姫香は、そろそろお暇しようかと家族に告げる。
それからは慌しいお別れの言葉が続き、特にヘスティアへの挨拶は辛いモノが。短期間で仲良くなった分だけ、しんみりとした空気が流れて行く。
ヘスティアも同じく、また遊びに来てとお別れの挨拶と共に香多奈にある品を手渡して来た。それはダンジョン探索で活躍した、魔法アイテムの位置を確定する例の鈴だった。
「えっ、こんな高価な物を貰っちゃっていいのっ、ヘスティアちゃんっ? ありがとう、お返しに何かないかなっ……あっ、この手造りリストバンドあげるっ!
これはね、私の仲間しか持ってないチームの印だから!」
いつの間にそんなチームを作っていたかは不明だが、少なくとも幽霊メイドは物凄く感銘を受けたよう。心なし表情をウルッとさせて、別離を悲しんでいる様子。
それでも別れの時は無慈悲に訪れて、紗良の設定した『ワープ装置』で宮島の“太古のダンジョン”ゲートまでの移動を果たす来栖家チーム。これにて4日以上に及ぶ、大冒険は取り敢えず幕を下りた形に。
後は弥山を麓まで降りて、異世界チームと合流してキャンピングカーを回収して帰るのみ。向こうは観光を満喫しているそうなので、それに混じるのも良い。
せっかく仲良くなった友達と別れるのは寂しいが、また会う機会はきっと来る。その時が来るのを信じて、日常を精一杯に頑張るのが香多奈のスタイル。
そうやって、どんどんたくさんの人達と友達になって行くのだ。
――目指すは友達1万人、ただしペット達や異世界種族も含む。
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