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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の秋~冬の件
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“浮遊大陸”での最終戦をこなして宝物庫に至る件



 ホムンクルス軍のトップの1人、“緋色”のアーガルスの現状は悲惨の一言に尽きた。下に水はあったとは言え、あの距離を瓦礫(がれき)と一緒に落下したのなら、大ダメージは(まぬが)れない筈。

 豪華な鎧はあちこち破損して、ツインヘッドの片方も陥没していた。騎乗していたキメラも姿を消しており、満身創痍でここまで辿り着いたとみえる。


 そこまでの執念の源が何かは不明だが、意気込みにかけてはハスキー達も負けてはいない。家族を護ると言う気合を込めて、その巨体な敵へと突っ込んで行く。

 或いはその行動には、相手が既に満身創痍と言う油断があったのかも知れない。その結果、吹き飛ばされたのは何とハスキー達の方だったと言うどんでん返し。


 少し遅れて『突進』して行った茶々萌コンビも、恐らく色んなスキルを駆使して戦いに臨んだ筈。ところがその攻撃も、死に掛けの“緋色”のアーガルスの触手の一薙(ひとな)ぎで、逆に吹き飛ばされる破目に。

 慌ててペット達の名前を呼ぶ後衛陣と、フォローにと駆け寄る護人と姫香。ルルンバちゃんも、後衛の盾になろうと前進して巨体に向けてレーザー砲をブッ放す。


 いきなりの必殺技は、ヤバい敵こそさっさと倒すべしとの本能だったのかも。ところがその攻撃も、敵の大将は赤いバリアを展開して完璧に防ぎ切ってしまった。

 それを見て、先ほどまで対峙していた護人が家族に大声で呼び掛ける。


「気をつけろ、さっきまで戦っていた雰囲気とは明らかに違う……恐らく危機的状況に(おちい)って、何かしらの特殊スキルが発動した状態なんだと思う。

 油断していると、こっちが痛い目に遭うぞ!」

「なるほどっ、あと一押しが厄介な敵だと思った方がいいね。死なばもろともな精神状態なのかな、見た目の惨状は当てにしないで戦おうっ!

 それより、ハスキー達と茶々萌コンビは大丈夫かなっ?」

「何とか回収したいけど、通路を押し込んで行けないですか、護人さんっ? そしたら私と香多奈ちゃんで、治療に向かえるかもっ?」


 そんな紗良の提案に、やってみようと“四腕”を展開した護人が熾烈な攻撃を開始する。それをフォローする姫香も、大技を敢えて封印して敵の触手を切り刻む動き。

 向こうの最大の武器は、今や巨大な体躯と手にした大剣ではない。武器は落下の際に失ったようで、敵ボスはまるで触手生物に乗っ取られた様相を(てい)している。


 飾りと化した()り代の巨体は、何だかぐったりして死体を無理やり動かしてるかのよう。それでも赤いバリアは、なおも健在でルルンバちゃんの魔銃の弾丸を弾いている。

 護人の《奥の手》での攻撃も同じく、これは《防御の陣》並みに強力かも。驚いた事に、ムームーちゃんの《闇腐敗》魔法の攻撃も防いでしまっていた。


 それにショックを隠し切れない様子の軟体幼児、それは護人も同様である。姫香も苦戦しており、触手に吹き飛ばされない様に必死。

 敵の触手は依然と元気で、姫香が何本か斬り飛ばした位でその勢いは衰えない。再生能力も備えているみたいで、コイツの半身は超元気。


 そちらにばかり気を取られていると、いきなり死に(てい)のオーガ顔の口がレーザー光線を放って来た。この動きは完全にこちらの(きょ)を突いていて、前掛かりだったルルンバちゃんが被弾する。

 そのパワーに吹き飛ばされるAIロボ、この機体で引っ繰り返されたのは初ではなかろうか。驚き慌てる後衛陣、負けるな起き上がれとの声援が香多奈から。


「ルルンバちゃんっ、大丈夫っ!? ハスキー達がダウンしてるのに、アンタまで倒れたらこっちはパニックだよっ!?」

「完全に虚を突かれたなっ、ある意味喰らったのがルルンバちゃんで良かったよ。コイツの防御陣が強力過ぎて、ハスキー達を回収出来るラインまで押し込めない。

 ムームーちゃん、もう一回大きな魔法を頼むっ!」

「頑張って、みんなっ……相手は無双しているように見えるけど、エネルギーは多分尽きかけてるよっ!

 ミケさん、これ以上被害が出ない内にやっちゃって!」


 香多奈のその指示に、ヤレヤレと言った雰囲気のミケだが参戦はしてくれた。しかも結構な出力の紫電の(むち)が、敵の大将に向けて伸びて行く。

 慌てて散らばる護人と姫香だが、例の赤いバリアはミケの一撃も寄せ付けない威力。姉の姫香に(にら)まれる末妹は、嘘じゃないよと必死の弁明。


 ところが、ムキになった愛猫(ミケ)の『雷槌』は更に出力が上がって行った。来栖家のエースの底力に、思わず後退りする“緋色”のアーガルス。

 家族が見守る中、圧倒的なスキルのパワーで敵の大将を押し込む来栖家のエース。その時、いつの間にか『歩脚術』で天井に張り付いていたレイジーが、その攻撃に加わって行く。


 意志を持っているかのような動きの火炎が、上空から巨体のツインヘッドへと襲い掛かった。来栖家のダブルエースの同時攻撃に、さすがの敵将の防御もついに破綻の時が訪れる。

 その後は、攻撃をモロに喰らって放たれた敵将の絶叫と、それに伴う戦闘の幕引き。倒した相手の死体は、両者の振るった猛威によって原型を留めない有り様であった。

 完全焼却されたそれは、元の体型すら分からない程。




 そこから家族が一息つけたのは、たっぷり10分以上が経った後だった。壁に激突して傷付いたペット達だが、幸いにも重症の子達はおらず本当に何より。

 ツグミや茶々丸は気を失っていて、頭を強打したのでこの後も安静にした方が良さそう。レイジーやコロ助は、あばら骨を骨折しておりこちらも重症だった。


 こちらも上級ポーションと、紗良の『回復』スキルで治療したけど経過は安静が望ましい。それを押して反撃したレイジーは、本当に根性と言うより執念である。

 それでも、そのお陰で家族が救われたのは間違いのない事実。


 こんな負傷者がたくさん発生した戦闘も、過去には無かったし本当に強敵ではあった。ヘスティアの話では、奴は恐らくホムンクルス軍の大将格だったとの話。

 そんな奴に出張って来られたのは、来栖家にとっては本当に良い迷惑。それでも、それを倒せたのは凄い事だと、ゴーストメイドは請け合ってくれた。


「まぁ、確かにねぇ……紗良姉さんも、アイツは三原の市街戦で探索者相手に暴れ回ってた奴だって言ってたもんね。

 そんな強敵を倒せたってのは、戦った甲斐はあったのかもねぇ」

「こちらも被害は甚大だったけどな……恐らくは、窮地にパワーアップする系の能力だったんだろう。何しろミケの『雷槌』スキルも、一度は止められてたからな。

 本当に厄介な敵だったよ、何とか倒せて良かった」

「ルルンバちゃんも引っくり返ってたしね、あんなの初めてでビックリしちゃった! この“浮遊大陸”は、強い敵が多過ぎて大変だよっ!」


 何とか救出されたAIロボは、末妹の言葉に申し訳なさそうな素振り。唯一無傷だった萌の巨大化で、何とか元通りにして貰ってその作業も大変だったのだ。

 そんな訳で、割と満身創痍(そうい)の来栖家チームはその後の移動をどうすべきか短く話し合う。ヘスティアの話では、さっきの宝物庫の反応地点はもうすぐそこみたい。


 それを一旦(いったん)確認して、お昼の休憩を挟んでの移動が良さそう。そんな感じで方針が決まると、鈴の反応した方向はコッチかなと案内を始める幽霊メイド。

 大人しくついて行く一行は、怪我したペット達を気遣って自然とゆっくり歩調。それでも、数分も経たずに立派な扉前に到着を果たした。


 おおっと感心する末妹と、それを開けようと動き始めるツグミとルルンバちゃん。ゴーストメイドも手伝って、その作業は1分もかからず終了の運びに。

 そして子供たちの期待の中、入った先には様々な品々の置かれる倉庫が。かなり広い部屋となっているが、雑多な品物の大半が生活用品みたいだ。


 お宝系が無いと知って、明らかにがっかりする末妹に対して。奥にも幾つか扉があるよと、姫香やハスキー達は目敏(めざと)く室内探索を完了させていた。

 どうやらそちらが本命らしく、4つある扉はどれも厳重な鍵が設置されている。それらを難なく解除するツグミと、丁寧に扉を開けて中を確認してくれるAIロボ。


 この2人は、どうも度重なる探索での前衛作業で、役割分担がキッチリなされてしまった模様。つまりは、罠を捜して解除までを行うツグミと、それを最終確認するAIロボって感じだろうか。

 万一罠の解除が失敗しても、ルルンバちゃんならダメージを受けてもへっちゃらである。ツグミの解除は闇系の操作に頼るので、万全ではないのがその理由みたい。


 今もそんな感じで安全を確認したAIロボが、オッケーだよって身振りで機体を下げて行く。どうやら室内は思ったより狭かったようで、入るのを断念した模様。

 そんな狭い室内は、ひんやりとまるで冷凍庫のような室温に調整されていた。香多奈も思わず寒っと呟いて、顔を覗かせて室内を物色している。


 姫香はツグミと一緒に室内へと入って、ここは食物保存室かなぁと護人に報告する。棚や整然と置かれた木箱の中には、かなりの量の食料が確認出来た。

 それを感動して見て回る紗良と、この装置は持って帰れと偉そうに指示を出す妖精ちゃん。どうやら食物を保存して置く装置は、この中で一番価値が高いみたい。


 ちなみに一体何百年前の食糧かは分からないけど、ちゃんと食べられる品も存在しているようだ。例えは干物や干し肉、鰹節や大量の豆類、カカオやコーヒー豆っぽい品も大丈夫っぽい。

 後は穀物類だが、食べずに種子として使える状態で回収出来た。芽が出るのなら、古代米ならぬ異世界米として育ててみるのも一興(いっきょう)かも。


 他にも、割と新鮮な状態の虹色の果実も5個ほど回収出来た。その辺は妖精ちゃんのアドバイスを元に、使える品だけ回収出来てまずは良かった。

 そんな感じで喜んでいたが、隣の部屋はもっと凄かった。何と素材庫で、貴重なインゴットや薬品が棚にぎゅうぎゅう詰めで置かれていたのだ。


 薬品の大半は駄目になっていたけど、秘薬素材系の薬品に関しては保管はとっても厳重だった。魔法の装置で劣化しないよう、充分に配慮されていたのだ。

 そんな中、こちらも妖精ちゃんの助言に従って、貴重品を選択して行く作業を数十分ほど。そろそろお腹が空いて来たねと、末妹が口にするのも仕方がない。


 実際にもうすぐお昼で、回収作業に夢中な紗良は突然我に返る素振り。まだ確認出来てない扉は2つ程あるけど、お昼にしようかと提案する。

 とは言え、開けていない扉を放っておくのは、後ろ髪を引かれる行為ではある。取り敢えず確認してからにしようかと、姫香などもソワソワが止まらない様子。


 そんな訳で、ご主人に言われるままにツグミとルルンバちゃんは3つ目の扉の開封作業。そして揃って覗き込んだ子供たちの視線の先には、眩い程の財宝の数々が。

 3つ目にして当たりの財宝の間だった様で、そこには宝飾品や金ピカの彫像やダイヤの散りばめられた衣装類など盛りだくさん。インゴットも、金やプラチナ系が形よく置かれている。


 他にも何故か楽器や本なども少々あって、恐らくは貴重な品なのだろうと推測される。後は魔法の鞄だろうか、大事そうに幾つか置かれているのが窺える。

 そんなに広くは無い、8畳くらいの室内だが持ち帰るのに苦労しそう。これは回収作業が大変だねと、嬉しい悲鳴をあげながら喜びを分かち合う子供たち。

 それを眺める護人やペット達も、ここまで来た甲斐はあったと嬉しそう。





 ――もっともペット達は、この後のお昼の分け前の方が嬉しいかも。







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