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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の秋~冬の件
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地下貯水槽の奥で目的のモノを発見する件



 その床の崩壊は亀裂と共に大きくなって行き、攻めていたホムンクルス軍の大半も呑み込まれる流れに。特に巨人タイプの連中は、そのサイズが災いして落下から逃れられなかった。

 そして仲良く墜ちて行く、来栖家チームの面々と敵対勢力のホムンクルス軍である。それに大いに慌てたのは、他ならぬ案内役のメイドゴーストだった。


 ヘスティアの役目は、大切なお客様であるこの一家を、安全にこの“浮遊大陸”から送り出す事。それがこんな場所で傷付けたとあっては、主であるリッチ王に顔向け出来ない。

 そんな思いをこの短時間で脳内思考した彼女は、咄嗟に魔術を解禁する。この暗闇も、彼女にとっては安らぎこそ与えるも障害にはなり得ない。


 落下からの浮遊も同じく、実は自由に飛翔が可能な彼女に落下死など有り得ない。そんな訳で、重力操作の魔法で次々と落下して行く家族の救助を試みて行く。

 そして驚いたのは、ペット達の感心する程の忠誠心だった。誰もがこの窮地(きゅうち)にも関わらず、自分よりも家族の子供たちを助けようと咄嗟に思考を巡らせていたのだ。


 特にハスキー達は、まさに自分の命に代えてもってな意気込みが窺える。特に新スキルの《アビスドーム》を取得したツグミは、何とかのその能力を引き出そうと必死になっていた。

 それを理解したメイドのヘスティアは、その願いを借りる形で術を編み上げて行く。その途端に、落下速度が極端に緩やかになる来栖家の面々。


 悲鳴をあげていた紗良や香多奈は、それに感付いてアレッと言う表情に。その周囲では、建物の残骸やそれに混じって敵の兵士たちが、騒々しく闇の底へと吸い込まれて行っている。

 それも怖い光景だが、何より他の家族の安否が気掛かりな長女である。


「あれっ、落ちて行くスピードが緩んだのはメイドちゃんのお陰? それよりみんなはどうなってるの、私と紗良お姉ちゃんとミケさんはここだよっ?」

「みんなどこかな、それよりこの空洞は何だろう……えっと、スキルで(あか)りをともしていいかな、ヘスティアさん?」


 魔術を現在進行形で施行中のメイドは、その維持にとっても大変そう。隣で共に浮遊しているのだが、気軽に声を掛けられない雰囲気。

 そこで紗良は、『光紡』スキルで灯りの糸と球体を周囲へと広げてライトアップ。幸いにも、あれだけ騒がしかった落下物も今は落ち着いて静かなモノ。


 その途端に名前を呼ばれて、驚いて背後を窺うと家長の護人がマントで飛翔して近付いて来た。その小脇には茶々萌コンビを抱えて、さすが咄嗟(とっさ)の判断力は素晴らしい。

 一番近くにいた仲間の安全を確保して、それから家族の捜索に行こうとしていたのだろう。絶望の状況で家族の無事を確認出来て、その表情は心からの安堵で崩れそう。


 その奥からは、紗良の灯した光を頼りに、レイジーとコロ助が宙を泳ぐように近付いて来ていた。器用ではあるが、この状態を楽しんでいる訳では無いようだ。

 向こうも、この事態に大慌てで家族の安否を気遣っていたような気配。そして反対側からは、やっぱり慌てた様子の姫香の声が届いて来た。


「護人さんっ、大丈夫だった……あっ、紗良姉さんと香多奈も無事で良かったよ! ペット達も無事かな、こっちじゃツグミとルルンバちゃんが宙吊りになってるよ。

 これはヘスティアのお陰かな、ありがとうっ!」

「こっちも全員無事……と言うか、宙吊り状態で落ちて行ってる途中だな。ホムンクルス軍の方は真っ逆さまだったから、本当に運が良かったな。

 それよりここは、一体何の施設だろう?」

「そうですね、パッと見た限りは巨大貯水槽(ちょすいそう)……的な施設かなぁ?」


 向こうの世界でもこの大陸が浮遊していたとしたら、水の確保は一大事である。何しろ雲より上空を移動していたら、雨での補給が不可能なのだ。

 もちろん川の流れも存在しないし、生物が生きて行くには困った環境ではある。死霊軍団や機神兵団はともかくとして、獣人軍やホムンクルス軍はどう都合をつけているのやら。


 恐らくは、ダンジョン内の水源を利用したりと、その辺は上手くやっているのだろう。とにかく過去にこの大陸上部の遺跡に住んでいた者達は、ここに何らかの手段で水を溜めて生活に利用していたのかも。

 なるほどと巨大な柱を横目に見ながら、来栖家の面々は納得した表情。浮遊しながら落ちて行く現状では、他にする事が無いのだから仕方がない。


 香多奈も光源を用意して、周囲を眺めながらメイドゴーストを応援する素振り。何しろ来栖家は大所帯である、それを1人で支える彼女の負担はとっても大きそう。

 しかも魔導ゴーレムボディのルルンバちゃんなど、モロに重量級で魔法で支えるのも大変っぽい。そんなAIロボは、呑気に空中浮遊を楽しんでいる。


 と言うよりは、手足をバタバタさせて家族に近付こうと必死なのかも。案外と寂しがり屋の彼は、紗良と香多奈の集団に合流してようやく安心した模様。

 そして増やした光源で、末妹は下方にキャットウォークのような通路を発見する。壁際にはバルコニーのような建造物もあって、そこなら全員が降り立てそうだ。


 メイドのヘスティアも、その提案には一も二もなく賛成の様子。その表情からは、魔法の行使もいよいよ限界に近いと推測される。

 護人が気を利かせて、茶々丸に《マナプール》からの魔力の融通をお願いする。そのお陰もあって、何とかメイドゴーストのMPは最短目的地まで持ってくれた。




 そして明らかにホッとした表情で、とんだ窮地(きゅうち)を抜け出せた事を喜び合う来栖家の面々。一方のヘスティアは明らかに消耗していて、ご苦労様と茶々丸が鼻を近付けている。

 それより随分と下方へと降りて来た一行は、取り敢えず家族の無事の確認に忙しい。ペット達は、先ほどの激しい戦闘で傷付いている者が多数いる感じ。


 それを紗良と香多奈が治療に当たって、姫香は周囲の安全確認を始めている。天井を見上げると、遥か上空に(かす)かに落ちて来た穴の光が窺えた。

 来栖家が降り立った周囲は、随分と湿気が高くて確かにこの底は水場なのかも。この巨大な貯水槽だが、何層か高さごとに壁際に通路が作られていた。


 恐らくは、メンテに使われる通路なのだろう……このバルコニーも同じく、そんな用途に過去には使われていたと思われる。造りはしっかりしていて、上部にも同じ構造の建築物が存在している。

 それから壁際のキャットウォークとも、そのバルコニー部分は繋がっていて行動範囲は意外と広い。ついでに背後の壁際にも頑丈そうな扉があって、奥へと通路が繋がってそうな気配。


「戦ってた赤い鎧の敵兵さん、全部この下に落っこちちゃったのかなぁ? 自業自得とは言え、争い事って悲しいよねぇ。

 それよりヘスティアちゃん、ここからどうやって外に出れる?」

「おっ、そうだな……ここが安全かどうか分からないし、さっさと外に出たいかな。とは言え、外がもう安全かも分からないし、困ったな」

「あっ、そうだよね……外にまだホムンクルス軍の生き残りがいるかもだし、そもそも外と繋がってる通路があるかも分からないし。

 取り敢えずは、この後ろの扉が気になるかな?」


 そうだねぇと、ようやくペット達の治療が終わった紗良が話に混じって来た。それから地図を取り出して、どっちに進むべきかなぁと家族に相談している。

 とは言え、空を飛んで元の場所から外に出るのは合理的ではない。敵の兵団の残りが待ち構えているかもだし、建物の崩壊がどの程度か不明である。


 そんな事を口にしながら、姉妹は地図を見ての意見交換を行なう。ツグミとルルンバちゃんは、護人に言われて背後の扉を開ける作業。

 この奥に敵の気配は無いようで、その辺はただの(すた)れた施設に間違いはなさそう。他に地上に続く通路が見付かれば、それはそれでめっけモノだ。


 ルルンバちゃんが半ば力づくで開けたその扉の奥には、幸いにも真っ直ぐ通路が続いていた。AIロボの照らしたライトによると、寒々しい通路には何の気配もなし。

 今までの湿った空気が、その中に吸い込まれて行くのが体感で分かる。ハスキー達は、新たに出来た通路にお仕事だと揃って張り切り始める素振り。



「あっ、扉が開いたんだ……地上に続いてるかな、そうだったら問題解決だねっ」

「えっ、全然解決にはなってないよっ! 私達の目的は、宝物庫の……あれっ、この通路ってこの地図の端っこの線の事じゃ無いかなっ!?

 ほら、大きなこの四角からず~っと細い線が伸びてる感じとか!」

「あっ、サブ地図のこの図形って事? 確かに、この四角の柱の位置とかそっくりかも……それじゃあ、この奥の右手に部屋があればそこが目的の場所っ?

 やった、災い転じて福と化すだねっ!」


 そう言って喜ぶ紗良は、この長い旅路に終わりが見えて本当に嬉しそう。香多奈は単純に、目的の宝物庫が近くにあると知って喜んでいるみたい。

 そんな訳で、再び動き始めた面々はハスキー達の先導で通路を進んで行く。長年使われていなかったそれは、かなり広くて頑丈に出来ているようだ。


 本来の目的は、ひょっとしたらシェルターみたいな施設なのかも。地下の深くにこんな頑丈な通路は、そんな感じが見受けられる。

 護人のそんな推測を聞いて、それならお宝が隠されていても不思議は無いねと末妹の返答。確かに有事の際にと、色々と物資を貯め込んでおくのは有り得る話かも。


 地図をガン見しながら進む来栖家チーム、それでも通路が段々と複雑化し始めると香多奈は不安な表情に。そこにメイドのヘスティアが、呼び鈴を鳴らそうかと提案して来た。

 それを聞いて、ナイスアイデアと大喜びの香多奈である。


「お願い、ヘスティアちゃん……これでたくさん反応があったら、バッチリここが目的の場所で合ってるよねっ!」

「まぁ、多分そう言う事になるだろうねぇ……やれやれ、それにしても上に向かう通路も見付からないとは凄く広い地下施設だよね。

 有事の際には、一体何人を収納する予定だったのかな?」

「本当だな、ハスキー達も思い切り戸惑っているしな。ひょっとしたら、外敵を惑わす効果を狙ってのこの広い敷地なのかもなぁ。

 扉もいっぱい出て来たし、全部開けて回る訳にも行かないよな」


 確かにいざと言う時の居住区だったのか、しばらく進んだ通路の先は分岐と扉の数がやたらと増えて来た。試しに1つ開けてみると、まんま10畳くらいの居住区だったと言うオチ。

 かなり風化していて、人の使っていた形跡も無かったのでやはり有事の際の施設なのだろう。そんなのが並ぶエリアで、ハスキー達も危うく迷子状態。


 そんな時に、メイドのヘスティアの提案は一条の光を視界に収めた気分。そして鳴らされた鈴の音は、右の前方からの反応を見事に捕らえた。

 その反応にビクッと耳を動かすハスキー達、子供たちもそれを確かに聞いたと(はしゃ)いでいる。ところがそれに合わせて、何だか不穏な物音の近付いて来る気配が。


 それに気付いたハスキー達は、その方向を見定めて素早く臨戦態勢を敷いて行く。護人も同じく、後衛陣を後ろへと下がらせてチームに戦闘準備の呼びかけ。

 何度か分岐を曲がったせいで、追っ手の姿は音だけでしか判別出来ない。とは言え、それがやって来る方向は間違いなく来栖家チームが辿って来たルートから。


 つまりは、あの巨大な貯水槽から執念で追って来た存在がいるって事だ。その心意気には驚きしかない一行だが、その姿を見てその感情は恐怖にまで高まる破目に。

 それだけ、ホムンクルス軍の大将の現状はボロボロで悲惨だった。




 ――それでも執念に突き動かされた、敵の大将との戦闘は必至のよう。







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