来栖家とホムンクルス軍とで戦争をおっ始める件
足の速い空からの軍隊と、それからラプトル騎兵の団体様を何とか始末し終えた来栖家チーム。それからようやく一息ついて、現在は次の襲撃に備えている所。
メイドのヘスティアは、紗良と同じく『遠見』のスキルが使えるようだ。敵の軍隊が二手に分かれたよと、チームに忠告を飛ばして完全に味方の構え。
どうやら彼女は、獣人軍もホムンクルス軍も等しく嫌いな模様だ。それは良いのだが、敵の多さには辟易しているチームリーダーの護人だったり。
ペット達は、それに対して俄然ヤル気が燃え上がって来るなら来いって感じ。対して子供たちは、不安そうに建物の入り口付近に視線を飛ばしている。
反対側には姫香が陣取って、1匹たりともここは通さないぞって表情を浮かべている。サポート役のツグミも、ご主人の側に控えてクールな佇まい。
後衛陣の紗良と香多奈は、一か所に留まって前後をチーム員に守られている。そんな陣形で待つ事数分、微かな振動を感じて思いっ切り怯み始める後衛陣。
向こうの軍勢には、確か巨人タイプも数体ほど混じっていた。ヘスティアの話では、リーダー格も潜んで指揮を執っているそうで油断は全くならない。
ホムンクルスの肌は全体的に白や灰色なのだが、今回の軍勢は真紅の鎧を着込んでいる奴が多い。精鋭部隊なのだろうか、統制は取れてないが強敵が多い感じも受ける。
「来たよ、みんなっ……何か今回の奴らは強そう、ハスキー達も気を付けてっ!」
「巨人タイプはまだ見えないな、司令官はどれだっ? レイジーにルルンバちゃん、先制で数減らしを頼んだぞっ!」
「こっちも見えて来た……うわっ、巨人タイプも混じってるね。1人で全部はキツいかも、紗良姉さんに範囲での先制頼んでいいっ?」
後方に回り込む軍勢は、そんなにいないだろうと言う読みは大外れ。慌てた姫香が、長女に《氷雪》魔法での先制攻撃を依頼する。
ほぼ同時に攻め込んで来た敵軍は、さっきよりは統制は取れている感じ。それに対する来栖家の反撃も、物凄く強烈で10体単位で敵が減ってくれた。
紗良の《氷雪》魔法だが、倒し切った敵兵こそ少なかったけど、確実にダメージは与えてくれた。しかも敵兵の足並みが遅くなってくれて、姫香としても大助かり。
巨人タイプも明らかに動きが遅くなっていて、大物狙いの姫香は始まりからトップギア。《舞姫》や《豪風》スキルも発動させて、敵の軍勢に突っ込んで行く。
ツグミも遠隔からの『土蜘蛛』や『毒蕾』スキルで、敵兵の間引きに余念がない。口には『八双自在鞭』を咥えて、直で倒す気も満々の忍犬である。
敵はまだまだたくさん、裏口から侵入を果たそうと攻め込んで来る。
一方の正面入り口は、裏側より広くて敵の攻め込む余地もずっと多い。そんな所から顔を出す連中に、まずはルルンバちゃんのレーザー砲が見舞われる。
それは3体の赤鎧兵士と、1体の巨人タイプを直撃した。そしてまずは目論見通り、大物を1体始末する事に成功した優秀な砲撃手。
一方のレイジーも、自らの炎の軍団と炎のブレスで敵の攻勢を思い切り怯ませていた。それを見ていたムームーちゃんも、ボクもやるデシと《氷砕》をぶっ放す。
派手なその氷魔法は、中央の数体のホムンクルス兵士たちを氷漬けにして行く。凄まじい威力だが、その程度では敵の兵団も進軍を止めそうもない。
凍った兵士の左右から、続々となだれ込んで来る赤い鎧のホムンクルス軍団。それを阻止すべく、右手に護人が立ち塞がる。そのサポートにと、茶々萌コンビも参戦を表明している。
左手にはレイジーとコロ助が、来るならコイやぁとガラ悪く挑発をかましている。向こうの軍勢も、邪魔すんなゴラァとこめかみに血管が浮き出る程の激昂振り。
そんな両軍勢がぶつかった衝撃は、かなり凄まじくまるで小さな戦場である。護人も“四腕”を発動して、茶々萌コンビと一緒に後ろに1体も通さない構え。
陣地防御に突進を封じられている茶々丸は、良い所を見せられないがそれでも工夫はしている様子。主に《飛天槍角》のスキル技で、飛び道具に頼っての手数増し。
近接は当然、《刺殺術》込みの角の一撃で敵の下半身を吹き飛ばしてやる。乗っかっている萌もそれを手伝って、ついでに炎のブレスでの範囲攻撃も行なっていた。
チビッ子コンビの活躍は、この大軍団相手に一歩も引かない度胸込みで凄いモノが。保護者の護人も、注意はしているけどサポートの必要も無い感じ。
一方のレイジーとコロ助のサイドも、炎の軍団込みでしっかりと壁役をこなせていた。コロ助は末妹の『応援』を貰って、巨大化した姿で威圧感も半端ない。
向こうの軍勢だが、まだ残っている筈の巨人タイプの姿が見えなくなっていた。代わりに下半身が蛇と触手のスキュラタイプが、剣呑な殺気を放って襲い掛かって来た。
これも上半身は女性タイプで、しっかりと赤い防具を着込んでいる。かなりの強敵らしく、さすがのレイジーとコロ助も倒すのに手古摺っている。
体長も、触手を含めれば4メートル級で触手や蛇の頭も複数本である。しかも水属性らしく、炎の狼軍団も致命傷を与えるのに苦労している模様。
護人の方にも強敵は出現していて、そいつは鎧も立派な3メートル級の武将のような敵だった。獅子型のキメラに騎乗しており、ツインヘッドで左の頭はタコ頭だった。
左の腕にはタコの触手を複数本有していて、多段攻撃が厄介そうだ。と言うか、コイツの武器や装備からして、指揮官クラスの臭いがプンプン。
「護人さんっ、そいつは恐らく敵の指揮官だと思われますっ。三原の襲撃に携わって、倒されずに逃げ出した奴と特徴が一致してます!
強かったとの報告が上がってたので、気を付けて下さいっ!」
「おおっ、指揮官が自ら前線に出て来るのか……一体どんな計略だっ!?」
驚き声をあげる護人だが、キメラに騎乗したホムンクルス司令官“緋色”のアーガルスの目的は丸分かりだった。自ら人間を半殺しにして、愉悦に浸るのだとその眼は雄弁に語っている。
実際、巨大な剣での薙ぎ攻撃は熾烈で、思わず護人が吹き飛ばされる程。盾でしっかりと受けたのに、そのパワーはさすが敵の将と言うしかない。
驚くサポート役の茶々萌コンビだが、敵将は仔ヤギたちには目もくれない。その代わりに、周囲のホムンクルス軍がその隙を突いて、敷地内へと侵入を果たそうとして来た。
それを食い止めようと、ブレスでタゲを取る萌は割と必死。敵の密度は相変わらずで、その中には明らかに体格が良くて鎧の上等な奴も混じっている。
恐らく上官級のそいつは、手足が長くて顔は宇宙人っぽくてかなり不気味。体毛は無くて、手には鉈だか斧だか凶悪そうな形状の武器を持っている。
そいつは、敵の大将のように茶々萌コンビを無視せず、しっかり殲滅対象に選んでくれた。部下たちを従えて、喜悦の表情で武器を振りかざして襲い掛かって来る。
それを迎え撃つチビッ子コンビは、ここが踏ん張り所とスキルを発動させて行く。茶々丸の角はいつの間にか巨大化して、萌の腰のチェーンの先の鋭利な棘が自在に動き始める。
これらは日々の特訓での、異世界チームの入れ知恵である。突進が大好きなこのペアに、巨大な敵や大人数でも通用するように知恵を出してくれたのだ。
それをスキルで可能にするのも、センスあってのモノで簡単に出来る訳ではない。そんな技を会得したこのコンビの、チャージ技がホムンクルス軍に風穴を開けて行った。
血生臭さの漂う戦場は、まだまだこれからが狂乱のピーク。
ツグミの『毒蕾』スキルが、意外にも敵のホムンクルス軍には有効なようだ。姑息にも背後から襲い掛かって来る連中は、姫香が見た限り結構多い。
ルルンバちゃんのフォローもあるが、それを前衛が1人と1匹で維持するのはなかなか大変。それを察してか、AIロボも背後の護衛に参加する構え。
紗良と香多奈の物理的な護衛はいなくなってしまうが、これは仕方のない事だろう。瀬戸際防御は怖過ぎるので、ルルンバちゃんの判断は正しいと思われる。
いざとなれば用心棒のミケに頼れるし、紗良の《結界》防御だってある。だからそこまで用心する必要は無いのだが、普段から護人が気を使い過ぎている事情もあって。
毎回、来栖家チームの気遣いは手厚い仕様となっているのだ。
「わわっ、前と後ろから凄い軍勢に攻め込まれてる、大変だぁ! あっ、あそこの天井の小窓から入ろうとしてる奴がいるよっ、ミケさん!
ズルッ子だ、やっつけちゃって!」
「ズルって事は無いけど、あんな所から入り込まれると困っちゃうね……うわ、相変わらず敵には容赦がないねぇ、ミケちゃん。
やり過ぎないでね、天井が壊れちゃう」
香多奈の目敏い忠告に、ミケの容赦のない制裁が加えられて行く。天井から奇襲を掛けようとした赤い鎧の兵士は、雷撃にこんがり焼かれて地面へと落ちて行った。
それを見ていた紗良が、やりすぎ注意と愛猫に呼び掛ける。その時、前方の敵陣にキメラに騎乗したいかにも強そうな個体を発見し、長女は思わず護人に警告を飛ばした。
ソイツが恐らく敵のリーダーなのは、過去の三原の市街戦の情報からして間違いは無さげ。そんな大物が前線に出て来たのには驚きだが、思えば三原の市街戦でも良く見掛けたとの報告が上がっていた。
つまりソイツは、後方で指揮を執るより前線で武力を振るうタイプの武将らしい。現にその攻撃で、こちらの大将の護人が吹き飛ばされてしまった。
驚き悲鳴を上げる後衛陣だが、護人は幸いにもダメージの類いは受けていないよう。ただ単に吹き飛ばされただけだが、それでも前線に大きな穴が開いたのは確かである。
現在は茶々萌コンビが踏ん張ってくれているが、スキュラタイプの乱入でそれも難しそう。レイジーとコロ助サイドも手一杯で、戦線は来栖家チームの思った通りには維持出来ていない有り様。
護人もすぐさま前線復帰するが、敵の大将を足止めするので精一杯。しかも姫香とツグミの後衛陣も、巨人タイプが出現して混乱に拍車が掛かっていた。
そいつ等は何と、戦いには参加せずに建物の主要の柱を叩き壊していた。そのパワーはさすが人造生物、6メートル級の巨体に見合ったパワーを絞り出しての破壊工作である。
慌てるルルンバちゃんの制止の射撃も、一歩間に合わずたわみ始める廃墟の建物。ミケも天井に張り付いた無礼者の処理に追われていて、全部のフォローは無理。
その天井だが、どうやら巨人タイプも一緒に登っておイタをしていたらしい。崩壊する天井の一部と共に落ちて来て、哀れにも廃墟の建物は本格的に壊れ始めた。
ここまではホムンクルス軍の目論見通りだったのだが、事態はここから予期せぬ方向に。何と建物の床も脆くなっていたのか、天井や柱の崩壊と共に抜け落ちてしまう破目に。
下にちゃんとした基礎があれば、それも問題は無かったのだが。何と建物の真下は、巨大な空洞になっていて来栖家チームとホムンクルス軍は仲良く落ちて行く。
昏く広い空間に、少女と怪物たちの叫び声が響き渡る。
――その意図せぬ合唱は、ゴーストのヘスティアを大いに慌てさせるのだった。
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