お土産をたくさん持たされて死霊軍に送り出される件
死霊軍の居城で3泊もするのは不本意だったけど、疲労したまま探索を行なうのは危険すぎる。これも宝の地図を放棄すれば良い話だが、それは勿体無いと子供たちから強い反対が。
主に姫香と香多奈からの、せっかくだから立ち寄ろうよとの主張が通るのはいつもの事。何しろ今回は、心強い地元の案内役までつけて貰えるのだ。
それがゴーストメイドだろうと、そこはあまり関係ない来栖家チーム。何しろこの数年で、異世界チックな仲間の顔触れにはすっかり慣れっこに。
その当人は、日傘なんか用意しちゃって同行する気満々である。地図の場所にも見当は付いているようだが、生憎とそこはホムンクルス軍の領土らしい。
厳密には、境目と言うかギリアウトかなって感じみたい。もっと兵を貸そうかとのリッチ王の申し出を断って、護人は冷や汗を掻きつつお嬢さんは必ず返すと“常闇王”ダァルに約束する。
もっとも、ヘスティアはいざとなれば空も飛べるし、瞬間移動も気合を入れればこなせるらしい。恐らく来栖家チームの面々より、レベル的にはずっと高い気もするゴーストである。
「問題は、その敵対しているホムンクルス軍に、見付からない様に移動出来るかって事なのかな? 死霊王の陣地内は常闇みたいだけど、そこを外れると今は朝だよね?
この人数だと、平地の移動は思いっ切り目立っちゃいそう」
「確かにそうだな、だがまぁ仕方無いだろう。この地図の場所だけど、遺跡の廃墟があるって事で間違いは無いのかな?
“太古のダンジョン”内で無いのは、ある意味ラッキーだったな」
「本当だよ、護人さん……さすがに4日連続、ダンジョン探索はキツいよねぇ」
若い姫香でも、さすがに4日連続でダンジョン探索は辛いみたい。それでもこの3日で、魔石や魔法アイテム系の実入りは相当に大きかった。
しかも赤と青のコイン集めで、死霊王達から相当なアイテムをお土産に貰ってしまった。喜ばしい事なのだが、この関係性はなるべく今後には持ち越したくはない。
そう思っているのは護人だけで、子供たちは死霊軍の友達も等しく扱っているのがちょっと怖いかも。幽霊メイドのヘスティアも、今やマブダチ感覚で接している。
とにかく、地図の場所に案内してくれるヘスティアは、とっても重宝する存在には違いない。そんな訳で、死霊軍の居城から出発する準備は着々と進行中。
ちなみに、囚われていた『チーム白狸』は、来栖家所有のワープ装置で昨日の内に地上に送還済み。4チームの捜索依頼で、1チームしか救えなかったのは残念だか仕方がない。
その辺の伝令も、一足先に送り返した『チーム白狸』に伝えてある。後は来栖家チームが、無事に宝物庫の宝物をゲットして地上に戻って行くだけ。
その方法だが、案内役につけて貰ったゴーストメイドに従って“浮遊大陸”を移動するしか手は無い。そんな彼女からは、最近はホムンクルス軍が活発だから、その領地に入った際には注意しろとの助言が。
その辺はまぁ、仕方がない……死霊軍をつけようかと問われた時に、護人はキッパリと断ったのだから。死霊軍を率いて地上を闊歩するなど、とにかく絵柄が悪過ぎる。
その結果、安全が犠牲にされたがコッソリと進めば平気だろう。そう判断した護人は、死霊王の2人に改めて宿泊のお礼と別れを告げた。
それから報酬をたくさんありがとうと、超ご機嫌な香多奈の言葉に。リッチ王と冥界の王は、揃ってまた遊びにおいでとお世辞抜きの別れの挨拶を掛けてくれた。
そんな感じの複雑な送迎を受けた来栖家チームだが、本当に田舎の爺婆の家へのお泊まりの帰りみたいな雰囲気だった。そんな彼らとの取り決めの1つ、協会へのダンジョン査定依頼は一体今度いつ来るのやら。
それは取り敢えず置いといて、昨日の赤いコインの交換報告など。ダンジョン査定の勝負には負けた“冥界王”だが、この取り引きには実直に応じてくれてまずは良かった。
そして54枚と言う枚数に素直に驚き、それから思案顔に……そしてまず交換にと勧めてくれたのは、あの懐かしの『コアイミテーター』だった。
確か“アビス”ダンジョン内で、1度回収した事があっただろうか。間違いなく超レアアイテムで、これで敷地内にダンジョン空間が創造可能だぞと向こうは楽しそうに説明して来る。
もう既存のが3つもありますとも言えない来栖家の面々は、機神兵団にお土産にするのも悪くないなと脳内思考。前回も確かそうだったし、確実に喜んで貰えるのは分かっている。
それから次にお勧めして貰ったのは、これも懐かしの『ステアップ果実』が3個だった。確か異世界探索で、1個だけ回収出来たけど能力は虹色の果実を上回っていた筈だ。
それだけのレア果実を3個は、確かに破格の報酬かも……効果は確か、使用者のステータスを1ランク格上げしてくれる能力があったと記憶している。
前回の果実は、確かレイジーにあげた記憶がある護人である。今回は家族内でどう分けようか、そこは悩みどころ。何にしろ、チームのパワーアップは確実で嬉しい贈り物だ。
それから、ついでにこれも贈ろうと言って貰えた魔法アイテムは、ある意味破格の品物だった。それは『魔法の収納容器』が2つで、何と“時間遅延”と“時間加速”の能力がそれぞれに付いてたのだ。
普通の魔法の鞄にも、良い品になると緩やかな時間遅延は付随していたりもする。ところがこの収納容器は、何と20倍まで対応しているとの事。
つまり、賞味期限1日を20日に伸ばす事が可能なのだそう。紗良はこの事実に気付いて、あのカブ事件が繰り返されないよと家族に報告する。
それを知って大喜びの姫香と香多奈は、とっても正直者には違いない。“時間加速”にしても、発酵食品を20倍素早く作れるとなると凄い魔法アイテムかも。
ついでに贈ったアイテムに大喜びの反応を貰って、微妙な表情の“冥界王”ではあったモノの。子供たちから改めてお礼を述べられて、満更でも無さそうではあった。
そんな感じで、昨日の顛末は概ね良い結果に落ち付いたのだった。
そんな感じで一晩を休憩に費やして、今はその死霊軍の古城を出発した一行である。ハスキー達は、環境の変化も気にせず“浮遊大陸”の荒野を歩いている。目指す方向は何となくの末妹の指示で、大きく外れてはいない筈。
この探索が終われば家に戻れるよと、香多奈の号令は果たしてハスキー達に正しく伝わっているかは不明。それでも元気に一行を先導するレイジー達は、いつも以上に張り切っている気が。
「それでヘスティアちゃん、この場所の廃墟はどの位の大きさなの? 元は何の建物か知らないけど、そんなに大きくはないんでしょ?」
「そう言えば前回も、あちこちコロ助たちを捜しまわった時に、遺跡っぽい場所は幾つか見掛けたよね。
そんな大きな建物は無かったけど、規模は大きかったかも?」
「あぁ、確かに町全体が廃墟になっちゃったって感じの場所が何か所かあったねぇ。だとしたら、探し出すのも大変かも?」
そんな子供たちの推測に、確かに大変でしょうねとゴーストメイドの返しである。何しろ所持している『宝の地図』のマップも、大雑把で場所の確定が難しそう。
そこはハスキー達の嗅覚に頼るよと、飽くまで他人任せの末妹ではある。案内役のゴーストメイドは、どちらかと言えば敵陣営の襲撃を気にかけているよう。
彼女の言葉によると、恐らくこちらの進軍は既に気付かれているそうな。それだけの索敵能力を持つ者たちが、敵兵の中に混じっているとのヘスティアの説明である。
それは厄介だねと、姫香は周囲を窺いながら緊張した素振り。ここまで出発して30分が経過、つい先ほど暗く重い暗雲エリアを抜け出した所。
そのせいで、陽光を感じられて清々しくはあるけど、逆に敵に見付かりやすくなった。この“浮遊大陸”は完全に雲の上に存在していて、ちょっと高い山の上みたいな気候である。
やや肌寒いので、素直に太陽の光は有り難い……ただし、メイドのヘスティアは、降り注ぐ陽光に迷惑そうな表情。手にした日傘で、完全に太陽の光を遮断している。
それを面白そうに撮影する香多奈は、いつものように呑気な態度そのまま。敵に補足されてるとの、ヘスティアの助言も意に介さず家族での移動を楽しんでいる。
それはハスキー達も同じで、道なき荒れた大地を悠然と進んでいる。今日は仔ヤギ姿の茶々丸も、背中に萌を乗せてご機嫌にそれに追随している。
とは言え、本隊とはそんなに距離を取らず、安全に配慮しての先行隊である。さすがに適地と分かっている場所の移動には、細心の注意を払う護衛犬たち。
景色は岩場混じりの荒野で、草木はまばらと言った感じ。道なき道を行く一行は、大地の高低差を苦労しながら距離を稼いで行く。
目的地はまだもう少し先のようで、進行方向は合っていると案内人のメイドのお墨付き。その言葉に呼応するように、来栖家チームの進行方向に廃墟が確認出来るようになって来た。
それは草木にまみれていて、廃墟と化してかなりの年月が経っているよう。ちゃんとした建物は1つも無さそうで、あっても探すのに苦労する感じ。
「おおっ、やっと目的地が見えて来たね……このペースだと、あの場所に辿り着くのに20分か30分くらいかな?
あそこに辿り着ければ、隠れる場所には苦労しなさそう。取り敢えず安全は、確保出来そうだから少し急ごうか、護人さん?」
「そうだな、急いで廃墟に辿り着いて、そこで少し休憩しようか。そんな訳で、少しだけペースを上げてくれるかい、ハスキー達?」
「あっ……ちょっと遅かったねって、ヘスティアが言ってる。何か見つかっちゃったみたい、右手の丘の向こうに敵の偵察部隊がいるそうだよっ。
この感じは獣人軍かなって言ってるね、ハスキー達は分かる?」
どうやら、ハスキー達も近付く存在を敏感にキャッチしたみたい。姫香の提案は一歩遅く、見付かったからには戦いは避けれなさそう。
来栖家チームの面々は覚悟を決めて、この“浮遊大陸”での戦いに臨む構え。途端に緊張の走るチーム内に、さてこの窮地を切り抜ける力はあるか否や?
敵は獣人軍、それから恐らくはホムンクルス軍もこちらを狙って来る筈――
ホムンクルス陣営のトップの1体である“緋色”のアーガルスは、自陣の立場内で窮地に立たされていた。その大きな理由は、前回の新地点の攻略の失敗にある。
“浮遊大陸”において、大地は有限で領地の拡大は困難を極める。そんな訳で最近は、ダンジョン内にまで領土を拡大している次第。
そんな事情のさなかに、新たな大地にせっかくの足掛かりを得たと言うのに。その略奪戦に失敗して、大きくホムンクルス軍内のポイントを失ってしまった。
つまりは兵力減と同時に、アーガルスは失脚に追い込まれる寸前に。仕方のない事とは言え、何かで挽回しないと本当に危うい状況だ。
そんな時、部下の偵察ホムンクルス達が大陸に侵入者アリと騒がしく報告して来た。彼らは人体改造によって、一際嗅覚や視覚が秀でた連中である。
戦闘力は無いに等しいが、敵を見つけ出すその能力は軍内でとても重宝されている。その連中が、領地内から旨そうな人間の臭いが漂って来ていると言って来たのだ。
“緋色”のアーガルスは、その知らせを聞いて1人ほくそ笑んだ。ホムンクルスの個体はどれも、人間への憎悪は並ではなくその内に有している。
それが種族としてのアイデンティティだと言わんばかりで、つまりは良い人身御供が見付かった。しかし、こんな場所をうろつき回っているとは、本当に呑気な連中である。
アーガルスは、部下たちに勝手に八つ裂きにせずそいつ等を捕らえる様に命令する。良いポイント稼ぎと考えたのだが、部下が信用ならないので自身で指揮を執ろうと寸前で思い直す。
その敵がまさか、A級ランクの探索者だとは思いもせず。
――“浮遊大陸”での熾烈な殲滅戦が、こうして知らずに幕を開けるのだった。
『ブックマークに追加』をしてくれたら、コロ助がモフモフさせてくれます♪
『リアクション』をポチッてくれれば、ツグミのツンデレが発動するかも!?
『☆ポイント』で応援しないと、レイジーに燃やされちゃうぞ!w




