毒持ちの最終ボスと死闘を繰り広げる件
「うわっ、これは護人さんとミケで大丈夫なのかなっ!? 取り敢えず、ルルンバちゃんも前衛で敵のキープをお願いっ!
残りの皆は、あまり近付き過ぎないようにねっ!」
「動画では、視線の石化攻撃より周囲を毒沼に変える能力が酷かったと記憶してますっ。護人さんっ、近付き過ぎると危険ですよっ!
ミケちゃんは、戻って来た方がいいかもっ!?」
「そうらしいよ、ミケさん……意地張ってないで、こっちに戻っておいで?」
紗良や香多奈の声が聞こえているのか、ミケの態度は変わらず護人の肩の上をキープ中。目の前の15メートル級の大トカゲにも、怯む様子を見せない胆力はさすが。
とは言え、この大ボスはバジリスクと言う、毒と石化の視線持ちの強敵との話で全く油断は出来ない。来栖家チームがボス部屋に侵入した途端、大ボスは遠慮なくその能力を発揮し始めた。
周囲の床は瞬く間に毒の沼と化し、嫌な臭いが立ち込め始める。護人はすかさず“四腕”を発揮して、敵の足止めに備える素振り。
ルルンバちゃんも同じく、自分より巨大な敵に臆せずに突っ込んで行く。そして新パーツの両腕で、がっしりとバジリスクの顔面をキープ。
石化の視線も何のその、さすが魔導ゴーレムのボディは怖いモノ無しだ。いや、実際に壊れる心配はあるし、無茶は決して出来ない筈。
護人も潰すなら敵の目からとばかりに、《奥の手》を伸ばして敵の顔面に攻撃を仕掛ける。それに合わせるように、ミケの《昇龍》スキルで雷龍が召喚される。
その迫力だが、いつにも増して凄まじかった。
うひゃあと、後衛の子供たちからも悲鳴に似た声援が上がる程の大迫力。その間、油断すると護人の近くまで毒の沼は範囲を広げようとして来る。
それを許すまいと、処理するなら根こそぎ滅すべしと暴れ回る雷龍。
或いはそれを見て、手柄を取られるとルルンバちゃんも焦ったのかも知れない。近距離から必殺のレーザー砲を発射して、それは大きくバジリスクを傷付けた。
ところが敵も大ボス、その位で倒れるモノかと、脅威の粘りで接近戦を挑むAIロボに尻尾撃を見舞う。重量級のその一撃で、哀れルルンバちゃんは吹き飛ばされる破目に。
子供たちは思わず悲鳴を上げて、テンカウントはまだだよと良く分からない声援を浴びせる。ただし、護人の周囲の手数の多さは何と言うか反則レベル。
まずはムームーちゃんが、毒は嫌いデシと《水柱》で周囲の毒を洗い流す。そこから発生する水の槍は、容赦なく巨体のバジリスクを穴だらけに。
それを見た薔薇のマントが、手柄を取られてなるモノかと“砲身モード”へと変化する。そして勝手に砲弾を発射、その音の大きさにイラつくミケと軟体幼児。
肩の上で喧嘩しないで欲しいと、護人の精神は味方によって削られ気味。毎度の事ではあるが、味方のやり過ぎには本当に胃にストレスが掛かる。
取り敢えず、ミケの怒りの矛先は無事(?)に大ボスに向かったようだ。大槍のように太い『雷槌』と《刹刃》の混合矢弾が、うねりをあげて敵に飛んで行く。
複数本の矢弾は、雷龍に絡み付かれていたバジリスクに見事命中。その前のジャプで弱っていた大ボスは、堪らずにノックダウン。
そしてそのまま、二度と起き上がる事は無かった。
大ボスが倒れて行ったのを確認した一行は、やっと終わったと大騒ぎを始めてしまった。この数日の探索行を考えれば、それは致し方のない事かも。
ドロップした魔石(大)とスキル書、それから毒薬っぽい薬品瓶を回収したAIロボはとっても誇らしそう。もちろんミケの手柄なのは分かっているが、尻尾に吹き飛ばされるまでは彼も大いに頑張った。
大丈夫だったのと後衛陣に心配されるも、平気とポージングで返す無邪気なAIロボ。そこは本当に良かった、しかし本当に頑丈なボディである。
それから一行は、お楽しみの宝箱へと近寄っての最終作業を行う。ちなみにコアには触れない約束なので、これの破壊はスルーと言う流れに。
ツグミの罠のチェック後に、姫香が代表して大きな箱の蓋を開けに掛かる。その中には、ポーション類がたくさん、それに混じって毒薬も結構な数が確認出来た。
それから立派なミスリル武具に混じって、やはり呪いの武具が入っていた。最後までひねくれたダンジョンだねと、末妹と妖精ちゃんは評価を下げる発言。
ただし、オーブ珠や魔結晶(大)も入っていて、赤いコインも15枚も確認出来た。鑑定の書(上級)やバジ素材(皮や骨)も出て来て、これらはそれなりに価値は高そう。
そして一番妖精ちゃんが反応したのは、くすんだ色の粗末そうな指輪だった。それは2個入っていて、どちらも強力な耐性アップ効果があるそうな。
麻痺や毒攻撃が地味に怖いと知っている一行は、それは凄いと興奮している。これは良いチーム強化になったねと、最後の辻褄合わせに満足そう。
他にも金のインゴットや宝石類、それから例のボードゲームが数点にダイス類がたくさん。6面どころか10面や20面なんかもあって、色合いも様々でちょっと綺麗かも。
それより集めていた赤いコインだが、合計で54枚も回収が出来た。交換が楽しみだねと燥ぐ末妹は、しかし今回の“死霊迷宮のダンジョン”の採点は辛口の模様。
護人からはヘスティアに聞こえないよう、2人の王の採点結果は同じにしてくれと懇願された末妹なのだが。果たしてその願いは、しっかり聞き入れられたかは今の所は不明である。
とにかくそんな具合で、2つ目のダンジョン探索も終了の運びに――
そして戻って来たお城の地下のゲート前には、しっかりと“常闇王”と“冥界王”のお出迎えが。そしてとても楽しめたぞと、先日に続いてのお褒めの言葉を貰った一同であった。
それはともかく、時刻は既に夕方の4時に差し掛かろうって感じ。さすがに、この探索後すぐにお暇を告げるのは、宝の地図捜索も行なうつもりなら無茶である。
そんな訳で、来栖家チームは否応なしに、もう1泊を死霊王の2人にお願いする流れに。そして部屋で休む前に、諸々のイベントを片付けに掛かる。
その進行役は、主に香多奈が担っての独壇場とも言って良いレベル。ルルンバちゃんの簡易座席に駆け上がって、注目を集める少女はとっても楽しそう。
それから2人の死霊王を相手に、これからダンジョン査定の結果発表を行いますと大風呂敷を広げて行く。サポートの妖精ちゃんとゴーストのヘスティアも、粛々とした表情で背後に控えている。
そして最後に、3人でごにょごにょと話し合っての最終決定など。
「それではっ、5項目10点の50点満点の採点を始めま~す♪ まずは最初の項目の『ダンジョンの適性難易度』ですが、“常闇王”が7点で“冥界王”は5点でしたっ!
“冥界王”の“死霊迷宮のダンジョン”は、とにかく凶悪な罠が多過ぎっ!」
小さな子供にそう言われ、“黒天”のミゲルはショックを隠し切れない表情に。それを言うとリッチ王の“廃墟都市ダンジョン”も、レア種や強敵が盛りだくさんで酷かった。
相対的に両者とも、この項目での点数は伸びないだろうと香多奈は厳しい口調。その後ろで、ウンウンと頷く妖精ちゃんとメイドのヘスティアである。
次の『ダンジョン構成のオリジナル性』だが、“常闇王”が8点で“冥界王”は9点と両者高い点数に。この項目だが、確かにどちらも独創性は溢れていた。
それを評価しつつも、難易度はもう少し下げましょうと香多奈は容赦がない。どちらも滅多に見掛けない仕掛けは素晴らしかったが、そのせいで探索が跳ね上がっていた。
それから『ダンジョン魅力度(儲かり度)』は、“常闇王”が9点で“冥界王”は8点と高得点の評価。どちらもレア種が湧いて報酬も高かったけど、宝珠ドロップのリッチ王に軍配が上がった感じ。
ただまぁ、標準ランクのチームだとレア種と遭遇は死を意味する。その辺は要調整が必要ですと、査定役の末妹は厳しい表情を崩さない。
4つ目の『サプライズ度』だが、こちらも両者とも強敵や隠し部屋配置で高得点だった。具体的には、“常闇王”が8点で“冥界王”は9点と香多奈の発表に。
2人の王はそれを聞いて満足そう、特に“黒天”のミゲルは美麗な顔をニンマリさせている。得点が意外と接近していて、逆転の可能性を期待しているのだろう。
「最後に、『何度も訪れたくなる総合的な魅力があるか』の得点発表ですっ! えっとぉ……“常闇王”が7点で“冥界王”は6点、最終的な総合得点は“常闇王”が39点で“冥界王”は37点でリッチ王さんの2点勝利ですっ!!
厳正な審査なので、異議申し立ては認めませんっ!」
この報告に、大喜びなリッチ王と悔しそうな表情の美麗の冥界王である。香多奈は、今まで50以上のダンジョンを制覇して来た、A級ランクの自分達の審査は絶対ですと自信満々。
この発表には、穏便にと前もって通達していた護人はまさに冷や汗モノ。同点でお茶を濁すのが一番良いと思っていたのに、バカ正直な査定を行うとは。
確かに護人としても、2つ目に潜った“死霊迷宮のダンジョン”の殺意の高さには辟易した。とにかく罠が多くて、しかも強敵や難敵がわんさか出て来ていたのだ。
A級の来栖家チームだから何とかクリア出来たが、B級チームだと完全踏破の確率は半分以下ではなかろうか。特にレア種と強敵のラッシュは、酷過ぎて文句を言いたいレベル。
その辺を香多奈は熱弁して、何と2人の死霊王に説教モード。何故か少女の後ろの妖精ちゃんとヘスティアも、同じく怒った顔で控えている。
つまりは、探索者の平均的なランクはC級なのに、あんな鬼畜レベルのダンジョンに放り込むのは酷過ぎると。蟻地獄にアリを放り込むのと同じで、逃げようが無いではないか。
その辺の事情を熱弁する末妹は、まさか『叱責』スキルも使ってる?
「ダンジョンの難易度と探索者のレベルは、キッチリ揃えないと駄目でしょっ!? 今後はちゃんと、その辺の下調べはキッチリしておく事、2人ともだよっ!
ちなみに、次にダンジョン遊戯がしたかったら、宮島の協会支部に依頼を出して頂戴ね。私たちのチームとか、高難易度のダンジョンに対応したチームを推薦出来ると思うから」
「ちょっと、香多奈っ……何を勝手に決めてるのよっ!」
大慌ての姫香と家族の面々だが、2人の死霊王はそれは良い案だと途端にご機嫌に。今回敗北を喫した“黒天”のミゲルも、次はもっと良いのを造るぞと燃えている。
どうやら、末妹のダンジョン査定は何とか無事に受け入れられたようだ。その点は良かった、変にゴネられたら死を覚悟しなければならなかった。
それを思うと、今後またダンジョン査定のお仕事が舞い込むくらいは我慢するべき? 2人の死霊王は、どうも生易しいC級ダンジョンを造るつもりは毛頭ない様子。
それならば、下手にC級ランクの探索者を攫われるより、協会を通じて依頼を貰った方が遥かに平和的かも。末妹にしては、見事な事態の収め方だったと言えなくもない。
護人もこの結果を叱る訳にも行かず、この取り決めで収束と言う流れが良さそう。そんな訳で、お次は赤いコインの景品交換だよと、引き続き場を取り仕切る末妹だった。
何にしても、それが終われば今夜も無事に休息は取れそう。お泊まりは必須なので、まだ地元には帰れそうにないのはアレだけど。
――つまり残念ながら、ミケの機嫌の回復にはもう少し掛かりそう。
『ブックマークに追加』をしてくれたら、護人が来栖家に招いてくれます♪
『リアクション』をポチッてくれれば、薔薇のマントに気に入られるかも!?
『☆ポイント』で応援しないと、妖精ちゃんの手下にされちゃうぞ!w
 




