巨大ゴーストのせいで中ボスが霞みまくる件
「うわっ、何あのでっかい顔っ……えっ、ひょっとしてゴーストなのっ!?」
「えっ、じゃあヘスティアちゃんの知り合いとかっ? うわっ、顔だけでも通路からはみ出してるじゃん、凄い大きさだなぁっ!」
「うおっ、ゴーストの口が開いたぞっ……各々、攻撃に備えろっ!」
護人の警告は大当たりで、巨大な顔のゴーストはいきなり咆哮を放って来た。しかも波動は音だけでなく、物理的にも被害をもたらして来る有り様。
周囲の迷路の壁や天井も、ひびが入って今にも崩れて来そう。大慌てで《堅牢の陣》を家族の前方に張る護人、そのお陰で何とか衝撃は和らいでくれた。
紗良も同じく、《結界》を張って近くの皆の安全確保に努めている。逆に香多奈などは、煩い奴目と清浄&裂帛の『木の実爆弾』を放り投げる仕草。
それが丁度良い場所で炸裂したのは、末妹が所有している『命中率up』スキルのせいなのかも。そのお陰で、巨大な顔の咆哮は単なる絶叫へと変わってくれた。
一方の、アレは知り合いかと訊ねられたヘスティアは怒りにプンプン状態。ゴースト差別だと、末妹に詰め寄ってお説教を始める勢いである。
ゴメンねと軽い口調で謝る香多奈は、まるで悪びれていなくてちょっと笑える。その間にも、先手を打たれたハスキー達は腹を立てて反撃の準備。
とは言え、相手はゴーストなので通常スキルではダメージは通らない。レイジーの火炎ブレスで怯んでくれるけど、倒すまでには至らない感じ。
さっきまで言い合いをしていた香多奈とヘスティアは、それを見て姉の紗良に出動を要請する。すぐに仲直り出来るのは、或いは精神年齢が近いせいかも?
敵の攻撃が止んだのを確認して、紗良は《結界》を解除して言われるままに攻撃態勢へ。基本は素直な長女は、指示を出されると思わず従ってしまうのだ。
そして相手をタゲろうとした途端、向こうのゴーストの巨大な瞳に力が宿った。そして再びの先手で、今度はイビルアイのような眼力を飛ばして来る。
その威力は本家のイビルアイより強力で、何と前衛のハスキー達が揃って麻痺する事態に。ついでに茶々萌コンビも痺れて、動けなくなってその場にへたり込む始末。
大いに慌てる護人と子供たち、コイツもひょっとしてレア種ではと言う疑念がそれぞれの心に湧いて来る。ただし、ここは5層なのでそんな筈はと言う気持ちも同時に思い浮かぶ。
とにかく思わぬ強敵の出現に、これ以上の被害を防ごうと護人が前へと出る。前衛で無事なのはルルンバちゃんだけで、その魔導ゴーレムも再度の咆哮技で吹き飛ばされてしまった。
物凄いパワー技に、痺れていたハスキー達も一緒に吹き飛ばされて行く。受け身も取れない事態に、何とかしようと姫香が咄嗟に『圧縮』スキルで空気のクッションを作って対応。
これはナイス判断で、真っ先に転がって来た茶々萌チビッ子コンビをまず確保する姫香。ただし、まだ痺れている状態で2匹とも上手く動けない様子である。
それからハスキー達も同じく、それを心配しつつも《耐性上昇》を持つ護人とルルンバちゃんが怯まず前線へと向かう。そのAIロボの座席に、何故か末妹の香多奈が乗っかっているのを見た姫香は目が点に。
「ちょっと、香多奈のアンポンタンッ……何を勝手に、ルルンバちゃんを使って前線に出て行こうとしてるのよっ!?
危ないでしょうが、さっさと戻っておいでっ!」
「えっ、だって……ハスキー達が麻痺して明らかにピンチじゃんっ! 私とルルンバちゃんで、浄化ポーションぶっ掛けて時間を稼いであげるよっ!」
「えっ、危ないよ香多奈ちゃんっ!?」
どうやら紗良は、一緒にいた筈の末妹の蛮行に気が付かなかった模様である。その結果、ルルンバちゃんに騎乗した末妹は無事に(?)巨大顔だけゴーストのすぐ近くに。
そいつは連続で咆哮を放てないのか、今は息継ぎの為に一呼吸している所だった。とは言え視線技は健在なので、下手に目を合わせると危険には違いない。
そんな事など屁とも思わない末妹だが、姉達の叱責はやはり怖いようだ。ルルンバちゃんを上手に盾にして、これなら平気でしょと水鉄砲を使いながらのお伺い。
なおも厳しい顔の姫香だが、意外と香多奈の水鉄砲攻撃は効いているようだ。ルルンバちゃんも、魔銃に魔玉(光)をセットして有効打を与えている。
ここに『ヴィブラニウムの神剣』を手にした護人が加わると、さすがの巨大ゴースト(顔のみ)もたじろいだ表情に。ちなみにコイツの顔は、40代の中年オヤジである。
東洋人とも西洋人とも判別出来ないので、恐らくは異世界人なのだろう。とにかくようやくこちらが有利になった所に、再び大口を開けて咆哮の構えの巨顔ゴースト。
させてなるモノかと、咄嗟に『木の実爆弾』をその大口の中に放り投げる香多奈は素晴らしいコントロール。その結果、ゴーストは咆哮でなくまたもや絶叫を放つ破目に。
そこにひょろりと前線に飛んで行った妖精ちゃんが、相棒の肩に停まって何やら耳打ちした。ナイスアイデアと喜色満面の香多奈は、自分のスキル並びをすっかり忘れていた模様。
素早く自分の魔法の鞄から『召喚士の杖』を取り出して、実行するのは《精霊召喚》のスキル技。呼び出すのはマブダチの光の精霊で、召喚成功の確率は割と高い子である。
その間も、護人の攻撃はゴーストの顔にヒットするのだが、不味くなると相手は壁の奥へと逃げ込んでしまう。セコいと言うか対戦上手と言うか、なかなかの策士の巨顔ゴースト。
そんな中で、呼び出しに応えて出現した光の精霊は、好奇心旺盛にこの奇妙な戦場を見渡す素振り。そして召喚主の香多奈からの、あの大きいゴーストを倒してのお願いに、やなこったと即答する。
愕然とする少女と、その背後から光の精霊に大きく圧を掛ける妖精ちゃん。直訳すると「テメェど頭カチ割るぞ」の視線で、返答を思い直すように懇願してくれた模様。
それが功を奏したのか、顔を蒼褪めさせてフルパワーで巨顔ゴーストに向かう光の精霊であった。広島の生活に染まってしまった妖精ちゃんだが、こういうドスを利かせたい時には便利かも?
そして驚くべき事に、迷路の壁に隠れていた巨顔ゴーストを引き摺り出す光の精霊。鼻毛を掴んで引っ張る所業は、何となく巨顔ゴーストに同情してしまう。
そこに斬り掛かる護人、今回の斬撃は見事に急所に叩き込まれた。そして絶叫する巨顔ゴーストの口の中に、再び『木の実爆弾』を複数個投げ込む末妹。
その炸裂音と共に、何と巨顔ゴーストは霧となって消えて行ってしまった。後には魔石(特大)が1個に、オーブ珠もついでに1個ドロップ。
やったあと喜ぶ、無邪気な末妹にメイドゴーストのヘスティアも嬉しそう。コイツは結局レア種だったのかなと、咆哮にダメージを負った姫香は素朴な疑問。
大きい魔石を落としたからねぇと、香多奈はそれを拾いながら得意満面な表情。紗良はみんなの回復に大忙しで、その姿は激しい戦いを物語っている。
治療を受けるハスキー達は、活躍出来なかったのがとっても悔しそう。それにしても、麻痺の視線からの咆哮の範囲技はかなり凶悪だった。
態勢を立て直すのに、少々時間が掛かってしまったのは致し方が無いとして。姉達からの香多奈へのお小言も、何とか5分以内に済んでくれて何より。
そこから来栖家チームは、改めて5層の中ボスを捜しに進行を開始。
不思議な事に、それ以降は雑魚モンスターと一切遭遇しなかった。それから凶悪トラップも皆無で、『魔法の地図』を所有するチームはすらすらと中ボス部屋の前へと辿り着く。
それはまるで、さっきの巨顔ゴーストに全てのコストを費やしましたって感じ。子供たちは敢えてそれには触れず、ここまで楽ちんだったねと中ボス部屋の扉を眺める。
それは重厚な鉄製の扉で、両開き仕様でいかにも頑丈そう。その前で待機するハスキー達は、既に武器を咥えてバッチリ臨戦態勢。
どうやら先ほどの戦闘が不服だったらしく、リベンジに燃えているハスキー軍団である。それに続くぞと、茶々萌チビッ子コンビもヤル気満々の様子。
そうして姫香が開け放った扉へと殺到するペット達は、揃って手柄を得る気満々。中ボスを確認してからにしなさいとの、姫香のもっともな助言も聞こえない有り様である。
その肝心の中ボスだが、A級ランクだけあってそれなりの強敵が待ち構えていた。ソイツは5メートル級のコカトリスで、ほぼ半分が竜の身体を有していた。
来栖家の敷地で見掛けた、2メートル級のほぼ鶏の紛い物とは大違い。それでも頭はキッチリ鶏で、尻尾は蛇のパーツは間違いは無いようだ。
石化が怖いこの敵を、ハスキー達は知った事かと襲い掛かって行く。持ち前の機動力を活かしたその攻撃は、まさに疾風となって中ボスを蹂躙した。
レイジーとツグミの武器に斬り刻まれたコカトリスは、その正体の確認にと鶏の頭を巡らせる。その隙を突いて、最後に襲い掛かったコロ助のハンマー攻撃が敵の脳天に炸裂した。
その勢いは、敵の頭を中ボス部屋の地面にのめり込ます程で壮絶の一言。先ほどの汚名返上とばかりに、難敵をボコ殴りへと追い込んで行く。
その脳筋振りは凄まじく、まさに敵が厄介な特殊能力を発揮する前に抹殺せよって感じ。後から入って来た護人と子供たちは、完全に出遅れてする事が何も無い有り様。
そればかりか、チビッ子コンビも戦闘態勢のままで消えて行く中ボスを見遣るのみ。ハスキー達の集団狩りと言うか、怒りのパワー恐るべし。
「えっと、よく見えなかったけど……中ボスは何だったの、姫香お姉ちゃん? 大きな影は確認出来たけど、ハスキー達があっという間に倒しちゃったね。
ひょっとして、大きいだけで強くない敵だったのかな?」
「あれは多分、コカトリスだったのかな……竜種かと思ったけど、頭が鶏で尻尾が蛇だった気がするよ。レイジーとツグミが前脚と首元を斬り刻んで、コロ助がハンマーで一撃だったね。
コロ助も、ようやく『剛力』スキルを使いこなせるようになったのかも」
「ああっ、ハスキー達はどっちかと言うと、スピード命って感じの戦い方だからね。パワーを使いこなすって、意外と難しいのかも知れないな」
そんな事を話し合う護人と子供たちは、やったぜと戻って来るハスキー達を褒めるのに忙しそう。紗良だけは、ションボリしている茶々萌コンビを全力で慰めている。
大人気ないなぁと思わなくもないけど、それがハスキー達の性格なので仕方がない。
それからハスキー達には休んで貰って、残りのみんなで宝箱のチェック。ちなみに中ボスからは、魔石(大)とスキル書が1枚、それからコカ肉を回収出来た。
宝箱の中からは、薬品類や鑑定の書、それから魔結晶(中)が10個に骨と皮素材が割と大量。恐らくコカトリスの物だろう、上質な素材で売れば良いお金になってくれそう。
それから木の実も割とたくさんに、赤いコインが11枚。薬品の中には石化耐性ポーションも混じっているナと、妖精ちゃんもこのダンジョンジョークを楽しんでいる様子。
たまにあるのだが、強敵が出て来た際にその対抗手段が、そのモンスターが守っていた宝箱からドロップするのだ。先にくれよと、誰もが思うのだがまぁ貰えないよりマシだろう。
それより次に出て来たアイテムに、子供達は一斉に首を傾げる事態に。それは外国産のボードゲームで、通称『D&D』と呼ばれる遊具だった。
護人が辛うじてその遊び方を知っていて、昔流行ったテーブルトークゲームだねと子供たちに説明する。確か迷宮の中を、プレーヤーは探索者となって冒険するゲームだった筈。
つまりは『ダンジョン&ドラゴンズ』で、まぁ探索者になり切って遊ぶゲームである。そこに出て来る敵役のドラゴンも、当然ながら物凄く強い。
そんな説明を聞いた子供たちは、平和で良いねと良く分かってない反応。
――確かに実地で探索をこなす者からすれば、ゲーム内は平和には違いない。
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