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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の秋~冬の件
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県北レイドをシルバーウイークでこなす件



 9月のシルバーウイークまで、来栖家チームが充分に休めたかと言えばちょっと疑問が残る。“魔獄(まごく)ダンジョン”であれだけ酷い目に遭った後も、異世界のダンジョンで素材(あさ)りなどこなしていたのだ。

 そんな感じでクール時間はともかくとして、各自のパワーアップはそれなりに順調。ただしルルンバちゃんの魔導ボディの修繕は、残念ながら間に合わずの結果に。


 そんな訳で、今回は予備の魔導ボディで参加予定のAIロボである。慣れない機体なので、適合性など色々と不安はあるけど仕方が無い。

 メインの必殺技のレーザービームも封じられて、末妹などはとっても残念そう。それでもレイジーに良さそうな炎属性の剣をゲットして、戦力的にはアップの予感?


 それに合わせて、今週末に向かう2つのダンジョンの情報収集も紗良が頑張ってくれた。それによると、どちらもバッチリA級ランクで相当な難易度らしい。

 特に最初にレイド予定の“比婆山(ひばやま)ダンジョン”は、護人などは呑気にヒバゴンが出る程度だと思っていたのだが。どうやら日本神話において、比婆山はイザナミがほうむられた地であるらしく。


 イザナギとイザナミと言えば、国産みや神産みの大役を果たした創造神である。今でも日本では有名な、アマテラス(太陽)やツクヨミ(月)やスサノオ(海)の産みの親の夫婦神なのだ。

 そんな設定をダンジョンが拾って、全部ではないけどある層が神話に乗っ取られていたりもするそう。そのお陰もあって、難易度が爆上がりしているそうな。


 そんな前情報をキャッチした紗良は、割と顔面蒼白で護人にそう知らせて来た。来栖家としては、てっきり“三段峡ダンジョン”とか“秋吉台ダンジョン”みたいな、広域ダンジョンに探索におもむく感じだと思っていたのに。

 日本神話は割と過酷で、亡くなったイザナミは黄泉の国の軍勢を率いて、約束を破ったイザナギを地上まで追いかけて来るのだ。そんな悪霊たちに遭遇したら、泣いても許して貰えそうにない。


「いやまぁ、確かにそうかも知れないけど……既に県北レイドには参加するって約束したからなぁ。今更キャンセルは出来ないし、異世界チームと星羅せいらチームも参加するそうだし。

 紗良の《浄化》スキルがあれば、黄泉の国の軍勢も大丈夫じゃないか?」

「そうそうっ、紗良お姉ちゃんってば心配し過ぎだよっ……ところで、尾道と因島いんのしまのお姉ちゃん達も参加する事になったって本当なの、姫香お姉ちゃん?」

「いやまぁ、この前の“魔獄(まごく)ダンジョン”の時に、地元だったのに知らせなかったからね。2人とも激オコだったから、今回は誘えって言われたけど。

 さすがにB級以上無いと無理だって、何とか引き下がって貰ったよ」


 などと友達を気遣いつつも、その辺の線引きはキッチリ行なう姫香であった。今回は異世界チームも参加するし、比較的豪華なチームが参加予定である。

 ムッターシャやザジも、今回のA級ランクのダンジョン探索はヤル気満々。地元の庄原しょうばら地方チームの強さは不明だが、大型レイドなので何チームかは当然参加する筈である。


 甲斐谷たちも、10チーム以上は欲しいなと広域ダンジョンの備えに神経質になっているよう。参加するこちらとしても、チーム数を増やして危険はなるべく遠ざけて欲しい所。

 そんな各方面からの思惑を含みつつ、県北レイドの大一番となる2つのダンジョン間引きが執り行われる9月の末である。両方ともA級ランクで、一筋縄では行かないのは周知済み。


 9月の終わりのこの時期、県北は既に秋のきざしが見え隠れしている。中国山脈が幅を広げるこの地域では、10月も終わりになれば雪が降る事も珍しくない。

 つまりは、車両が自由に動き回れるリミットは段々迫って来ている訳だ。



 そんな中、シルバーウイークの始まる週末の土曜日、来栖邸の敷地から出発する2台のキャンピングカーが。先頭の1台は護人が、後方の車は土屋女史が運転している。

 毎度の如く、遠距離の移動でお世話になる吉和インターから一行は中国自動車道に乗り込む。今回もA級義務のポスターサイズのシール貼りを義務付けられるが、まぁ高速代が無料になるのは素直に嬉しい。


 後方の車も同じく、そして今回も2台の車の後ろにはトラックの長蛇の列が。この手の無料護衛の情報は、トラック仲間からあっという間に広まるらしい。

 その列を見て、凄いねぇと素直に感心する末妹は本当に無邪気。サービスで敵を倒す所を見せてあげたいねとか言ってるが、彼等にとっては安全こそが第一だと思う。


「え~っ、せっかく新型ルルンバちゃんの、格好良く活躍する姿を披露したいと思ったのに。この前のダンジョン探索でのソロ動画、みんな撮影して無くて本当にガッカリだったよ。

 だから今回は、出発からちゃんと撮影していい所見せなくちゃ!」

「まぁ、ウチらの活躍してる所は確かに好感度アップかもだけどさ。敵よ出て来いとか言ってる時点で、香多奈のカオス振りは視聴者にとってはドン引きだよ」

「そうだよ、香多奈ちゃんっ……ルルンバちゃんだって、新しいボディにはまだ慣れてないから、あんまり無理させたら駄目だからねっ」


 姉達にそう遣り込められて、さすがの香多奈の勢いもしぼみ気味。逆にハスキー達は、敵ならウエルカムだよと尻尾を振ってくれている。

 そんなカオスな車内だけど、運転する護人は至って呑気にハンドルを握っている。今回は広島に寄る用事もないので、中国自動車道1本で目的地に着けるのだ。


 庄原インターまで1時間以上は掛かるけど、先月の尾道旅行の時のようなイレギュラーは起きない筈。その点は、作戦が始まるまでは気楽に過ごせそう。

 もっとも、予知に上がった2つのダンジョン内では、レア種が確定しているとの噂もチラホラ。どのチームが引くかは不明だが、子供達は自分達が退治するもんねと早くも鼻息が荒い。


 そんな感じで騒がしい車内だが、それ以外は至って平穏だった。2台のキャンピングカーが率いるトラックの列は、時間が経つごとにどんどん増えていく以外は。

 安全運転を心がける護人は、常時80キロ程度しかスピードを出していない。それなのに抜いて行く車両は見当たらず、速度より安全()を優先する今の気風が見え隠れ。


 そんな高速道路の移動は、当初の予定通りの時間で終わりを迎えた。インターを降りる際には、各車からのお礼のクラクションが騒がしい程。

 ばいば~いと、その送迎に感動しながら呑気に窓から手を振る香多奈。2台のキャンピングカーは、その勢いのまま庄原市内へ無事到着を果たす。

 空は秋晴れ、外の空気は涼しさを感じる程。


「えっと、このまま線路と並行して183号線を北上して行けばいいよ、護人さん。合流予定地の『県民の森キャンプ場』まで1時間ちょっとかな?

 道はそんなに悪くないって、ネットの最新情報では出てるね」

「了解っ、途中のどこかの駅前で昼食休憩を挟もうか。買い物をしてもいいしね、庄原なんてみんな初めてだろう?」

「あっ、線路が見えて来たね……香多奈ちゃん、あれが芸備げいび線だよ。庄原市は平成の大合併後は、広島県で一番大きな市になっちゃったんだよね。

 県北と言うか県の北東に位置する庄原市は、島根県と鳥取県と岡山県と……何と、3つもの県に接してるの! 今見た路線も中国山脈を越えて島根県に通じてるし、庄原市って面白いよねっ♪

 ついでに昭和の時代には、比婆山で雪男の目撃証言が飛び出るし」


 それが噂のヒバゴンなんだねと、末妹も紗良の説明を興味深そうに聞き入っている。護人も同じく、情報通の長女の語りは本当にためになる。

 ちなみに今日の予定だが、さすがに15チーム前後の探索者が集まるので宿泊施設は借りずにキャンプ形式だ。集合場所の『県民の森キャンプ場』は、1千メートル級の山々に囲まれた山深い場所に存在するみたい。


 スキー場も隣接していて、ついでに“比婆山ダンジョン”も目と鼻の先である。ラインによれば、既に甲斐谷チームや岩国チームはキャンプ入りしているとの事。

 一方の来栖家チームは、庄原市の観光も兼ねて割とのんびり道中を満喫中。これも家族サービスと割り切って、お昼ご飯も途中の駅前のお店に立ち寄って全員で賑やかに堪能する。


 来栖家だけでも子供達が騒がしいのに、そこに隣家チームのザジや柊木ひいらぎが加わると破壊的である。周囲から奇異な目で見られるのは、ザジやリリアラがいるので仕方が無い。

 その点は、顔が狂暴なハスキー軍団のお陰で文句を言って来る者もおらず平和である。そんな彼女達も、それぞれお肉をこっそり貰って幸せそうに味わっている。


 2台目のキャンピングカーの運転手の土屋は、後どの位で到着だと護人に尋ねて来る。随分と山深くなって行く道に、やや怖気付いているのかも。

 日馬桜ひまさくら町も山の奥なのだが、さすがにここまで中国山脈に近くはない。いや、似たようなモノには違いないが、やっぱり見知らぬ山々だと調子が狂うのだろう。


 紗良が代わりに、この道をずっと北上すると奥出雲に出るんですよと話題を提供している。ちなみに、今日の合流予定のキャンプ場までは後30分と少し位だろうか。

 最近は、異世界+星羅チームでの探索も増えて来て、土屋女史も色々と感じる事があるのだろう。それから遠征に参加する星羅は、自分の素性がバレないよう念入りに変装している。

 呑気にしてたり気張っていたり、参加者の胸中は様々な模様。




 それから2台のキャンピングカーは、更に北上して途中から256号へと進路変更。その後は迷う事無く、割と険しいグネグネ山道を進んで行く。

 その辺は、地元でも走り慣れているので運転手に問題は無い。2台とも、ルルンバちゃんとズブガジ用にカーゴ車を繋げているので、走行には細心の注意が必要。


 山道に慣れている子供達も、やはり地元とは違う山の気配にはやや気圧され気味。話す声のトーンも、山に分け入って行くにつれて段々と小さくなって行く。

 そしてようやく到着したキャンプ場には、既に何台かの装甲キャンプ車がそれぞれに陣地を作っていた。それを見た来栖家と異世界+星羅チームも、挨拶前に自陣を決めに掛かる。


 なるべく端の方の、他のチームから離れた場所に2台の車でLの時に陣地を設えるのは毎度の事。何しろ両チームとも、女子率が異様に高いのだ。

 そんな訳で、司令部への挨拶も護人と姫香が向かう事になった。男性が1人は陣営に残っていた方が良いとの、過去の経緯からの判断である。


 当然の如く、レイジーとツグミも護衛にとついて来てくれる。自陣の護衛と言う点では、ルルンバちゃんとズブガジがいる時点で難攻不落には違いなさそう。

 来栖家チームの到着を知って、岩国チームの面々が挨拶におもむいてくれていた。護人と姫香は、本部テントへの挨拶を素早く終わらせて自陣のキャンプの支度を手伝う予定。


 キャンプ場はなかなか広くて、10チーム以上がキャンプで過ごすにも不便は無さそう。肝心の“比婆山ダンジョン”の入り口は窺えず、もう少し山の奥にあるのかも。

 レイジーは特に周囲を気にする素振りも無く、堂々とした歩きっぷりで護人の後に続く。周囲にいる探索者チームなど、モノともしないぞとのオーラは凄いかも。

 護人としては、喧嘩は買うぞ的なレイジーの動向は控えて欲しい所。


「あっ、あのっ……お久し振りです、姫香教官っ! 庄原にようこそ、広島の訓練ではお世話になりましたっ!」

「うえっ、ああっ……新人研修で双子とチームを組んでくれた、確か向井君だっけ? そう言えば、地元は庄原って言ってたねぇ。

 それから徳之島(とくのしま)さんも一緒なんだ、地元は近かったっけ?」


 私は世羅せらですと、喋り始めるゴスロリ少女に護人はビックリした表情。反対に大柄の体型で頭は刈り上げの少年向井は、A級チームのリーダーを目にして瞳をキラキラさせている。

 動画は全て見てますと、チームの盾役の護人は向井少年のどうやら憧れのまとらしい。それはありがとうと、かなり個性的な2人を前に顔の引きりを隠す努力に忙しい護人であった。


 まだD級の2人は、もちろん作戦には参加出来るレベルではない。後方サポート要員で、今回の県北レイドに参加を要請したとの事である。

 懐かしいねと、2ヶ月振りの再会に姫香は後でウチのキャンプに遊びに来てと伝言して。また後でねとその場は別れを告げて、本部テントへ護人と一緒に入って行く。

 そんな少女の表情は、末妹の香多奈と会わせたら面白いぞと語っていた。





 ――何にしろ、県北レイドはまだ作戦も始まる前だったり。







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