夏の最後を限りなく有効に楽しむ件
昨日の帰省からの、お隣さんを交えての夕食会は物凄い盛り上がりを見せた。泊まりに来た陽菜やみっちゃん、怜央奈の少女3人も遅くまで騒いでいたようで。
お陰で農家特有の、朝早く起きての家畜のお世話には揃って眠たげな表情。反対に元気いっぱいの和香や穂積のお隣の子供達は、香多奈と一緒にお仕事に励んでくれていた。
それから今日は一緒に遊ぼうねと、約束をしてお互い朝ご飯を食べに自宅へと戻って行って。今日の予定は埋まっちゃったと、末妹は叔父に可愛く報告している。
それは残念ねと、姫香は一緒に協会に報告に行けない事を嘆く素振り。半分以上は揶揄い混じりなのだが、香多奈は本当に残念そう。
能見さんによろしくねと、少女は換金に立ち会う事より友達と遊ぶ約束を優先したようだ。それはそれで立派な事で、何しろ夏休みももう残り僅かなのだ。
一方の陽菜やみっちゃんは、朝ご飯を食べ終えてようやくシャキッと身を持ち直した様子。そして今日の予定を姫香に尋ねて、手伝える事は何でもするぞと客人扱いを返上の構え。
「そうは言うけどさ、私達も向こうの旅館では何日も持て成して貰った訳だし。それを考えると、家の仕事を手伝えなんて言えないよねぇ、護人さん?」
「そうだな、青空市の売り子はやってくれるって話でそれは良いんだけど。それまでは、ゆっくりして貰って全然構わないかな?
こっちも特に、切羽詰まってこなす仕事もないからね」
「ゆっくりするって言っても、ザジに訓練つけて貰う気なんでしょ、みんな? そんなら夕方までに疲れてたら、ザジの扱きに耐えられないんじゃない?
ハスキー達を見習って、木陰でゆっくりしてたらいいよ」
香多奈はそう言って、バッチリ遊ぶ支度をして萌を抱えて出て行ってしまった。それを確認したコロ助と茶々丸が、この暑い中仕事かぁって表情で少女の護衛について行く。
いや、茶々丸にはそんな気は全く無いのかも知れないけれど。レイジーとツグミは、涼しい木陰から動くもんかと体力の温存に務めている。
姫香の誕生日も無事に過ぎて、暦では8月も終わりを迎えていると言うのに。山の上の夏日は相変わらずで、分厚い毛皮のハスキー達には辛いようである。
もっとも遊びに来た陽菜やみっちゃんは、山の上は涼しいなと幾分か過ごしやすそうな表情。そんな訳で、午前中は来栖家にくっ付いて協会に顔見せに行く事に決定。
来栖家の方も、顔見せついでに魔石の換金やら動画編集のお願いをする予定。ちなみに昨日の来栖家の帰郷騒ぎには、魔法アイテムの鑑定やスキル書の相性チェックも含まれていた。
スキル書の相性チェックについては、近所の探索者も含めてやったので、いつもの倍は騒がしかった。そして結果も同様で、何名かの取得者が出て大盛り上がり。
来栖家は相変わらず、スキル書やオーブ珠を売って儲けようなんて考えは微塵もない。これも1つの縁として捉えているのか、相性の良い人が出てくればそれで良い感じ。
最近は紗良が《鑑定》スキルで、どんなスキルかを先に報告してくれている。それが欲しい人が挑戦して、駄目だったよとか盛り上がるのがいつものパターン。
ところが今回は、そんな相性チェック大会で何名もの取得者が出てしまった。まずは茶々丸が『突進』と言うスキルをゲット……物凄くお似合いな選択に、一同は何とも言えない表情に。
本当に必要なのかなとか、そんな呟きも漏れ聞こえてくる中。様子を見に来ていた凛香と美登利が、それぞれ『異変感知』と『植物強化』と言う名のスキルをゲット。
凛香に関しては、元から勘が鋭い所があったねぇと友達の姫香も納得した様子。そうかなと戸惑う本人だけど、探索に便利そうなスキル取得に嬉しそう。
逆に美登利の方は、良いなぁと紗良が物凄く羨んでいる。2人ともリリアラや妖精ちゃんの助手として、温室で植物の面倒をよく見ている間柄なのだ。
その美登利がそっち系のスキルを得た事は、ある意味必然だったのかも。本人は棚ぼた式にスキルが増えて、最近は探索にも行けてないのに申し訳ないとか口にしている。
それを見ていたザジが、オマエも今度鍛えてやるニャとリリアラの弟子にもロックオン。引き攣った笑顔の美登利は、お手柔らかにと返事をするしかない有り様。
陽菜やみっちゃんは、良かったねぇと素直に祝福を口にしている。それにしても“アビス”の許容範囲は凄いなと、そこから入手したスキル書の適合率の高さには皆が驚きを隠せない。
ついでにと言うか、最後にオーブ珠がルルンバちゃんに反応して一同ビックリ。お掃除ロボ形態の彼は、何と言うか存在感は一気に薄まるのだ。
「凄いねっ、ルルンバちゃん……えっと、覚えたのは《魔力炉心》って言うスキルなんだね、紗良お姉ちゃん? 良く分かんないけど、ひょっとしてルルンバちゃんも魔法が使えるようになるのかな?
これはもう、ミケさんに次ぐエースの座も近いかもねっ!」
「ルルンバちゃんの件は良いんだけど……妖精ちゃん、ひょっとしてまた勝手にムームーちゃんに宝珠を与えたりしてない?
物置きに仕舞っていた筈の《闇腐敗》のスキル、ムームーちゃんが覚えてるんだけど」
ええっと驚く来栖家の面々だが、妖精ちゃんは至って冷静な対応振り。仕舞ってるだけじゃ勿体ないダロと、むかつく程に正論を返して得意そうな表情である。
やっちゃったものは仕方が無いなと、護人もこの小さな淑女に関しては諦めた素振り。とにかく、もう1つのヤバ気な名前の宝珠を使われずに良かったと思う事に。
宝珠|《暴食》は、そんな訳で今後も日の目を見る事は無さそう。
そんな相性チェック大会があったのが、昨日の夕食が終わった後の事。今は協会に用のある面々が、例の如くにキャンピングカーに乗車しての移動中。
車内は女子率が物凄く高くて、香多奈がいなくても充分に騒がしい。そんな末妹と和香と穂積は、隼人の車で一足早く麓へ遊びに出掛けて行った。
ちなみに昨日の夜は魔法アイテムの鑑定も行なって、ギルドの仲間で配分するまでやってしまった。“ペンギン村ダンジョン”の品を含めて、“アビス”の探索でも回収品は多かった。
それから女子チームで倒したレア種のドロップ品が、一応はメインな感じ。
【妖狐のお面】装備効果:魅力&身体能力up・中
【妖狐の尻尾】装備効果:変身&身体能力up・大
【三又の銀槍】装備効果:不折&魔法防御up・小
【海馬のピアス】装備効果:水耐性&MP回復up・中
【竜宮のマフラー】装備効果:水耐性&魔力&MP回復up・大
【海神の長槍】装備効果:不折&貫通&衝撃・大
【蟹のブローチ】装備効果:水耐性&物理耐性up・小
【真珠のイヤリング】装備効果:水耐性&魔法防御up・中
その他:『強化の巻物』 (攻撃)×2、『強化の巻物』 (防御)×2、『ダイヤの首飾り』(防御&魔法防御up)×1、『海鉱石のインゴット』×2
女子チームで獲得したワープ装置は、陽菜が管理するそうで全くの別勘定に。それから水耐性の付いたアクセサリー数種は、次回の“アビス”対策に備えて異世界チームと星羅チームが分け合う事に決定。
再び入手出来た『海鉱石のインゴット』についても、また今度ドワーフ親方に装備品にして貰う予定。“ペンギン村ダンジョン”で入手した『キーンブーツ』や『ンチャ眼鏡』は、お土産として凛香チームにプレゼントする事で話は纏まった。
ちなみに、同じダンジョンで回収した高性能の『魔素鑑定装置』は、因島のオッちゃん達に寄贈して既に処理済み。『殺戮のバルカン砲』については、ルルンバちゃんが一応貰う事に。
もっともこれは、魔玉の消費が大きいのでおいそれとは使えない代物である。とは言え、新しく覚えたスキルも含めて、まだまだ成長の余白の多いAIロボだったり。
そして何気に嬉しいのが、花嫁妖狐がドロップした『妖狐の尻尾』だろうか。今までは茶々丸と萌の変身に、1つしかない『変化のペンダント』を共有していたのだ。
例えば茶々丸がキャンピングカーに乗り込むのに、さすがに邪魔になるので人の子供(穂積)の姿になったりとか。萌は小竜姿の方が場所を取らないので、移動の時はペンダントは必要はない。
そんな感じでやり繰りしていたのだが、これで個人専用にしても良いかも。怜央奈などは、ムームーちゃんに与えて人の姿になってご覧と無茶振りをかましている。
さすがにそれは無理なようで、軟体生物に人化の魅力は伝わらず残念な結果に。それでもこの前の妖精ちゃんとムームーちゃんの戦闘動画を観ていた怜央奈は、頑張れば出来る子なのにととっても残念そう。
「あの時は鎧に入ってパラパラ踊ってたよね、ムームーちゃん。色々やれば出来る子なのに、勿体無いなぁ。来栖家の人たちは、子供を甘やかし過ぎだよねぇ」
「それは言えてるかもな、だから香多奈なんてあんな我が侭な子に育つんだ。姫香は割と厳しく接しているのに、紗良姉と護人ギルマスが台無しにしてる気がするな。
幸いにも、ペット達はみんな性格が良くて勤勉だけど」
「まぁ、叱る役目が私で甘やかす役目が護人さんと紗良姉さんってのは当たってるかな。香多奈は確かに我が侭だけど、将来は探索者になって家族を支えるって言ってくれてるし。
まだ子供なんだし、多少のヤンチャくらいはあっても良いんじゃないかな?」
そんな事を話し合ってる少女達は、真剣にギルドの行く末を考えているようで頼もしい限り。ただし軟体幼児の戦力強化に関しては、確かに来栖家は甘々かも知れない。
現段階で戦力が足りてるってのもあるし、幼子に無理をさせたくないって理由もある。実年齢は分からないけど、スライム幼児は親や群れからはぐれた可哀想な子と言う認定なのだ。
来栖家としては、探索について来てくれるだけで頑張ってるねって認識である。ちなみに妖精ちゃんの戦力化に関しては、頼むから大人しくしてくれって思いで一致している。
今回のムームーちゃんに宝珠を与えちゃった事件もそうだが、彼女の行動は何もかもが破天荒で味方に被害が及ぶ可能性も高い。せめて探索中は、香多奈のボッケで静かにしていて欲しいとの家族の切なる願いである。
その流れで、夕方の訓練でムームーちゃんの新スキルの具合も見ておかなきゃねとの姫香の発言に。茶々丸とルルンバちゃんはどうなんだと、陽菜の質問と言うか混ぜっ返しが。
確かにルルンバちゃんなど、新装備に加えて用途不明な特殊スキルも獲得してしまった。普段なら大喜びする所だが、そもそも家族的にはこれ以上強くなってどうするのって疑問も。
そんなAIロボは、お留守番で現在は来栖邸のお掃除中。彼はその気になれば、お掃除ロボ形態でも階段も登れるし、2階の掃除だってお手の物である。
その上、庭や敷地内の草刈りも出来るし、本当の意味で万能ロボには違いない。これじゃ、確かに闇企業も欲しがる訳だと、陽菜の呟きもスパイスが効いているかも。
そっちの件に関しても、近い内にまた宮藤と接触して話し合う予定。それでも異世界チームの協力は取り付ける事は出来たし、岩国チームも助けてくれるとの話でかなり気は楽になった。
ムッターシャからは、敵をどうしたいのかと改めて尋ねられてドキッとした護人である。こちらとしては、ちょっかいを掛けられなくなればそれで良いとも思う。
ただし、世間的な落とし処はもはや後戻り出来ないポイントまで突き進んでいるのかも。巻き込まれて死傷した探索者や、向こうの敷地内では動物実験も繰り返されているらしい。
だからと言って、護人が完膚なきまで叩きのめすと決めつけるのも違う気がする。確かに被害者の家族だし、ペットや子供を狙われているのは確かだけど。
或いは宮藤たちは、その辺はもっと非情な結末を用意している気も。
――嫌な因縁は、切り離すのに苦労と覚悟が必要みたい。
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