旅行を終えてようやく来栖邸に戻って来た件
数日振りに目にした来栖邸の敷地は、相変わらず長閑でどっしりしている感じ。一気に成長を果たした裏庭の精霊樹の、見慣れない違和感は拭えないモノの。
邸宅として見たら、良いアクセントになっている気がしなくもない。キャンピングカーから降りながら、そんな事を呑気に話し合う子供達である。
ハスキー達も車を降りて、敷地内に変な輩が入り込んで無いか速攻でパトロールへ。勤勉なのは、探索でも普段の生活でも変わらない彼女達である。
他の面々も、数時間のドライブで凝った体をほぐしながら下車して行く。それからお土産やら荷物の詰まった魔法の鞄を車から降ろして、旅行の締めを家族総出で行う。
そんな感じで騒がしくしていると、家族の者が返って来たと厩舎内が騒がしくなって来た。ついでにお隣さん達も、来栖家の元気な顔を見ようと家から出て来る。
途端に騒がしくなった敷地内だが、子供達は元気に対応して挨拶をしたり家畜たちを見に行ったり。護人も荷物を家へと運び入れて、留守番をしてくれていた『シャドウ』の面々とご対面。
そこからは大人の挨拶が始まって、お互いに労いの言葉だの情報の交換の時間が少々。そして一緒について来た陽菜やみっちゃんも、久々の来栖邸に何となく感動の素振り。
良く分からないが、ギルドの拠点にやって来たぞ的な盛り上がりを、怜央奈と3人で見せている。ただし、ここに来た本当の目的は入手した『ワープ装置』のゲート位置の記憶に他ならない。
それさえ済めば、後は尾道の拠点と行き来し放題である。
メインの目的はそれに他ならないけど、せっかくなので数日は泊まって行くとの少女たちの申し出に。もちろん歓迎するよと、相変わらず来栖邸は騒がしい有り様。
今まで留守番をしていた『シャドウ』のメンバーは、それなりに健康的な生活を送っていた模様。もちろん夕方には特訓に混じって、ムッターシャやザジに扱かれていたそうな。
本人たち的にも、その経験はとっても有り難かったみたいで幾分か凛々しくなった気も。そして留守の間は何も無かったと、ある意味ホッとする報告を聞く護人であった。
ただまぁ、向こうの福山市ではこちらがひと揉め起こしていたのだが。
「えっ、そんな事になってたんですか……やっぱり一度ロックオンされたら、なかなか標準は外せないですね。向こうもそれで一儲けを企んでるし、企業を敵に回すと厄介ですよ。
護人さん、こちらも性根を据えて本格的に迎撃態勢を整えないと」
「いやまぁ、それが一番ならそうするけど……子供達はなるべく巻き込みたくないし、どうしたモノかな。こっちも挑発のつもりで、福山のダンジョンに探索に出掛けたつもりだったんだけど。
意外と大物が釣れて、困り果てている所なんだ」
「その大物との戦闘シーン、バッチリ動画に映ってるよ! ムッターシャ師匠と一緒に、早速みんなで視聴しようか。
取り敢えず、庭先で話さないで家に入ろうよ」
そんな姫香の提案に、ぞろぞろと移動し始める一行である。お泊まり組の陽菜たちも、遠慮なく来栖邸の玄関を潜ってリビング方面へ。
香多奈は4人にお土産ねと、“ペンギン村ダンジョン”で回収したコミックやフィギュアを配っている。『シャドウ』の面々は、その奇天烈な品々に何だコレ的な表情に。
それを見て、いきなり散らかさないでと末妹を叱り始める姫香。紗良はリビングや台所をチェックして、4人が綺麗に使用してたのを確認して一安心している所。
ミケは、途端に騒がしくなったリビングに辟易しながらいつもの定位置に。妖精ちゃんも同じく、梁の上の住居に戻ってひと心地付いている。
ルルンバちゃんは、早速いつも通りにリビングの掃除を始めている。護人が姉妹喧嘩を宥めている間に、怜央奈が気を利かせて動画視聴の準備を始めてくれている。
さすが人慣れしていると言うか、香多奈に次いで幼い少女ながら要点は抑えた行動振りだ。それを見た陽菜とみっちゃんは、紗良姉さんのお茶の準備の手伝いに。
何故かお客の方が働き者と言う、変わった空間にようやくムッターシャチームがやって来た。ついでに凛香や星羅、土屋女史や柊木もいるがそこはご愛敬。
追加の席を用意しながら、怜央奈主宰の動画視聴は来栖家の大画面のテレビに映し出された。江田島の新造ダンジョン探索や因島の活動は、今は関係ないので端折るねとの言葉と共に。
「そうだね、その辺まで観てたら10時間以上掛かっちゃうもんね。要するに、この前の日馬桜町の駅前の騒動を起こした、その裏で糸を引いていた存在的な連中?
その企業の子飼いの探索者集団が、私達を襲撃しようとダンジョンに入って来たんだよ。その中に、間違いなく異世界の住人って人物が混ざってた感じ?」
「ほう、それは興味深いな……まぁ、ダンジョン経由でこっちの世界に辿り着いた者は、俺たちだけじゃないとは思っていたけど。
さて、どんな奴か拝見させて貰おうか」
「メッチャ強かったよ、そんで顔がライオンなのっ! あれは師匠の世界でも、きっと名のあるチンピラさんじゃないかなっ!?」
妙な言葉の使い回しで、あっさりとネタバレを行ういつもの香多奈は置いといて。その言葉に、ムッターシャに同伴したザジやリリアラは獅子獣人かと興味深そうな表情に。
ザジは猫獣人だけど、獅子獣人ともなるとあらゆる面で戦闘種族でハイスペックなのだそう。そのせいで、冒険者となったり傭兵で名を上げる連中は多いみたいである。
そんな種族と遣り合ったのかと、ムッターシャは何となく羨ましそうな顔で護人に視線を送っている。戦闘ジャンキーなのは相変わらずで、新しく立ちはだかる敵にオーラ全開で喜んでいる感じ。
それを頼もしいなと見遣る陽菜とみっちゃんも、普通の少女とは感覚が違うのだろう。そして来栖家のテレビに映される、護人&レイジーVS獅子獣人の死闘の一部始終だったり。
部下に関しては何とか撃退出来たけど、敵のトップ2の実力は追い返す事が出来て良かったとの感想しか無かった。この戦いで縁が切れたのを望むも、それもちょっと無理な気が。
動画はカラスの仮面と姫香の死闘も映しており、コイツも異世界の冒険者かもニャとザジの呟き。確かに独特な戦い方をしており、強さも獅子獣人に準ずるモノが。
ハスキー達の手助けがあったとは言え、よく5体満足で切り抜けたニャとのネコ娘の感想である。姫香も同意見らしく、もっと強くならなきゃねと前向きなコメント。
この性格は称賛すべきだが、護人からすれば悪縁を切って相手にお下がり願う方が現実的である。ただまぁ、ムッターシャチームがサポートに入ってくれるなら、全面戦争もやむなしと割り切れるかも知れない。
岩国チームの面々も気に掛けてくれてるし、本当に今のサポート体制には感謝しかない護人である。協会本部からも2人ほど差し出して貰ったし、今の境遇は思ったほどは悪くはない。
敵も強いが、味方も頼りになる面々に囲まれている感じだろうか。来栖家チームとしては、出来る事は姫香の言うように自己強化に努めておく位。
護人の探索は副業も、そろそろ苦しい言い訳になって来た感が。
「ふむっ、獅子獣人の大剣使いか……コイツの噂は、向こうの冒険者の間でも有名で俺も聞いた事があるな。確かダンバーって名前だったかな、通り名は“緋の鬣”のダンバーだった筈だ。
副官の男は“闇羽根”のネジェルだったかな、カラスの仮面で顔を隠しているが間違いは無いだろう。
両者とも傭兵上がりで、剣の腕……いや、殺しの腕前は俺より上かもな」
「うわっ、通り名まであるなんて強い証拠ですよね……でも何でコイツ等、たった1チームで襲撃に来たんでしょう? 確実にここで決めるのなら、もっと人数を掛けれたでしょうに。
我々が集めた情報だと、チーム『哭翼』は10人以上は在籍している筈ですよ」
「そう言えば、何か副官の人が言ってたっけ……リーダーの人が、こっちの力を知りたがってるみたいな? 案外とそんな感じで、企業の思惑とは別の向こうの暴走だったのかも知れないね。
準備不足で来られて、本当に助かったよ」
『シャドウ』のリーダー三笠の問いに、思い出しながらの姫香の返答。護人もそうだったねと相槌を打ちながら、短絡的に敵を挑発した件については改めて反省の言葉を述べる。
温厚な来栖家のリーダーの“ヤブ蛇”案件については、周囲からは概ね仕方ないとの意見が。待ちの状況の辛さは、誰しも理解出来るとの同情の言葉が各所から掛けられた。
それより一矢報いた事で、向こうは今後動き辛くなるだろう。こちらもそれを含めて、なるべく安全に事を収める案を出したい所ではある。
陽菜やみっちゃんも、もちろん及ばずながら手を貸すと温かい言葉を発する。山の上の住人に関しては、当然と言うか既に運命共同体みたいな態度である。
それより何か、敷地内への入り口が開拓されてたねと香多奈の言葉に。ムッターシャと一緒に訪れていたリリアラが、異界の業者に頼んでやって貰ったわとあっさりと告白した。
何それと驚き顔の子供たち、初めて聞いたリアクションに、一応モリトには話を通しておいたわよとリリアラも小首を傾げる。そんな護人も驚き顔、まさか異界から職人を招くなど考えてもいなかった。
いや、確かに柊木と三杉の新居の相談は受けて、その許可も出した覚えはある。しかし予想外の素早い着工に、完全に意表を突かれる形となってしまった。
エルフは長生きし過ぎて、時間の概念がおかしいとザジなどがよく口にしていたけれど。まさかリリアラが気が短い方だったとは、思いもしなかった護人である。
そんな敷地内の入り口は、凛香チームや異世界チームの住む4軒家の前の道の反対側が一部整備されて綺麗になっていた。それから柊木と三杉の新居も、半分以上が完成しているとの事。
現在は新婚旅行から戻って来た両者は、その敷地に貰ったキャンピングカーを泊めて生活中らしい。そしてその反対の山の上に、例のリリアラの研究塔が建設中。
後で確認して頂戴と、リリアラはどことなく自分の居城に誇らしそう。何にせよ、この山の上のギルド拠点も、良い方向に成長を遂げている模様。
それを含めて、後で案内してあげるよと友達に請け合う姫香であった。海の生活に馴染んでいる陽菜やみっちゃんも、山の上の生活は楽しみだと笑顔での返し。
それを聞いたザジも、またお泊まりして行くのかニャと弟子たちへお伺い。今回も特訓お願いしますと、両名も師匠へ熱い懇願を投げ掛けている。
夏も終わりに近づいているとは言え、山の上もまだまだ猛暑の日々が続いている。それに燃料をくべるような少女たちの熱さは、周囲には何ともはた迷惑。
それでも強くなるなら一緒にねと、姫香もそのノリについて行く勢い。今回の旅行で強敵の姿も見えて来て、負けたくないと言う思いは一層強まったのかも。
それにはムッターシャも感銘を受けて、護人を見遣って負けていられないなと言う顔付きに。とんだ飛び火だが、家族を護るための強さは当然必要だ。
その為の訓練なら、進んで受けるべきだろう。
「それじゃあ……来栖家が戻って来たんで、僕らは一旦岩国に帰りますね。また青空市の時には、他のチームと一緒に日馬桜町に戻って来ますけど。
何か進展があれば、遠慮なく呼び寄せて下さい」
「ああ、本当に留守番ありがとう……お土産に野菜と卵と牛乳を、たっぷりと持って帰ってくれ。
『ヘブンズドア』と、それから『グレイス』のメンバーにもよろしくな」
「本当にありがとうね、帰るべき我が家を守ってくれて。本当にいらないの、このフィギュアとかゲームのカセットとかイラスト集?
みんなへのお土産だから、遠慮する事無いのに」
それはダンジョンで偶然拾った回収品でしょと、末妹の押し付け行為を諫める姫香。『シャドウ』の面々も困り顔で、野菜と卵だけで充分だと愛想笑いを浮かべている。
それでも、夕飯だけでも食べて行ってとの紗良のお誘いには、揃ってもちろんとの返答。山の上の他のチームとも、この数日で随分と打ち解けたようで何より。
地元の本拠地に関しては、こんな感じで留守の間も問題は無し。
――この調子で、この後に控える難問も突破して行きたい所。
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