闘技場の中央で家族の再会を喜び合う件
どうやら香多奈達が飛び込んだゲートは、前の層の闘技場の中央に繋がっていたようだ。そこには倒されないままスタン張っている、屈強なエリア番モンスター達が手ぐすね引いて待っていた。
そこにまんまと飛び行った、夏の虫ならぬ香多奈チームの面々である。大慌てで周囲の状況を把握に掛かるが、敵はもうすぐそこ。ダンジョン逆行の弊害が、まさかこんな形でチームを襲うとは。
まぁ、ちょっと考えたら分かるのだが、残念ながら香多奈チームには熟考タイプの知恵者はおらず。そんな訳で、いきなりボス級門番タイプのモンスター達と、鉢合わせからの戦闘開始である。
敵は輿に乗ったでっぷり太ったオークキングと、その輿を担いでいる屈強な体格なオーク兵達だ。屈強オークは、ひょっとしたら将軍か職持ちかも知れない。
香多奈チームが幸運だったのは、連中が輿を地面に降ろしたりと戦闘準備に時間が掛かっている事。その隙に、こちらも態勢を整えて後衛の末妹はオークたちと距離を取る事に成功。
もちろん前衛陣には、敵の準備を待つ義務も何も無い。堂々と先制で『牙突』スキルを放つコロ助と、容赦なく炎のブレスを放つ萌である。
萌の広範囲スキルは、太ったオークの王様まで巻き込んで良い調子。このまま楽勝で、こちらのペースに持ち込めると思った香多奈だが目論見はかなり甘かった。
怒れるオークの担ぎ手たちは、ダメージに怯む事なくマッスルパワーでタックルを仕掛けて来た。それに巻き込まれたのは、慣れない甲冑を操る軟体幼児のみ。
とは言えそれは予想内、香多奈チームに何の痛痒も無し。
「頑張れみんなっ、ムームーちゃんも倒れてないでちょっとは反撃しなきゃダメだよっ! コロ助に萌っ、あの太っちょが戦いに参加する前に部下を全部やっつけて!」
「フムッ、敵はオークキングとその部下たちだナ……今のこちらノ戦力だト、ギリギリ倒せるかどうかッテ感じカ。
仕方なイ、私も限界まデ魔力を出し切るカラ意地で押し切るゾ!」
妖精ちゃんの喝は体が小っちゃ過ぎて、戦闘中の前衛陣には残念ながら届かず。香多奈の『応援』を貰ったコロ助と萌は、スキルに続いて接近戦で敵のオーク兵へと挑みかかる。
それに続いて、綺麗に仰向けに倒れている甲冑から、突然水の槍が3本ほど飛んでマッチョオークへと着弾。ほぼ不意打ちで集中砲火を浴びた敵の1体は、反撃の暇もなくお亡くなりに。
そしてコロ助と萌のペアも、華麗なコンビネーションで2体目を撃破。敵の装備は革製で、役職は高いかもだが防御力はそれ程に高くはなかったみたい。
これは順調とか思っていたら、不意に向こうの反撃が襲い掛かって来た。オークキングの咆哮からの、オーラの波のような衝撃波が前衛陣に襲い掛かる。
それは物凄い威力で、敵どころか味方すら巻き込んで、倒れていた甲冑ムームーちゃんまで数メートル転がされる始末。かなりの大技に、慌てまくるコロ助たち。
それに乗っかる形で、残った2体のオーク兵士がハイパー化に至った。筋肉ムキムキで、上半身の装備は吹っ飛ぶ勢い。そのラッシュを受けて、再び吹っ飛ぶコロ助と萌の前衛コンビ。
いや、コロ助は途中から《防御の陣》を張り巡らして、その攻撃をブロックしていた。敵のハイパー化は物凄くて、自らの防御を無視して全ステータスを攻撃に回したような勢い。
そして吹っ飛んで行った両者を追いかけて、かなりの勢いでのタックルをかまして来る。その迫力にビビる末妹だったけど、転がってた軟体幼児は違った様子。
自分のタゲが外れているのを良い事に、すくっと立ち上がって再度の《水柱》スキルでの援護射撃。ハイパー化のせいで視界の狭まっていたオーク兵は、避ける事も出来ずに背後からモロに被弾する。
そして見事、キル数2個目をゲットしたムームーちゃんであった。残った1匹は、勢いのまま突進してコロ助の《防御の陣》を破れないでいる。
その隙に、何とか体勢を立て直そうとするチビッ子チーム。
ところが近付いて来たオークキングが、たった一撃で甲冑ムームーちゃんの頭部を跳ね飛ばしてしまった。もちろん飛んで行ったのは甲冑部分だけだが、見た目だけだと物凄く心臓に悪い。
その後に蹴り飛ばされて、再びスッ転がされる哀れな軟体幼児の甲冑である。後衛から上がる悲鳴の中、甲冑から秘かに脱出するスライム幼児だったり。
荒ぶるオークキングの標的は、そんな訳で煩く騒ぎ立てる後衛陣へと向いてしまった。狙った訳ではないが、何とかムームーちゃんの安全はこれで確保出来た。
その間に、香多奈と光の精霊は吹き飛ばされた萌の治療活動を行う。派手に吹き飛ばされた割には、上手く受け身を取ったのか萌のダメージは幸いにも軽症で済んでいる。
それよりも、問題なのは残ったオーク兵と怒れるオークキングのセットだ。巨大化を維持したコロ助は、その両者のヘイトを取って見事に盾役を務め始める。
とは言え反撃の切っ掛けを掴めずに、チームは防戦一方でジリ貧模様。それを見兼ねた妖精ちゃんが、攻撃は自分に任せろと兎の戦闘ドールに全魔力を注ぎ込んでの戦闘指令。
その瞬間、縫いぐるみに劇的な変化が訪れた。
いつもの倍以上の体積に膨れ上がったかと思ったら、背中には妖精のような透明な羽根が。体型も女性のようにスリム化して、これは妖精ちゃんの思念の投入の成果かも。
そしていつものように手首から飛び出す2本の鋭利な刃が、攻撃に夢中なオーク兵をあっという間に斬り刻んだ。それを見たオークキングも、体型に似合わぬ素早い攻撃をドール相手に繰り出す。
兎の戦闘ドールは、流麗な動きでそれらの攻撃を躱して、まるで蝶の舞いのような華麗なディフェンス振り。そして反撃の刃は、確実にキングの肌を斬り刻んで行く。
敵の大将も負けておらず、深手を負ってもその動きに遅延は無い。どうやらタフネス系のスキルでも持っているのか、仕舞いにはお得意のハイパー化がやって来た。
これには、ようやく出番の回って来たコロ助も加勢しての壮絶なド突き合い。一歩も引かないコロ助と、素早い動きで傷を増やしていく兎の戦闘ドールは、即興にしては良いペア振りである。
その瞬間が訪れたのは、殴りド突かれの争いが数分続いた後の事だった。ようやく兎の戦闘ドールが、敵の急所の首筋へとその刃を食いこませる事に成功した。
それを受け、派手に倒れて魔石化して行く闘技場の主のオークキングであった。それを見届けた後、さすがのコロ助もその場へとへたり込む有り様。ついでに兎の戦闘ドールも、魔力切れで元のサイズへと戻っていった。
時間にして、実に10分以上の熱戦だったけど、体感では30分以上は戦っていた気分。とにかく頑張ったコロ助を治療してあげたいが、何と香多奈も魔力切れを迎えており。
頼みの光の精霊も、召喚切れでバイバイされてしまうと言う顛末である。
「ああっ、コロ助……ごめんね、魔力も薬品ももう底を突いて治療出来ないよ。あっ、そうだっ……そこの宝箱に、回復ポーションくらいは入ってるかもっ!?」
「そうだナ、ついでニ私もエーテルヲ所望ダ!」
完全にグロッキーな妖精ちゃんは、珍しく地面にへたり込んで一歩も動けないのポーズ。香多奈もかなり苦しいけど、頑張ったみんなのためにここは何とかしないと。
そんな責任感に突き動かされて、転がってる魔石もついでに回収して宝箱の前へ。何とか動ける萌が、軟体幼児を回収してそれに付き従ってくれる。
闘技場の隅っこに置かれた宝箱は、割と豪華な設えで罠の類いは無い模様。ムームーちゃんが箱の隙間から入り込んで、それを知らせてくれると言うファインプレーを発揮してくれた。
そうして開けた箱の中身は、なかなかに豪華で思わず末妹の表情にも笑みが浮かびそうに。それを我慢して、目的の薬品を手にしてガッツポーズの香多奈。
これで何とか一息つけそう、取り敢えずは休憩して全員の回復が先だけど。ひょっとしたら、すぐそこまで救助隊が来てるかもだし、希望は捨てなくて良さそうだ。
エーテルも見付かったし、これで香多奈と妖精ちゃんのMPも回復出来る。さすがの香多奈も、これ以上無茶をして上層を目指そうとは思わなかった。
助けが来るまで、どこかに身を潜めておくのが得策だ――。
第3層に潜ると、一行の前に立ち塞がるモンスターの質が明らかに1ランク強くなった。サソリ獣人もそうだが、コウモリ獣人なんて見慣れない奴らも出現し始め。
それを相手取るザジは、とっても楽しそうでキル数を順調に伸ばしている。土屋女史も堅実な戦いで、その相方をサポートしている。
レイジーも相変わらずの先行探査全振りモードで、戦いはそっちのけで火の鳥連合の視界共有を行っている。その情報の共有はかなり疲れるようだが、何とも頑張り屋さんには違いない。
見守る護人としては、励ますのみで手助け出来ないのがもどかしい限り。さすがに《心眼》スキルは、そんな遠くまで見渡す事は不可能なのだ。
それでも20分後に到達した闘技場フロアでは、ミケと共にそこの門番と対峙する事に。ようやく戦いの順番が回って来たが、そんなのに時間を掛けている場合ではない。
護人だけでも相当な戦力なのに、ミケも加わるとなると相手としては大変だ。門番ボスは巨大な食虫植物タイプ2体だったけど、何と2分も持たずに魔石に変わって行った。
お供として、大きなサイズの蜂が数匹出現したけど関係無し。ミケの『雷槌』で一瞬にして消し炭にされて、足止め役もさせて貰えずの顛末。
護人もそんな相棒に負けないように、本体の食虫植物に斬り掛かって行く。ついでに“四腕”を発動させての、予備の武器のシャベルで『掘削』スキルで敵に大穴を開けての止め刺し。
護人としては格段に張り切った感じは無かったのだが、結果として戦いは短く済んで何より。猫娘が宝箱の中身を回収するのを待って、レイジーのMP補給をしてすぐに次の層へ。
そんな感じでほぼ間を置かず始まった、第4層の探索である。ここもレイジーの炎の小鳥10連からの、ルート選定から始まる流れに。
ところが、この層はそこから勝手が違って一同驚きの展開に。炎の鳥を操っていたレイジーが、突然に遠吠えを始めたと思ったら。
先頭に立って、ダッシュでダンジョンの奥へと進み始めたのだ。それに仰天する残りの面々だが、何かを発見したのは間違いないと同じく駆け足で追随する。
そこからの駆け足での殲滅戦は、なかなかに派手で凄かった。それでも足を止めないレイジーに、全力で出現する邪魔な敵を屠りに掛かるメンバー一同。
特にミケなど、《昇龍》を発動させての先導で珍しく大張り切り。迷子の末妹達が気掛かりなのは、どうやら彼女も一緒らしい。
結果、信じられないスピードで、一向は闘技場を見下ろす観客席エリアに到着。
「……香多奈っ、無事だったか!?」
「叔父さんっ、良かった……みんな無事だよっ! 私を追って来た悪者達は、全員がこの下の層でダンジョンの養分になっちゃったけど」
「カナ、無事で良かったニャ……あれっ、この層の番人はどこニャ?」
そんなのとっくに倒しちゃったよと、大威張りの香多奈と妖精ちゃんである。土屋は迷子の発見を地上にもたらすべく、護人から巻貝の通信機を奪い取って報告を行い始める。
何しろ救護チームのリーダーは、末妹発見の安堵感でしばらく使い物にならなそう。まぁ、闘技場の中央で抱き合う護人と香多奈の姿には、土屋も思わずウルッと来そうになったけど。
地上にも同じく、心配して報告を待っている者達が大勢いるのだ。それにしても、こんなテロ行為をしでかした連中は、証拠も残さず消え去ってしまったらしい。
ダンジョンの特性は、こんな時には厄介だ……連中の目的や背後に潜む者、それらが全て闇の中ならぬダンジョンの腹の中である。改めて探そうにも、手掛かりが少な過ぎる。
A級探索者チームにちょっかいを掛けるなんて、命知らずもあったモノだが。それでも荒事に及んだ、手引きした者達の真意が分からず不気味ではある。
それでも、今後に関してはこっちだって警戒するし、逆襲だって可能かも知れない。その時は、当然ながら『日馬割』ギルド総出で戦争である。
そんな物騒な事を考える土屋だが、他のメンバーも同じ思いに違いない。
――悪い奴らは、その時になって後悔しても既に遅いのだ。
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