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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の春~夏の件
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7月後半の予定を粛々と決める件



 今は日馬桜町の探索者支援協会に報告に行った帰りで、相変わらずキャンピングカーの中は子供たちの声で騒がしい。そして車の外も、気の早い蝉の鳴き声で同じくらい騒々しくて。

 山の田舎もすっかり夏模様、暑い日差しと青々とした山の葉っぱ。香多奈が夏休みだと浮かれるのも、仕方が無い事ではあるのかも。

 何しろ、あと1週間もすれば終業式なのだし。


「アンタ6月と7月の2ヶ月しか、学校通ってなかったじゃん。それで夏休みだーーって浮かれるのも、私はどうかと思うけどねぇ?」

「それはそうだけどぉ、休学中の時は大人しく家で勉強してたじゃん! ちゃんとした休みなんだから、遊びの計画立ててもいいじゃんか!」


 それもそうかなと、そこは大人しく引き下がる姫香だった。ただし、家畜の世話があるから泊まり掛けの旅行は難しいかもねと、末妹に釘を刺すのは忘れない。

 それはもう宿命なので仕方が無いけど、1日か2日なら植松夫婦とか頼み込める人がいない訳では無い。そう護人が口にすると、それに反応してやったぁと幸せ絶頂の香多奈。

 やっぱり海かなぁと、夢見がちな言葉を呟く少女である。


 その前に、2人が研修で家を空けるなら、敷地内のダンジョンの間引きもしないといけない。何しろ3つ目が手つかずで、かなり長い間放置されているのだ。

 これは早急な案件だから、来週辺りにお願いするよと家長の言葉に。任せておいてと、勇ましい子供たちの返事である。

 その代わりと言ってはアレだが、夏休みのイベントは企画してあげたい護人。


 車は何事も無く、そのまま来栖邸へと到着して。元気に飛び降りる子供達&ハスキー軍団、それから各々が仕事へと取り掛かり始める。

 家畜の調子を見に行ったり、周辺の警護を開始したり。紗良と姫香は、夕食の献立をどうしようかと喋りながら母屋へと向かっている。

 護人は車を車庫に入れて、それから厩舎にいる香多奈のお手伝い。



 それから何事も無く時間は進み、家族全員が夕食とお風呂を終えて。いつもの様に、リビングで皆が好きな場所に陣取って勝手に寛いでいる時間。

 もそもそと香多奈が動き出しての、鑑定会を開始しますの告知に。まずははりの上にいた妖精ちゃんが反応、少女の肩へと舞い降りて来る。

 それに続いて家族の皆も、そう言えばまだだったねと集合して。


「宝石眺めるのに時間掛け過ぎて、鑑定をまだしてないの忘れちゃってたね。そう言えば、香多奈が学校から戻るまで待とうって話だったっけ?」

「今回は数が多いから大変だよ、お姉ちゃん……まずは妖精ちゃんに、怪しいの聞いてから始めよう! この綺麗な剣と鎧の一式なんて、とっても凄そうなんだけど!」

「秘密の宝部屋に、これ見よがしに置いてた奴だったかな? 価値は高そうだけど、自分たちがそれを装備するとなると、ちょっと躊躇うかな……」


 何しろ大仰だし、途端にファンタジーとか中世感が溢れて来る防具一式である。剣だけならともかく、重い防具を装着しての探索ってどうだろうと護人は思う。

 姫香もそれを着るのは御免だと、売り候補に真っ先に挙げてる始末。それでも取り敢えずは鑑定はすべきかなと、どうしても目立つ一品ではある。

 他にも候補は、割と盛りだくさん。


 薬品の中にも初見の色の奴があるし、中ボスゴーレムが落とした平たく硬質な石も用途不明だ。それから妖精ちゃんは、包丁と照明器具の中から1点ずつ、他にも宝石箱の中から2点の品を選りすぐってくれて。

 やり遂げた満足げな態度で、自分を労っているのは可愛くはあるけど。大威張りで少女を下僕扱いするのは、やめて欲しいなと常々思っている香多奈である。

 それから仁志支部長が驚いたプレートも、当然鑑定の対象である。



【真珠の首飾り】装備効果:HP増加・中

【ルビーの指輪】装備効果:MP増加・中

【鑑定プレート】使用効果:木の実専用・永続

【永刃の包丁】使用効果:研ぎ直し不要・半永続

【魔法の照明器】使用効果:電気不要・半永続

【護りの玉石】装備効果:防御up・永続

【硬化ポーション】服用効果:防御up・小

【ミスリルの剣】装備効果:ミスリル製の剣

【ミスリルの鎧】装備効果:ミスリル製の鎧



 妖精ちゃんの助言でチョイスした、怪しい包丁と家電であるけど。何と両方、魔法の品だったと言う結果に。包丁は研ぎ直しが不要の効果、照明は電気が不要で明かりを灯してくれるそうだ。

 恐らく魔石が内蔵されていて、それで稼働するのだろうけど。それとも変質していて、器具が自分はそう言うモノだと思い込んでしまった結果なのかも。

 良く分からないが、両方とも便利な魔法のアイテムではある。


 念の為にと鑑定した剣と鎧のセットだけど、残念ながら魔法の効果は付属していなかった。それでもミスリル製の武具は、探索者には1ランクアップに相当する良品らしい。

 護人と姫香はそんな大袈裟な防具を着込む予定は無いので、これも売りに回す事に。勿体無いけど、死蔵するよりはマシだとの結論に。

 何しろ、見た目からして相当派手なのだ。


 中ボスゴーレムの落とした硬質な平たい石は、“護りの玉石”と言うらしい。青緑色の平たい石で、効果は装備に組み込めば防御力が永続的に上昇するそうのだが。

 使い方がイマイチ分からず、取り敢えず保留して置く事に。それから“硬化ポーション”と言う薬品も、飲めば防御力が一定時間上昇する秘薬との事。

 さすが、硬い敵がうろついていたダンジョンだけはある。


 それから仁志支部長も驚いていた“鑑定プレート”だが、どうやら木の実専用みたい。と言う事は、他にも専用分野は色々と存在するのだろうか?

 それより驚きの機能は、これが何度も繰り返し使えると言う事だ。そう言えば、ウチにも未鑑定の木の実が結構溜まっていたねと姫香の言葉に。

 後で全部鑑定しようねと、楽しそうな香多奈が続く。


 “真珠の首飾り”と“ルビーの指輪”は、今までで入手した魔法の品の中で、恐らくはピカ一の性能だった。即戦力アップに間違いなく、誰が装備するかひと悶着ありそうなのだが。

 一番欲しがりそうな紗良と姫香が、こんな高価そうなモノを付けるのはちょっとと、まさかの辞退を申し出て。確かに元は、高価な宝石を加工した装飾品である。

 危険な探索にお洒落して、なんて感覚は確かにヘンかも。


 いやしかし、性能は凄く良いのだ……香多奈は両方欲しがったが、これは姉たちに黙らされて却下の流れに。最悪、改造して犬達につけて貰う形になるかも。

 他にドロップした武器や木の実、薬品類や鉱石の管理は紗良に任せて。これで終わりかなと護人が窺うと、魔石を袋に仕舞っていた紗良が赤い魔石を2つ取り出した。

 それは妖精ちゃんの助言で、売らずに取っておいたピンポン玉サイズの良品で。


「前にゲットした“強化の巻物”を発動するのに、これが必要だって言われて取っておいたんですけど。どうやって使うのかなぁ、妖精ちゃんが知ってるの?」

「手伝うよ、紗良お姉ちゃん……妖精ちゃんの説明だと、巻物を拡げてそれから所定の位置に強化したい武器と赤い魔石を乗せればオッケーだって。

 姫香お姉ちゃん、武器持って来て!」


 仕方無いなと、愛用の鍬を勝手口から持って来る姫香。戦闘に使うたびに研ぎ直しているので、今も割と綺麗で使い込んだ風格すら漂って来る逸品である。

 普通は納屋に置いておく農具なのだが、愛用の武器と化してからは勝手口に置かせて貰っていて。何か不測の事態があれば、素早く手に取れるようにしているのだ。

 ただし、その武器の強化と言われてもピンと来ない姫香。


 それは護人も同様で、巻物が2つあるならついでにやって貰おうと。愛用のシャベルを持って、縁側に用意された儀式の間へと向かう。

 妖精ちゃんの指示は凝っていて、本当にある種の儀式のようだった。蝋燭ろうそくを用意したり水の入ったコップを置いたり、お皿に盛り土や盛り塩をしていたり。

 それを見て、思わず愛用の鍬を差し出すのを躊躇ためらう姫香。


 仕方無く、護人のシャベルを最初にして貰う流れとなって。香多奈が調子に乗って、それを厳かに巻物の上へとセットする。それを確認した妖精ちゃん、何やら空中で怪しげなダンスを踊り始めて。

 良く分からないが、それら全てが本当に必要な事なのだろうか? 護人と姫香が顔を見合わせて混乱している間に、巻物から赤い光が放たれて行って。

 無事に武器強化は終了したのか、やり切った表情の妖精ちゃん。


「あっ、シャベルの形が微妙に変わってるね、護人叔父さん……横の根切り部分が伸びて、ちょっとシャープな矢尻みたいな形になってるよ。

 これは強化なのかな、護人叔父さん?」

「どうだろう、でも以前のより手にしっくり来る気もするな……軽くなったのかな、取り扱いも楽になってるような」


 それは凄いねと、単純な姫香は強化への不安はすっぽりと消え去った様子で。私のもお願いと、妹へ愛用の鍬を差し出す構え。それを香多奈がセットすると、妖精ちゃんは再度の空中の舞を披露し始める。

 同じように赤い光が縁側を支配して、無事に出来上がる強化された備中鍬びちゅうくわ。その変化は護人のシャベルより極端で、鍬の先の金属は捻れて長さも不揃いに。

 傍から見たら、まるで長柄の大鎌にも見える。


 見た目は確かに、貫通力は上がっているように感じる。ただし、本来の土を耕す目的にはもう使えそうにはない。少しがっかりした姫香だが、持ちやすさは確かに上昇している。

 まぁ、良かったと思う事にしようと、2人の感想はそんな程度。それでも儀式を執り行ってくれた妖精ちゃんには、丁寧に感謝の言葉を捧げて。

 これで今夜の鑑定会は、だいたい終わった感じ。


 いや、まだ鑑定プレートの性能チェックが終わっていなかった。とは言え、貯め込んだ木の実は結構な数のストックがあったりするので。

 明日にしようとの提案があって、ミケとツグミの新獲得スキルのチェックと一緒に翌日に回す事に。私は明日も学校だよと、1人納得のいってない香多奈だけど。

 もう少しで夏休みじゃんの、姉の一言で機嫌は直ってしまった。


 今週と来週は頑張るよと、末妹の夏休みまでのカウントダウンは既に始まっている様子。農園もそろそろ夏野菜の収穫が始まるし、秋野菜の植え付けも待っている。

 季節ごとに、何かしら仕事が生えて来るのが農業なのだ。しかも家畜の世話は、休みの日など存在はしないし。ブラックと言われれば、完全に否定は出来ないと言う。

 それでも遣り甲斐はあるし、イベントの発生しない日々は退屈だ。


 ダンジョン関連のイベントは、ちょっとこれ以上は勘弁願いたいけど。そう思う護人だが、周囲はこの便利な家族チームを放っておいてはくれないだろう。

 回収品を片付け終わった紗良が、家族のスケジュールをカレンダーに書き足し始めて。香多奈が素早く駆け寄って、この日が終業式ねと元気に告知している。

 それに加えて、間引きの日と研修の日が月末に。


「えっと、来週の日曜日に敷地内のダンジョンの間引きを行ってと……その翌週の水曜日が、香多奈がちゃんの終業式で。金曜日に私と姫香ちゃんが、広島市内に研修旅行ですね。

 色々と行事が詰まってるかな、そのまた次の週末に青空市もあるし」

「あっ、そうだね……本当に行事が詰まって大変だぁ! でも何も無いよりはいいかな、行事が詰まってる方かワクワクするもん。

 てもやっぱり、泊まり掛けのお出掛けは嫌だぁ……」

「それも経験だよ、お泊り楽しんで来なさい……そうだ、香多奈もどっか、1泊してみるかい? 植松の婆ちゃんの家とか、お友達の家とか」

「んー、でも家に家畜の世話をする人がいないと、叔父さんが困るじゃん。私はいいよ、大人しく留守番してるから」


 珍しく殊勝じゃんと、からかい口調の姉の姫香の言葉に。そっちこそ、家が恋しいって旅行先で泣かないでよねと末妹の遣り返し。

 そんな訳無いでしょと、真っ赤になっての姫香の弁解に。少女の弱さを垣間見た護人は、紗良に頼んだよと何となく託してみたり。

 それを耳にした姫香は、もっと赤くなっての自己弁護。





 ――かくして来栖家の夜は、ゆっくりと更けて行くのだった。







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