キッズチームの“山間ダンジョン”探索が始まる件
そうして“山間ダンジョン”の入り口で、強力なユニットであるルルンバちゃんとズブガジと別れを告げる一行。心細さを滲ませつつ、キッズチームは探索を始める流れに。
いや、そんな事を思っている者は実は1人もいないのかも。子供達の表情はどれもヤル気に満ちており、今日の主役は自分達だってその瞳が語っている。
実際、レイジーとコロ助は今回は後衛へ回る配置を言い渡されていた。取り敢えず今回の前衛は、茶々丸と萌が担う事になりそう。
それから中衛は、『遠見』と『感知』で探索をサポートする和香と、鶏頭パペットを操る穂積の担当に。香多奈はいつもの後衛だが、『炎の召喚杖』を手にヤル気をいつも以上に漲らせている。
そして期待の新人のムームーちゃんと、妖精ちゃんの操る白兎の戦闘ドールだけど。こちらは臨機応変に、出番を見付けてあげて出動して貰う形に。
まだまだ戦闘経験の浅い両者には、無理はさせられないってのが建前である。どの程度が適量かなど、やってみない事には分からない。
その辺は、護人が見極めながら探索を進める予定。
「それじゃあ今から、この“山間ダンジョン”に入る訳だけど。動画で予習してるからって、必ずしも同じ敵や仕掛けがある訳じゃないからね。
ダンジョンは日々形を変えると言われてるし、魔素の濃度によって強い敵が湧く可能性も上がる。だから、現地に着いてのチェックもとても大事だね。
それじゃあ和香と穂積で、魔素鑑定装置を使ってみてくれ」
「「は~いっ」」
早速のお仕事に、多少舞い上がりつつ装置を扱い始める子供たち。この仕事は、来栖家チームも探索前に毎回行う大事な作業には違いない。
その結果を見て、どれだけダンジョン内に異変が起こりそうとか、その辺の見極めは実地で養うしかない。これも経験なので、護人は手出しせず子供達の作業を見守るのみ。
そして案の定の濃度の高さに、背中に汗を掻きながら何でもないよの表情を崩さない護人。そしてやや高いから気を付けて進むよと、注意喚起からの突入の指示出しを行う。
前に行きたそうなハスキー達を嗜めながら、今日は後ろに控えてくれとお願いして。ヒヨッコたちの狩りの訓練だよと、リーダー犬を何とか納得させる。
それを受けて、訓練なら仕方ないわねって表情のレイジー。仲間のスキルアップは、群れを従える彼女にとっても大事な事には違いない。
軟体幼児の夜中の特訓も、まさにそんな感じで週に何度か行われているのだ。同時に家族の絆の形成の時間でもあるので、お遊びなどでは決して無い。
今回の探索も、お遊び気分なら後ろからレイジーのキツイ喝入れが飛んで来そう。もちろん子供達は、本気で自分達の力で探索する気満々である。
茶々丸や萌は、滅多に出来ないポジションにちょっと浮かれ気味。特にハスキー達のサポートが無いなんて、通常では有り得ない陣形である。
そんな舞い上がってるチーム員達を、護人は手を叩いてゆっくりでいいから探索を進めるよと鼓舞する。そんな感じで、“山間ダンジョン”の間引き依頼は始まる事に。
そうして階段を降りた先の洞窟エリア、魔法の灯りをともして用心しながら進む一行の前に。さっそく飛び出して来たのは、雑魚の代名詞のゴブリンの集団だった。
そいつ等は3匹いて、まずは茶々丸と萌で1匹ずつ相手をする。残った1匹は、穂積が鶏頭パペットを操って抑え込む流れに。和香も自前のボウガンで攻撃して、見事に初撃をヒットさせる。
心配しながら見守る護人&ハスキー達だが、どうやら問題は無かった模様。何しろ茶々丸も萌も、ゴブリン程度なら一撃で倒してしまえる実力の持ち主なのだ。
心配すべきキッズ達も、そこまで初陣の硬さは無くて一安心。
キッズチームでの探索を、何度かこなして場数はそれなりに体験しているお陰かも。そう言う意味では、この探索も決して初陣とは呼べないのかも知れない。
とは言え、和香にはボウガンでの攻撃の他にも、最近覚えた『感知』スキルでの罠や敵の発見を頼んである。同じく穂積にも、最初から『念干渉』でのパペット操作をお願いしてある。
これらの集中力が、どれだけ続くかは試してみないと本人達にも分からない。そこは護人の判断で、今回はギリギリまで追い込んでみる腹積もり。
何しろ、これだけサポートがしっかりしている探索業なんて、傍から見たら贅沢以外の何物でもない。それならなるべく経験値を蓄えさせて、次の糧にして貰った方が良い。
それによって、和香と穂積が姉のチームに混じる実力がつくかどうかはまた別の話。取り敢えずは探索の醍醐味やら苦労、それから命懸けの戦闘を体験させるのが今回のテーマである。
香多奈については、友達の活躍に刺激を受けているみたい。とは言え、元々が後衛スキルしか持ってないので、中衛に出すのもおっかない。
今日は紗良とミケがお休みなので、無理は出来ないし護人のカバー可能な範囲で子供達には頑張って貰う所存。レイジーやコロ助もフォローはしてくれる筈だが、基本がスパルタなので限界まで放っておく可能性もある。
そこが怖くて、必要以上に気を張って戦闘の流れを注視してしまう護人だったり。ただし初戦を見る限り、茶々萌の前線は優秀で後ろに敵を逸らす事は無さそう。
それでも敵が集団で出て来たら、慌てる場合はありそうでちょっと怖い。
「今のは良い感じだったね、その調子で慌てずに1匹ずつ処理して行こうか。敵が多い場合は、慌てず茶々萌に任せていいから。
いざとなれば、後ろからも応援が出動するし」
「は~い、僕のパペットもゴブリン1匹が相手なら何とかなりそう。でもやっぱり、探索の間ずっと操作し続けるって大変かも。
問題は、どの位スキルが持続できるかかなぁ?」
「私の『感知』もスゴク疲れるよっ……ずっと進む先に気を遣うって、思ってたより大変なんだねぇ」
そう口にする和香と穂積だけど、探索の中心にいる充実感は感じている様子。行ける所まではこの調子で進もうと、護人は探索の再開を前衛陣に告げる。
魔石も拾い終わってるし、その辺の仕事もとっても真面目な和香と穂積である。ただしちょっと前のめり過ぎて、途中でのエネルギー切れがとっても心配。
それでも1層は、先ほどのパターンで出て来る敵を始末して良い調子。敵はゴブリンに大ネズミがメインで、集団でも最大4匹程度だった。
それから支道の小部屋にいる敵も、泥人形やスライムと情報通り。それらの始末は、新戦力の兎の戦闘ドールとムームーちゃんで担う流れに。
張り切る妖精ちゃんだが、手際は思ったよりもずっと良かった。
白兎の戦闘ドールだが、普段は子供が抱いて持ち運ぶのに適した大きさだ。それが稼働した途端に、みるみる3倍程度の大きさに膨らんで行く。
顔付きもやや凶悪になって、ただしそれでも子供の腰くらいの大きさしか無い。これで敵と戦おうと思ったら、体格的に不利な感じは否めない。
それをカバーするのが、自前で生成した鋭利な武器だろうか。それがフワフワの縫いぐるみの布地を破って、両手首から飛び出して来るのだ。
その鋭利な刃の長さは30センチ程度で、戦闘ドールの大きさからすればバランスは取れている。そして獣の速度で敵に飛びついて、敵をズタズタに切り裂くと言う。
それを見学していたキッズ達からは、思わず悲鳴が上がる有り様。あんな可愛かった縫いぐるみが、凄惨な行為に及んじゃったととっても残念そう。
ところが操り手の妖精ちゃんは、飛翔しながら喜色満面な様子。何しろ自身の野望に、1歩近付いたとの確信が目の前にあるのだ。
ただし、その稼働時間はあまり長く無い様子でちょっと残念。MPだか理力だかを相当に消費するのか、1層が終わった時点で既にヘロヘロ状態のチビ妖精だったり。
香多奈の肩に乗っかって、しばらく休ませてまくれと全身で意思表示を行っている。反して支道の小部屋で、一緒にスライム退治していたムームーちゃんはまだ全然余裕な表情。
この好対照な新人2人だが、今後来栖家チームの戦力に数えられるかは不明である。まぁ、軟体幼児に関しては、より安定感が増している感じはある。
恐らく夜のハスキー軍団の特訓に、懲りずに参加している成果だろう。順調にレベルアップを遂げている感はあって、期待の新人だねと香多奈も喜んでいる。
ただまぁ彼の軟体ボディでは、迅速な移動が出来ないのが今後の課題だろうか。
普段のハスキー達との特訓では、どうやら彼はコロ助の首にしがみ付いて移動しているらしい。その辺は情報通りで、ネビィ種は隠れるのは上手だが移動は下手な種族との事。
種族の継続には、それで何とか釣り合いは取れていたのかも知れない。ただし繁栄に関しては、トンと不明で不安の感情しか湧いて来ず。
果たして彼らの種族は、異世界で平穏な暮らしが出来ていたのだろうか。そんな事を考える護人は、この世界でムームーちゃんの健やかな成長を祈るのみ。
とにかくキッズチームは、30分で何とか2層への階段を降りる事に成功。そして態勢を整え直し、同じ陣形で次の層の探索へと挑み始める。
この層から、敵に大コウモリが混ざり始めて、上方にも注意を払う必要も出て来た。探索役の和香も大変そうだけど、前衛で戦う茶々萌コンビはそんな敵の対応も慣れたモノ。
武器やスキルを駆使して、近付いた敵にしっかりと対応してチームの安全を確保している。和香と穂積の、余裕の無さを上手くフォローしてあげてる感じ。
そうして2層の攻略も、まずは順調に進んで25分程度で終了の運びに。支道の小部屋は相変わらず、妖精ちゃんの戦闘ドールとムームーちゃんに担当して貰ってのクリアとなった。
1~2層の支道の先には、残念ながら宝箱は発見出来ず。今日はミケさんがいないからねぇと、何となく悟った表情の香多奈の呟きは本心なのかは不明である。
とにかく、それ以外は順調に3層エリアへと到達出来た。
「まずまず順調だな、時間もそんなに掛かってないし良いペースだよ。中衛の2人は疲れてるだろうけど、その疲労がどの程度かを自分でしっかり把握しておくんだよ。
限界が来たと思ったら、無理せずに報告するように」
「そうだねっ、今日はルルンバちゃんが同行してないから運んでは貰えないけど。本当に疲れて動けないなら、茶々丸に乗っていいからね!
代わりの前衛は、レイジーとコロ助がいるんだし」
雑な扱われ方の来栖家のペット勢だが、優秀である事には変わりない。護人はもちろん信頼しているし、茶々丸を運搬に使うのは確かに良い案かも。
逆にハスキー達は、ようやく出番が回って来たかと尻尾を振っている。和香と穂積はもう少し頑張れるよと、それに待ったを掛けている。
結局はそれが通って、3層の探索もさっきと同じ隊列で頑張る流れに。和香と穂積は、自分達の限界を見極めようと必死にスキルを操っている。
そんな友達を応援する香多奈は、マイペースでいつもとまるで変わらない。護人としても、この末妹まで暴走されたらチーム管理が大変過ぎる。
ハラハラしている護人を尻目に、茶々丸と萌のコンビは順調に探索をこなして行く。いつもと違う陣形に、最初こそ戸惑っていたけど今は順応して良いペース。
出て来る敵も茶々萌からすれば弱いし、慌てる事は無いと気付いたのかも。ただし、後ろから感じるプレッシャーは強過ぎて下手は出来ない。
それを発しているのは、もちろん鬼監督のレイジーである。ヒヨッ子ばかりの探索風景に、程良い緊張感を与えているかは定かでは無いけど。
或いは重圧を与え過ぎかもだが、それはご愛敬と言うモノ。これはレイジーの群れでもあるのだから、仲間を鍛える権利はもちろん彼女にもある。
その点は、護人も信頼を寄せてる大きな部分に違いない。
――来栖家チームの将来は、そう意味では安泰かも?




