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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の春~夏の件
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6層以降の“喰らうモノ”ダンジョンもアクが強い件



 来栖家チームが宝箱の回収を終えて、中ボスの間で丁度昼休憩を取ろうかと話し合っていた頃。島根と愛媛のA級チーム同盟から、5層をクリアしたよとの通信が届いた。

 向こうのチームも、昼ご飯を食べてから6層以降へと挑戦するとの話である。ここまでは順調な攻略具合に、ホッと胸を撫で下ろす護人と子供達。


 後は岩国3チーム同盟だけど、こちらも何とかなりそうな雰囲気。たった今中ボスの間の前に到着したと、もう少し待っていてくれ的な通信がつい先ほど届いた。

 それならご飯を食べながら待っていようと、治療の終わったペット達と昼食休憩に入る来栖家チーム。幸い、遺跡エリアの中ボスの部屋はそれ程に居心地も悪くない。


 その判断がどれだけ幸運だったか、後に知る事となるのだけれど……その時は呑気に、紗良の作ったお握りを頬張りながらランチタイムと洒落込むのだった。

 次の通信が届いたのは、それから約20分後の事だった。人数が多く銃火器の揃えが良いとは言え、やはり岩国チームも中ボス退治には苦労したみたい。


 その通信内容だけど、制圧は何とか完了したものの、これ以上の探索は弾丸の残数からして無理だとの事。怪我人も出たので、ここは無理せず仕掛けを破壊してから引き返すと連絡が入って来た。

 異世界&星羅チームやA級同盟チームも、この判断には同意して残りの探索は3チームで行う事に。最低限の仕事を果たして、岩国チームもホッとしているみたい。

 そんな訳で、昼食も食べ終わった来栖家チームは6層へと進む事に。



「さて、それじゃあ行こうか……ここを潜ったら、他の2チームと合流出来るのかな? それとも、ずっと別れたまま攻略させられる感じ?

 大ボス部屋は、さすがに1つしかない筈だよね、護人さん」

「そうだな、“喰らうモノ”は1体しかいない筈だしな……おっと、それからダンジョンに逃げ込んだお尋ね者の鬼も、この先にいる可能性が高いんだっけか。

 ハスキー達、モンスター以外の気配があったら知らせてくれ」

「ああっ、隣町の住人を襲ってた犯人たちもいるんだっけ? 鬼にも良い側と悪い奴がいるんだねぇ、怖いコワい! 小鬼ちゃん達でも倒せない奴って事は、それなりに強いんだろうねぇ。

 そんな訳で、ハスキー達も気を付けて進むんだよっ!」


 そんな末妹の号令に、ハスキー達はハイテンションで答えを返す。探索が再開されると聞いて、良い感じに盛り上がっているみたい。

 リーダー犬のレイジーも、怪我のダメージも無さそうで活発に動き回っている。そしてようやく明度の増した次の層へのゲートを確認して、先頭切って進む構え。


 異世界&星羅チームは、一足先に6層へと辿り着いたようで通信がうるさい。ザジの相手は疲れるので、護人は末妹に通信機を持たせていたのだ。

 そんな香多奈の伝言中継によると、6層からエリアの構成がガラリと変わっているらしい。ビックリするニャと口にする香多奈は、そんな向こうの反応を他人事で面白がっていた。


 とは言え来栖家チームも、6層を見ての驚き具合では恐らく一緒だった。ひょっとしたら、ザジより余程良いリアクションを取った可能性も無きにしもあらず。

 そこは最初、洞窟タイプのエリアかと思われたのだけど。壁と思われる部分は、巨大な生物の内臓仕様となってうごめいていたのだ。


 その中を進めとは、何と言うかいつか消化されそうでかなり怖い。よく見れば、所々にあばら骨とか血管の浮き出ている箇所も存在して生物チックな洞窟である。

 そして出現する敵も、まるで寄生虫のようなタイプのモノばかり。


「うわっ、気持ち悪いっ……何あの壁から突然出て来た、グネグネした生き物はっ!? コロ助、巻きつかれないように気を付けてっ!」

「うわぁ、なんか理科室のビーカーのサンプルの中で、似たようなのを見た記憶があるよ。取りつかれたら、変な病気になりそうっ。

 みんな、気を付けて倒して行くよっ!」

「そうだな、壁際には近付かないように……進む先の、足元辺りにも注意しようか。いいぞレイジー、気持ち悪い奴は焼き払うに限る」


 それを聞いた萌とムームーちゃんも、炎のブレスで寄生虫タイプの焼却に参加し始める。もっとも軟体幼児は、ルルンバちゃんに張り付いてのサポート形式だけど。

 前衛には間違っても出せないが、この程度なら本人もやりたがっているし問題はない筈。何よりルルンバちゃんなら、相手の攻撃を受けてもダメージは貰わない。


 そして一方的に殴りつけて、敵を粉砕してしまえるパワーの持ち主である。彼に任せておけば、戦闘経験の浅いムームーちゃんも変な事にはならないだろう。

 それより、敵に新たに混ざり始めた妙な集団の方が問題かも。そいつ等は、最初はゴーストかなと思われて、紗良も《浄化》の準備を始めていたのだけれど。

 何故か壁際で腐肉をまとい、肉体のあるモンスターに変わって行くサプライズ。


「うわわっ、何今のっ……姫香お姉ちゃん、今の見たっ? 壁際でゴーストが、お肉を吸収してゾンビに変身したよっ!?

 このブヨブヨしてる床や壁って、やっぱり何かのお肉なのかなっ?」

「嫌な推論だね、香多奈……気にしないようにしてたのに、やっぱりそう見えちゃうよねぇ。それじゃあ、いっぱいいるゴーストは“喰らうモノ”の今までの犠牲者なのかも知れないね?」

「うわぁ、それはちょっと嫌な想像しちゃうねぇ……だって、隣町の失踪事件も“喰らうモノ”の分体の仕業だったんでしょ?

 スーパーのおばちゃんとか、知り合いが混じってたら嫌だねぇ」


 紗良も思い付きを口にして、子供達は揃って微妙な表情に。ハスキー達はそんなの関係ないぜと、どんどん増えて行く似非エセゾンビ軍団に向かって行く。

 護人も元がゴーストならと、紗良に《浄化》スキルの執行を指示する。その間にもゴーストは蜂の巣を突いたように集まって来ており、周囲は大変な騒ぎである。


 確かにこんな状況では、ハスキー達だけでゴーストの処理は大変かも。などと思っていた後衛陣の、度肝を抜く事態が紗良を直撃した。

 思い切り骸骨がいこつ顔に、ローブ姿のゴーストが長女の背後に出現したかと思ったら。手に持つ死神の鎌で、その首を刈り取ろうと振りかぶって来たのだ。


 それに真っ先に反応したのは、紗良の肩に乗っかっているミケだった。この無礼者とばかりに、周囲に放たれる雷の筋と《刹刃》の魔法の刃たち。

 それに気付かず放たれた、紗良の《浄化》スキルは前方のゴースト集団に大ダメージを与えた。それから気配もなく回り込んでいた、骸骨顔のゴーストに気付いてビックリ顔に。


 コイツはリッチだぞと、珍しく警戒の声を発する妖精ちゃんに驚く香多奈はとっても素直。ミケの暴走でその存在に気付いた護人も、驚いて咄嗟に武器を振るう。

 そんな全ての反撃をするりとかわして、リッチの姿は掻き消えて行った。どうやら、この死霊軍団を操っている総大将がさっきのリッチの可能性が高い。

 そんな訳で、どこに行ったとの掛け声があちこち飛び交う。


 恐らくはテレポーテーション魔法の使い手の敵の総大将は、生半可な事では捕まりそうにない。幸いにも、似非エセゾンビ軍団はパワーは強いけど炎には弱くて、レイジーと萌の独壇場となってこちらに有利な状況ではある。

 それでもリッチのエナジードレインに、うっかり精気を吸い取られる者も何名か出現していた。前衛では茶々丸にコロ助、後衛では姫香と香多奈がいつの間にか犠牲者に。


 敵の神出鬼没のパターンは、とっても厄介で回避不能レベルである。慌てて姫香の白百合のマントが、浄化ポーションを噴霧ふんむし始めて予防策に務め始める。

 薔薇のマントも負けるもんかと、浄化ポーションをまとった拳を護人の頭上で振り回して周囲をびしょ濡れに。護人にとっては良い迷惑だが、これもゴースト対策と思えば仕方なしか。


「うわっ、ドレイン魔法キツイ……これってさっきのリッチの仕業かな、それとも壁から出て来たゴーストのスキル?

 ペロッて触られた気がする、きっとその時だよっ」

「リッチだねっ、視線を合わせても麻痺か何か掛けられちゃうっ! かなりの難敵だよっ、近付かれないよう香多奈は紗良姉さんにくっ付いてなさいっ。

 ミケが護ってくれるよ、リッチは私と護人さんで退治するから!」


 そう上手くは行かないかもだが、ドレインを喰らっても元気な姫香は何気に凄いかも。そしてミケの『雷槌』や《刹刃》を回避したリッチも、かなりの俊敏性である。

 或いは、奴の霊体ボディが優秀なのかも知れないが、そうだとすると倒すのに難儀しそう。討伐手段としては、紗良の《浄化》スキルの直撃が一番確実性が高そうではある。


 それを警戒してか、小癪こしゃくな事に透過の特性を利用して逃げ回る敵の大将。姫香も白百合のマントをせっついて、割と他人任せでの敵のあぶり出しを行っている。

 ところが相手のリッチは、どうやら弱者をきっちり見極めてそこを集中攻撃する陰険タイプのようだ。あれっきり紗良や姫香には近付かず、ターゲットは末妹の香多奈の模様。


 それに気付いた末妹は、姉の紗良にくっ付いて何とか現状の打開をしようと必死。その間にも、雑魚のゴースト達が周辺に集まり始めて、その対応に護人と姫香も大わらわな状態である。

 そんないやらしいリッチの視線に、香多奈はどうやって対応しようか考案中。先ほど喰らったドレイン魔法は、一撃で腰が立たなくなる程に強烈だった。


 再度あの攻撃を浴びたら、干からびてしまうかもと言う恐怖はある。それ以上に腹を立てている香多奈は、何とか反撃をして懲らしめてやろうって気満々だったり。

 結果、肩の上にいる軟体幼児に何とかしての無茶振り。


「ムームーちゃん、アンタも《ドレイン》系のスキル持ってたでしょ。何とかして、奴が近付いた時に熱いおきゅうをすえてやってよ!」


 ムームーちゃんは、“お灸”が何かはトンと分からなかったけど、リッチが悪モノだと言うのは理解していた。そして確かに、自分も《ドレイン》系のスキルを持っている事も理解しており。

 ただし、このスキルを使った事は1度も無くて、どうやって使うのかも知らずに生きて来て来た。お食事をより有効にするための手段かなぁと、そんな本能での認識があるのみ。


 それをいざ積極的に使えと言われても、困ってしまうスライム幼児である。それなら炎のブレスを吐けと言われた方が、よっぽど実行しやすいと言うモノ。

 それと同時に、少女の怒りの感情を彼は受け取っていた。それを受けて香多奈と同様に、段々とリッチに対して腹が立って来たのが或いはトリガーだったのかも。


 軟体幼児の執行した《ドレイン》は、リッチやゴーストの使用するのと明らかにタイプが違っていた。途端に周囲の肉壁がしおれ、そこに隠れていたリッチが剥き出しに。

 驚きの感情は、果たして来栖家チームとどちらが上だったか。その時には既に、護人の魔断ちの神剣の投擲がバッチリ決まって、リッチはそれに刺し抜かれてご臨終の憂き目に。

 さすが『射撃』スキル持ちだが、刀まで投げるとは何とも大胆である。



 それと同時に、明らかに周囲のゴーストたちは、統制のとれない烏合の衆へと成り下がった。レイジーと萌のブレスで、順次魔石に変わって行く彼らは少し哀れかも。

 元が本当に“喰らうモノ”の犠牲者たちだったのなら、昇天を願うばかりである。そんなゴーストの最後の1体をほふり終え、ようやく一息つく来栖家チーム。


 そして周囲には、数えきれないほどの魔石が転がっていた。100個は無いだろうけど、確実に50以上はありそう……そして一際大きな、リッチの魔石は確実に大サイズ。

 肉々しい壁も、所々がしおれたりえぐれていたりと酷い有り様だ。さすがに精魂尽きた香多奈は、その場に座り込んで魔石拾いも出来ないみたい。


 代わりにツグミとルルンバちゃんがそれらの回収に当たり、中にはスキル書やオーブ珠も混じっているよと報告して来る。リッチはローブも落としたようで、品質は凄く良さそうである。

 それにしても、階層攻略のハードさはさすが並みでは無い難関ダンジョン。さっさと“喰らうモノ”本体の待つ、最深層へと辿り着きたい思いはあるけど。


 考えてみれば、それも怖い結果が待っていそうで物怖じしてしまう子供たち。何しろあの異世界チームが、何度も取り逃がしている厄介な化け物が最深部に控えているのだ。

 果たしてそんな奴に、来栖家チームの力が届くのか自信は全く無い。





 ――少なくとも護人は、何とか穏便な終焉を望んでその場にたたずむのだった。








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