昼食休憩を終えて2つ目の扉へと挑む件
さて、嬉しいドロップ報告だけど、香多奈が張り切ってルルンバちゃんと拾い集めた結果。魔石(中)が1個に魔石(小)が3個、それからオーブ珠が1個にスキル書も1枚回収出来た。
そして中ボスのゴーレムが豪華な腕輪を落としていて、妖精ちゃん的にはこれは大当たりらしい。強い敵ではあったので、報酬もそれなりに期待出来るかも。
それから設置されている宝箱だけど、これも少々不穏と言うか。明らかに宝箱に入りきらなかった、ホームジム用の筋トレ器具が箱の横に置かれていたのだ。
いかにも物々しい器具だけど、香多奈は売れるかもとAIロボにお持ち帰りを指示する。彼の空間収納は、その手の大物も簡単にパクれる優秀さを併せ持っているのだ。
そしてそんな健康器具は、宝箱の中にも散在していた。腹筋ローラーやダンベル、バランスボールやハンドグリップや敷き用のマット類等々。
トレーニング用の衣類やタオルも結構入っていて、それに紛れてプロテインも結構な量を発見した。ナニコレと不思議そうな末妹に、栄養補給に良い飲み物かなぁと紗良の注釈が入る。
これも家族の口に合わなければ、お隣に配るか青空市での売り候補になりそう。サプリも同じく、恐らく家族の誰も見向きもしないだろうから売る事になりそう。
後は、お決まりの鑑定の書とか薬品類がそれなりの量入っていた。部類としては、上級ポーションと中級エリクサーの両方が入っていたので大当たりである。
武器防具の類いも、重オーグ製のハンマーやメイスに鎧も1セット。それから何故かトロフィーにペンダント、最後に大振りの鍵が1つ出て来てそれは予想通り。
香多奈もそれを手にして、これを集めればいいんだよねと口にしている。紗良もレイジーやペット達の怪我チェックを終えて、ようやく宝物の前へ合流して来た。
賑やかになる子供達だけど、宝物のチェックはこれにて終わり。
「よっし、最後の敵は強かったけどしっかり倒せたし、一旦戻ろうか。お昼を食べて、午後は取り敢えず2つ扉を攻略する感じかな、護人さん?
まぁ、報酬は逃げないし無理する必要は無いよね」
「そうだな、みんなお疲れ様……一応だが、帰り道も気をつけてな」
護人のその言葉に、は~いと元気な子供達の返事である。ハスキー達は落ち着いた足取りで、帰路の案内を率先して務めてくれる。
安堵の大きい護人は、そんな家族を見守りながら一番後ろをついて歩く。午後からはまた仕切り直しだが、取り敢えず最初の扉を無事に攻略出来て良かった。
この調子で、“喰らうモノ”への再挑戦に弾みをつけたい所。
そうして約1時間後、お昼休憩の終わった一行は再び鬼の“報酬ダンジョン”の前へ。ロビー的なゼロ層フロアへやって来て、今度は真ん中の扉を選ぶ。
選んだのは香多奈で、その辺は毎度の来栖家のしきたりとでも言おうか。そしてハスキー達が、すかさずそれに従うのもいつもの事。
入って最初に目に付いたのは、なかなか広い台所のような空間だった。同じく鼻に漂って来る匂いも、夕食の宴を思わせる混然とした料理の品々を想像させる。
ハスキー達も混乱しているようで、何だこのフロアと周囲を仕切りに窺っている。どうやらここは中世の厨房がベースの様で、床は全て土を固めた土間仕様みたい。
奥の壁際には、火の入った竃が盛大に熱を放っていた。粗末な木製の大テーブルもあちこちに設置されていて、ロウソクの灯りもテーブル上に。
そして肝心のモンスターだけど、オーク兵が見える範囲で2集団ほど。それぞれ半ダースで固まっていて、何故かエプロン姿と言うか調理師の服装である。
手にしているのは鉈や巨大な肉切包丁で、エリアに沿った雰囲気を醸し出している。コイツ等も、1層の敵にしては揃って強そうな面構えな気が。
とは言え、容赦のないハスキー達は押せ押せで討伐に挑んで行く。近寄って来たもう1つの集団も、姫香と萌がブロックへと出張って問題無し。
それを背後から、護人とルルンバちゃんの遠隔でのサポート。
「うへえっ、台所のエリアに豚さんのコック……何だか変なエリアだねぇ、料理の並んでるテーブルも向こうにあるよ。間違っても食べたくはないけど、ハスキー達にも食べるなって言っておかないとね、叔父さん?
あの子たち、アレで食いしん坊だから」
「まぁ、そうだな……毒とか混じってたら大変だし、その辺はしっかり注意しておこうか。それより、本当に厨房と台所が繋がったようなエリアだな。
さっきのトレーニング施設のエリアと言い、変なのばかりだな」
「そうですねぇ、でもこのエリアだったら……ひょっとして、大量の食料品の回収も出来ちゃうかも?」
嬉しそうにそう話す紗良に、それは楽しいねと乗っかる末妹である。既に出来上がってテーブルに置かれた料理は別として、素材の食料は持ち帰る気満々な鼻息だったり。
確かにあちこち視線を向けてみると、貯蔵庫かなって場所も一応ある。ただし、敵の姿も物陰に潜んでいそうで、下手に単独で動くべきでは無さそう。
ハスキー達は、新しい敵を求めてこの妙なエリアの探索に出向いてくれている。それを尻目に、香多奈はあの扉の向こうをチェックしようよと飽くまで呑気。
最終的にそれに乗っかる護人も、まぁ大概な甘やかしさん。子供の我が儘を叱るより、探索の手伝いと言う形で処理した方が気が楽なのだろう。
そして開かれた扉の奥は、紗良の推理したように食糧貯蔵庫だった。ワインやパンやチーズの塊が、棚に分けられて整然と置かれている。
貯蔵庫の大きさはそれ程でも無かったので、蓄えられていた食材も微妙な数だったけど。持ち帰って、ギルド仲間に分けるには充分過ぎる量である。
早速それらを、手分けして空間収納に詰め込む子供達&ルルンバちゃん。仕事を手伝っている時のルルンバちゃんは、とっても幸せそうで見ていて和む。
ムームーちゃんも、手伝っているつもりなのか触手を伸ばして食材を掴む仕草。護人はワイン瓶のラベルを眺めて、値打ちはどの程度なのか推測の真似事など。
もっとも、知識が全く無いのでサッパリだったけど。
「ふうっ、これで食べれそうな食料品はほぼ持ち出せたかな? ワインは年代とかによって、価値が違ったりするんだっけ、叔父さん?
高く売れると良いね、それともザジ達が全部飲んじゃうかな?」
「そうだな、青空市で売れなさそうな食料はお隣さん達に分ければいいしな。遠慮せず持って帰ろうか、何しろここは“報酬ダンジョン”だからね」
そう言う護人に、確かにそうだねとヤル気を漲らせる子供バンデット達。倉庫を出ると、隣の隣の部屋でハスキー達は派手に戦闘中だった。
どうやら大量の、大ゴキと大ネズミが出没した様だ。茶々丸がムキになって、蹄でそいつ等を踏み潰している。ハスキー達は、スキルをメインに冷静に数を減らして対照的な戦闘風景だ。
次々と魔石になっている敵たちに、遠目でそれを確認した末妹も興奮状態。この扉エリアは当たりだねと、さっきとの違いに目を見開いて喜んでいる。
まぁ、さっきの扉も召喚の仕掛けを触ったら、10体ペースで敵が湧いてくれたけど。この層は騒ぎに釣られて、奥の部屋から次々とオークやパペット兵が集まって来ている。
これは最初に討伐に本腰を入れるべきかと、護人は周囲の安全確保をチームに指示する。それに従って、姫香はルルンバちゃんと一緒に敵の気配のする方へ。
このエリアは、扉で仕切られている部屋こそ少ないけど、繋がりは乱雑で意外と見通しは良くない。灯りも設置されているけど、充分とは言えず探索には注意が必要だ。
それを踏まえて、後衛陣もチームの敵の殲滅手伝いへと動き始める。護人も弓矢を取り出して後方支援、香多奈も前衛に『応援』を飛ばしてのサポートに余念がない。
そんな訳で10分後には、この奇妙な台所エリアは概ね静かになってくれた。紗良はペット達を集めての怪我チェックを始め、姫香はルルンバちゃんを連れて次の層のゲート探し。
そして不用意に奥の扉を開けて、新たなモンスターと鉢合わせ。
「うわっ、何もいないと思ったらゾンビの集団が詰まってた! 外れの部屋もあるよっ、みんな注意してっ!」
「一番注意しなきゃなんないの、姫香お姉ちゃんじゃんかっ! まだこのフロアの魔石、全部拾い終わってないのにっ!
萌っ、水鉄砲あげるからお姉ちゃんのヘルプに行ってあげて」
「ルルンバちゃんもいるから大丈夫とは思うが、一応俺もヘルプに行こうか。紗良、こっち側は頼んだよ」
過保護な護人は、離れた場所で敵と対峙して騒いでいる姫香がとっても心配な様子。休憩中のこの場の指揮を長女に任せ、萌と一緒にゾンビ退治へ向かう。
幸い向こうは、入り口が狭いために囲まれずに済んでいるようだ。ルルンバちゃんも敵の塞き止めに協力して、敵を渋滞させての各個撃破を行っている。
敵のゾンビも、どうやら強敵が混じっているなんて事は無さそう。後の心配としては、ゴースト系が混じっていないかどうか位のモノ。
どうやら今の所、そっちの気配は漂って来ず一安心。
そんな喧騒も5分後には沈静化して、次の部屋の安全確保に成功した。しかし残念ながら、大した回収品もゲートも無しと言う結果に。
見回してみると、閉じている扉の数はあと数枚はありそう。どれも古びていて、そのデザインからはどれが当たりかは判然としない。
こうなったら、全部開けて行くしか無いかなとの姫香の言葉に。休憩を終えたハスキー達も合流して来て、場は再び賑やかになって行く。
こうなると、もう戦力不足なんて事にはなりようも無い。ハスキー達も、扉を開けれないから敢えてスルーした訳で、手抜いた結果とも違う。
今も自分達の休憩中にズルい的な視線を向けられ、言い返す言葉もない姫香である。勤勉なのは褒められる美点だが、こっちだって少し位は活躍したい。
そんな事を思いながら、仲良く行こうねとハスキー達に呟いて。近場の閉じている扉を、用心しながら次々と開けて回る姫香である。
その結果だが、1つはさっきと同じくゾンビの閉じ込められた小部屋と言うオチ。もう1つは塩やトウガラシ、香辛料などの貯蔵庫だった。
カレー粉っぽい匂いもしたので、そっち系の香辛料も混じっているのかも。嬉しそうな紗良は、これらもある程度持って帰ろうと張り切っている。
そして最後の2つは、洗い場とようやくゲートの部屋を発見出来た。
「ようやく発見、次の層へのゲートがあったよ。もう1つは、内井戸とかあって水場っぽいね……調理場と言うか、野菜の下処理とかお皿洗いとかする場所かな?
ハスキー達の敵の殲滅具合いはどんな、護人さん?」
「紗良の《浄化》スキルで、ほぼ見せ場が無かったのが不満なのかな。残った敵がいないかって、あちこちフロア内を彷徨ってるよ。
まぁ、呼び戻しても問題は無いだろう」
モンスターなら、心配しなくても次の層にも大量にいるだろう。このダンジョン攻略も、時間的に少々押してるので短縮も図りたい護人である。
ここの攻略は、分業が功を奏して幸いにも30分と少ししか掛かっていない。この調子で、次の層もサクッと攻略して3層へと向かいたい所。
そんな事を考えながら、周囲に散っていたハスキー達を呼び戻して。次の層へのゲートへと、仲良く歩を進める来栖家チームであった。
ハスキー達も、気持ちを切り替えて先頭でゲートを潜って行く。
――“鬼の報酬ダンジョン”探索も、まだようやく半分と言った所。




