“鬼の報酬ダンジョン”も一筋縄では行きそうもない件
装置によって湧いた敵は1種類、そいつ等は鉄製のゴーレムで割と強靭な敵だった。にも関わらず、ルルンバちゃんの活躍でその半数が魔導アームの餌食となって消滅の憂き目に。
護人と姫香も、それぞれ2体ずつ敵をやっつけて何とかこの窮地を逃れる事に成功した。慌てて戻って来たハスキー軍団だが、コロ助の白木のハンマーで1体を行動不能にしただけの結果に。
それにしても、いきなり鉄製のゴーレムとは難易度はかなり高めの敵である。“報酬ダンジョン”だと浮かれていた子供達だが、気を引き締めて行かないと。
そして姫香が敵を出現させた、代わった器具と言うか装置は室内にまだまだたくさんある。そしてハスキー達が覗きに行った隣室への扉は、どうも開きそうにない。
こうやって、色々と触ってこのフロアの解き方を調べて行くしか今の所手は無いみたい。そんな訳で、来栖家チームは最初の情報から攻略法を練り上げる。
結果、姫香が代表して装置を触って反応を窺う事に。出現した敵を倒して行けば、恐らく隣の部屋の扉が開くんじゃなかろうかって読みである。
そんな訳で、姫香は10以上ある器具を片っ端から作動させると宣言。
「うわあっ、それは大変……さっきはその装置で、一度に10体同時にゴーレムが湧いたんだよっ? 全部の装置を作動させたら、100体以上を倒す計算じゃん。
まぁ、魔石(小)が高確率で落ちるから別に良いけど」
「だって他に方法が無いじゃん、多分あの奥に次の層の階段があるんでしょ? だったら、開くまで装置を作動させるしかないでしょうが、バカ香多奈っ!」
「ふむっ、確かに……どれか装置の中に、当たりが混ざってるのかも知れないね。つまりは、全部作動させなくても良い可能性もあるけど、こればっかりはやってみないと分からないな。
それから、召喚される敵も1種類とは限らないから気をつけるように」
そう言いながら、護人は勃発しそうになる姉妹喧嘩を上手い事回避。それから、ハスキー達にも頼んだよと声を掛けて、改めて検証のスタートをチームに告げる。
それに従って、張り切って準備を始めるペット勢である。特に最初の戦いに間に合わなかった茶々丸は、今度こそ活躍するぞと勇ましく蹄を鳴らしている。
レイジーも同じく、ただしムームーちゃんは今回は出番なしねと末妹に抱っこされている。あんな鉄素材相手はまだ早いと、香多奈が常識を働かせた結果である。
ちなみにこの第1層目のフロアだけど、割と大き目の体育館程はあるだろうか。天井もその位で、姫香が2つ目の装置を作動させた途端に今度は別の変化が。
何とその天井から、割と太めのロープが突然振って来て一同ビックリ仰天。敵の攻撃かと、ツグミが咄嗟に反応して弾き返したけど違ったみたい。
太く編み込まれたロープは、天井を起点にブラブラとしなるだけ。
これは何だろうねと、しばしの沈黙の後に再び開かれる家族会議。ロープでしょとの末妹の突っ込みは敢えて無視され、天井を見遣る護人が何かを発見する。
ロープの付け根、つまりは天井付近に用意された小袋と丸いスイッチが。あれを押して、小袋を回収すれば良いんじゃと護人が推測を口にする。
快活な姫香は、それを受けて腕の力だけでそのロープを登り始めてしまった。気をつけてとの紗良の言葉と、お猿さんみたいとの香多奈のディスり。
煩い黙れと、こちらも腕は塞がってるけど口はフリーな姫香の応酬。こんなトレーニング器具ありましたねと、紗良は冷静に情報収集に余念がない。
そして1分も経たずに、『身体強化』スキル持ちの姫香は任務を達成に至った。そしてボタンを押した途端に、ロープを生み出した装置は消滅して行く。
ただし他の場所には変化は無いようで、検証は続ける必要があるみたい。ちなみに回収した小袋の中身は、薬品類と魔結晶(小)が幾つかずつ入っていた。
そしてすかさず、その隣の3つ目の装置を作動させる姫香。まだまだ元気なのは良いけど、もう少し落ち着きを持って欲しいと護人などは思う。
その装置は、レバーに触ると今度は人より大きな鉄球を生み出した。それは滑車とロープで天井に繋がっており、どうやらロープを引いて鉄球で天井のスイッチを押す仕様らしい。
それを見た護人は、以前の“アスレダンジョン”を思い出して冷や汗タラリ。
「うわぁ、今度はこの重そうな鉄球を引っ張り上げる仕掛けなんだ? これって、ズルは出来ないのかな、お姉ちゃん?
例えば、ルルンバちゃんの飛行モードで、スイッチだけ押して貰うとか」
「ええっ、どうだろう……確かにこんなサイズの鉄球を引き上げるのは骨だけどさ。ズルしたらしたで、何かペナルティがありそうで怖いよね。
こっちはルルンバちゃんもいるんだし、素直に片付けた方が早くない?」
そんな感じで今度の議題は、果たしてダンジョンはこちらのズルを見抜く能力があるか否かに。護人と紗良は、そう問われて無難に止めておこう派で票は偏ったモノの。
どんな罰があるのか、検証も必要だよねとの末妹の怪しげな誘導が。それを受け、何となくそれもそうかと試してみる流れに。もしズルが可能なら、時間短縮になるし儲け物だ。
そんな流れで、再び活躍の場を得るルルンバちゃんは超ヤル気満々。飛行ドローンモードを家族に披露して、勇んで天井のスイッチへと向かうAI戦士である。
皆からの応援を貰って、ルルンバちゃんが天井の赤いスイッチを押した途端。その仕掛けの周囲で、アッと驚く変化が訪れた。
何と、天井があちこちでバカっと開いて、ヤモリ獣人(忍者仕様)が数匹飛び出して来たのだ。しかも、丸い鉄球は瞬時にアイアンゴーレムへと姿を変えて、近くにいた者に殴り掛かって来る始末。
不意を突かれた来栖家チームは、一変してピンチに陥ってしまう。それでも、ハスキー達が降って来るヤモリ獣人を素早くガード、茶々丸と萌がそのサポートに入る。
ちなみに、ゴーレムに殴り掛かられたルルンバちゃん(本体)は、その攻撃に痛痒を感じず。対戦カードの妙に助けられ、こちらもすかさず護人と姫香がブロックに入る。
かくして、チームの弱点である紗良と香多奈は取り敢えず安全に。
「そのまま紗良は、香多奈を連れて距離をとってくれ! ミケと萌は護衛を頼むっ、ルルンバちゃんはなるべく早く戻って来てくれ!」
「それ見なさいっ、やっぱりズルは駄目だったじゃん、おバ香多奈っ!」
「私は悪くないよっ、姫香お姉ちゃんも賛成したじゃんっ!」
不毛な言い争いを始める姉妹はともかく、大慌てで本体と合体を果たす真面目なルルンバちゃん。天井から出現した忍者タイプのヤモリ獣人は、かなり強くて素早い事が判明した。
ハスキー達も手古摺っているみたいで、茶々丸に至っては角の攻撃が空振りばかりの有り様。スピードタイプの敵には、仔ヤギはどうも相性が悪いらしい。
それでも護人と姫香で、3メートル級のゴーレムを倒した所から潮目が変わって来た。ルルンバちゃんも無事に合体を終えて、敵の討伐に参加して良い調子。
ガードに余裕の出て来たハスキー達も、安心して敵の数減らしを始める。そして5分後には、突発的に始まったペナルティ戦は何とか終了の運びに。
それから何故か怒られる香多奈と、ドロップ品を拾い始める萌とルルンバちゃんの構図に。飽くまで来栖家の日常は、ダンジョン内でも変わらない模様。
ドロップした魔石には小サイズも混じっていて、ハードモードなダンジョンは確定である。その後の三度の家族会議では、訓練器具には真面目に取り組もうと話は纏まった。
とは言え、まだまだ装置の数は10以上は窺える現状。
「これって、本当に当たりはあるのかな……全部こなすとなると、なかなかに大変そうだよね。敵の湧く数とか、一度に10体とか多いもんね」
「まぁ、文句を言っても始まらないし、こっちも戦闘要員は多いから何とかなるだろう。ここは手分けして、じっくり取り組む事にしよう。
そうすれば、意外とすぐに次の扉も開いてくれるさ」
「そうだねっ、攻略を焦る事も無いんだから……みんなで仲良く、経験値を稼ぎに来たと思えばいいんだよっ。
まぁ、ムームーちゃんにはちょっと難易度高めだけど」
それは妖精ちゃんの操る戦闘ドールにも言える事で、小さな淑女はこれに関してはちっとも懲りていない様子。いつかエースの座への成り上がりを夢見て、日々の精進も怠っていない。
これは飽きっぽい性格の彼女には珍しく、それだけミケへの反骨心は強いのかも。いつも虐められているので、まぁその気持ちは良く分かる。
チームの強化になるのなら、結果としてそれは良い事なのだろう。香多奈などは、頑張れとけしかけつつもチビ妖精の訓練には毎回付き合っている次第。
その成果は、残念ながら今の所はまだ全然見られない。取り敢えず今回の探索は、邪魔にならない程度に頑張って欲しい所存。
続いて姫香は、奥の扉に近い装置のレバーに触る事に決めたと宣言。チームのみんなは、何があっても良いように周囲に注意を向けての結果待ち。
そして4度目の結果は、またもや敵の召喚と言う外れを引く破目に。今回出現したのはガーゴイルの群れで、硬い敵のオンパレードに嫌そうな表情の姫香である。
レイジーも同じく、ただしコロ助は白木のハンマーで張り切っている。
5度目と6度目は、例のロープ登攀の仕掛けを連続で引き当てた。これはオマケでアイテム袋が貰えるから良いねと、天井までアタックを掛ける姫香である。
結果、鑑定の書や魔結晶(小)を追加でゲットしてご機嫌な子供達。ただし、いつまで経っても肝心の次の層への扉が開いてくれない。
突入からもうすぐ1時間、クリアした階層は未だゼロである。
「これはなかなかに大変だねっ、護人さん……報酬の用意されたダンジョンだって鬼に言われて、楽な中身を想像してたウチらのミスかもっ。
ここからは、ふんど……もう一回、気合い入れ直して行こうか!」
「そうだね、ふんどしを締め直して……痛いっ、何で叩くのお姉ちゃんっ!?」
言い回しに気をつけなさいと、真っ赤になりながら末妹の発言に憤る姫香である。護人も焦らず行こうと、その言葉に追従する。
ハスキー達も、まだ午前中だけあって全然元気……むしろ敵かどんどん湧くこのシステムが、楽しくて仕方が無いみたい。今度は柔らかい敵を頂戴と、姫香にお替わりを強請っている気も。
それが通じた訳では無いけど、続けて触った装置からは2連続で敵の召喚が発動した。それを嬉々として倒して行くハスキー達&茶々丸、ついでに姫香と萌も活躍を見せる。
ここまで来ると、フロアにそそり立つ装置の数も半減して来た。やっぱり全部倒すのが条件なのかなと、末妹の呟きはこの展開に飽きて来た証拠かも。
紗良も既に、1層分の敵の数は余裕で倒したよねと相槌を返す。拾った魔石はゆうに50個を超えており、その3割以上が小サイズと言う割合である。
ここって経験値貯めの側面もあるのかもと、香多奈の表情も穏やかでない。ロビーから挑む扉の数が減っていたので、楽が出来ると思ったけど思い違いみたい。
やっぱり、鬼の試練は一筋縄では行きそうもない。
とか思っていたら、次の装置のクリアと共に突然開く奥の扉である。重い鉄球を、滑車を使って天井まで釣り上げた途端のその扉の開放に一同ビックリ。
あれっと驚く一同と、すかさずその奥を確認に向かうハスキー達である。メインでロープを引っ張っていた、護人とルルンバちゃんはひたすら安堵の表情。
ついでに、用を果たした重い鉄球が急に消え去って宝箱へと変わってくれた。後ろに引っくり返って腹を立てるも、この労働から解放されたとの思いは大きいかも。
まぁ、ルルンバちゃんは心が海よりも広いので立腹はしなかった模様。ただし、そろそろギックリ腰が心配な護人は、こういうドッキリは大嫌い。
そこに戻って来たハスキー達が、向こうは安全でルートがあるよと報告して来てくれた。つまりは残りの装置は、これ以上触らないで良いみたい。
それを受け、ようやく次に進めるねと護人を起こすのを手伝う子供たち。
――いや、香多奈だけは出現した宝箱の方が大事みたい?




