隣町の依頼を終えて地元に戻って来る件
隣町での依頼を、ギルドで請け負って無事に完了して戻って来た次の日の休日。来栖家の面々は、朝から回収品の仕分けや何やらを行って、リビングはとっても騒がしい。
取り敢えず午前中に、日馬桜町の協会支部へと報告には行く予定。昨日は隣町で、とにかく持て成しをしようとするスタッフを宥めて帰るのに苦労した。
向こうへの報告は、どうやらそこまで丁寧に体裁を取り繕わなくても良いらしい。つまりは地元の協会経由で、動画を提出すればオッケーとの事。
その点は助かった、そしてそれは“パチンコ店ダンジョン”の間引きをした島根チームも同様らしく。A級チームに間引きをして貰っただけで、箔がつくと向こうはとっても嬉しそうではあった。
事後の報告が少なくて済むのは、来栖家チームとしても喜ばしい限り。何しろこっちも、探索業務は飽くまで副業でしかないのだ。
チーム運営のサポートは、紗良や姫香が色々と頑張ってくれてはいる。とは言え、護人に掛かる責任がどうしても大きくなるのは致し方の無い事。
その辺の諸々の業務の片付けや、回収品のお裾分けやらは考え込むと意外と大変。今回は特に、宝物庫など掘り当ててしまってその量も半端でないのだ。
リビングを埋める回収品を見回して、子供達や妖精ちゃんは無邪気に喜んでいる。ただし、換金するにも買い手を見つけるのが大変だし、さてどうしたモノか。
ただまぁ、間近に控える“喰らうモノ”ダンジョンの再攻略に向けて弾みは付いたかも。良品も結構混ざっていたようで、妖精ちゃんも興奮して飛び回っている。
しかも廃棄列車の宝物庫には、何と宝珠が2つも置かれていたのだ。誰がそのスキルを覚えるか、この後少々揉めそうな気配もチラホラ。香多奈と妖精ちゃんは、どうやら新入りのムームーちゃんの強化を狙っているようだ。
ちなみに、恒例のスキル書&オーブ珠の相性チェックは相変わらずの全滅だった。それでも宝珠が2つも手元にあるので、チームの強化は確定している。
魔法のアイテムもたんまり見つかったので、これによる強化も考えて良いかも。そんな今回の、鑑定結果はこんな感じ。
【知識の宝珠】使用効果:使用者はスキル《鑑定》を習得
【属性の宝珠】使用効果:使用者はスキル《水柱》を習得
【大トンボの模型】設置効果:虫よけ効果・中
【ミスリルの鎧一式】装備効果:魔力&耐性up&着脱&セット効果・大
【オリハルの鎧一式】装備効果:打撃半減&耐性up&着脱&セット効果・大
【アダマンの鎧一式】装備効果:体力回復&ステup&不壊&着脱&セット効果・特大
【ダマスカスの鎧一式】装備効果:打撃半減&耐性up&不壊&着脱&セット効果・特大
【ルビーの指輪】装備効果:魔力&魔法防御up・中
【ダイヤの首飾り】装備効果:防御&魔法防御up・大
【グリフィンの尾羽根】使用効果:敏捷&身体能力up・永続
【飛竜の鱗】使用効果:風耐性&物理耐性up・永続
【魔法の車掌帽】装備効果:魔力&MP回復up・小
【魔法の酒瓶】使用効果:保存効果&無限湧き・中
【ダマスカスのハンマー】装備効果:物理破壊&衝撃・特大
【ダマスカスの長剣】装備効果:不折&鋭刃&衝撃・特大
【水蛇の鱗】使用効果:水耐性&水操作・永続×3
その他:『強化の巻物』 (攻撃)×4、『魔法の鞄』(空間収納)×2、『鑑定プレート』(魔玉)×1、『魔導の発電機』×1
宝珠で覚えられるスキルだが、《鑑定》と《水柱》の品揃えで特別にレアでは無かった模様。ただし《鑑定》に関しては、これさえ覚えれば一生食いっぱぐれる事は無いってスキル。
探索でも普段の生活でも重宝するし、就職にも超有利と言われている。協会のスタッフも同じく、買い取り額も他のスキルより高いとの事だ。
これは紗良姉さん行きかなと、姫香と香多奈の思いは概ね一緒みたい。何事もなければ、次の探索までに紗良が覚える事が決定しそう。
それから《水柱》スキルは、言ってみれば水系の一般魔法スキルだろうか。攻撃技として水の槍みたいに飛ばしたり、後は飲み水の確保とか探索者の間では重宝されているそうな。
つまりはこっちも、やや高めの値段で流通していて当たりスキルっぽい。さすが幸運の招き猫だねと、何故かミケの株が家族内で上がるのはいつもの事か。
こちらを覚える者に関しては、家族会議では一応保留と言う形に。宝珠の利点は、素質の無い者でもそのスキルを覚えられる点に尽きる。
ただし魔法系のスキルは、威力が足りずに覚え損みたいな目に遭いやすいのだ。
それから4種のセット装備に関しては、間違いなく大当たりの部類に入りそう。探索者なら誰でも欲しがる装備で、装着した者の得る効果も段違いである。
ただし、篭手とか足具だけとか、個別に装備しても恩恵は得られないのが難点か。これらの装備品に関しては、A級チームが集まる次のレイド作戦までに持ち主は決まりそう。
後は1時間にコップ1杯分お酒が湧き出る酒瓶とか、ダマスカス鋼製の武器とか。素材系の魔法アイテムもそれなりに入手出来たけど、こちらはストックに回りそう。
ルルンバちゃんは魔改造したばっかりだし、それより魔法の鞄や鑑定プレートの予備の回収の方が嬉しいかも。既に持っている『魔導の発電機』も、予備があるのは大いに助かる。
ここまで来ると、売ってお金にとか家族の誰も思わないレベル。それならお隣さんに配って、生活レベルを上げようと発想がそっちに向かってしまう来栖家である。
そんな訳で『魔法の酒瓶』は、ムッターシャとザジが欲しがったのでプレゼント。ついでに魔石(大)も、今回はかなり回収出来たのでズブガジ用に半分ほど融通が決定した。
「ワイバーン肉は、いつでも嬉しがって貰える贈答品だよね。後は花火セットとかかき氷の機械とかあるけど……これはみんなが使う用に、露天風呂の脱衣所に設置しようか?
夏だけでも、ちょっと楽しい雰囲気になるかもだし」
「それより紗良姉さん……お昼前に協会に寄る予定だけど、島根チームにまた何か食べ物とか差し入れするつもり?
あんまり餌付けしても、懐かれて後が大変だよ?」
「えっ、可哀想だからまたお握りでも差し入れしてあげようよ。せっかく遠くから来てくれてるんだし、今後の活躍を期待してさ」
結果、それならワイバーン肉のカツサンドを作ろうと何故か話は纏まった。そんな事を話し合う姉妹は、果たして優しいと世間一般的に言えるのかどうか。
代表して、末妹が差し入れに向かう事で話は決定した。香多奈も大概人見知りしないので、気楽にこの役目を請け負ってくれた。
そんな話をしながら、昨日の回収物を片付けて行く姉妹である。植松の爺婆からもブルーベリーの収穫に誘われてるし、今日はハードな日程になりそうだ。
ついでに夕方には、ようやく愛媛のA級チーム『坊ちゃんズ』が町に到着するとの話。それの歓迎会も、来栖家で行おうって話になっている。
その支度も大変だし、植松の婆にも料理を手伝って貰う予定である。小学校の夏休みを前にして、関係ないイベントで町は盛り上がりを見せている。
“喰らうモノ”ダンジョンの攻略に関しては、協会も参加しての大ゴトになりそうな気配。それだけ超A級ダンジョンの攻略は、何が起こるか分からないのだ。
コイツは特に、異界の生物が融合したとの噂のダンジョンである。藪を突いてとんでもないモノが出たら大変と、協会も最大の警戒をしている模様。
それで通ったのが、A級ランクの4チームでのレイド作戦である。何しろ、出来て1度もオーバーフローを起こしていないとは言え、中には脅威の兵力を備えているのだ。
しかもそれは、A級の来栖家チームの敗退と言う悲惨な結果によってである。なるべく早く何とかすべきだが、その準備がようやく整ったって感じだろうか。
そんな訳で、外から招いた『ライオン丸』と『坊ちゃんズ』の2チームには、作戦決行日まで快適に過ごして貰いたい。そんな思いでの歓迎会だが、それまでにこなす作業が山とある。
働き者の子供達は、お喋りしながら片付けを頑張るのであった。
そしてお昼前に、来栖家のキャンピングカーは協会前の駐車場へ。それから建物内では、いつもと同じ動画チェックと換金作業のお願いからの作業が始まる。
能見さんと一緒に動画を観ながら、姫香は今回の探索は風変わりだったよと愚痴をこぼしている。香多奈は宝物庫を見付けたんだよと、自慢したくて仕方が無い感じ。
護人は仁志支部長と離れた席に座って、毎回の事後報告の処理に当たっていた。ちなみに異世界チームと星羅チームの顛末は、本人たちに聞いて既に知っている。
敵もなかなかしぶといと言うか、“喰らうモノ”の分身体の存在を聞いた時には驚いた。そしてそいつ等が、逃げ落ちた先が例のダンジョン内と来ている。
これで増々、あのダンジョンを攻略する必要性が高まった事になる。それにしても、隣町の連続失踪事件にあの“喰らうモノ”が関わっていたとは驚きだ。
これは異世界から奴を追いかけて来た、ムッターシャチームの報告なので間違いはないだろう。知らずに被害者を増やしていたとは、協会のトップもこの事実を知って頭を抱えている筈。
それを含めて、何とか次の攻略で全てを清算したい所。
ただまぁ、超A級とランク付けされた“喰らうモノ”ダンジョン攻略は、そう甘くは行かないだろう。その為の助っ人チームは、順調に行けばもうすぐこの協会に到着するそうだ。
ちなみに魔石の清算だが、宝物庫の発見もあって4百万を軽く超えてしまった。魔結晶(大)を温存してこの値段は、さすが宝物庫&レア種ラッシュの恩恵だろうか。
それに加えて、隣町からの依頼達成報酬が15万円上乗せの形に。連続失踪事件に関しては、決して完璧な形で解決とは行かなかったけれど。
向こうからしたら、それすらA級チームとの太いパイプを得たとの思いなのかも。確かに今後も似た事件があれば、駆けつけざるを得ない負い目になりそう。
しかも原因は、日馬桜町に生えたダンジョン……負い目と言うなら、かつての来栖家チームの攻略失敗も当て嵌まってしまう。そんな訳で、報酬を受け取りながら複雑な思いの護人である。
まぁ、今後は異世界チームと星羅チームもフットワークが軽くなって、依頼を受ける回数も増えて行くだろう。そうなれば、自然と来栖家チームの負担も減ってくれる筈。
それを期待して、今後も探索業をこなして行くしか。
向こうでは、相変わらず能見さんが動画のチームの活躍に良いリアクションを取っている。護人はそんな子供達を眺めながら、お裾分けの家で採れたトウモロコシを取り出して職員にどうぞと振る舞う。
さすがに宝物庫にあった、石炭や砂金袋を配る訳にもいかない。そう考慮した結果、敷地内で豊作だった野菜に落ち着いたのだった。
それから植松家で収穫予定の、ブルーベリーが豊作だったらまた配分するのも良いかも。子供達の方は、ジャムにしたりアイスやタルトにしたりと、脳内予定は既に満載の模様。
それに加えて愛媛チームの迎え入れだ、午後からも来栖家の予定はぎゅうぎゅうに詰まっている。ついでに島根チームも夕食に招いて、歓迎会は盛大にする予定。
何しろ迎え入れるのは、各県のトップチーム達である。
――狭い田舎町に、何と4つのA級チームが今夜揃う事に。




