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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の春~夏の件
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いよいよ隣町の“鉄橋下ダンジョン”へと挑む件



 隣町の協会は、当然だが日馬桜町のそれよりずっと大きかった。とは言え職員の数はそうでも無さそうで、A級チーム2組の訪問に建物内は蜂の巣をつついたような騒ぎ。

 それに多少は同情しつつも、護人は若い男性スタッフに毅然とした対応を求める。ここがグダグダになると、仕事をこなすうえでお互いに損をしてしまう。


 それから異世界チームの言葉の壁問題、こっちの言葉を理解出来るのはリリアラだけなのだ。ムッターシャとザジは、聞き取り位なら何とかって程度には上達はしているとは言え。

 そこは星羅チームがフォローに入って、何とかする予定らしい。元の生活もそんな感じなのだが、協会にもう2つ言語系のスキル書を強請ねだっても良いかも。


 そんな事を考えている内に、こちらでの仕事は取り決められて行く。要約すると、来栖家チームがダンジョン間引き役で、異世界チーム&星羅チームが住民消失事件を担当する流れに。

 張り切っているザジに、頑張ってねと応援する香多奈は取り敢えず置いといて。町の案内役にと、やって来ていた自警団のメンツはいかにも頼りなさげ。


 元は警官や消防師団が混ざっている筈なのに、こんな大事件にはどうやって対応すべきなのか混乱が目に見えるよう。現在も3日に1~2人は住民がいなくなってるそうで、自警団も対応に追われて大変そう。

 実際に犯人を追いかけて負傷した者もいるそうで、傍から見れば色々と大ゴトである。それでもザジも星羅も、説明を聞きながら事件を解決する気満々だ。


「まぁ、土屋さんと柊木さんが付いてるから、変な事にはならないと思うけど。異世界チームは戦力的には充分だけど、こっちの知識的な部分に不安があるからね。

 しっかり頼んだわよ、ザジの暴走を止めてねっ」

「それは自信ないが、何とかやってみよう……星羅にも第六感的なスキルがあるし、犯人を追い詰めさえすれば戦力的には充分だしな。

 まぁ、そっちもダンジョン間引きを頑張ってくれ」

「新生ルルンバちゃんとムームーちゃんのデビュー戦だからね、頑張るよっ!」


 そう息巻く末妹の香多奈だが、姫香はそれに関しては懐疑的な表情。特に軟体ペットのムームーちゃんに関しては、萌と同じくイケイケな性格では全く無い。

 一応は兎の戦闘ドールは持って来たけど、子供の我がままで場を荒すのはよろしくない。護人も恐らく、この新兵器を前線投入などとは考えていないだろう。


 精々が、後衛で護衛のおままごとみたいな感じでお茶をにごす程度だと思われる。軟体生物のレベルが、この1週間で上がってたのを見た時にはさすがに姫香も驚いたけれど。

 それをやった張本人のレイジーも、いきなりこの幼子を前衛に招くような事は考えてない筈。それよりやっぱり、心配なのは隣町の期待を一身に背負っている地上の捜索部隊である。

 特にザジの張り切り具合は、TPOを全くわきまえていない有り様。




 それでも無駄に時間を費やすのもアレなので、向こうの自警団の案内で別々に動き出す『日馬割』ギルドの3チーム。来栖家はキャンピングカーを協会前に置いたまま、歩いて今日の目的地へ。

 それは確かに、鉄橋下のトンネル部分に生成された入り口だった。協会からは歩いて5分の距離で、今はそのトンネルは通行禁止になっていた。


 日馬桜町みたいに、駅前にダンジョンの入り口が出来ていても、日常的に町民が使う方が確かに危機意識がない。まぁ、駅前を全面通行止めにしたりすると、生活に支障が出るので仕方が無いのだが。

 案内について来た自警団の若者は、そのダンジョン入り口の近くのボードを指差しての近況説明。2か月前に自警団で間引きに入ったモノの、第3層でワイバーンが出てそれ以上の探索を断念したそうだ。


 そんな説明がダンジョン前のボードに書かれる試みは、最近はどの地域でも流行っているそうな。確かにこれなら、出て来る敵の想像もつくし危険度もある程度把握が出来る。

 次に入るチームにも、情報が分かるし良い試みかも。


「まぁ、ウチの地元はほぼ身内のチームで間引きを行ってるからね。協会も人手が足りてないし、ダンジョンの数も他の町より断然多いし。

 でも、他所の管理のやり方を見るのは勉強になるかもね?」

「そうだね、ウチのチームもA級になって遠征が増えて来たからね。紗良お姉ちゃんの事前勉強だけじゃ、大変だし足りないところも出て来るもんね」

「そうだねぇ、でも3層でワイバーンかぁ……フィールド型ダンジョンなのは事前情報で知ってたけど、かなり中のエリアは広いんだろうねぇ。

 B級寄りのC級って話だし、少し難易度高めと思ってた方がいいかも?」


 護人もそれには賛成だが、入り口の大きさから推測するとそこまで危険な感じには見えない。魔素の濃度は測った限りでは確かに高いけど、大型モンスターが出て来れる程大きくはない。

 この程度の数値は、逆に見慣れてしまった感も無きにしもあらず。来栖家チームに回って来る大抵の依頼は、こんな感じで切羽詰まったモノが圧倒的に多い。


 その感想は、ハスキー達も恐らくは同じなのだろう。さっさと入ろうよと、入り口で駄弁だべっている人間たちに視線を送って準備万端をアピール中。

 護人も同じく、後は任せてと案内人の若者にそう告げる。それからハスキー達にゴーサインを送って、チームと共に隣町の“鉄橋下ダンジョン”へと突入して行く。



 そして改めてエリア確認、そこには夏日の線路近くの情景が拡がっていた。田舎の鉄道路線なのだろうか、周囲にあるのは緑の多い森林ばかり。

 夏日とは言ったけど、そこまで気温は高くなさそう……活動するのに大変なエリアでないのは、地味に有り難いけど広過ぎるのは難点かも。

 これでは、次の層の階段を捜し当てるのに苦労しそう。


「うわっ、田舎の路線は見慣れてるけど……どこがモデルなのかな、案外と近場にもありそうな景色だよね。

 ハスキー達、取り敢えず線路に沿ってどっちかに進もうか?」

「空も高くて、入道雲が凄いねぇ……ミケさん、ワイバーンも出て来るかもだって。ちゃんと上空も注意だよ、ムームーちゃんも周囲の警戒しっかりねっ!

 先輩たちを見習って、お仕事を頑張るんだよっ!」


 香多奈の強烈な後押しで、探索デビューとなった幼子の軟体ペットである。その表情(?)に緊張は見られないようで、香多奈に抱っこされて落ち着いた様子をみせている。

 逆にルルンバちゃんは、やや興奮していて入れ込み気味な気も。新生ルルンバちゃんのデビューだとか言われて、いつも以上に頑張らなきゃとか思っているのかも。


 その姿は、確かに以前の魔導ボディとはかけ離れていた。『赤竜の鱗』やらレア鉱石のインゴットをふんだんに使った結果、メタリックな生体兵器染みた容姿に。

 動く姿は、難敵アラクネに似てなくもない。何にしろ、強度も戦闘力も以前よりパワーアップ間違い無しの新生ルルンバちゃんである。


 そんな入れ込んでるAIロボを無視して、ハスキー達は進む方向を決めた様子。或いは何かあるのを察知したのか、右に伸びる線路に沿って進み始める。

 それに元気に追従する、茶々丸と萌のコンビである。茶々丸は新しい魔法の鞍を装備していて、それに乗っかる萌はとっても快適そう。


 姫香も取り敢えず、前衛の指揮がとれるようについて行くようだ。後衛陣に関しては、いつも通りの布陣で遅れずについて行く作戦である。

 そして最初の敵は、そんな後衛陣をピンポイントで狙って来た。そいつ等は空から飛翔して来た大トンボの群れで、決してハスキー達がサボっていた訳ではない。


 と言うか、向こうも敵の群れを発見して戦闘に移った模様。姫香はどっちに応援に駆け付けようか、しばし迷って結局は後衛のサポートへと向かう。

 もっとも、後衛陣も戦力的には充分で、飛翔する敵の撃墜も手馴れた猛者ばかり。護人の弓矢やルルンバちゃんの魔銃は当然だけど、ミケも『雷槌』で初っ端からサービスしてくれていた。


 初戦の小手調べは、こんな感じで姫香が辿り着く前に終了の運びに。そして偉そうな態度でそれを見ていた香多奈と、間に合わなかった姫香の姉妹喧嘩が勃発。

 それをなだめる護人の気苦労は、恐らくいつまで経っても評価はされないのだろう。その間に、優秀なハスキー達は遭遇した敵を蹴散らしてくれていた。


「えっと、コボルトの群れだったみたいですね……森から出て来たから、左右の森には注意が必要かも? それからルルンバちゃんの遠隔攻撃は、今の所は昔通りでバッチリでした。

 気負わずこの調子で行こうね、ルルンバちゃん」

「了解、それじゃあ探索を続けようか」


 紗良の気の利いた解説に礼を言って、護人は探索再開の合図をチームに飛ばす。ハーイと姫香と香多奈から、返事が返って来て子供達のテンションも高い様子。

 それよりこのダンジョン、思ったよりも敵のランクは低いようだ。まだ1層目なので何とも言えないが、今後もこんな感じなら間引きも楽そう。


 とは言え、ワイバーンの目撃情報も嘘では無い筈なので、大物もじきに混じって来そう。来栖家にとってワイバーンは大物では無いが、他のチームが対すると退治はとっても大変には違いない。

 ちなみに、高速道路や鉄道での事故の原因のトップ3にも、未だにワイバーンの襲撃が入って来る。野良モンスターでも厄介な存在のこのモンスター、C級ランクの探索者でも対処は難しい敵ではある。


 自警団のチームが逃げ帰ったのも、そう言う意味では仕方が無いだろう。元々、飛翔する敵の対処はそれなりのスキルか武器を所持していないと、難しいと言うのもある。

 それとも来栖家みたいに、生体兵器ミケが付き添ってくれれば万全なのだが。生憎と、こんなスーパーニャンコは世の中に滅多にいないので、そちらも無理な相談と言う。


 今日のミケは1層目から迎撃のお手伝いをしてくれて、どうやらヤル気がみなぎっている様子。それとも新入りに良いところを見せようと、少し意識しているのかも。

 その軟体ペットのムームーちゃんだけど、周囲から気にして貰える程度には愛想の良さは持ち合わせている。或いは護人が構っているのを見て、他の子達ペットもそれならウチらもと思った節もある。


 それで今はレベル4なので、護人の目論見もくろみはともかくとして良い方向に向かっているとも。将来的にどうなるかは全く不明だけど、構って貰えてムームーちゃんも幸せそう。

 来栖家に迎えられ、居場所を得られて何よりの結果だとも。



 そんな一行だが、時折森の方角や上空から奇襲を受けながら進む事20分余り。それからようやく、進んでいる方向に変化が訪れてハスキー達も興奮している模様。

 とは言え、別に駅が見えたとかそんな変化では無いようだ。鉄橋と言うか、山の谷間を鉄道の架け橋が繋がっている箇所が前方に見えたのだった。


 それに1テンポ遅れて気付いた後衛陣は、ようやくの変化に盛り上がる。映画の『スタンドバイミー』みたいだねと、護人の言葉に何それと疑問を呈する香多奈だったり。

 その映画は、少年たちが線路沿いに死体探しの冒険に出掛けると言う昔のアメリカ映画である。音楽が良いんだよなと、感傷にひたる護人だけど香多奈は要領を得ない様子。


 映画のシーンでは、子供達が鉄橋を渡ろうとすると、やって来る列車と鉢合わせて危うく大事故になる所だった。そんなご都合主義な場面なんて、映画でしか無いよと香多奈は否定的な意見である。

 凄く良い映画だったんだけどなと、護人はちょっと悲しそう。探索中にする話では無いけど、前衛陣は普通にこの怪しい構造物の探索に入っていた。


 そして鉄橋の下に、巨大な蜂の巣があるのを発見するレイジー達。その近くには次の層に続く階段もあって、ようやくの発見にホッとする前衛陣である。

 やはりフィールド型エリアは、ハスキー達にとっても厄介みたい。先導役としてのブライドを持って、いつも探索に取り組んでいる彼女たちの気概は大したモノ。

 とっても真面目なその態度は、後衛陣とは大違い。





 ――とにかく、後は邪魔な蜂の巣を破壊して通れば良いだけ。








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