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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の春~夏の件
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最初の浄化依頼を取り敢えず泉でこなす件



「えっと……何か浄化の泉を使う資格を今から見極めるって、テレパシー的なモノで言われちゃった。この白い竜と戦うんじゃなくて、ガーディアンを出すから1人で戦えって。

 それから、泉で浄化する品は1個だけだってさ」

「ええっ、そんなケチ臭い事言わなくっていいのに……こっちには呪いの品が3つあるんだから、何とかして貰えないの、姫香お姉ちゃんっ?」

「いやいや、それより1人で戦うって……選手交代は出来ないのかい、姫香? 随分とシステマチックな上に、後出し説明な浄化方法だな。

 それにしても、このフロアによどみが無いのはこの管理者のお陰かな?」


 いきなりの管理者の出現とルール説明に、戸惑いを隠せない来栖家の面々。管理者の白竜は、交替は無しねと飽くまで厳格な態度(?)を崩さない。

 それから各階の瘴気溜まりについてだが、どうやらこの不完全な浄化の泉が原因みたい。呪いのパワーは凄まじく、浄化の泉をしてもっても完全除去は不可能で。


 何とか追い払った呪いの暗黒パワーが、よどみと化して各層に瘴気溜まりを形成するのだそう。ウチも困ってるのよねと、管理者の白竜もお困りのよう。

 そしてこの泉での浄化作業は、1個だけなのは譲れないそう。ただし、上の層にも浄化の泉は存在しているので、余剰分はそっちでお願いねとの事である。


 それを聞いて、それならと鞄からいそいそと呪いの剣を取り出す紗良であった。ドワーフの親方に頼まれた案件を、まずは片付けようとの作戦らしい。

 姫香は頷いて、白竜にアレをお願いとテレパシーでの遣り取り。その頃には、何とツグミが誰も新たに入れない筈の結界を抜けてご主人の隣へ。

 それを見た管理人は、何じゃこりゃ的なリアクション。


 来栖家の面々も、その所業には内心で驚いたが敢えて顔には出さず。不正を指摘されても困るので、見ない振りを装う作戦であった。

 白竜も仕方無いなとの素振りで、それじゃあガーディアンを出すよと話は何とかついた模様。そして出現したのは、白い翼を持つ天使のようなパペット戦士が1体。


 通常タイプよりは強そうだけど、手にした剣や盾をどの程度使いこなせるかによるだろう。それから飛行能力も備えていて、雑魚とは違う雰囲気を持っていた。

 ただし姫香は、『圧縮』の足場で空の敵を苦にしないし、相棒のツグミのサポートも万全と来ている。案の定、派手な空中戦が数分続いたのちに、無残にも翼を叩き折られて墜落する白い天使型パペット。


 そこにツグミの咬み付き攻撃からのブン回しが炸裂、哀れにも翼に続いて腕をもぎ取られたパペットは戦闘不能に。あ~あと嘆息しながらも、管理人の白竜は勝ち名乗りを上げてくれた。

 そして完全に破壊される前に、パペットは回収されてしまった。魔石が貰えないじゃんと抗議する末妹を無視して、白竜は呪い解除するよと速い展開で作業を催促。


 そして、イベント的な呪い解呪のエフェクトに感心する面々。浄化の泉の能力は、少なくとも嘘では無かったようで何となくホッとする一行である。

 何しろ、ここまで来て無駄足だったなんて洒落にもならない。


「まぁ、これで親方の依頼を無事にクリア出来たんだから良かったよね。そんで、次の浄化の泉は何層にあるんだろう?

 呪いの品があと2つあるから、それなりに進まなきゃなのかな?」

「白竜は教えてくれなかったよ、頑張れとは言ってくれたけど……案外、階層エリアのよどみの掃除を期待されているのかも?

 泉の水は汲んでっていいそうだから、浄化ポーションの代金は少しは浮くかもね」


 それは良いねと、喜び勇んで紗良と香多奈は空き瓶を持って泉のそばへ。その頃には白竜も結界も消えていて、周囲は平和そのものでやりたい放題。

 ついでに泉の傍に生えている木の実も回収して、香多奈はしてやったりの表情。姫香は浄化の完了した依頼の剣を眺めて、その性能に目を見開いて驚いている。


 紗良はこの後もいっぱい《浄化》魔法を使うのを見越して、MP回復ポーションを飲みながら休憩中。その予感は恐らく正しいだろう、何しろ泉を後2つ見付けないと駄目なのだ。

 まぁ、駄目って事は無いのだけれど……心情的に呪いの品を、ずっと家の中に置いておくのは護人にしても嫌過ぎる。こんな遠方まで来たのだし、それなら用件はなるべく片付けたい。


 香多奈は休憩の間、新入りのムームーちゃんを相手にコミュニケーションを取っていた。コロ助もそれに交わって、新入りを見定める仕草。

 幸いこの軟体生物に、人見知りなどの類いは無さそうで何より。体力お化けのハスキーの相手は大変だけど、向こうもこのチビ助が子供だと分かっているよう。


 手荒な真似はしないけど、好奇心は抑え切れないようで。匂いを嗅いだり鼻でつついたりと、ちょっかいをかけて反応を楽しんでいる。

 香多奈も同じく、間違ってもこの軟体スライムを凄く可愛いとは思わないけど。一度は飼ってみたかったのも確かだし、何と言うかおもむきがあって観察には適してそうだ。

 例えそれが家族には、全く理解されない感情だとしても。




 そして休憩が終わって、次は5層の探索に出発である。この神殿みたいな清浄なフロアに別れを告げて、一行が出て来たのは見慣れたよどみだらけの破壊された塔フロアだった。

 敵の気配もあちこちから漂って来ており、ハスキー達は早速お仕事だと張り切って退治におもむいている。茶々丸と萌もそれに同伴、姫香は周囲を確認して瘴気溜まりの数チェック。


 それから先ほどと同じように、姉の警護をしながら4つあるそのよどみのお掃除へと向かって行った。香多奈は頑張ってねと声掛けして、大人しく後衛でお留守番。

 護人は各所に目を光らせて、何か不測の事態が無いかのチェックに余念がない。呑気なのは、ムームーちゃんの相手をしている末妹とルルンバちゃんのみ。


 この層で出て来る敵も、大ゴキブリや大ネズミがメインのようだ。レイジーが炎で焼き払いながら、安全領域を広げて行ってくれている。

 紗良と姫香の姉妹コンビも、順調に《浄化》スキルを放って回っている。そこに潜んでいたモンスターも、時折一緒に始末されて魔石が転がり出て来る。


 それを姉妹で拾う姿は、傍目で見てると和むシーンではある。ただまぁ、やってる事はダンジョン探索だし、スキル敢行からのモンスター討伐である。

 そんなフロアのお掃除は、モノの10分足らずで終了の運びに。安全を確保したハスキー達は、得意そうにそれをご主人に報告しに戻って来た。


 と言うか、ここは中ボスの部屋があるフロアの筈だけどそれが見当たらない。どうやらあの神殿フロアは、イレギュラーで階層に勘定されないのかも?

 不審に思いつつも、護人は報告して来たハスキー達を褒めてやる。それからこちらも、浄化作業の終わった姉妹と合流を果たして。慣れると何て事も無いねとの、姫香の軽口をたしなめながら全員で階段を目指す。

 それより次の層に、中ボスの部屋が無かった場合はどうするべきだろう? 家族で話し合うも、まぁ直接見た方が早いよねと言う結論に。


 そんな訳で塔の幅広い階段を上り切って、次の層へのゲート前へ。そしてハスキー達を先頭に、区切りとも違う6層へと家族で突入を果たす。

 そしてその雰囲気の変わり様にビックリ、何と推定6層フロアは牢がズラリと並ぶ監獄エリアだった。ここも瘴気溜まりがそこら中にあって、空気はかなり悪そう。


 ハスキー達も、思わず進むのを躊躇ためらう程で吸い込んだら体に悪そう。紗良もこれは不味いと思ったのか、その場で《浄化》スキルを発動させる。

 茶々丸も、すかさず《マナプール》を使用してのサポート。ずっと探索について来ているだけあって、その辺の意思疎通はさすがである。その甲斐もあって、今まで以上の範囲の一発浄化に成功した。

 それを見て、やんやの喝采かっさいをあげる香多奈である。


「凄いっ、紗良お姉ちゃんっ……何だか周りの雰囲気まで明るくなったよ、浄化の魔法ってこんなに効果あるんだねっ!

 これならハスキー達も、安心して周囲を歩き回れるよっ!」

「本当だ、でもフルパワー使って大丈夫なの、紗良姉さん? まだ探索も途中なんだし、無理はしちゃ駄目だよっ」

「ありがとう、姫香ちゃん……茶々ちゃんがサポートしてくれたし、MPについてはまだ平気だと思うよ。

 でもさすがに連続では無理かな、ちょっと休憩が必要かも」


 それはそうだと、家族に無理をさせない方針のチームはその意見を快諾する。取り敢えずは清浄になった周辺の探索を行いつつ、紗良の回復を待つ作戦に。

 そんな中、香多奈が農薬の散布機みたいなのがあれば良かったのにねと、浄化ポーションの新たな使用法を思い付きで発言する。確かにそんな機械があれば、紗良姉さんの負担も減るねと姫香も同意。


 護人もその末妹の意見には、なるほどと思わず納得してしまった。ただし無い物は仕方がないし、水鉄砲ではかなり効率が悪いのは明らか。

 その時、姫香の装備していた白百合のマントが妙な動きを示した。姫香が手に持っていた浄化ポーションのボトルへと布の端を伸ばし、まるで何とかするよと言いたげなその動き。


 実は姫香は、普段の訓練から白百合のマントを鍛えれないかと、アレコレ実験的に試していた。何しろ近場に、薔薇のマントと言う強烈な成功例があるのだ。

 どうやら相棒候補の白百合のマントは、奥ゆかしい性格と言うか好き嫌いが激しいみたい。余った装備品を与えようとしても、拒否られてしまう事もあったりして。


 まだまだツグミのように、相棒と呼ぶには頼りない存在には違いない。そんな中、辛うじて予備の魔法の鞄は吸収してくれて、使い勝手は物凄く良くなってくれた。

 意思疎通もそこそこ可能だし、向こうも姫香をあるじと認識してくれている。信頼関係はきずけているのだが、さて今回のお願いの意図はどこに?


「あっ、上手いねっ……浄化ポーションを霧状にして散布してくれてるよ、この子! 私たちが話してたのを理解して、自分は出来るよって実践してくれたんだね。

 これなら、周囲の瘴気溜まりにも効果的かもっ?」

「おおっ、それは凄いかもっ……半分くらい存在を忘れかけてたけど、お姉ちゃんの白百合のマントもちゃんと進化をしてるんだねっ!

 田んぼの薬品散布も、今後はお任せ出来るかもっ?」


 興奮してそう叫ぶ香多奈だけど、意志を持つ魔法の装備に果たしてそんな作業を任せて良いモノか。取り敢えず、この現場ではかなり有効な手段となってくれそう。

 護人の背中の薔薇のマントが、何となく嫉妬しているのは置いといて。姫香が進む方向の瘴気溜まりの残滓ざんしは、明らかにダメージを受けていた。


 ただし、紗良の《浄化》スキル程の威力は無いのだろう。潜んでいたゴーストや闇系の敵が、驚いて順次飛び出して来ている。姫香に続いて進むハスキー達が、それらを始末して回ってくれている。

 それはそれで良いサイクルで、紗良のMP節約にも貢献している感じ。浄化ポーションは前の層でかなり補充出来たし、この作戦はかなり有効かも。


 このエリアは牢屋の並びが多くて、空気のよどみが各所に存在する。昏い通路も1本では無くて、向こうには四つ辻もあるようだ。

 牢屋はほとんど鍵が掛かっておらず、不気味なむくろや骸骨が転がっていたりと演出も酷い。もちろん近付けば動き出すけど、白百合のマントの散布攻撃でダメージが入って慌てている感じ。


 これは良いねとはしゃぐ末妹の隣で、護人は薔薇のマントをなだめるのに忙しい。本当に個性豊かなチームには違いなく、それをぎょすのも一苦労だ。

 新たに良く分からない軟体生物の参入の予感に、この先が不安でしかない護人である。それでもピタッとピースがはまれば、チームも一段と成長するのかも。


 いや、このスライムモドキを今後、探索に同行させるかは全く不明だけど。何となく漂って来るそんな気配に、遠くない未来に思いを馳せるリーダーであった。

 それも運命なのか、こんな辺鄙へんぴな場所で出会えた事も含めて。





 ――本当に、ユニークな仲間を持つと対応に苦労させられる。










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