表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の春~夏の件
529/861

ヤン茶々丸が変身ヒーローよろしく颯爽と登場する件



「うわっ、思ったよりこっちに来る敵が多いね……こりゃ、陽動作戦は失敗かも? それとも、この要塞の中に詰めてた敵の数が多過ぎたのかもね。

 オーク兵が大半だけど、オーガ兵やトロールも混じってるよ」


 そう呟く姫香は、要塞の裏通りの一角で派手に戦闘中だった。ハスキー達やルルンバちゃんも一緒で、戦力的には不足と言う事も無いのだが。

 それは相手も同じ事、倒しても後からどんどん増援がやって来るこの状況。しかもオーク兵ならまだ良いけど、その中にオーガやトロールも混じり始める。


 それにつれて戦闘時間も増えて行って、目的の塔へもなかなか近付けないと言う。これは不味いかなと思うも、良さげな打開策も思いつかない現状である。

 既に敵の兵団も、20匹以上は始末しただろうか。ドロップした魔石にも、普通に小や中サイズが混じり始めている。


 裏通りから動けないこの現状を、姫香はどうしようかなと思考中。そんな時、救い(?)は思わぬところから出現して、それはある意味センセーショナルだった。

 姫香は思わず萌と見間違えたが、どうやらそうではない様子。装備は全て萌のモノで、フォルムも一緒だけど戦い方は思い切り大胆である。


 紫雲竜の鎧を着こんで、黒雷の長槍を構えて敵の群れに突っ込んで行くその勇姿。角の形状から変身した茶々丸だと断定して、姫香は呆れて二の句が継げない状況に。

 レイジーも、独断での先行は不味いと思ったのだろう。フォローするべく子供達を引き連れて、炎を身にまとっての予定外の特攻を敢行する破目に。


 場は予期せぬパニック状態、お陰で向こうも伝令役がいなくなったのだろうか。それともレイジーの陽動作戦が、今頃ようやく功を奏したのかも。

 追加の敵もようやくいなくなったが、間違ってもヤン茶々丸の捨て身の特攻のお陰で無いのは確か。後でキツく叱ってやろうと、姫香は心に決めてルルンバちゃんに移動を指示する。

 そしてその巨体を、何とか塔内の隙間へと隠す事にまずは成功。


 とは言え茶々丸も、新スキルの《飛天槍角》のお陰で隙が無くなって来たのも確か。オーガを相手にも互角以上の戦いをしており、確実に成長はしている感じだ。

 それでも、フォロー無く敵のど真ん中に突入するおバカ振りは、レイジーもプッツン来てるかも。幸いにも、敵の混乱を突く事で何とか味方に被害は無かった。


 今は回復役の紗良がいないので、実は冷や冷やの姫香である。もちろん薬品類は多めに持って来ているけど、間に合わない事だって当然あるのだ。

 そんな茶々丸だが、今は萌の半人半竜姿にヤギの角と言うフォルムで待機中。《変化》のペンダントや装備一式を、いつの間に萌から拝借したのかは定かでは無い。


 とにかく路地裏の連戦は、何とかこちらの勝利で幕引きに持ち込めた。それに安堵しつつ、茶々丸を軽く叱って戦闘の後始末を行なう。

 姫香に付き従うハスキー達は、再び隠密モードで移動を開始する。次に敵と出遭っても、今度は増援を呼ばせず始末する気満々だ。


 入り組んだ塔の通路は、幸いにもどこも広くてルルンバちゃんの移動にも不自由はない。恐らくオーガやトロルの巨人勢が、移動をする用のサイズ感なのだろう。

 それでもハスキー達の反応から、姫香は後衛陣もこの塔内の上にいると察知する。それなら後は、向こうと合流を果たすのみ。


「ふうっ、何とか無事に塔内に潜り込めたね……当初の予定とはかなり違ったけど、みんな揃ってるし後は後衛陣と合流するだけだねっ!

 茶々丸、アンタこれ以上は勝手な真似しちゃダメだよっ!」


 何で怒られているか理解してない茶々丸は、萌の姿で小首を傾げてあざとい素振り。とは言え、家族を群れと捉えている仔ヤギは年長者の命令は絶対。

 萌やルルンバちゃんは、茶々丸にとっては兄弟も同然の存在である。共に探索の同行を楽しむ、同士でもあるので自然と仲良くしている次第。


 そんな仔ヤギは、年長者にガミガミ言われたり、レイジーに圧を掛けられるのにすっかり慣れてしまった。つまりは敵を上手く倒しなさいと、そんな事を言われていると話の内容を勝手に推測する。

 それについては、今後も頑張る所存の茶々丸なのであった。




 それと同時刻、目的の塔の上層部の広間では熾烈な戦いが続いていた。そこはオーガの王の謁見の間のしつらえで、護衛兵団もわんさか控えていた。

 そこに吹き荒れる、紗良の先制の範囲氷魔法はとっても効果的ではあった。ただし、とても全員を倒すには至らず、しかも来栖家チームは萌が仔ドラゴン形態のハンデ付きと言う。


 この危機に踏ん張りを見せたのは、誰あろうリーダーの護人だった。後衛の護りをミケと萌に任せて、完全に1トップの形で敵を後ろに抜かせない構え。

 “四腕”をフル稼働させての、派手な戦いは普段はあまり披露していないとは言え。毎日の特訓で、最近はムッターシャ師匠にしごかれまくっているのだ。


 その為に戦闘能力は、以前より上昇していると自負している次第である。ただまぁ、大人数を相手取る戦いは現状あまり機会が無い。

 それでも“四腕”のそれぞれの腕は、護人の意思とは関係なく敵をほふって行く。ある意味物凄い存在感を発揮して、近付く敵の兵達を薙ぎ払ってくれている。


 そんな叔父を応援する香多奈も、興奮し過ぎてつい前へと向かいそうに。それをなだめつつ制する紗良も、心労は結構大きいのかも。

 すぐ近くから湧き起こる剣戟けんげきと怒声……相手のオークとオーガの混成軍も、黙ってやられる訳もない。必死の抵抗を見せており、一歩間違えば倒されるのはこっちである。

 それでも、目的の次の層へのゲートは室内に発見済み。


「頑張れ叔父さんっ、ミケさんも手伝ってあげて! レイジー達は別ルートでいないんだよっ、のんびりしてたらダメなんだからねっ!」

「うんっ、そうだねっ……今は護人さんだけが前衛で大変だから、ミケちゃんもお手伝いお願いっ!」


 実は子供達に頼られるのが嫌いではないミケは、紗良と香多奈のお願いに応えて敵に視線を送る。確かに数は多いけど、大物はそんなに混じっていない感じ。

 ミケにとってはそんな焦る事態では無いけど、確かに仲間の不在で飼い主の家長は大変そう。そもそも、なんで二手に分かれたのかもよく分かっていないミケである。


 皆で一点突破すれば良いのにと、実はチームで一番の力技の推奨派は彼女ミケなのかも。そうすると、数百以上の敵に寄って来られて大変な目に遭ってそう。

 その辺の計算がとってもアバウトなミケは、今の状況も何て事は無いと認識していた。ここは龍召喚に頼る程でも無いかなと、十八番おはこの雷落としで敵に対処する。


 それでもそのサポートは素晴らしく秀逸で、バタバタと倒れて行く敵のオーク&オーガ兵たち。重厚な鎧を着こんでいたのが、或いはあだとなったのかも。

 物凄い体格のオーガ兵の将軍級も、このミケの横槍にいきなり瀕死の状態に。やるとなったら容赦のない手出しは、ミケの得意技でもある。


 香多奈はそれを見て大(はしゃ)ぎ、やったねとミケのお手柄を大いに持ち上げる。それで気分の良くなる家猫ミケは、やっぱり家族といるのが大好きニャンコなのだろう。

 そして気付けば、護人は敵の大将と一騎打ちで剣を打ち合わせていた。オーガの王様の装備は豪華で、どこから見ても大将格なのは間違いなさそう。


 敵の大将はスキルも頻繁に使って来て、護人もさすがに苦戦している。バーサク系とか切断系のスキルは、合わさるとかなりの威力を発揮するのだ。

 両者の戦っている周囲の壁や床は、かなり悲惨な状態になっていた。それでも『硬化』スキルと新たな《堅牢の陣》での防御は、厄介なスキルの封じ込めに成功している。

 ついでに新しい『剣竜の盾』も、スキルと相性が良く使い勝手が良い感じ。


 護人もお気に入りで、激しい敵の攻撃をほぼ完封する勢いなのはこの新装備のお陰も大きい。それから隙を突いての反撃で、段々と敵の大将のHPも削れて来た。

 気付けば周囲の敵兵たちは、全て魔石に変わり果てていたようだ。末妹の声援には、もうすぐ姫香が到着するよとのメッセージも混じっており。


 向こうもどうやら、陽動作戦からのAIロボのエスコートに成功した模様。これで心配の種も無くなって、後はこの大物を退治すれば良いだけ。

 まぁ、言うほど楽な相手では全く無いけど……少なくとも、今まで戦って来た獣人と較べると明らかにランクが違う。スキルを幾つも多用している点からして、それは明らかだ。


 こちらも“四腕”をフル稼働して、いよいよ攻勢に打って出てやると。向こうも不屈の気合いでの最後の悪足掻わるあがき、なかなか楽にフィニッシュに持ち込ませてくれない。

 それでも一度傾いた形勢は、最後までくつがえる事は無かった。


「叔父さんっ、お疲れさまっ……ミケさんが手伝ってくれたの褒めてあげてっ! 姫香お姉ちゃん達も合流して来たよっ、魔石を拾ったらこれで移動出来るねっ。

 お姉ちゃんったら、途中で宝物庫を見付けて寄り道してたんだって! 後で何をゲットしたか、ちゃんと見せて貰わないとねっ」

「おおっ、そうなのか……それより、ハスキーや茶々丸は無事なんだね? それと、うっかり茶々丸を配置し忘れた事は本人には内緒にな。

 ねられたら、この後の探索に響くかも知れないから」


 それもそうだねと、宝物を臨時でゲット出来た末妹は上機嫌で応じてくれる。その肝心の姫香とハスキー軍団だが、広間の入り口で紗良に捕まって怪我チェックを受けていた。

 それから護人の視線に気づいて、元気に大きく手を振って来る。いち早く怪我チェックの終わったレイジーが、嬉しそうに尻尾を振りながら近づいて来た。


 そんな相棒を撫でながら、チームの合流に安堵のため息をつく護人である。とは言えモタモタしていたら、ここにも追加で増援が来るかも知れない。

 それを知ってか、香多奈も落ちているドロップ品を拾う速さは半端ではない。合流したルルンバちゃんも、嬉しそうにそのお手伝いに励んでいる。


 ちなみに護人が手古摺てこずって倒したオーガ大将だが、見事なサイズの魔石(大)をドロップした。それからオーブ珠に、立派なサイズの大剣が1本。

 部下たちもスキル書や鋼の装備、金貨の入った革袋などをいっぱい落としていた。それを拾って回る末妹は、とっても楽しそうでご機嫌に鼻歌など歌っている。


 治療の終わった茶々丸もそれに参加しようとして、姫香に装備を萌に返しなさいと怒られている。その姿はちっとも懲りた感じも無く、萌も全く気にしていない模様。

 相変わらず騒がしい来栖家の面々を、束ねる立場の護人の気苦労と来たら。とにかく次は9層だ、区切りの10層ももう目前まで来ている。


「護人さんっ、こっちの怪我チェックと香多奈のドロップ品の回収終わったよ! あんまりのんびりしてたら、敵の増援が来るかもだからさっさと移動しよう」

「そうだな、ええっと……忘れ物は無いね、みんな。それじゃあ出発しよう、ハスキー達と茶々丸、もうひと頑張りだぞ」

「そうだね、茶々丸を忘れないように……痛いっ、なんで引っ掻いたのっ、ミケさんっ!?」


 口を滑らせそうになった末妹に、爪で制裁を加えたのは誰あろうミケだったと言うオチ。彼女も子供達の心の機敏には、それなりに目を光らせてくれている様子。

 そして茶々丸も、ミケにとっては大事な子供ではあるようで。余計な事を言うんじゃ無いわよと、ミャアと鳴いて口チャックをうながしている。

 本当に、子供が多いとしつけも大変である。





 ――護人も全く同意見、問題児が多いとチーム統率も大変だ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ