いよいよ家族で遠征先の秋吉台へと移動する件
その日は家族でちゃんとした宿へ泊まって、しっかりと疲れを癒した来栖家チームの面々。そして恒例の早起きから、ハスキー達の散歩をさせている姫香である。
やや寝坊をした護人と香多奈は、それを知ってやや気まずい思いをしたモノの。早起きしても、協会が開くまで特にする事も無いのを思い出してホッと一息。
それから、朝食の準備が出来たとの知らせが宿の仲居さんから。宿の食堂へと揃って移動して、『シャドウ』の面々と朝の挨拶を交わす一行であった。
他のベテラン岩国チームも、深酒したメンバーは全員この宿に泊まっている筈。ただし、酒のダメージのせいか誰も起きて来ずな困った事態に。
まぁ、彼らも同じくレイド出発まで取り立ててする事は無い。来栖家チームのみが、岩国の協会へと報告と換金作業に顔を出す予定。
そうは言っても、協会が開くまでまだ時間があるのは確か。姫香もペット達の調子を護人に報告しながら、今日も頑張ろうと明るい口調で家族を鼓舞する。
もっとも、今日は協会に寄ってから次の目的地への移動しか予定は無い。まぁ、観光も行うとなると、それなりに気合いを入れておくべきか。
それからレイドを一緒にする他チームと、一応顔合わせも行う予定。レイド作戦は毎回バタバタするけど、今回も前日の夕方に顔合わせで翌日には作戦開始である。
エリア分担さえすれば問題無いので、その辺は特に取り正す事もない。ただし、下手に問題を起こすチームが混じって無いかなど、事前の情報収集も大事ではある。
そんな事を内輪で話し合いながら、朝食の時間は滞りなく終了した。『シャドウ』の面々は、先輩たちが起きて来るのを待って、それから順次遠征先へと旅立つ予定らしい。
来栖家チームも朝の準備を済ませて、それから簡単に昨日とその前の回収品の仕分けを行なっての時間潰し。後は宿でのんびりしながら、協会の開始時間を待つ。
岩国方面遠征の4日目、来栖家はまったりムード全開である。
朝の9時過ぎ、来栖家のキャンピングカーは昨日も朝に寄った岩国の協会へ。相変わらず騒がしい子供達と、今日も元気いっぱいなハスキー達と言う構図に。
慣れない岩国の職員たちは、面食らいつつ対応してくれる。幸いにも超ゲスト扱いをして貰えて、護人としてもホッとひと安心。
さすがA級の扱いはどこも丁寧で、その点は昇格して良かった唯一の点かも。そして魔石と現代兵器の買い取りも、割と迅速に行って貰えた。
その結果、“美川ムーダンジョン”の魔石の売り上げは297万円とかなりの高額に。ポーションと鑑定の書の売り上げが6万円なので、合わせると3百万超えである。
それから“岩国基地ダンジョン”の魔石の売り上げも、同様に292万円とぼちぼちだった。ポーションと鑑定の書の売り上げが8万円で、足して3百万円である。
それに加えて、銃火器や弾丸や手榴弾の総額がザックリ3百万円との査定結果。現代兵器の価値などトンと分からない護人だけど、サービスして貰ったのは雰囲気で察する事が出来た。
要するに、また次回お願いしますってお願い料も込みらしい。換金作業もスムーズで、動画編集は馴染みの能見さんにやって貰うのでここでの作業はほぼお終い。
ただし今回は、途中までとは言え『シャドウ』チームと合同で探索を行ったのだ。換金した魔石の売り上げやドロップ品は、しっかり分けないと。
そんな訳で、一応ついて来て貰った彼らと分配方法についての相談の時間。向こうは同伴したのも5層までだし、あまり役に立たなかったと謙遜している。
護人としては、今度の“喰らうモノ”ダンジョンのパートナーとして白羽の矢を立てたチームである。懐の深い所を示しておいて、またご同伴願う為にもここは折半でも良い程だ。
驚いた事に、お金にガメつい香多奈もそれで良いよとご機嫌に同意してくれた。他の子供達も否は無いし、金銭面の報酬分配はこれで片がつきそう。
向こうはひたすら恐縮しているが、次のお仕事の依頼料込みと言われたら受け取るしか無い。地元の難関ダンジョンへのお誘いに、受けた三笠も気の引き締まる思い。
それからついでに、魔法アイテムの『魔法の自動小銃』と『惑いの迷彩服』も向こうのチームに融通する事に。こちらは宝珠と盾やその他を貰うので、渡し過ぎって事も無い。
その辺は潜った階層数も違うので、向こうも何の文句も無い様子。そして盾と宝珠|《堅牢の陣》だが、両方とも護人が使う事に決定した。
護人は既に『硬化』と言う防御系のスキルを持っているけど、これは飽くまで個人用である。この新しいスキルは、恐らくコロ助と同じく範囲で作用が可能な筈。
そうすると、今後は後衛全体を護る事が容易になるとの目論見だ。紗良も《結界》と言うスキルを持っているけど、防御スキルが2つあればもっと万全となる。
そんなチーム方針だけど、上手く運ぶかは今の所は不明。
そうして岩国の協会での用件を済ませ、飲み過ぎた方の岩国チームとも合流を果たした。後は向こうの装甲車に先導して貰って、次の目的地へと移動を果たすのみ。
来栖家のキャンピングカーは、道中も賑やか……かと思ったら、一番騒がしい香多奈が勉強会に捕まってしまっていた。そんな訳で、紗良先生を相手に道中はテキストと睨めっこする破目に。
静かでいいねと呑気な物言いの姫香だが、相手をしてくれる者がいなくて少し寂しい様子。膝の上のミケを優しく撫でながら、助手席で次のダンジョン情報を護人と話し合っている。
その会話が小声なのは、後方の勉強会の邪魔をしない様にとの配慮なのだろう。ハスキー達も静かなのは、車での移動中は省エネモードが徹底されているから。
それに合わせて茶々丸や萌も大人しく、珍しく静かな移動となってしまった。そのせいって事も無いけど、2時間と少しで目的の美弥市へと到着した。
その途中にお昼ご飯を食べに、大きな道路に面したラーメン屋さんへと寄た一行。そこで夕方までの時間をどうしようかと、4つのチームでのんびりと話し合う。
観光なのは決まっているけど、まずはどこを廻ろうかと賑やかな子供たち。特に香多奈は、ようやく宿題から解き放たれて普段の倍の騒がしさ。
そんな中、舞戻はチャーシューでハスキー達を手懐けようと必死。紗良も手伝ってくれて、この懐柔策は何とか成功になりそうな予感。
もっとも、ミケだけはそんな手には乗ってくれそうも無いイケズ振り。
「そんで、向こうでは夕方までに集合場所に入れば良いんだっけ? それまでは自由時間なんだ……秋吉台は観光地みたいだし、どこを廻る予定なの?
まぁ、香多奈に決めさせればいいかな、護人さん」
「そうだな、明日は朝からレイド作戦だから、あまり疲れない感じでな。岩国チームも一緒に行動するから、変な場所は選ばないでくれよ、香多奈」
「分かってるよ、叔父さん……観光マップ見せて、紗良お姉ちゃん。どこが良いかな、やっぱりハスキー達も楽しめる場所が1個は欲しいよねっ」
そんな事を口にする末妹は、やっぱり家族想いなのだろう。それから追加で、集合場所の旅行村から大きく外れない場所にしてくれと注文が届く。
仕舞いにはヘンリーや三笠も加わって、観光ルートの選定を始める始末。ドライブでカルスト平原を行くのは定番のルートらしいけど、他にも鍾乳洞巡りもお勧めみたい。
結局はその2ヵ所に決まって、後は食べる物をどこで仕入れるかとの話し合いに。鈴木からは、宿泊場所はコテージがあるし、夕食は一応用意もされているの情報が。とは言え簡易食だろうし、自分達で用意する分があっても良い。
食材があるならみんなの分も作りますよと、紗良と舞戻のペアは本当に甲斐々々しい。それならせめて食材費は出すよと、岩国チームは口を揃えて提案してくれる。
そんな取り決めを含みつつ、ようやく昼食を終えての移動が再開された。今度は来栖家のキャンピングカーが先頭を進んで、観光地巡りをエスコート。
その大役を任された香多奈だが、飽くまでお気楽に構えて緊張の欠片も無い。まぁ、今から遊び倒すって言うのに、緊張も何も無いのだろう。
そして次第に標高が高くなっての、カルスト平原が見え始めると。その景色の壮観さに、おおっとどよめく子供達であった。ペット達も、何となく窓辺を占領して外を眺めている。
時期も丁度、梅雨が明けた頃なので緑は青々として生命の波動を遺憾なく発揮している。目に眩しい位で、そんな草原の中に岩々が散らばって生えている。
その自然の作品は、確かに見ていて面白いかも。
「おおっ、何か凄い景色かも……観光って気分になって来たよ、さっきのラーメンも美味しかったけど!
ハスキー達も見てる、ミケさんも存分に見たらいいよっ!」
「ここって、野原を歩き回っても怒られないかな? ミケはともかくとして、ハスキー達はちょっと散歩させてあげたいね。
1日でも運動しない日があると、この子たち不機嫌になるから」
「どうだろうな、道路沿いとかなら全然構わない気もするけど。どこかパーキングを見付けたら車を停めようか、それからみんなで散歩をしよう」
車内も至って呑気で、ミケや萌などはお昼寝中で観光には興味は無さげ。茶々丸だけは、外の青々とした草原に食欲を掻き立てられている様子。
それから一行は、パーキングを見付けてのお散歩タイム。岩国チームも混ざっての、撮影しながらの賑やかな道のりではあった。
ただし、ハスキー達のペースで進むのは、元気な姫香と舞戻のみと言う。茶々丸は完全に道草を食っており(まんまの意味)、それを紗良が隣で待ってあげている。
子供達の意見は、カルスト地形って面白いねと興味はそそられまくりのよう。明日のダンジョン探索でも、それを嫌と言うほど味わえるよと鈴木の注釈が入る。
そんなエリア構成だったっけと、改めて次のダンジョン情報を思い出そうとする子供たち。事前の情報収集に熱心なのは、実はチーム内では紗良のみである。
次の“秋吉台ダンジョン”についても、特に研究などしていない様子がバレバレ。それでも自信だけは何故か一丁前な、香多奈を中心とした子供達であった。
ついでに言うと、その後に向かった鍾乳洞は有名な観光名所だった。ただし子供達には不評で、これならダンジョン探索の方が迫力があるねとの感想である。
確かに洞窟タイプのダンジョンなど、どの地方にも探せば1つは存在する。そんな所に潜り慣れていると、ただの湿っぽい鍾乳洞巡りなど面白くは無いかも。
何よりモンスターも出て来ないし、宝箱も配置されていないのだ。ドキドキもワクワクも存在しない探索など、散歩程度にしか感じられなくても仕方が無い。
ただまぁ、ハスキー達はそれなりに散策を楽しんでくれていた。知らない場所を家族と散歩するのは、彼女達にとっては新鮮なイベントなのかも。
逆に盛り上がったのは、その後の買い物コーナーだった。地元の小さなお土産屋さんを発見して、その奇跡の出会いに感謝しつつの爆買いを4チームで行って。
これで夕方のキャンプの備えはバッチリだと、買い込んだ商品を各々の車へと担ぎ込む一行。女性陣は買い物欲を満たした事で、揃って満足そうな表情。
それから最後は岩国チームの先導で、集合目的地である旅行村へと全員で向かう。時間より少し早めの到着だが、夕食の支度や明日の情報の共有をしていればあっという間に過ぎるだろう。
ペット達にしても、狭いキャンピングカー内よりはキャンプ場で伸び伸びしたい筈。そんな理由で辿り着いた美弥市の旅行村はなかなか広かった。
コテージも用意されていて、これならキャンピングカーが狭くても宿泊に不自由は無さそう。さっそく寄って来た協会のスタッフに、ようこそとお持てなしを受ける一同である。
その奥には、既に集まっているチームもチラホラ。
――見知らぬ顔ばかりだが、来栖家チームへの視線は揃って好奇心に満ちているよう。




