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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の春~夏の件
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梅雨の晴れ間を狙って川辺キャンプに出掛ける件



 現在、来栖家のキャンピングカー内は、子供達とゲストの乗客による合唱で騒がしい限り。能見さんも林田家の美玖も、旅の恥はかき捨てと覚悟を決めたようだ。

 もっとも姫香も紗良も、大声で歌唱に加わっているのでそこまで恥ずかしくは無いのかも。香多奈が一番ノリノリだけど、運転手の護人だけはその輪からは逃れられている。


 それが5曲を過ぎる頃には、香多奈もようやく満足した模様。そして楽しかったねと、自前の撮影機材のチェックを始める始末。解放された他の面々は、ようやくホッと一息ついている。

 ハスキー達も、ようやく車内が静かになったと、尻尾を振ってこの静寂を歓迎している。姫香は足下のツグミを撫でながら、何となく釈然としない表情。


 カラオケの後の車内は穏やかな雰囲気で、あちこちで談笑が起きている。助手席を離れていた姫香だけど、今度そちらへと近付いて来たのは能見さんだった。

 そして席で丸まっているミケに一言掛けて、何とかその場を譲って貰って。それから護人へと招いて貰った挨拶と、協会の諸事情メッセージを流し始める。

 内心では、こんな場で仕事の話はどうかなとは思いつつ。


「異世界チームがずっと懸念していた、“喰らうモノ”ダンジョンの件ですが……何とか島根の『ライオン丸』と、愛媛の『坊ちゃんズ』の両チームにようやく渡りが付きそうです。

 この2チームに加えて岩国チームの協力を得れば、6チーム以上での攻略が可能ですね」

「それは凄い、ちょっとしたレイド戦だな……出来立てのダンジョンに過剰な戦力な気もするけど、難易度が酷いのは身をもって体感してるしな。

 A級チームが勢揃いなのは、かなり心強いよ」

「まぁ、そのせいでスケジュール調整が大変なんですが……この件はムッターシャチームにも通しておいて、その後日程決めに入りますね。

 大変な特級ダンジョンですが、完全攻略頑張ってください!」


 そう熱く語られて、あの時は入院騒ぎで迷惑を掛けたなぁと回想する護人である。その後に来栖家チームも力をつけた筈だけど、それが今回通じるかどうか。

 岩国チームと言えば、遠征に同行して欲しいと言うむねの正式オファーが来そうとの事。能見さんは申し訳なさそうに口にするが、その辺は付き合いもあるし仕方が無い。


 ヘンリー達とは吉和のレイド作戦以降、西広島どころかあちこちで力を貸して貰っている。三原の遠征の際も、近代武器が大活躍だったとの話だし。

 今後も良好な関係を築くのは、来栖家の地元のためにも必要な事には違い無い。何しろ岩国市は隣の県とは言え、車で1時間程度で行き来出来る近場なのだ。


 その点だけ見れば、広島市と同じ程度には交流があっても良さそう。実際、ヘンリー達は毎月日馬桜(ひまさくら)町の青空市に顔を出してくれている。

 仲の良い探索チームと言うのは、こんなご時世ではとっても貴重である。ましてや自分達も、副職とは言え家族で探索業を営んでいるのだ。

 今後も恐らく、お世話になる事()け合い。


 それから能見さんは、お隣の廿日市方面の不穏な知らせとして、行方不明者が最近多いのだと報告して来た。ひょっとして野良モンスターの仕業では無いかと、隣町も対策に追われているのだそう。

 逆に“浮遊大陸”に接近&接合された宮島だが、こちらは至って平穏らしい。ロープウェーも再開して、山頂から新しく繋がった“太古のダンジョン”へと潜る探索者も増えているみたい。


 ダンジョンのランクが選べるらしく、それにともなって新たな探索スポットになりそうな気配との話。もちろん分岐によって難易度は変わるそうだが、儲かるダンジョンはいつでも探索者には人気なのだ。

 それを後ろの席で聞いていた香多奈は、そっちのルートで潜るのもいいかもねと呑気な物言い。それから護人に、宝の地図の探索も忘れないでよねと釘を刺して来る。


 末妹にとっては、ダンジョン探索も遊びと言うか、ただの儲ける手段の一環なのかも。それより姫香が、機嫌悪そうに遊びの日にまで仕事の話しないでよねと、能見さんに食って掛かっている。

 いつもは仲が良さそうなのに、自分の定位置を取られた事がくやししいみたい。大人の能見さんは、それを察してゴメンなさいねと謝りながら姫香に助手席を明け渡している。


 お姉ちゃんは焼き餅焼きだからと、末妹の香多奈の茶化した台詞に。うるさいわよと怒鳴って定位置に座る姫香と、その膝上に素早く座り込むミケ。

 老猫ミケもどうやら、この定位置が良かったようで尻尾を揺らしながら満足そうな表情。後衛の喧騒けんそうを遮断するようなその動きに、まるで魔法のような効果を姫香にもたらす。

 愛猫を撫でながら、次第に姫香も落ち着きを取り戻すのだった。




 辿り着いた穴場のキャンプ予定地だが、1年の放置に割と荒れ果てていた。それでもキャンピングカーを4台並べて駐車する場所はあったし、掃除すれば半日のキャンプ遊びも何とかなりそう。

 何より、川の流れはいつも通りに清浄な音を響かせていてにごりも無い。泳げるふちも健在だし、水遊びには持って来いな空間に思える。


 そんな訳で、1時間のドライブから解放されたメンバー達は、それぞれ与えられた仕事に奮闘し始める。ベースキャンプの設置をしたり、周囲の枯れ草を刈り取ったり。

 ハスキー達でさえ、キャンプ用の枯れ枝を取って来てと姫香に命じられて揃って森の中へ。ルルンバちゃんは草刈り作業に熱中していて、刈られた草を茶々丸と萌が回収している。


 どうやら後で燃やすためみたいで、その辺の役割分担はさすがにチームである。ゲストに招かれた人たちも、慣れないながらも荷物を運んだりターフの組み立てを手伝ったりしている。

 和気藹々(あいあい)とした雰囲気で、それぞれが楽しみながらキャンプ仕事をこなして行く。そうしている間に、キャンプファイヤーの火がついたようで子供達から歓声が。

 どうやらこの炎、遊び終わるまでずっと燃やしておく予定らしい。


「萌に茶々丸っ、この火は帰るまで消しちゃ駄目な奴だからねっ……集めた枯れ枝とかは、全部ここに放り込むんだよっ!

 叔父さんっ、もう水着に着替えて泳ぎに行っていい?」

せわしないな、まぁ年少組は遊んでおいで……誰か監視について行ってくれるかな、川はアレで流れの速い場所もあって危険だから」


 それじゃあ私が行きましょうと、土屋女史と柊木が名乗りを上げてくれ。さっさと着替えに向かって、自分達も楽しむ気充分の気配が窺える。

 紗良や凛香の女性陣は、お昼の準備をぼちぼち始めている様子。ただ、バーベキューの予定なので、炭火を起こしたりテーブルを用意したりとやる事は多くはない。


 今回は参加者も多いので、素材の準備とか意外と大変だったり。隼人やゼミ生達も手伝いながら、あちこちで賑やかな話し声が湧き起こっている。

 キャンプ設備の設置を一通り終わった面々も、思い思いにくつろぎ始めていた。ついでにお昼から飲むぞって連中が、持参したビール缶やら何やらを配って乾杯の合図。


 のん兵衛連中は、小島博士やムッターシャやリリアラ、それから江川夫婦で構成されている模様。それに組み込まれそうな護人は、仕方なく渡されたビールをチビチビ飲む作戦に。

 帰りの運転は姫香か他の人に頼むとして、強くはないのでセーブしつつの護人である。それでも大人数で飲むアルコールは、雰囲気が盛り上がって楽しいのは確か。


 ハスキー達は周囲の安全チェックとまき拾いを終え、ベース地点に戻って来ていた。そして護人からご褒美を貰って、その後は休んで良いよとの言葉。

 それに従って、ハスキー達は近くの川に入り込んで、バシャバシャと水浴びを始めてしまった。走り回って暑くなったのだろう、元々彼女達は厚い毛皮を着込んでいるので水浴びは大好きなのだ。

 そこに茶々丸と萌も参加して、ペット連合も次第に大騒ぎに。


 それをほのぼのとした目で見ているベースキャンプの面々、その半分は既に酔っ払い状態だ。お腹に何か入れないと悪酔いするよと、美登利が簡単なつまみを提供している。

 酒盛りにはザジも参加していて、彼女は梅酒がお好みらしい。それを炭酸で甘くして飲んでいるけど、紗良はあまり良い顔をしていない。


 何しろこの猫娘は、年齢的には姫香とどっこいなのだ。こちらでは未成年扱いではあるけど、向こうの世界ではそんな規制は存在していないよう。

 そんなザジは、来栖家製の梅酒はサイコーだニャとか言いながら、周囲にもお酒を勧める仕草。


「それじゃあ、私も少しだけ頂こうかな……うわっ、良い色だねぇ? この梅酒は何年モノなんですか、護人さん?」

「ウチは飲む習慣の者がいないから、昔造ったのも結構残っているよ。今日持って来たのは、確か5年物だったかな?」


 来栖家の蔵はお宝の宝庫だニャと、ザジは既に酔っ払いモード。陽気に尻尾を揺らしながら、給仕をしている美登利や紗良に抱き付いて来る。

 姫香や星羅は、水着に着替えてひと泳ぎして来ると言って年少組に合流していった。そんな訳で、場は水浴びする者とベースキャンプ滞在組の主に2組に。


 どちらも盛り上がっているようで、特に水浴びしている子供達の嬌声は離れた場所まで良く響く。ツグミとコロ助もそちらへ向かって、姫香と香多奈へと合流。

 レイジーは護人の傍に横たわり、完全にリラックス模様である。ミケは賢くも酔っ払い集団を避けて、ルルンバちゃんの本体の上で丸くなっている。


 茶々丸と萌も遊び足りなかったのだろう、水浴び組に混ざって向こうはもっと大騒ぎになっている。ベースキャンプの面々は、焚き火の面倒を見ながらまったりムード。

 ベース組の半分は既に酔っぱらっていて、ある意味騒がしい空間が出来上がっている。ヤギも泳ぐんだなぁとか、子供達は元気だねぇとか会話は様々。


「紗良ちゃんと美登利さんも、仕事ばっかしてないで向こうで水遊びしてきたら? 酔っ払いの相手なんてつまんないでしょ、せっかくみんなで遊びに来てるのに」

「いえ、どうせもうすぐお昼ですから……ご飯が終わったら、それからしっかり遊びます」

「サラは働き過ぎだニャ、一緒に梅酒を飲むニャ!」


 絡んで来るザジを何とかいなして、働き者の紗良と美登利はバーベキューの仕込みの続きを進めて行く。それから言葉の通りに、お腹を空かせた子供達がぞろぞろとベースキャンプに戻って来た。

 まだ水は冷たかったよと、炎に当たって暖を取りながらも。その笑顔は満足そうで、キャンプを心から楽しんでいる様子で何より。


 姫香もルルンバちゃんが集めてくれた枯れ枝で、せっせと炎を大きくしている。そしてそろそろお昼にしようよと、護人に確認してバーベキューの準備を手伝い始める。

 そこからは盛大に、大人数での昼食に移行して場は一気にお祭りムード。ハスキー達もおこぼれを貰おうと、賑やかな集団の中をウロウロ。


 護人は食事もそこそこに、協会職員の江川と将棋を始めていた。持ち込んだボードゲームは他にもあって、それを見た香多奈も年少組を誘って人生ゲームを始める始末。

 それには能見さんや林田妹も招待されて、香多奈もまずまずのホスト振りを発揮していた。山の上の住民に関しては、何だかんだと日々の生活で付き合いはあるので最優先でなくて良い。


 姫香はそんな子供達を撮影しながら、場が乱れていないかのチェックなど。ペット達も当然だけど、変に羽目を外して後で後悔する者が出ないように目を光らせている。

 これもホストの務めだと、小島博士に飲み過ぎないでと注意を飛ばしつつ。紗良も給仕を頑張っているし、ホスト役の来栖家はこんな時にも働き者ばかり。

 それでもまぁ、ルルンバちゃんには到底敵わないかも。


 彼は周囲の雑草を綺麗に刈り取って、景観を見事に整えてくれていた。焚き火の周囲もしっかり岩で土台を組み上げて、キャンプファイヤー感を盛り上げている。

 恐らくは末妹辺りに教わったのだろうが、その手腕は見事と言うしかない。姫香にそれを褒められて、ルルンバちゃんもとっても嬉しそう。


 楽しみ方はそれぞれだが、全員がこの日帰りキャンプを楽しんでいるようで何より。後は姉の紗良や美登利を、強引に森の散策か水遊びに誘えば万事オッケー。

 ハスキー達は適当に楽しむだろうし、年少組の見張りは申し訳ないけど引き続き土屋と柊木に頼むつもり。

 姫香の午後の計画は、そんな感じで脳内でつむがれて行く。 





 ――そんな姫香は、スマホに飛び込む皆の笑顔に心(いや)されるのだった。







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