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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の春~夏の件
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命令を聞かない召喚精霊に思い切り悩む件



 何ともふてぶてしい態度の炎の精霊(?)を前に、子供達は戸惑いを隠せない。本来は召喚が成功した嬉しさに、みんなで盛り上がって喜んでいた所なのに。

 妖精ちゃんも微妙な表情で、どうやらこの出て来た精霊のランクを特定出来ていない模様。コロ助や茶々丸も、この新参者とは積極的にコミュニケーションを取ろうとはせず。


 体格は小柄で、和香に抱っこされている萌よりも小さい位だろうか。とは言え異界の住人には違いなく、狐には似ているけど見た事の無い柄の毛並みである。

 何よりも尻尾に灯る炎は、間違いなく炎の精霊の証だろう。強そうと言うよりは可愛いけど、年少組は誰もえて触りに行こうとはしない。

 何しろ、迂闊うかつに触ると火傷する危険もありそうなので。


「香多奈ちゃん、これって召喚は成功したって事でいいのかな? さっきのお座りの命令は、まるっきり無視されちゃったけど。

 多分だけど、言葉が通じてないだけなのかも?」

「う~ん、どっちかって言うと、お前に自分を従わせる能力があるのかって反抗なのかも? 精霊召喚の魔法って、水の精霊の時もそうだったけど順序付けが面倒臭いんだよねぇ。

 向こうにも、プライド? みたいなモノがあるみたい」

「それじゃあ、何かおやつあげてご機嫌をとってみようか?」


 穂積のその言葉に、場は大きく盛り上がってそれは良い案だと即座に実行される。しかし炎の尻尾生物はそれをガン無視、どうやら食いしん坊の妖精ちゃんとはかけ離れた存在らしい。

 差し出されたクッキーは、そんな訳で妖精ちゃんがブン取って処理してくれた。そんな事をしている内に、段々と召喚主の香多奈の顔色が悪くなって来た。


 どうやら召喚コストのMPを、炎の精霊に遠慮なく吸われているらしい。その妖精ちゃんの指摘に、大慌てで召喚を解除しようとする香多奈である。

 ところが、何とその命令も拒否られて、このままではMP枯渇でブッ倒れる破目に。茶々丸が機転を利かせて《マナプール》を提供してくれ、幸いにもその事態は先送りに。


 そんな感じで慌てていると、その騒ぎを聞きつけた姫香が、星羅やザジと一緒にやって来た。どうやら美登利の密告に、年少組が悪さをしていると感付いた模様。

 近付いて来る姫香の表情は、明らかに怒っているのは長い付き合いから分かる末妹である。だからと言って、現状では逃げ出す訳にも行かない。


 そして目敏めざといザジが、真っ先に変わった生き物がいる事を発見して騒ぎ始めた。これは正直に話した方がリスクが小さいと判断した和香が、今の困った状況をザジに説明する。

 それを一緒に聞いていた、姫香や星羅も何だそれはと炎の精霊なるモノをガン見する。そしてやっぱりやらかしていた末妹を叱りつけ、事態の収束を手助けする構え。

 とは言え、何をどうすれば良いのか誰も分からないと言う。


「精霊系は向こうでも、我儘な性格の奴が多いニャ……契約する時も、とにかくこっちの力を示して、まず優位に立たないとダメだってリリアラが言ってた気がするニャ。

 カタナ、そんな訳でコイツをやっつけるニャ!」

「えっ、物理的に殴って言う事を聞かせるのっ!? それは乱暴だよ、ザジちゃん……何とかお話で仲良くなれないかなぁ?

 向こうもこんな場所にいきなり呼び出されて、多分心細く感じてるんだよ」


 狐タイプの炎の精霊は、こちらを丸っきり無視してふてぶてしい態度のまま。姫香について来たツグミも、この余所者の態度にはちょっとムカつくモノの。

 MP供給源の香多奈との繋がりが強いので、余所者だからと言って喧嘩を吹っ掛ける訳にも行かず。それはコロ助も同じく、そして茶々丸や萌は元からそんな喧嘩っ早い性格ではない。


 茶々丸に関しては猪突猛進の性格に思われるけど、実はそんなでもない。あれは恐らく家族アピールと言うか、頑張って褒めて貰いたいためのハッスルだと思われ。

 探索の場で無い時は、多少ヤンチャなだけで好戦的って感じではまるで無い。萌に至っては、競争心とかもうちょっと持って欲しいよねと姉妹から言われ放題。


 事なかれ主義と言うか、至って温和な性格で今も和香に抱っこされたままで平穏そのもの。と言うか、和香はこの仔ドラゴンを割と気に入っているよう。

 物凄く可愛がっていて、抱っこして離してくれそうもない。


 それにしても、茶々丸の《マナプール》のフォローも無制限では無いのだ。姫香はそんなの家に入れたら火事になるじゃないと、送り返すよう怖い顔で末妹に迫る。

 それが出来るならとっくの昔にしてるよと、香多奈も弱々しく言い返すのだけど。有効な手立ては見付からず、さてどうしたモノかと頭を寄せ合う年少組。


 その騒ぎを聞きつけたのか、飛行ドローン形態のルルンバちゃんに乗ったミケまでやって来た。この秘密基地は、来栖邸のすぐ近くの裏山なので、騒げば一発で場所バレするのだ。

 家から近いので、手軽に使えるし色んな物を家から持ち込めるって利点もある。そんな場所での騒ぎに、基本は家から出ないミケも不穏な空気を感じてはせ参じた様子。


 と言うか、付き合わされているルルンバちゃんがちょっと可哀想……お猫様の運搬役とは、まぁ本人は全く気にしてないみたいだけど。むしろ楽しそうな飛行振りで、みんなが集まっている場所に近付いて来る。

 そして思い切りメンチを切り始める、狐タイプの炎の精霊と家猫のミケの両者。本能がそうさせたのか、あれだけ寛いでいた精霊が今や臨戦態勢である。


 ミケも同じく、ウチの縄張りで何しとんじゃあとその言い分はごもっとも。向こうがただ呼び出されたんですなんて言い訳をしようにも、ミケの聞く耳はとっても了見りょうけんが狭いと来ている。

 そして話し合いの前に、その戦いは始まっていた。


「わわっ、ミケったら相変わらず短気だねっ……みんな離れて、巻きえ食って怪我したら洒落にならないからっ!」

「うへえっ、空気がバチバチしてるっ……ザジっ、子供達を避難させようっ!」


 喧嘩の騒ぎに盛り上がっている者は、この場には皆無でみんな迷惑そう。まるで真夏日に突然豪雨が降って来て、大慌てで雨をしのげる場所へ逃げ込むがごとしの面々。

 それはペット勢も同じく、何しろブチ切れたミケを制御出来るのは、来栖家でも護人くらいのモノ。その手前なら子供達でも扱えるけど、ミケの機嫌次第でどうなる事やら。


 君子危うきに近寄らずは、本当に正しい教訓だと思う。そんな戦いだが、いきなりの《昇龍》スキルでの雷龍召喚に、狐タイプの推定高位精霊は心底たまげた表情を見せる。

 熾烈な戦いは数分は続いただろうか、呑気に離れた場所で見学する面々はまるで観客気分。香多奈もスマホで撮影なんかしちゃって、自分の身から出たさびって事をすっかり失念している。


 その果てに、とうとう降参の素振りで全面的に負けを認める炎の上位精霊であった。ミケも自身の戦いに満足気で、ウチの子に迷惑かけてんじゃないわよとの表情。

 その後に、召喚主の香多奈の元の世界に帰っての言葉には、一も二もなく素直に従う狐タイプの炎の精霊であった。これにて事態は丸く収まったけど、姫香の顔は怖いまま。


 ――これは家に帰っても説教コースだなと、和香は友達の冥福を祈るのだった。




 次の日、何とか筋肉痛も和らいだ来栖家の一行は、夕方に協会に換金へ出かける事に。この頃は何かと忙しないので、時間のある内に用事を済ませようとの計画である。

 昨日の夜にたっぷりと叱られた末妹の香多奈も、この協会(もう)では参加の意向を示す。そんな訳で、小学校が放課後の夕方に家族で向かう流れに。


 いつもの事なので、その辺は抜かりも無いし協会で売る品の仕分けも終わっている。ついでに青空市で売る品と、企業売りのアイテムの仕分けも昨日の内に紗良と姫香でこなしていた。

 お互い筋肉痛で、満足に動けない状態ながらよく頑張ったなと2人は思う。しかも“ダンジョン内ダンジョン”は、毎回の太っ腹振りで魔石のドロップ量が半端ではなかった。


 これはまたも、換金額で文句を言われるかなと戦々恐々の護人である。強化の巻物の施行用に、大きい魔石を売らずに取っておけば、まぁ何とかなりそうかも。

 その他の回収品で言えば、お肉類はご近所に配ったり家族で消費したりしてもう全て無くなってくれた。ハスキー達も存分に頂いて、ますます今後の探索を頑張る事だろう。


 その他の品については、他のダンジョンとたいして違いは無くて残念な感じ。ただまぁ、最後の大ボス戦でアラクネの群れと戦えて、完勝したのは自信に繋がったかも。

 自分達の成長を、その戦いでリアルに実感出来たのだから。


 それから武器のドロップもなかなか凄くて、『ダマスカスの剣』や『アラクネの弓』は土屋や柊木が使うかも。ただし『炎の召喚杖』に関しては、封印直行待ったなし。

 あれだけの大騒ぎを起こしたのだし、言う事を聞かない召喚精霊なんて危なくて仕方が無い。緊迫した戦闘中で無くて本当に良かったと、珍しく護人も末妹を叱った次第である。


 昨日はそんな感じで、割と来栖邸は騒がしかったのだった。もっとも当人の香多奈は、あまりりた風では無く元気に小学校に登校して行った。

 逆に和香と穂積の方が、保護者の護人に申し訳なさそうな視線を送っていたり。それはともかく、この2人も協会での換金が終わったら車で拾って帰らないと。


 僻地へきちに住んでると、日常の送り迎えはパズルみたいで割と大変である。結局は、その2人も植松の爺婆の家で一緒に拾って、協会ではキャンピングカー内で待っていて貰う事に。

 それで送迎の件は呆気なく解決、そして来栖家は協会の建物に入って所用をこなす流れに。回収した魔石を江川に渡して、仁志支部長や能見さんと一緒に恒例の動画チェックを行う。

 2人の感想だが、まずは今回もかなり刺激的ですねとの言葉。


「うわぁ、アスレチック仕様のダンジョンですか……こんなに本格的な奴は、今まで見た事がありませんね。

 これを1日で攻略ですか、無理したんですね」

「ええ、まぁ……お陰で昨日は、1日筋肉痛で動けませんでしたよ。探索者の能力でも、ダンジョン内でのハードワークは体に来ますねぇ」

「香多奈以外は、家族全員がダウンしてたんだよ。モンスターの強さと量も割と凄かったし、さすがにハードだったよねぇ」


 姫香も動画を観ながら、そんな感じで話に乗っかって行く。和気藹々(あいあい)とした雰囲気の中、動画は2つ目の扉を過ぎて3つ目の扉へ。

 そしてドッペルゲンガーとの戦闘シーンでは、皆が大いに盛り上がって視聴すると言う。そうこうしていると、江川が魔石の換金が終わったと奥室から戻って来た。


 その総額、ポーションや鑑定の書と合わせて550万円とかなりの高額に。毎度のように振り込みで勘弁してくれとの遣り取りの後、そう言えばと護人からのお願いが。

 撮影スタイルを変えたくて、ちゃんとした小型カメラが欲しいとの要望に。それなら探索者が良く使っている奴を、数日中に取り寄せられますよと江川が請け合ってくれた。


 これで香多奈の手が、撮影用のスマホで埋まる問題は解決しそう。ついでにルルンバちゃんにも設置すれば、チームの活躍を多角で撮影出来ますねと江川が提案してくれる。

 今後はそうするかなと、撮影スタイルの変更は順調に進みそう。


 ところで今回は、外にお隣の子供を待たせているので協会にあまり長居は出来ない。もっとも向こうは、同じく残ったミケやハスキー達と、楽しく留守番してくれてるだろうけど。

 とにかく、これにて5つあった“ダンジョン内ダンジョン”の試練は終了してくれた。鬼から出された課題をクリアして、妖精ちゃんにもご褒美を貰える筈。


 今の所は、鬼からも妖精ちゃんからもまだ何のリアクションも無い。ただしチームが強くなった感触は、確実に存在するし今後訪れる難関へ備える実力もついて来た。

 来栖家チームとしても、まだまだ課題は目白押しで“喰らうモノ”ダンジョンの再トライも残っている。それを無事に切り抜けられるかは、現状ではまだ分からない。


 家族で力を合わせれば、切り抜けられない課題は無いと信じたい。そして、いつの日か“裏庭ダンジョン”を完全封鎖して、来栖邸の安全を完全に取り戻したい所だ。

 その日が来るのは、近い将来であると固く信じて。





 ――来栖家チームは、探索者の基盤を着実に築いて行くのであった。






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召喚期待はずれだね 封印スキル
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