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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の春~夏の件
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15層に到達して庭園ダンジョンを締める件



 その後付近の捜索をして、発見した東屋あずまやに宝箱が設置されていたのを見付けた一行。中からは鑑定の書(上級)やら薬品類やら、木の実やら魔石(小)が出て来てくれた。

 他には木の素材が少々に苔類やドライフラワーが少々、何故かどんぐりやら食べられない木の実も結構な数入っていた。その程度かなと思ったが、木の実をかたどったペンダントはどうやら魔法アイテムらしい。


 妖精ちゃん的には当たりっぽいけど、彼女は途中で出たお饅頭が食べたくて仕方が無い様子。仕方が無いので、いつもの香多奈のボッケで軽食を与える作戦に。

 そんな雑事をこなしながら、12層は何とかクリア出来た。つまりは東屋のすぐ近くに階段を発見して、時間を掛けずに13層へと到達となった次第。


 そこも景色は似たような感じで、広々とした日本庭園が周囲に窺えた。涼しげな池と石橋と石灯籠(とうろう)、東屋も幾つか形違いのが池の周りに散在している。

 それを囲むように小高い丘の散策コースと、紫陽花あじさい小路が続いている。一行がもっとも景色を楽しむ前に、池の方からリザードマンの部隊が出現して襲い掛かって来た。

 その相手に忙しい前衛陣と、それを応援する後衛陣。


「おっと、後ろからも大セミと……あの黒くうごめく集団は、アリ獣人の群れかな? 数も多いな、こっちは俺とルルンバちゃんで片付けようか。

 連中に近付かれる前に、紗良の魔法で減らすって手もあるな」

「それじゃあ向こうの群れに撃ちますね、護人さんっ。空から来る敵は、そちらで相手をお願いします……えいっ!」

「頑張れ、紗良お姉ちゃんっ……やっぱり13層まで来ると、敵もそれなりに多いし大変だねっ!」


 そんな事を口にする末妹は、いつも通りで至って呑気そう。幸いにも紗良の先制打は、1ダース以上ものアリ獣人の兵団に大打撃を与えてくれた。

 前に出ながら、飛び交う大セミを弓矢で迎撃していた護人も、時間的余裕を貰えてホッと一安心。ルルンバちゃんも同じく、魔銃で護人の真似をしながら敵の数減らしに貢献している。


 そして冷気ダメージを喰らったアリ獣人は、どうやら思いっ切り弱点属性だった様で既にヘロヘロ。良いのかなって感じで前に出たAIロボが、武器を振るって倒して行く。

 そんな戦闘だが、敵はろくな反撃も出来ずに終了の運びに。何と言うか、ルルンバちゃんの前衛の練習台みたいな感じではあった。それでも喜んでガッツポーズをする、末っ子気質のAIロボである。


 それとほぼ同時に、前衛陣もリザードマンの群れを撃破し終わった。ところがツグミは依然として警戒態勢で、それにいち早く主の姫香も気付いての声掛け。

 チームに対して、まだ敵が近くに潜んでいるよと。


「おっと、どこに潜んでるんだろうな……ひょっとしたら、また精霊系の強い奴かも。みんな、充分に気をつけて行こう」

「えっ、でも……ツグミでも怪しい気配しか分かんないんでしょ? このまま敵が出て来るまで、こうやって我慢比べしてるの?」

「そんな心配いらないよ、香多奈……大体の位置は分かってるし、向こうもそんな気長な性格の筈は無いでしょ。

 すぐに我慢出来なくなって、襲い掛かって来るわよ」


 その姫香の言葉通り、ツグミの警戒していた敵の気配は、一気に濃くなって爆ぜて行った。いざとなったら護人も《心眼》を使う予定だったけど、その心配は杞憂きゆうに終わってくれた。

 その登場は、目立ちたがり屋かと思う程に派手で、ついでに一行の度肝を抜いた。池の近くの石灯籠が、突然巨大化して襲い掛かって来たのだ。


 その姿はゴーレムのようだが、初手に石のつぶてを放って来た所を見ると違うかも。ってか、どうやらコイツも岩の狂精霊かなと見当をつける護人である。

 そのむねの警戒をチームに飛ばして、盾を手に前へと出て行くチームリーダー。とは言え、石の礫は今や投石かってレベルで容赦のない有り様。


 ハスキー達は何とか避けているけど、反撃までには転じられない様子。姫香も『圧縮』ガードで精一杯、その場から動けずに敵の攻撃が止むのを待っている。

 そこにルルンバちゃんの『波動砲』が炸裂して、やりたい放題だった岩のゴーレムモドキの動きを止めた。その隙を見定めて、護人と姫香が同時に突っ込んで行く。


 命の危機を感じたのか、その進行を塞ぐように岩で出来た壁が瞬時に立ち上がった。魔法の岩壁に行く手を阻まれて、たまらず立ち往生する両者。

 ルルンバちゃんは空気を読まず、尚もレーザー砲を撃ち続けている。哀れな岩の狂精霊は、全ての攻撃は防ぎ切れずに次第にボロボロになって行く。

 そして護人が飛行で接近した瞬間に、既に勝負はついていた。


「やったね、護人さんっ! ひあっ、それにしても怖かったね……あんなにたくさん岩礫を飛ばされたら、あざだけじゃ済まなかったよ。

 ハスキー達は平気だったかな、誰も怪我してない?」

「今()るね……連戦になっちゃったし、休憩を挟んでも良いかもですね、護人さん。ハスキー達に茶々丸ちゃん、こっちにおいで?」

「それじゃあ私は、ルルンバちゃんと魔石拾ってるね!」


 そんな訳でいつもの休息風景、ハスキー達も素直に従って紗良の元へと集まって来る。姫香も相棒をガシガシ撫でて、MP回復ポーションの準備を始める。

 このフロアはさすがに敵に関しては品切れの様で、辺りは平和そのものの静けさ。時折響く鹿威ししおどしのカッコン音と、遠くから聞こえる滝水の落下音が良いアクセント。


 そんな中での休憩も、10分程度で恙無つつがなく終了した。そんな中、香多奈からこのフロアの滝はまだ見て無いねと、催促の言葉が発される。

 それを受けて、奥の池へ続く木立ちへと進行方向を定めるハスキー達。ゲートを発見出来なかったら無駄足なのだが、家族の言葉には敏感なレイジー達である。


 そして景色を愛でながら進む事数分、狩り残しのモンスターの相手をしつつの道のりの果てに。なかなか立派な滝を発見して、おおっとテンションの上がる子供たち。

 香多奈も熱心に撮影を始めて、紗良に対して水浴びのシーンが撮りたいとか無茶振りして来る始末。まぁ、靴を脱いで滝つぼに入って欲しいって意味らしいけど。


 マイナスイオンが何たらとか、被写体にコロ助も参加してとかうるさく喋りまくる末妹に対して。ダンジョンの中だから、出てるのは魔素だけだよと鋭いツッコミの姫香だったり。

 ダンジョンジョークの上手い姫香に対して、お姉ちゃんは黙っててと喧嘩の始まりそうな雰囲気の中。コロ助は浅瀬で水遊びを始めて、何だか収拾もつきそうにない感じ。

 ちなみにゲートは、すぐ近くに発見済みである。


「ほらっ、ゲートも見付かったしそろそろ移動するぞ、みんな。お昼ご飯も食べて、そろそろ集中力も切れかかって来ている頃だろうけど。

 あと2層分、何とか頑張ってくれよ」

「は~い、確かに歩き回るのも疲れて来たよねっ。そんな訳で、さっさと15層の中ボス倒して終わろうっ!」

「そうだね、間引きも充分やったと思うし……後は15層まで進んで、帰還用の魔方陣使ってみんなで戻るだけだねっ!」


 そう言って気勢を上げる姉妹は、こんな場面ではとっても仲良し。水遊びをしていたハスキー達も、進めの号令を受けてゲートへと向かって行く。

 長時間の探索では、どうしても中だるみと言うか途中で集中力が途切れがちではある。そんな中での探索続行は、大怪我に繋がるかもと護人の懸念はおおむね正しい。


 ハスキー達に限っては、そこまでたるんで無くて足取りもきびきびしている。そして辿り着いた14層でも、一行は熱烈な歓迎を受けた。

 山側からはアリ獣人と大セミの襲来が、池の方面からはリザードマンと水蛇の混成軍が。幾らも進まない内に挟み撃ちに遭って、またまたこのフロアでも派手な戦闘が始まる事に。


 望まない挟み撃ちだけど、向こうのテリトリーなので待ち伏せとか各個撃破もままならず。仕方なく、さっきと同じ陣容で両面作戦で迎え撃つ来栖家チームである。

 そして、またも初っ端に吹き荒れる紗良の《氷雪》の猛威。


 その反対側では、レイジーの『魔炎』が威力を発揮して、場は一気にカオス状態へ。相変わらず派手なハスキー達の戦闘シーンだが、敵の数は確実に減っている。

 護人とルルンバちゃん側も、空の敵を遠距離武器で確実に駆逐して行くのはさすが。結果、弱った地上部隊のアリ獣人の到来を、のんびり待つ余裕まである始末。


 そう言う意味では、敵が固まった場所への魔法の先制打は優れた作戦ではある。場所やタイミングを選ぶので、毎回使える戦法では無いけどあると無いでは大違い。

 紗良も積極的な性格では無いので、自分からは言い出さないのがネックではある。まぁ、そんな細かい作戦が無くても、来栖家チームはパワーで押し切ってしまえるのだが。


 今回もそんな感じで、リザードマンとアリ獣人の軍勢は全て魔石に変わって行った。その数を数えると、30個近くと言う物凄いフィーバー振りだった。

 それから15分後には、幾つかの戦闘を経て15層へと辿り着く一行。探し回った挙句、池の中央に板張りの舞台となっていた中ボスの間を発見した。

 あとはそこに居座る、ボスを討伐して戻るだけ。



「そんな訳で、最後の中ボス戦は気を引き締めて行こうか。どうしても緩みそうになったら、ミケに頼んでもいいから余計な怪我だけはしないようにな。

 もう3時過ぎだから、6時間以上か……確かに集中力もなくなるな」

「そうですね……でもそのせいで怪我をするのも、確かにつまらないですもんね。香多奈ちゃん、あとちょっとだからお互いに頑張ろうっ!」

「えっ、私まだまだ元気だよっ? まぁ、ミケさんが最後くらいは出番が欲しいってんなら、譲ってあげても良いけど」


 元気と集中力は微妙に違うのだが、ミケはそろそろ締めの時間かと紗良の肩の上で起き上がる素振り。この中ボスの間も大き目のお堂の舞台で、中ボスの姿も確認済み。

 それは双頭のリザードマンで、体長は3メートルはあろうかと言う大物だった。池の上に張り出した舞台には、部下のリザードマンも多数窺える。


 それなら紗良姉も先制の攻撃をしちゃえばと、ヤンチャな作戦会議はいつもの速攻に傾きそう。そんな訳で、敵の反応しそうなギリギリまで近付いての、身もふたも無い遠隔魔法のダブル攻撃の敢行など。

 その暴虐の2属性の魔法は、破壊不能と言われるダンジョンの構造物すら壊す勢い。特にミケの『雷槌』は、ある程度固まっていたモンスター達を、人形のようにぎ払って行った。


 香多奈がうひゃとか、そんな呟きを発する間に戦いは終わっていた。まぁ、あの一方的な暴力を、戦いと呼ぶかは判断の分かれる所だろう。

 そうして敵の姿の完全に消滅した舞台に、一行はゆっくりと近付いて行く。舞台の上には魔石が幾つかと、ちゃんとスキル書も1枚落ちていて何より。

 何しろさっきの攻撃は、何もかも薙ぎ払おうって威力だったし。


「良かった、ちゃんとドロップ品は残ってたよ……ミケさんってば、たまの出番になると物凄く張り切っちゃうんだから。

 ちゃんと帰りのワープ通路と、宝箱もあるね!」

「良かったな、帰りが延々と歩きの苦行じゃ無くて……それじゃあ、みんなで宝箱の中身を回収して帰ろうか。

 戻ってからゆっくり休もう、さすがに連日の探索は疲労度が違うしな」


 私はまだまだ平気なのにと、強がる末妹の発言はさて置いて。宝箱を回収する紗良と香多奈は、中身を確認しながら相変わらず幸せそう。

 それこそ連日の探索の疲れも吹っ飛ぶ、特効薬とでも言おうか。例え中身が、鑑定の書や薬品類、魔結晶(中)や魔玉や木の実と至って普通だったとしてもだ。


 妖精ちゃんによると、紫陽花あじさいの柄の法被はっぴが当たりらしい。それを除けば、後は中級エリクサーくらいしか当たりは無かった模様。

 それでも今回も無事に探索を終われそうで、それが何よりの知らせ。護人としては、この後も戻って子供達の休める環境を整えてやらないと。

 チームの運営リーダーとしては、そこまでが探索と言えるかも?





 ――ダンジョンの奥深く、そんな事を考える護人であった。








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