おチビちゃんズの探索チームが意外と順調な件
「やった、たおした鶏が鶏肉をドロップしたよっ! 凄いな、新鮮なお肉がダンジョンで手に入るなんて……これじゃあ熊爺も、商売あがったりだよ」
「うんまぁ、そうだけど……ダンジョン産のお肉や野菜は、魔素が含まれてるからって敬遠する人も多いからね。探索者は逆に有り難がるけど、買い手は限られて来るのさ。
だから熊爺の畜産は、世の中には必要だよ」
護人の言葉に、そうなんだと感心した感じの双子の表情である。この天馬と龍星は、双子だけあって顔立ちが良く似ている。男女差もあまり感じられない、今の年代だと特にそう。
そして学ぶ意欲みたいなモノも、その態度からとっても感じられて好印象。分からない事があると、探索中だろうと護人を質問攻めにして来るのだ。
そんな彼らは、現在通っているゼミ生教室にも物凄く熱心だとの話。ついでに来栖家の放課後の特訓も、熱意をもって通ってくれる良好な生徒達である。
それは和香と穂積も同じで、引っ越してから今年の4月まで継続して頑張っている。勉強に関しては、香多奈と一緒に小学校に通える程になって、充実した日々を過ごしている。
その上、探索者デビューまで姉や兄から許して貰えて、舞い上がる程の幸福感に包まれているのが現状である。それでも初めての探索は、緊張感の方がやや上回っている感じだろうか。
何しろダンジョンの中である、油断したら命を失うと言う環境なのだ。逆に呑気に撮影している、香多奈が変と言うか凄いと思ってしまう。
それでもやっぱり、皆で潜るダンジョンはとっても面白い!
リミットは2時間との話だが、その間は気を抜かずに頑張ろうとお互いに話し合ってチーム状態も良好だ。実は“変質”の影響が悩みだった穂積だが、星羅の治療のお陰で完治済みでの同行である。
これには凛香や隼人も大喜びで、それが探索デビュー許可の切っ掛けになった感もある。体調バッチリで、しかも新たにスキルも取得した穂積だが、今の所は慢心の類いは窺えず。
この辺りはとっても真面目なキッズ達、護人の負担も思った程では無い感じ。レイジーもサポートに協力的だし、危ない場面は今の所は無い。
そんな感じで1層目は何事もなくクリア、何度も入った事のあるダンジョンに違和感も無し。次の層の階段を前に、護人はキッズ達に改めて注意を飛ばす。
つまりは、階層が変わると出て来る敵も微妙に変化するよって情報である。敵の強さも段々と上がって来るので、注意が必要になるのは探索の基本だ。
きついなと思ったら、階層を更新せずに戻る判断はとっても大事。その護人の講義に対し、まだまだへっちゃらと勇ましい双子のユニゾンの返答が。
和香と穂積も、同じく大丈夫と乗っかって来る。
「それじゃあ進むけど、モンスターの変化にはくれぐれも注意するようにね。特に獣人の出て来るダンジョンとかだと、急に後衛に弓矢持ちや魔法使いが配置されたりするからね。
こっちも後衛にいるから平気と思ってたら、攻撃が届く恐れもあるから」
「ふ~ん、ここに出る敵は大鶏やウサギだから平気かな? 入る前に観た動画じゃ、影みたいな敵も出て来るんだっけ?
そいつは要注意だよな、ちょっと見てみたいけど」
「その影モンスターだけど、そんなハッキリ見れるのかな? 来栖家のペット達でも、ミケちゃんくらいしか判別出来ないんだっけ?」
龍星の言葉に、後ろから和香がそう注釈を投げ返して来る。香多奈がそれに対して、茶々丸が凄い反応するよと可愛い仲間をプッシュする。
護人も不思議なのだが、あの野生の勘に対してだけならミケより上かもと思ってしまう。そんな感じで警戒しつつの探索行も、ちょっとずつだが板につき始めてるキッズ達である。
そして2層も何事もなく探索終了、噂のシャドウ族は噂にしたら出ないと言うパターン。ただし支道の小部屋には、割とたくさんスライムが湧いていた。
和香と穂積は、そいつらを嬉々としてナイフ持参で退治に勤しんでいた。それを香多奈の肩の上から見守るミケは、この上なく満足そうな表情。
そんな香多奈も、今回の探索では色々と課題を与えられていた。今のチーム員への『応援』スキルの効果チェックや、『叱責』スキルの積極的な使用などなど。
同行している妖精ちゃんは割とスパルタで、《精霊召喚》も頑張れと発破を掛けて来る。それはやっぱり上手く行かなくて、少々凹み気味の末妹である。
そして3層に降りて最初の支道先の小部屋で、念願のシャドウ族と初お目見え。天馬はその違和感に気付けたようだが、龍星や他の子供は全く気付けずの結果に。
その潜伏系モンスターは、茶々丸の容赦ない角の突き上げであっさりとお亡くなりに。仔ヤギの角の一撃も、探索を重ねる度に強力になって行ってる気が。
それはレベルが上がったせいなのか、スキルの習熟度によるモノか。
「やっぱ茶々丸凄いなぁ、乗ってる萌は特に何にもしてないけど。萌は気分屋なのかな、あんまり頑張ろうって感じを表に出さないよね?」
「今日は一応、鎧を着たままの騎乗が大変じゃ無いかのチェック中なんだよ。紗良お姉ちゃんが、激しい動きでも大丈夫かどうか見といてくれって」
「近くで見てるけど、今の所は全然平気そうだけどなぁ。この子たちって、仔ヤギと竜なのに本当に相性良いよね?
まるで兄妹みたい、種族は全然違うのに面白いよね!」
子供たちの感性は本当に面白い、ちょっとした発見が至上の喜びのように振る舞う事も含めて。猛烈なスピードで学んだり感動したりする子供達を見て、護人も歳を取ったなと感慨深げ。
それはともかく、このダンジョン探索は最後まで無事に切り抜けなければ。自信をつけさせるなどおこがましい事は言わない、とにかく家族の元へ元気な姿で送り届けるのが第一だ。
先頭を進む双子は、道の端に鶏の巣を見付けて大はしゃぎしている。どうやら卵と一緒に、鑑定の書や魔石や魔玉が巣に入っていたらしい。
それらを意気揚々と回収して、周囲のモンスターも撃破して。この3層までは、双子の前衛&レイジーとコロ助のフォローは上手い事循環しているみたいだ。
茶々丸も、さすがにレイジーがいると大人しくて助かる。
時間もここまで1時間掛かってない程度で、ゆっくりペースにしてはまずまず。単純な造りの遺跡タイプなので、それも当然と言えるかも。
子供チームのデビュー戦の場所としては、悪くない難易度には違いなく。イレギュラーさえなければ、2時間で7~8層まで行けるかも知れない。
無理をしないと言う約束の通りなら、中ボスを倒してすぐ戻っても良いのだが。護人の頭の中では、中ボスはレイジー達に任せてその分深く進んだ方が、子供達も満足する気が。
そう考えつつ、チームは順調に4層へと降りて行った。ここからは大鶏と角ウサギに混じって、槍持ちパペット兵が数体ほど出現して来る。
前回と異なるモンスター分布に、護人も多少警戒するも。双子は難なくそいつ等を退けて、相変わらず好調さをキープしている模様だ。
体力も問題無いようで、これなら中ボスの部屋の前で休憩すればもう少し行けそう。後衛陣もようやく探索に慣れて来た感じで、雰囲気は悪くは無い。
ただし、『念干渉』を使っていた穂積はMP切れでダウン中。
この辺も経験だと、護人は敢えて何も言わず。幸いにも新ボディのルルンバちゃんは、子供が腰掛けて運べるパーツが後部にくっ付いている親切機能である。
これにはドワーフの親方に、思わず感謝の護人だったり。そして穂積の鶏頭パペットの運用も、現段階では長時間は無理なのも判明した。
そんな失敗や挫折も、子供達にとっては次なるステップへの糧である。他のキッズ達も、その脱落を責める者は1人もおらずで何より。
それでも根性で、穂積はスライムが発見される度にナイフを手に経験値を稼ぐ作業に参加している。MP切れの症状は辛いだろうに、ガッツだけはある最年少である。
護人も何も言わずに見守って、いざと言う時までは手出しは控えるつもり。キッズ達のチームワークは良好だし、大人が余計な真似をするべきでは無いとの判断である。
香多奈もそんな中で、潤滑油みたいな役割を見事に果たしている。リーダーとはちょっと違うが、ペット達や後衛陣、それから双子たち前衛陣と見事に連携を取っている。
コミュ力爆発と言った所で、香多奈の真骨頂である。
「あっ……護人のおっちゃん、アレが言ってた中ボスの間かな? 意外と早く着いたな、あの中に強い敵が待ち構えているんだ?
どのくらい強いんだろう、ちょっと戦ってみたいな」
「う~ん、今回はキッズチームは見学にしとこうか……レイジーとコロ助、茶々丸と萌が戦うからそれを見て勉強するように。
ペット達もここまでサポートばかりだから、ストレス溜まってるだろうからね。強い味方の戦い方を身近で見るのも、良い勉強だと思いなさい」
「それなら仕方ないかな、レイジーちゃんにも活躍の場をあげないとね! その代わり、もう少し先まで探索していいでしょ、護人のおっちゃん」
双子は揃ってアグレッシブ、だが話は分かるし聞き分けも良くて助かっている。おっちゃん呼ばわりされても、護人は事実だから仕方無いと思えるタイプ。
そんな訳でようやく役割の回って来たペット達、護人にゴーサインを貰ってヤル気充分。これは中ボス戦最短記録が出るかもと、香多奈など冷や冷やしていたり。
選抜から漏れたルルンバちゃんだが、彼は出しゃばる性格では無いので平気だろう。実際、キッズ達に乗っかかられてご機嫌な彼である。
何しろ和香も、ここなら安全とルルンバちゃんを頼る気満々である。そんなフォーメーションでの中ボスの部屋へと乗り込んだ一行、出迎えたのは例の巨大コカトリス。
2階の窓を覗けるほどの巨体の鶏の体に、尻尾は蛇と言うモンスターだけど。一番恐れるべきなのは、相手を石化させる能力なのはあまりにも有名。
来栖家チームは、確かコイツと2度ほど戦った事がある。あの時は速攻で倒し切れたし、幸いにもその特殊技を体感せずに済んでいる。
そんな訳で、一応は護人も戦える姿勢を維持しつつの突入に。高らかに叫び声をあげるコカトリスの、恐竜のようなそのサイズ感にビビりまくるキッズ達。
その真逆のリアクションのペット達、闘志を燃やして速攻で突っ込んで行くレイジーとコロ助。茶々丸と萌のペアも、一歩遅れてそれに続く。
香多奈の『応援』も、遅ればせながらコロ助に届いた。
巨大化したコロ助が、力任せに足元と言うか肉付きの良い腿へと牙を立てる。その反対の足へと、時間差で茶々丸と萌のチャージ技が見事に炸裂した。
巨体を良い的にされた中ボスのコカトリスは、受け身も取れずに前方へと倒れ込んで行く。翼を広げる間もない荒業、そして高い所にあった急所の首元は否応なしに地面へと降りて来る。
そこへリーダー格のレイジーが、待ってましたの咬み付き攻撃を喰らわせる。実際は、サイズ差もあってその攻撃だけでは、敵の息の根は止まらない筈。
ところが格の差なのか、何故かその一撃を喰らって中ボスは魔石へと変わって行ってしまった。ただただ呆気に取られて、その戦闘シーンを見守っているキッズ達。
ハッキリ言って、お手本のレベルでは無いような?
護人も全く同じ思い、張り切り過ぎだろうと内心で天を仰ぎ見ながらも。それでもストレスを開放しなさいと言ったのは自分だし、ヤッてしまったモノは仕方がない。
格の違いは、不条理もまかり通すんだよと子供達に解説しながら。例えばミケなど、あの小さなナリでハスキー達も道を譲る格を醸し出している。
その逆も然りで、敵のサイズや威圧感に吞まれてしまったら、こちらは実力の半分も出せない結果になってしまう。その事は覚えておくようにと、良く分からない講義で締める護人であった。
は~いと返事をする香多奈は、そんな事よりドロップ品と宝箱の回収をしたくてたまらない様子。コカトリスはスキル書を落としたようで、誰か覚えられたらいいねと計算高い末妹である。
和香と穂積も嬉しそうに、自身のパワーアップを夢見る表情。基本的にキッズ達は、体力や腕力が無いので全員がスキルに頼る戦法である。
逆を言えば、有用なスキルさえ覚える事が出来たら、すぐ次の探索から活躍の機会が巡って来る可能性が。スキル書と言うのは、子供達にとっては福音そのもの。
子供だって、チームの役に立ちたいと願う心は一緒なのだ。
――その欲は、ある意味大人達よりよっぽど純粋な程。




