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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の春~夏の件
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廃墟ダンジョンを女子チームで大いに楽しむ件



 或いは紗良の言葉掛けで、リラックス出来たのが良かったのかも知れない。その後の女子チームの探索は、程良いペースで順調に進んで行ってくれた。

 1層につき20分ペースだろうか、気付けば6層から9層までを踏破しており。戦闘もこなれて来て、危ない場面もほぼ無い感じで来れている。


 とは言え、罠と言うか仕掛けが無かった訳では無い。大抵はツグミが知らせてくれるが、イミテーターの絡んだ罠はどうもツグミは苦手らしく。

 ミケがそこに注意しろと鳴いてくれるのだが、それを翻訳する香多奈はここにはいない。結果、主にみっちゃんが仕掛けを作動させて酷い目に遭うと言う。


 これが、引っ掛かるのが自分の家族だったなら、ミケも本腰を入れて注意してくれただろう。モチベーションの問題なので、好意で参加してくれた猫を叱る訳にも行かず。

 掛かった方が悪いと、仲間からも叱られるみっちゃんは少し可哀想?


「まぁ、敵の性質から不意打ちに適したモンスターだし、みっちゃんだけを責める訳には行かないよねぇ。頑丈なみっちゃんが掛かってくれた事に、逆に感謝しなきゃ。

 私や怜央奈ちゃんだったら、怖いダメージ受けてたよ」

「そうだねぇ、粗忽そこつなみっちゃんにも使い道があるって事で。姫ちゃんに陽菜ちゃん、そんなに責めないであげて?」

「ううっ、かばって貰えて嬉しいような悲しいような……」


 相変わらずいじられキャラのみっちゃんだが、チーム内の雰囲気は至って穏やか。調子の良さも相まって、この9層までに発見した宝箱も2つほど。

 中からはポーション類や浄化ポーションも補充出来たり、鑑定の書や魔石類もほどほどに回収出来た。ついでにスキル書やら、金貨数十枚と当たりも少々。


 後は魔玉(闇)とか木の実とか、綺麗な木箱とか丸椅子が数脚とか。缶入りのドロップ飴とか、30センチサイズの日本人形はどうかと思うけど。

 それを見た面々は、動かないかを散々に確認した挙句。置いて行くのも呪われそうで嫌だと言う理由で、回収して持って帰る事に決定した。


 そこまで恐れないでもと思う紗良は、実はこの手のアンティーク品は嫌いでは無かったり。価値観と言うのは人それぞれ、立派な着物を着た人形は実はそれなりに価値が高い。

 とにかくスンナリここまで来れたのは、この即席チームの自信にも繫がって来る。時間もまだ充分あるし、取り敢えずは10層の中ボスを目指そうと言う話に。

 そして余力があれば、もっと深く探索する感じで。


 まぁ、トラップに関してはみっちゃんばかり責められない。落とし穴にはまったのは茶々丸だったし、その後の騒ぎも酷かった。中に潜んでいたスケルトン鼠にたかられた程度で、損害はほぼ無かったのが不幸中の幸い。

 ただまぁ、急に倒れて来た物置に下敷きになり掛けたのはみっちゃんその人。イミテーターの椅子に背後からド突かれたのも、何故かみっちゃんだけと言う。


 みんなから粗忽者と突っ込まれる彼女だが、幸いにも大きな怪我は負って無い。丈夫な体に感謝と言うか、さすが島育ちと変な認識をされてるみっちゃんである。

 そして前衛の腕前も、言うほど悪くは無い感じでまずは合格点。


「うん、段々とこの即席チームも調子よくなって来たね……もう10層に辿り着けたし、もうすぐ中ボスの間かな?

 中ボス戦はどうしよう、紗良姉さんこの辺で行っとく?」

「あっ、そうだね……ここまでは、みっちゃんの回復位しかして来なかったし。そろそろ私も、戦闘に参加しようかなぁ?」

「おっと……紗良姉の攻撃魔法は、私たちは直に見た事無かったかもな。これは見モノだ、大いに期待しなきゃな」


 陽菜の茶化しに、紗良はそんな大したモノじゃ無いよと謙遜の言葉を返す。動画を観ていた女子たちは、そんな訳無いでしょと総突っ込み。

 そして到着した10層の中ボスの部屋前、休憩しながら作戦確認。ついでに時間を見るが、まだ2時過ぎくらいで夕方にはたっぷりと余裕がある。


 これはもう、中ボスをスッと撃破して15層辺りまで行っちゃおうかと。お調子者の怜央奈が口にするけど、反対の意見は特に他の者からは出ない。

 ちなみに作戦は、姫香の立てた範囲魔法での速攻が通ってしまった。紗良は責任重大だと緊張気味だが、『魔導の書』の効果がようやく身に染みて来たようで。

 最近の魔法スキル使用は、随分と調子良く感じている次第である。


 そんな感じでの10層の中ボス攻略、姫香とみっちゃんが開け放った扉越しに茶々丸とツグミが躍り出た。茶々丸が勢いで突進しようとするのを、姫香が何とか制止させる。

 そこにバッチリ詠唱準備の終わった紗良が、中央から室内を視認する。そこに敵が3体浮いてるのを確認後、お得意の《氷雪》スキルをぶっ放す。


 最近はリリアラにも師事をして、魔法の精度を向上させていた効果もあるのだろう。中ボスとして待ち構えていたのは、巨大なドール型の顔が3つだった。

 左右の熊さんと中央の日本人形の浮遊ヘッドは、哀れにも何をする間もなく氷漬けに。念の為に突っ込む用意をしていた面々は、宙から落ちて粉々になって行く敵の姿を見てホッと一息。


 凄い威力だなと呆れる陽菜や、素直に喜びを表す怜央奈などチーム員の感情は様々。みっちゃんは呑気に、宝物のチェックをしたいアピールで姫香にまとわりついている。

 そしてツグミのオッケーを貰って、中身を回収し始める姫香とみっちゃん。探索に楽しみを見い出すポイントはそれぞれだが、みっちゃんは宝物に重きを置いてる様子である。

 それを言うと、陽菜は武器コレクターだし怜央奈は撮影マニアだ。


 それぞれ個性があるのは当然だが、それをチームとして纏めようとすると大変。姫香のモチベーションは、叔父さんの護人の負担軽減に他ならない。

 他の理由付けは、ダンジョンに潜っている内に色々と見い出した感じだろうか。例えば大いに家計の足しになるとか、地域のみんなから喜んで貰えるとか。


 青空市での売り物が自然と宝箱から回収出来るとか、強くなって戦闘自体がストレス解消になるとか。探索を続ける事でHPをまとい、頑丈な身体になるとか。

 末妹の香多奈まで探索にくっ付いて来るようになったのは、完全にイレギュラーではあった。とは言え、今では家族で探索に励むのは、一種のコミュニケーションとなっている。


 だから今後の探索で、家族の誰かが参加しなくなったら酷く寂しい思いをするだろう。今も姫香は、いる筈の無い護人や香多奈、それからレイジーやコロ助の姿を思わず探してしまっている。

 たまにこうして別のチームで潜るのは、確かに色んな点で勉強にはなる。ただし確実にストレスは溜まるし、何度もやりたいとは思わない。

 まぁ、ギルド交流って意味では貴重な探索には違い無し。




 続いての11層フロアだが、相変わらず廃屋の部屋が連なった造りのよう。そして再び、敵の中に大ゴキブリと大ネズミが混じり始めた。

 それを見た陽菜は潔く、みっちゃんと場所交替して後衛の護衛へと下がって行った。モンスターにはスケルトンも混じっていて、まるでこの廃屋で過去に殺人事件でもあったかのよう。


 とは言え、骨モンスターの大半は犬型なので、そこまで怖い想像には至らない。ちなみにさっきの宝箱からは、定番のポーションや魔結晶(小)、それから強化の巻物や鑑定の書が出て来てくれた。

 当たりは初級エリクサー位だろうか、後は人形やら縫いぐるみが数点。ついでに骨素材が少々と、古い絵画が数点ほど。サイズは小さいが、なかなか味のある風景画だった。


 売れるかどうかは不明だが、宝物の回収はいつもウキウキする作業だ。その感覚のまま、茶々丸と一緒に前衛に立つみっちゃんである。

 彼女の薙刀(さば)きも、実際はなかなかのレベルで後衛での弓の攻撃にも引けを取らない。これは『海賊』スキルと言う、船の上での戦いに優れた力を発揮する能力によるモノ。

 これは海沿いでは、割とポピュラーなスキルだったりする。


 そのスキルを駆使して、前衛でも充分な働きを見せるみっちゃんである。そしてその隣では、相棒の茶々丸がヤンチャに暴れ回っている。

 彼のひづめでのストッピング攻撃は、容赦が無いと言うかリズミカルで殺傷力に溢れている。それに釣られて、みっちゃんの薙刀の振りかぶりもいつしか容赦の無いモノに。


 階層は既に13層で、D級とは言えこの位の深層だと敵の強さも増している。それでもオーバーキル気味の両者の競演に、姫香や後衛陣はやや引き気味と言う。

 それ以外は、まずまず順調な探索である。


 出て来る敵はゴーストやスケルトンも増えて来て、14層になるとその数もあなどれないレベルに。それでも一行のペースは落ちる事無く、午後の4時を前に15層へと到達した。

 それから短いミーティングで、ここの中ボスを撃破して探索を終わる流れに。さすがにこの深層の前情報は得れてないので、そこが少々不安ではある。

 とは言えチームの消耗も少ないし、ゴリ押しで行けそうな雰囲気。


「イミテーターの待ち伏せで、怪我をしたのは今回もみっちゃん位かな? 茶々丸と一緒に割とバタバタしてたけど、まぁ何とか形にはなって来たよね。

 ルルンバちゃんを前衛に出してから、随分と守りの方は強固になった感じだね。隣にいて戦いにくいとかは無いかな、みっちゃん?」

「いやまぁ、どちらかと言えば茶々丸が……いえいえ、何でもありませんっスよ? 私も前衛慣れしてませんし、位置取りの訓練と思えば苦悩も薬です!

 そんな訳で、中ボス戦もこの布陣で是非ぜひっ!」

「またゴースト出るかもだから、その準備はしとこうね、みんな。ルルンバちゃんも頑張ってね、久々の前衛だから勝手も分からないと思うけど。

 中ボス戦が終わったら、ここの探索は終了だからね」


 紗良にそう言われて、俄然張り切るポーズのルルンバちゃんである。姫香はルルンバちゃんの必殺ビームは、ゴーストにも効果があるのかなと首を傾げている。

 そんなのは恐らく本人にすら分からないだろうけど、姫香も白刃の木刀を手に準備は万端である。みっちゃんも浄化ポーション入りの水鉄砲を持ち、準備オッケーのサインを送って来る。


 そんな訳で、最後の中ボス戦のスタートである。中ボスの部屋も他と似たような構造で、そこにいたのは1体のゴースト……いや、その上位種のリッチだったよう。

 そんな強敵のいきなりの召喚魔法で、ゴーストやスケルトンがわんさか湧き始める。絶叫を放つみっちゃんだが、水鉄砲による攻撃は始めている様子。


 茶々丸もスケルトンを蹴散らして回って、雑魚は取り敢えず何とかなりそう。ルルンバちゃんの壁役も鉄壁で、姫香は何とかボスに辿り着こうと必死。

 ツグミもゴースト相手には決め手に欠けるようで、ご主人のフォローに徹している。そんな事をしていると、リッチから闇の霧が飛んで来て慌てる前衛陣。


 気を付けてとの紗良の叫び声に、何故か反応したのは前衛のルルンバちゃんだった。香多奈が『波動砲』と呼び、姫香が『必殺ビーム』と称する砲塔を、敵の中ボス相手にブッ放す。

 その溜め時間はわずか3秒、エネルギー補填率もほんの20%程度だったのだが。その一撃で、何と一瞬にして蒸発してしまう中ボスのリッチである。

 見ていた一同は、全員揃って口あんぐり状態と言う。



 そうして、最後の中ボスを見事にAIロボにさらわれた女子チーム。そこは敢えて触れないように、最後はみんなで喜んでお茶を濁す感じ。

 紗良だけは、お手柄のルルンバちゃんを存分に褒めてあげていた。何しろあのままリッチに魔法で攻められていたら、最悪犠牲者が出ていた可能性も。


 褒められた彼は有頂天、もっと凄いのも撃てるよと伝えようとしたけれど。残念ながら今日は香多奈がいないので、その活躍は次の機会へ。

 どうやら今回のパーツの補充で、パワーアップは足回りだけでは済まなかった模様だ。それを来栖家が知るのは、もう少し先の探索でとなりそう。


 そこから怜央奈を中心に、最後の宝箱の回収を行った。15層だけあって、当たりも上級ポーションやオーブ珠とチラホラ。後は強化の巻物と、魔法の品らしい黒い杖とローブが1点ずつ。

 それからアンティークの電話やラジオ、棚や小テーブルも回収出来た。高値で売れるかは不明だが、味があってマニアは欲しそうなデザインの品々だ。

 ただし少女たちは、誰も欲しいとは思わなくて残念な限り。


 とにかくこれで、長かった“廃墟ダンジョン”の探索はお終いとなった。後は来た道を辿って、出口へと戻るだけ。時刻は夕方を過ぎており、やや時間はオーバー気味。

 それでも安全を確認しながら急いで帰るよと、リーダー役の姫香の口調も滑らかで元気だ。それに釣られるように、仲間の返事も明るくて力強かった。

 とにかく波乱は幾つかあったけど、無事に探索は終えられた訳で。





 ――失敗は次回に活かして、後は家に戻って休息をするだけ。







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