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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
2年目の春~夏の件
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至らぬ所を補い合いながら女子チームが進む件



「えっと、この部屋だけで50個以上の魔石を拾ったそうです♪ 凄いねっ、新記録だっ……まぁそれだけ、ゴキとネズミが上から降って来たって意味なんだけど。

 モンスターサイズだったから、迫力もあったよねぇ?」

「も、申し訳ないっス……私が天井を壊したばかりに、皆さんにご迷惑をっ。でもアイテムの入ったブリキ缶も一緒に墜ちて来たから、それはそれでラッキー?」

「さすがだねみっちゃん、ポジティブ脳だ……アンタ一応、陽菜に殺されない内によぉ~く謝っておきなさいね? お宝は……あっ、魔結晶も入ってたね、ラッキー!

 紗良姉さん、ペット達の休憩と怪我の治療はオッケー?」


 紗良からは、もう少し時間を頂戴との返事が。MP回復は終わったけど、陽菜の精神衰弱状態からの回復に時間を取られているみたいだ。

 確かにアレは酷い仕掛けだったし、姫香もあの集団に体の至る所をかじられる体験は肝が冷えた。幸いにも竜鎧装備と、それから白百合のマントが綺麗にブロックしてくれて事なきを得た感じ。


 ちなみに天井から一緒に落ちて来たブリキ缶には、鑑定の書が4枚に魔結晶(中)が3個。それから魔玉(闇)が2個に昔のコインが数十枚入っていた。

 後は古い遊び道具も少々、メンコとかおはじきとかビー玉とかガチャの景品とか。昔の住人の宝物入れだったのかも、そう思うと少しノスタルジックである。


 みっちゃんは言われた通り、陽菜のメンタルケアに大忙し。そんな風景を、呑気に怜央奈がスマホで撮影している。その怜央奈だが、色んな所で性格が末妹の香多奈に似ているかも?

 そんな感じで、立て直しにもう少しだけ時間は掛かったモノの。ここまでの到達時間も割とスムーズだったので、全体的には進行は順調な感じ。


 その後も、出発してすぐに茶々丸が床を踏み抜いてしまったりと色々あったけど。幸いにも、そっち系の単純な落とし罠だったみたいで追加の仕掛けは無し。

 怪我を紗良に回復して貰って、それでもめげないヤンチャ盛りの茶々丸である。扱いに困るようなら、少々作戦を練り直す必要があるかなと姫香も考えつつ。

 それ以外は何事もなく、5層の中ボス前まで到着出来た。


 時間はここまで1時間半程度と、まだお昼にもなっていない良好ペース。陽菜の状態も何とか回復して、今は後衛と一緒に後ろをついて来てくれている。

 みっちゃんは相変わらず前衛で、茶々丸とのコンビ戦闘を試行錯誤していた。根が能天気なみっちゃんは、仔ヤギが相棒でも全く気にならないみたいである。


 むしろお互いに良さを出そうと、話し掛けたり騎乗の真似事をしてみたり。その試みは、見事に振り落とされて頭にこぶを作る結果に。

 そして叱られる茶々丸、ただしあまり反省の色は無いみたい。


「もうっ、何で戦闘以外で怪我人が出るの……リーダーってこんなに大変なんだ、護人さんは本当に良くやってくれてるよ。ウチなんて、ペットもいれば半人前の子供だっているチームなのにね。

 とにかく中ボス戦だよ、みんなしっかり気を引き締めて!」

「了解っス、本当に申し訳ない……でも動画の中では、萌ちゃんが上手く乗りこなしてたりするじゃないスか。

 私も出来るかなぁって、何となく思っちゃって」

「萌ちゃんは、実は『騎乗』スキル持ってるからねぇ……茶々ちゃんとの相性も普段から良いし、急に騎乗はお馬さんでも無理だよ。

 茶々ちゃんは、戦闘でも割と気儘きままに動き回るからねぇ」


 姫香もその紗良の言葉に同意して、制御出来るのは護人さんかレイジー位だと付け加える。つまりは、みっちゃんの心意気は評価するけど、中ボス戦では勝手をするなと。

 そんな釘差しを経て、挑む5層の扉の奥の中ボスの間である。予想通りに居座っていたのは、幸薄そうなゴーストが2体ほど。それを見て、俄然ヤル気を出す陽菜である。


 何しろここまで、ほとんど良い所が無かったのだ。浄化ポーションの支度はバッチリ、それを双剣に塗りたくって片方は任せておけと前に出る。

 それじゃあ、もう片方はみっちゃんと茶々丸が担当ねと、無茶振りの指示を飛ばす姫香。自身は白刃の木刀をツグミに取り出して貰って、両方のフォローに向かえるようにやや後方で待機する。


 みっちゃんも浄化ポーションは持たされていたが、これを使った経験はあまりないみたい。即席の相棒を窺うと、ヤル気満々で角を振りかざして特攻の構え。

 ゴーストに効くのかなと、不思議に思いつつも追従するみっちゃん。ところがその一撃は、ゴーストのわき腹を深くえぐって突かれたゴーストも驚き顔。

 ゴーストもビックリするんだと、変な所で感心する天然少女みっちゃんである。


 その後は、弱ったゴーストに浄化ポーションをスプレーしてやって、哀れな中ボスは昇天なさってくれた。陽菜の方も自慢の武器で、華麗にもう1体をほふる事に見事成功。

 楽勝だった中ボス戦に、D級ランクとは言え多少の手応えも欲しいねと。贅沢な感想を言いながら、姫香とツグミは宝箱のチェックへと向かう。


 ちなみにゴースト2体のドロップは、魔石(小)が2個にスキル書が1枚とまずまず。そして宝箱は茶色で、まずはエーテル700mlに浄化ポーション800ml。

 鑑定の書が5枚に魔玉(風)が7個、魔石(中)が6個に革製の篭手が1つ。後は虫かごとか虫取り網、殺虫剤の缶や殺鼠さっそ剤などの類いが入っていた。

 この辺は、次の青空市で売れるかも知れない。


 そんな事を話しながら、紗良が魔法の鞄へとアイテムを回収して行く。この辺はいつもの流れなのだが、紗良も姫香もリーダーの護人や騒がしい香多奈の不在には違和感を感じていた。

 何となく寂しいなぁとか思いながら、女子チームに視線を戻すと。陽菜とみっちゃんが、お昼はいつ食べるんだと聞きに来る呑気振り。


 確かに正午にはまだ時間はあるが、区切りとしてここで大きな休憩を入れるのはアリかも。紗良とも相談した結果、中ボスの間でお昼休憩を取る流れに。

 途端に浮かれ始めるみっちゃんと怜央奈、この2人は欲望に忠実である。紗良がお昼の場を用意すると、ご機嫌に合掌して頂きますの言葉を述べる。


 その流れで、陽菜も姫香の隣に座って静かに食事を始める。怜央奈は早速、ツグミにご飯あげるよとモフらせてアピールを始める始末。

 それぞれ個性の垣間見える昼食風景だが、姫香はやっぱりチームの事を考えていた。例えば、ようやく戻って来たルルンバちゃんの新ボディの具合だとか。


 歩いている様子を見ていた紗良によると、前の造り付けのキャタピラより数段スムーズだそうで。壊れかけの床の上を、スムーズに進む多脚下部パーツは凄い性能だとの保証をしてくれた。

 しかも新たな下部パーツだが、後ろに何人か座れるようになっているそうな。怪我人が出たりとか、例えば香多奈が疲れた時とかに有用な仕掛けではある。

 それを抜け目なくチェックしていた紗良も、さすがの眼力だ。


「凄いな、紗良姉……そんな細かい所まで見てるんだ、後衛ってただ前衛について来るだけじゃないんだな。

 怜央奈も見習ったらいい、撮影だけじゃなくって」

「紗良姉さんは、ペット達のコンディションの把握とかも優秀だからね! ウチは香多奈がペット達の通訳も可能だけど、それが無くても気持ちをむ能力は凄いよ。

 後はダンジョンの前情報とか、入念に調べてくれてるし」

「はあ~っ、そう言う所は本当に見習わなきゃっスねぇ……私も地元のチームじゃ最年少なんで、色々と雑用を押し付けられるんスけど。

 今度からは、嫌々じゃ無くて進んで頑張りまっス!」


 調子の良いみっちゃんの宣言だが、陽菜や怜央奈は半信半疑の眼付きである。各所から褒められた紗良は、そんな大層な事じゃ無いよと照れながら謙遜けんそんしている。

 その気遣いが、誰でも真似出来るのかと言われたらそんな事は全く無くて。家庭においても探索中でも、紗良はやっぱり縁の下の力持ち的な存在なのだ。


 天然の入ってるみっちゃんでは、その役どころは少し難しいかも知れない。そう言う意味では、明るくてグイグイ皆を引っ張る姫香はリーダー向きには違いなく。

 チームの明るいムードは、間違いなく彼女が作っていると誰もが気付いている。




 それから昼食休憩が終わって、いよいよ6層への探索の再開である。まだまだ暴れ足りないメンバー達は、競って階段を降りて新しい階層へと進んで行く。

 とは言え、まずはツグミに先行探索して貰っての安全確保は行いたい所。姫香もフォロー出来る位置に陣取って、相棒の探知に神経を尖らせている。


 6層エリアも、どこか古臭い建物の室内だった。ただしさっきみたいに、完全に朽ちている感じは見受けられない。窓は木板で打ちつけられていて、外の風景は全く窺えず。

 部屋の中はどこか埃っぽくて、それは先程と同じである。残された家具が散らかっていて、視界が悪いのは5層までとはやや違うみたい。


 部屋の大きさもそれなりで、薄暗いエリアを姫香のヘッドライトが照らし出す。敵影は今の所は無いようで、奥に次の部屋への開け放たれた扉が1つ。

 姫香の合図で、続々と階段からチーム員が6層へと足を踏み入れて来る。怜央奈の魔法の灯りで、周囲がよりクリアに見渡せるようになった。

 やっぱり敵はいないようで、ツグミは次の部屋へと向かう。


「この層の動画情報はあんまりないの、だから注意して進んでね、姫香ちゃん。多分、敵はドールとかパペットがメインだと思うけど。

 ゴーストやイミテーターも、どこかに待ち伏せしてるかも?」

「了解っ、紗良姉さん……みんなも家具や扉に近付く時は、充分に注意してね! 不意打ち喰らって、紗良姉さんに迷惑かけないでよ」

「は~い、怪しい場所には近付きませんっ! みっちゃんが一番気をつけてよね、前科があるんだから!」


 怜央奈にそう言われたみっちゃんは、大きな体を小さくしながら了解っスとの返答。そうして進んだ次の部屋には、情報通りのパペットがお出迎え。

 それらはほんの3体のみで、それ程に強敵では無いなと倒した陽菜の感想である。この層からゴキブリ系は出ないらしく、それを聞いた陽菜は張り切って前衛交代を申し出たのだ。


 姫香も同じ印象で、これは階層更新がはかどりそうな感じ。そうして全員で油断して、次の部屋で出て来たモンスターに騒然となると言う。

 毎度のパターンだが、浮遊する日本人形は普通に怖い。これもドール系のモンスターらしく、髪を振り乱して飛び掛かって来る姿と来たら。


 今回派手に絶叫したのは、後衛に位置していたみっちゃんだった。それに釣られて、前衛陣も浮足立つと言う良くないサイクルが発生する。

 そして何故か日本人形も絶叫を放ち、その効果で金縛り状態に陥る前衛陣。それから長い黒髪が伸びて来て、これで相手を絞め殺すつもりらしい。

 そこを金縛りを耐えたルルンバちゃんが、勇ましく皆の前へと躍り出る。


 幸いにも、この厄介な敵は部屋に1体だけの設置だった模様。ルルンバちゃんが粘っている間に回復した姫香とツグミが、この難敵の始末を手伝って戦闘終了。

 魔石(小)がドロップしたので、やはりそれなりのランクの敵だったのだろう。ゴーストばかりかと思っていたら、他にも厄介な敵が出て来るみたい。


 まぁ、そんな約束事など無いのがダンジョンなので、油断していたこっちが悪いって話ではある。一息ついて姫香が口にしたのは、油断しないで行くよとのいましめの言葉であった。

 家族チームで探索していた時とは、明らかに違う不安定感に焦りを感じる姫香だが。やはり1度も行った事の無いダンジョンなので、仕方がない部分も。


 リーダーの姫香が多少苛立(いらだ)っているのに気付いた紗良が、落ち着くように声を掛けに行く。若い仲良しチームなんだから、至らない所はいっぱい出て来るよと。

 それを自分がしっかりしなきゃと考えていると、ドツボにまる事になる。みんなで助け合って、足りない分を補い合えば良いのだ。

 リーダーなんて、その手助けさえすればオッケー。


「ゴキが嫌いな陽菜ちゃんも、ホラーが苦手なみっちゃんも良い所はいっぱいあるじゃない? 姫香ちゃんも責任感は強いけど、1人で暴走する事も良くあるし。

 だからって、探索が全然ダメってわけじゃ無いでしょ……ある程度上手く行っているのは、ちゃんとみんなで足りない所を補い合えてるからだよっ。

 焦らず行こう、姫香ちゃん!」

「そっか、そうだね……いつもの護人さんが仕切るチームと較べて、ちょっと落ち込んじゃってたよ。私もまだまだ1人前じゃないし、それはみんなも一緒だよね。

 確かに補い合いながらだよ、紗良姉さんっ!」


 単純な姫香は、紗良の取り成しにあっさりと気力を回復していつもの笑顔に。紗良も一緒に微笑みながら、単純な性格の娘で良かったと内心で安堵のため息。

 リーダーは確かに重圧の掛かる仕事で、大人数のチーム運営はかなり大変である。だからと言って、難しく考えていたら気力も体力も持ちはしないのだ。

 足りない部分は補い合いで、それで良いではないか。





 ――まだ若いリーダー&チームなのだ、力を合わせて進めば良い話。







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