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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の春~夏の件
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初の青空市が開催される件



 来栖家パーティが、日馬桜町の“駅前ダンジョン”の間引きを無事に終えて1週間。5月も下旬を迎え、気候も過ごしやすくなって来た。

 畑と田んぼは順調、何しろ例年より人手が増えているのが大きい。香多奈は相変わらず小学校に行けてないが、6月から復帰する予定で担任とは話を付けている。

 それを受けて、本人はやっぱり安堵した様子。


 いつもの暮らしに戻れると言う報告は、精神的にも良い反応を与えてくれる。家での勉強も、それなりに楽しんでいた香多奈だったけれども。

 やはり同年代の友達と、一緒に勉強したり遊んだりする時間は楽しみな様子で。良かったなと保護者の護人も思う、これで心の荷も1つは降りたかも。

 依然として、色々と考える事は多いけれども。


 その中の一つに、探索者の活動と言う問題がデンと居座っているのも事実。それに関連した報せが、丁度その頃に来栖家へと届いた。

 つまりは護人のスマホへ、午前中の割と早い時間に着信があって。


 地元にようやくの事『探索者支援協会』が出来るとの、自治会長からの嬉しそうな報告と。スタッフと顔合わせをしたいから、時間を取れないかとのお伺い。

 聞けばどうも、3月に研修に来てくれた《《あの》》人物が支部長に就任するらしい。そして設立場所は、集会所の割と近くだとの事。つまりは、町の中心部である。

 便利だが、まぁ山の上の来栖家にはあまり関係無いとも。


 聞けば、スタッフは既に町に入っており、色々と事務の開設作業をこなしているそうだ。魔石やポーション類の買い取りも、既に始まっているとの事で。

 それを隣で聞いていた子供たちは大興奮、今から皆で行こうよとせっついて来る。別に構わないが、全員で向かうと色々と迷惑な気もする護人。

 何しろ普段から騒がしい面々、ちょっと気が引けると言うか。


 それでも自治会長からは、全然構わないよとの言質を受け取って。それじゃあ早速向かおうよと、せっかちに出発準備を始める子供たち。何が幾らで売れるかなと、とっても楽しそう。

 全員で行くのなら、ハスキー軍団も3匹とも連れて行く事になる。何しろ護衛犬なのだ、行動は一緒との決め事を破るのは宜しくない。

 そんな訳で、一番大きなキャンピングカーで向かう事に。


「キャンピングカーで行くんだって、ミケさんも来る? ダンジョンじゃなくて、そこで回収したモノを売りに行くんだけどねっ♪

 儲かったら、商店に寄っていりこの袋買ってあげるよっ?」

「……ミケは無反応みたいね、お留守番してるだってさ。お土産だけ買って帰る事にしよう、いつも探索の手伝いを頑張ってくれてるもんね?

 ミケにも報酬の分配、ちゃんと受け取って貰わなくちゃ」


 確かに姫香の言う通りだと、変な所で盛り上がりを見せる子供たち。そんな事をしている内にも、家族で出掛ける準備は完了して。

 いざ出発と言う際になって、何故か妖精ちゃんも付いて来る事態に。香多奈のお出掛けでも、学校にはついて行かない良心を持っていた筈なのに。

 今回は面白そうだと、好奇心が勝った様子。


 まぁ、多少は珍しがられるけど今更かと、護人も諦めモードでそれを了承して。大人しく運転手を務めて、向かうは『探索者支援協会』設立予定地である。

 そこは集会所と同じ敷地内で、元は不定期で幼稚園っぽい施設に使われていた建物だった。少子化のあおりか、稼働率は低かったが遊具はポツポツ散見されて。

 それを見付けた香多奈が、コロ助と遊び始める一幕も。


 それは特に問題は無いのだが、施設内には額に汗して働く人々が。どうやら業者や自治会のメンバーも手伝っているようで、合計7名が作業中。

 その中には峰岸自治会長もいて、こちらを見付けて挨拶して来る。そして引き合わされたのは、3月に講習会に立ち会っていた大男。名前を仁志にしと言い、この協会の支部長になるらしい。

 名刺を渡され、こちらも名刺を渡し返す。


 それを見て、何故か隣の姫香は得意顔。仁志の隣にも女性が控えていて、この人も3月に付き添っていたスタッフに間違いない。もう1人ほど事務員を含む、3名で今後この支部は回して行くらしい。

 ハッキリ言って、スタッフ3名常駐は田舎にしては凄い力の入れようである。まぁ、実は支部の最低人数なのかも知れないが。

 仁志はやはり、元は探索者の出身だったらしい。今後ともどうぞ宜しくと、当たり障りのない挨拶を交わし合っていると。外で遊ぶのに飽きた、香多奈が妖精ちゃんと乱入して来た。

 そして始まる、混沌の宴。


「わっ、なっ……何ですか、その飛翔生物っ!? ってか生き物ですか、まるで物語に出て来る妖精に見えるんですがっ!?」

「えっ、妖精ちゃんだよ……?」


 急にテンション高く食い付いて来たのは、支店長の仁志ではなくもう1人の小柄な女性の事務員だった。名前を能見のうみと言うらしく、支店長によると優秀なサポート員らしい。

 凄く珍しがられる妖精ちゃんだったが、まぁ確かに家族以外の者が見たらそうなのかも。いわゆる座敷童的な、見れたらラッキーな存在なのかも知れない。

 それでもやはり、初めて見た人はテンション上がるかも?


 ちなみに、この支部の3人目はかなりのオジサンで、事務員として雇われた人らしく。この騒ぎにも泰然とした表情、奥の事務用の棚の片付けの手を止めていない。

 パソコンや何やらの配線を弄っていた、外注の作業員達ですらその騒ぎには手を止めたと言うのに。作業はようやく半手分程度、事務所の格好はついて来た感じ。

 そしてようやく、その妖精騒ぎもひと段落。


 元はクールな表情の女性社員は、取り乱して失礼しましたとこの騒ぎを取り繕って。初めてこの『探索者支援協会』日馬桜町支部に訪れてくれた、顧客を敬意をもって歓迎すると口にして。

 それからは事務的な口調で、協会のサービスについての説明を開始してくれる。椅子を勧められた来栖家は、2脚しかない椅子に四苦八苦して全員が位置を決める。

 結果、護人と紗良が席について若い2人はその後ろへ。


「失礼しました、まだ備品も資料も整っていない状況でして……来栖様は既に、町の間引きをお手伝い頂いた実績があるとお伺いしております。

 協会は探索登録者の優遇措置はもちろん、活発に活動頂いておりますチームは特にサービス提供いたします。特に魔石やポーション類の買い取りは、支部の評価にも繋がりますので。

 是非とも頻繁なご利用、お願いいたします」

「は、はぁ……」


 熱く語る能見さん、この人も先ほど名刺を差し出してくれて名前が判明したのだが。その視線は妖精ちゃんをずっとロックオン、どうもかなりツボってしまった様子である。

 それは良いのだか、やはりここでは素材や骨董品の売買は難しいらしい。安くしか買い取って貰えないそうで、企業やオークションに直接がより儲かる手法らしく。

 その話の流れで、思わぬ情報を仕入れる事に。


 どうやら6月の最初の日曜日に、この日馬桜町で企業参加の青空市が開催される予定との事。他の町の支部では、割と大々的に宣伝をしているらしい。

 販売車を出してくれる企業も、『四葉ワークス』『眞知田マチダオート広島』『不磨フマキラー薬品』と地元の大手が名を連ねていて。規模も大きいそうで、それに是非参加をと持ち掛けられる。

 この支部の探索者特典で、出店も可だとの事で。


 これには子供たちも大興奮、すぐにも申し込みを申請する勢い。何を売るつもりだと、暫し護人は戸惑うモノの。最悪、野菜を売ればいいかと開き直って。

 それでは販売ブースを1つお取りしておきますねと、青空市の予約はこれにて終了。それにしても、告知に力を入れていると言っていたが、地元の人には知られていない気も。

 まぁ、企業の販売車に来て貰えるのは大助かりだ。


 何しろこちらの手間も省けるし、装備の買い足しも期待出来る。護人は子供たちに、販売ブースの出店予定に加えて、探索に欲しい物リストを作っておくようにと言い渡しておく。

 販売物については、割と子供たちに丸投げに。それより欲しい物について、香多奈から意外な声が上がった。ペットたちの装備が無いかなと、割と切実な要望に。

 思わず能見さんも、きょとんとした表情に。


「えっと……実はウチのパーティは、ハスキー犬が3匹と猫が1匹ほど在籍していまして。その装備をどこかの企業が扱っていないかと、そう言う相談事です。

 大事なパートナーだし、戦闘での危険は私達と同じ程度には存在しますから」

「な、なるほど……いえ、お嬢ちゃん、呼んで頂かなくても結構ですよ? あらまぁ、大きなワンちゃん達ですね。なるほど、犬と猫の装備ですか……。

 私から提示出来るのは、現状だと2通り程ですかね。適当な魔法の素材で自作するか、専門の業者にオーダーメイドで頼む方法です。

 まぁお金は掛かりますが、業者に頼む方が無難かもしれませんね」


 事務所の入り口に勢揃いしたハスキー軍団に、束の間驚き顔の能見さんだったけど。有能な事務員の態度は崩さず、解決法を2つ提示して来る。

 それには紗良も驚いた様子、目から鱗と言うか自作の手があったかと手を叩く。ハスキー軍団を呼び寄せた香多奈も、良かったねと犬達をモフモフしている。

 この解決方法には、護人も前向きになれそう。


 まぁ、実行は恐らく紗良や姫香が中心になるだろうけど。材料費が必要なら、護人が積極的に支払う所存。自作と言えば、紗良が机に置いている鞄もそう。

 これは実は麻の魔法の鞄なのだが、外見があまりにもボロッちいので。綺麗な布を使用して、サイドバック風に紗良が自作で手直しをしていたのだ。

 何しろ年頃の娘なのだし、そこら辺は凝りたい所。


 その魔法の鞄の存在が、魔石とポーション売りの話になった際に能見さんに判明。何しろ取り出した内容物と、鞄の膨らみの差異が一目瞭然なのだ。

 相手に驚かれるのは仕方ないが、そこから様々なアドバイスに発展して。


「魔法の鞄はとても貴重で、値段も高額になるので盗難騒ぎに発展する場合も多々あります。これを獲得した探索者も、便利なので滅多に売りに出しませんし。

 協会としては、盗難防止に個人所有登録をお勧めします。自転車の登録と一緒ですね、盗難に遭った際にこれをもとに捜索出来るので、今回の機会に是非」

「なるほど、それじゃあお願いします」

「それから、魔石の取り扱いに関してですが……これも結構な魔素を含んでいますので、特別な容器に収納する事をお勧めします。

 少々高いのですが、変質に対する現状で精一杯の予防措置ですね」


 その小袋はサイズに比例させると、少々どころでなく高額ではあったのだけれど。あった方が良いのは確か、護人は躊躇わずに購入する事に。

 もっとも、魔石の売り上げが半端なく高額になったので、それで充分に賄えたのだが。魔石は粒サイズで300個近くあって、それだけで6万円以上に。

 ポーション5ℓで同じく5万円、そしてビー玉サイズのが1個1万円。ボス系が落としたピンポン玉サイズのが4個あって、それが1個5万円にもなって。

 何と合計で、30万円以上に!


 これには子供たちも大興奮、しかも今度の青空市でも販売ブースで収入を見込めると言う。またみんなで探索に行こうねと、完全に探索者気取りの香多奈である。

 姉の姫香も、末妹の提案には満更でも無い様子。一番の良識派の紗良でさえ、その言葉をたしなめる素振りも無いと言う。護人も今では、既に諦めの境地である。

 時は世紀末、生き延びるには色んな知恵が必要なのは確か。


 妙な思考に陥っている顧客をよそに、能見さんのプレゼンは止まるところを知らない。事務能力は凄く高そう、魔石とポーションの換金作業も素早かったし。

 そして今は、探索者の優遇制度についての説明に余念が無い感じ。町内での若者を集めての支援会の話とか、有名チームになればスポンサーを獲得出来る可能性についてとか。

 そうやって懇意になれば、直接お仕事を回して貰ったりもあるそうな。引退後には企業に天下りの道も拓けるそうで、探索業もそれほど悪くは無いそうだ。

 まぁ、向こうは職業柄そう言うしか無いのは理解出来る。


「探索の動画編集サービスも、こちらで行っておりますよ。探索で忙しくて、動画編集に詳しくないチームにはご好評頂いております」


 探索業においては、E動画での配信収入も重要な要素であるらしく。協会に依頼すれば、1本の動画編集を数千円で行って貰えるそうだ。

 それを聞いて乗り気な子供たち、今後はお世話になろうよと護人に持ちかけ。


 そんな感じで、各種の説明をあらかた聞き終わって。いっぱしの探索者を気取り始める末妹を、姫香が軽くたしなめている。

 もちろん香多奈は、年齢が低過ぎて探索者登録はずっと先の話である。少女にとっては、家族やペットと一緒にスリルや儲けを味わうのが楽しいのだろう。

 今も儲けたお金で、犬達とミケにおやつを買わなきゃとはしゃいでいる。





 ――出掛けの約束はきっちりと果たす、意外と律儀な少女なのであった。









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[一言] >>時は世紀末 スマホもあるというのに?w
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