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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の春~夏の件
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階層更新で良アイテムをゲットする件



 ダンジョンの間引きとは、つまりはなるべく深くまで敵を殲滅しながら降りて行く事に尽きる。これを数か月に1度は行わないと、高確率でオーバーフローを起こす事になる。

 もっと良いのは、ダンジョンの最深層に到達してボスを撃破して。そこに秘かに存在する、ダンジョンコアを壊してしまう事である。

 そうすれば、最高半年はモンスターが湧く事は無いそうな。


 自治会にこの“駅前ダンジョン”の間引きを依頼された護人は、順調に第5層までの攻略を終え。更に現在、第6層へと足を延ばしたところである。

 来栖家パーティとしては、初の階層である。先頭を行く護人と姫香は、それを踏まえて慎重な足取り。フロアの景色も、上の層とは少し違って通路の幅も狭く感じる。

 そして通路には列車のレールが、まるで地下の路線のよう。


「5層までとは、ちょっと感じが違うね……レールが敷かれてる、電車が通ってるのかな、護人叔父さん。出て来る敵も違うのかな、ドキドキするね」

「う~ん、灯りも足りないのか少し暗いな……おっと、この層もゴブリンがお出迎えっぽい。レイジーたちが速攻で狩りに出た、一緒のパターンで行けそうだな。

 それじゃ行こうか、姫香」


 はいっと元気な返事と共に、再び戦線が構築されて行く。ゴブの種類は棍棒持ちが大半で、その中に貧相な弓矢装備と襤褸ボロのローブの魔法使いが混じっている。

 つまりは上の層と、全く一緒な敵の構成である。来栖家パーティも慣れたモノで、確実に各個撃破して行って。こちらの被弾も無く、最初のコンタクトは無事に終了。

 そしてレールの段差に苦労しつつ、魔石を回収するルルンバちゃん。


 この層の本道は、割と真っ直ぐで見晴らしが良い。働き者のハスキー軍団が、奥に次の敵の集団を見初めた様子で。レイジーを先頭に、さっさと追い込み猟へと駆けて行く。

 まだまだ元気なその様子を見て、もう少し行けそうな感触を得る護人だったけど。次の集団に一際大きな体躯のゴブを見掛け、心の中のあなどりを改め直してみたり。

 後ろの紗良が、アレはホブゴブリンかなぁと知らせて来る。


 こういう常識と言うのは、考えてみれば不思議ではある。妖怪とか異世界とか言う概念は、大昔から日本にも存在していた訳ではあるけど。

 妖魔ゴブリンとか勇者と言う言葉は、数十年前にRPGゲーム等の流行で聞く前は、見掛けもしなかった。それが今や、普通に世間に定着して誰もが知っている。

 そしてこの片田舎の、ダンジョンにも普通に出没していると言う。


 とにかく、専門家にも異世界と繋がる通路ではとも噂されているダンジョンだ。何が出て来ても、探索者はそう言うモノかと驚きは無い感じ。

 紗良の動画での情報収集も、意外と役に立っているみたい。



 色々と考えて慎重に対峙したホブゴブリンだったが、実際はそれ程の強敵でも無かった。こちらの緊張を感じたミケの横槍で、護人の前のホブゴブは一撃で魔石へと変化して行く始末。

 力は多少強くてタフだったかもだが、1対1であしらえない程でも無かった感じ。そんなゴブの集団が、突き当りのレールの終点まで全部で3つ存在していて。

 さほどの苦労も無く、殲滅には成功。


 そして紗良の報告では、支道は2本ほどあったそうな。確認に向かう道すがら、中の様子を詳しく窺うと。どうもこちらも、上の層とあまり変わらない様子。

 飛び目玉の怪物と大蝙蝠、それから地面には大蛭がいるとの事で。念の為にと、遠距離魔法のメンバーでお掃除をして貰う作戦で安全確保。

 レイジーとコロ助が、それを忠実に遂行してくれて。


 香多奈がちょこまかと、小部屋の中に隠された宝箱が無いかを確認するのだけど。残念ながら、どちらの部屋も外れだった模様である。

 ガッカリしつつも、次は絶対に何か出て来るよといつものポジティブ脳な少女の号令で。なし崩し的に、第7層への階段を降りる一行。

 最深層の更新に、しかし盛り上がりは極わずか。


 そして7層も、レール敷きの似たような構造。出て来る敵もゴブリンの集団で、周囲に賑やかに戦闘音が響いている。その騒ぎにつられて、奥から新たな集団が。

 これはちょっとした異変である、今まで無かった事態に慌てる護人。後衛にミケの出動を要請すると、何とそのミケさんはルルンバちゃんに乗って前線に出て来た。

 本人は楽しそう、そして雷の束を集団にお見舞い。


「……すっごい威力だったねぇ、ミケさんの雷落とし! 私が投げた爆破石は、ちょっとそれちゃってあんまり意味がなかったよ。

 姫香お姉ちゃん、ミケさんがルルンバちゃんに乗ってたの気付いた?」

「本当にズボラだねぇ、ミケってば……でもお陰で、後から追加で来た集団はヨロヨロになってたし、始末は凄く楽だったよ。

 香多奈は石投げ、家に帰ったらもっと練習しなさい」


 そんなやり取りの果てに、周囲の敵影が全て無くなったのを確認して。そこから暫く進むと、また前の層と違う異変が一行に訪れた。

 レールが分岐していて、本道も二股に別れていたのだ。ここまで支道も無かったし、左右の道も形状的にはほぼ変わらない見栄えである。

 紗良が魔法装備の視線飛ばしで、まずは先行しての調査を申し出て。


 その結果分かったのが、左の通路は下層への階段に繋がっている事。それから右は突き当りで、その途中に支道が1本存在する事。もちろん敵もいて、ただ敵の種類は代わり映え無しとの報告である。

 そんな訳で、取り敢えずは右の本道を行く事に決定。護人の言葉を完全に理解しているように、ハスキー軍団が右の通路に消えて行く。

 手柄を取られまいと、勇んでそれに続く姫香。


 雑魚戦は特に語る程も無く、盛り上がりも存在せずに終了。そして脇道の小部屋も同じく、香多奈の期待していた宝箱の設置も無しの結果に。

 残ったのは突き当りの調査と、分岐に戻っての階層更新である。諦めきれない末妹が、突き当りに何か無いかと紗良に熱心にお伺い。

 あるにはあるけど、見えるのは古惚ふるぼけて放置されたトロッコのみ。


「トロッコの中にお宝があるかも、行ってみようよ、叔父さんっ!」

「まぁ、行く位は構わないけど……時間的に次の階層は辛いかもな、トロッコを見終わったら引き返そうか」

「了解っ……何も無くても泣くんじゃないよ、香多奈?」


 姫香のからかいに、泣かないよとムキになる末妹。それからコロ助と一緒に突き当りに駆けて行って、トロッコを覗き込んで一瞬だけガッカリした表情に。

 すぐに姉の姫香が追い付いて、姉妹でのアイテム探しが始まって。それから怪しいアイテムを、通路の床に並べ始める。とは言え、つるはしや石の塊、ずた袋しかないけど。

 モロに、廃坑に置き去りにされた品々である。


 辛うじて古びた水筒を発見、中の液体は恐らく貴重な薬品っぽい。遅れて覗き込んだ紗良は、しかし別のアイテムを熱心に観察していた。

 魔素に長く浸っているアイテムは変質する、これは人間も一緒なのだけど。魔素濃度の高いダンジョンにあるアイテムも、人間の望む性能に変化する傾向がある。

 ネットでの情報収集で、その辺は心得ている紗良。


 そんな熱心な彼女を見て、護人や犬達も近寄って来た。一体何にこだわっているのかと、その辺は紗良本人にも分かっていないのだけど。

 ふと気になって、どこでも見掛ける麻の収納袋に一緒に転がっていた石の塊を入れてみる。人の頭ほどもあるそれは、意外とすんなり袋に収納出来た。

 それを持ち上げた紗良は、アレっと言う顔付きに。


「あれっ、岩の重さが半分くらいに減ったような気が……これって、ひょっとしてネットで噂の魔法の鞄じゃないのかな?

 護人さん、ちょっと試してみてください」

「えっ、そんな事が……おおっ、言われてみればそんな気も?」


 それを聞いて盛り上がる一同、香多奈が遠慮なくもう1個の岩とか鉱石を放り込む。試してみると、重さは感じるけど確かに幾分か軽くなっている気がする。

 容赦の無い少女は、次につるはしを手に取って同じ行動に。驚いた事に、それも柄まで麻袋は呑み込んでしまった。体感で、重さは半分程度しか感じない。

 そして明らかに袋より長い品も、収納は可能っぽい。


 これは凄いとはしゃぐ子供たち、そして誰が持つかを姫香と香多奈で揉め始める。護人はそれをたしなめつつ、帰る準備を家族に促して。

 約束通り、帰還に向けてチームの緊張のネジを締め直して。取り敢えず収穫もあったし、ノルマもこなせたし安心して戻れる事に感謝して。

 そうして3回目の探索は、無事に終了に至ったのだった。





 自治会長への報告やらの雑務は、全部家長の護人が請け負って。到達階層のチェックも、スマホの動画で向こうにして貰えるので便利ではある。

 そうして来栖家パーティは、何事も無く我が家へと辿り着いて。入浴と着替えを終えて、リビングで寛いでいる所。香多奈などは、既にアイテム鑑定に気を逸らせているけど。

 それも当然、今回も実りは多かったのだし。


 その筆頭が、確実に売値数百万はするだろうと噂の魔法の鞄である。それからスキル書も1枚入手出来たし、数時間の探索にしては万々歳だ。

 そしてお風呂と夕食を済ませた後の、みんな揃っての恒例の鑑定会が始まって。騒ぎ立てる香多奈だが、進行役は姫香が担っているのはいつもの事。

 そんな訳で、皆でスキルの書を試してみた結果。


「……今回も、護人叔父さんは駄目だったね。それじゃあハスキー軍団と、それで駄目だったらミケとルルンバちゃんにも試そうか?」

「了解……落ち込まないでっ、叔父さん! 今回は凄く儲かったんだし、また販売車に来て貰ってスキル書をいっぱい売って貰おうよ。

 そしたら叔父さんに反応する奴も、1枚くらいはきっとあるよ!」

「…………」


 反論の余地も無い護人だったが、子供たちの気遣いが段々と痛く感じるようになって来たのも事実である。本当に、使えないスキルでも何でも良いので、1個くらいは覚えておきたい気も。

 などと思っていると、いつもの様に縁側から家族に呼ばれたハスキー軍団の実験終了。光の集約と共にスキルを覚えたのは、今回が初スキル取得のツグミだった。

 相棒の強化に、姫香もやったねと大騒ぎ。


 ツグミ自身は、その変化に余り動じていないけど。妖精ちゃんの鑑定によると、姫香の相棒は『闇魔法』系のスキルをゲットしたとの事。

 ついでに鑑定の書も使うねと、少女の指示でツグミとルルンバちゃんの鑑定が淀みなく行われ。その結果に、家族はおおっと驚きの声を上げる。

 今更ながら、お掃除AIロボにもステータス表示がある事に吃驚ビックリ




【Name】ツグミ/3歳/Lv 04


体力 D  魔力 E‐

攻撃 D‐ 防御 E

魔攻 D‐ 魔防 E

魔素 E   幸運 E‐


【skill】『影縛り』



【Name】ルルンバちゃん/8歳/Lv 02 


体力 D   魔力 F‐

攻撃 D+ 防御 C

魔攻 F‐ 魔防 D+

魔素 D‐ 幸運 F+


【skill】『吸引』



「うん、ちゃんとスキルも持ってるし……魔法系はともかく、体力とか防御系の数値は優秀だよね、ルルンバちゃん。

 ツグミはまぁ、レイジーの劣化版みたいな感じ? レベルは4なんだ、私達も今はそのくらいまで上がってるのかなぁ。

 新しく覚えたスキル、どんな感じなんだろうね?」

「明日みんなで、また実験だね……後の3枚はどれに使おうか、姫香お姉ちゃん?」


 今回は7層まで潜っただけあって、取得したアイテムの量も結構多い。その中で何となく怪しく、そして妖精ちゃんも分からなかった品を選りすぐって。

 薬品で2種、ピンク色のと7層の水筒に入ってた奴をチョイス。それからボスドロップの、鬼の意匠の首飾りが魔法の品の可能性が。

 それで良いかと尋ねられた護人だが、そこら辺は子供たちに丸投げに。


【鬼の首飾り】装備効果:MPコスト減・小


 鑑定の結果、ピンク色の薬品は何と即効性の“媚薬”だった。顔を真っ赤にして、ナニソレと鑑定結果に憤る姫香。これは売っちゃおうねと、逆に冷めた感じの香多奈。

 もう1つの薬品は、極めてまともで“エーテル”だとの事。HPとMPを同時に回復する、優秀な薬品である。これは勿体無いので、次回の探索に取っておく事に。

 これで綺麗に、鑑定の書は使い切った計算に。


 同じく5層のボスドロップの大剣だが、案の定引き返した時には消えていた。タイヤの中の装備品は、丸盾以外は売る事に決定。盾は護人が気に入ったので、自分の装備にする事に。

 それから魔石の類いは、爆破石と発光魔石も取っておこうと家族会議で決定。それ以外は売りで、7層のトロッコの拾い物も、魔法の鞄以外は売りで。

 今回大量に拾えた、回復ポーションも同じく売りに回す事に。


 ちなみに鬼の首飾りだが、性能が良いのでスキル使いの装備が望ましい。攻撃系なら姫香かレイジーかミケだろうか、後衛の紗良と香多奈でも良い気がする。

 話し合った結果、取り敢えずは香多奈が持っておく事に。そして状況次第で、ミケやハスキー軍団に貸し与えるのが良さそうとの護人の言葉に。

 それじゃあ可愛くないけど貰っとくねと、末妹の了承の返事。





 ――こうして3度目の報酬分配も、無事に終える事が出来たのだった。









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[一言] イギリスの妖精でまたの名をロビン・グッドフェローなロビン・フッドの元型とも言われてる存在だけどね、ホブゴブ
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