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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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ナタリーダンジョンをクリアして誕生日会を開く件



「うわっ、まるで映画に出て来るみたいな巨大イカだねっ! 触手が凄いよ、アレに絡まれたら抜け出せないかもっ!?

 茶々丸にハスキー達、注意してねっ!」

「本当に小型船くらいは沈めちゃいそうなモンスターだな、ここが地上で良かったよ……さすがに水中で、水棲モンスターとは戦いたくないからな。

 敵は巨大だ、焦らず触手から切って行こう」

「了解っ、護人叔父さんっ!」


 とか言いつつ、先制のアドバンテージは譲れない子供たち。お互いが接敵する前に、まずは姫香の『身体能力』込みのシャベル投げが炸裂する。

 次いで香多奈の爆破石の投擲と、待ってましたの紗良の《氷雪》が見舞われる。ただしどの攻撃も、敵が巨大過ぎて本体までは届かず仕舞いの残念な結果に。


 前にせり出した、成長し過ぎた藪のような触手にダメージは入ったみたいだけど。到底本体までは到達出来ず、そもそも本体がどこにあるのかも判然とせず。

 それだけの巨体は、出遭った敵の中では過去最大かも知れない。5層の中ボス恐竜も大きかったけど、ひょっとしたらその2倍以上はあるんじゃないかって程。

 何しろ、触手だけで広い竹林みたいな有り様なのだ。それを抜けて本体にアタックなど、いきなりやれと言われてもちょっと無理。


 それを踏まえての、護人の指示出しは確かにその通り。その触手の群れを相手取るだけでも、かなり骨が折れそうな作業である。エースのレイジーの魔炎が放たれるも、少々香ばしい匂いが漂って来るだけ。

 向こうも焦れたように、大木より胴回りの太い触手を強引に振り回して来る。白いヌメッとした表皮は、ハスキー軍団の牙など通しそうもない。

 そもそも痛覚があるかも不明の相手、とってもやり難い事請け合いである。


 それでも勇ましいハスキー軍団は、スピードで相手を翻弄しながらスキル技で中ボスを削って行く。時には深く踏み入る素振りを見せ、決して無理はせず転身して敵の気をいている。

 それを茶々丸も真似しようとしているのだが、人間形態ではいかにも危なっかしい。『黒雷の長槍』の性能のお陰と、レイジーのサポートのお陰で怪我をせずに済んでいる感じだ。


 一方の護人と姫香は、無理せず射程ギリギリに居座っての間引き戦に勤しんでいた。ルルンバちゃんも同じく、今の所は上空からのサポートに徹している。

 ってか、取っ掛かりが無さ過ぎて、皆が触手の相手に追われている感じ。焦らず行こうとリーダー護人の再度の声掛けに、チームの精神状態も安定して来る。

 特にハスキー軍団は、リスク回避の動きを示し始め。


 その安定しての触手の間引きに、逆に焦れ始めたのは向こうの方だった。完全停止した触手は、中ボスの一部の筈なのに何故か魔石に変わって行く不思議。

 チームに応援を飛ばしながらも、それを見ていた香多奈は隣の姉に報告して不思議顔。それでも合計4本、ぶっとい触手がプールサイドから消えてくれて見晴らしも若干良くなった。


 それでも慌てない来栖家チーム、護人はやや前進を選択して、なおも触手の間引きに余念がない。このグネグネとした物体だが、柔らかそうで弾力があって不規則な動きはあなどれない。

 油断すれば、そのトリッキーな動きと質量で、吹っ飛ばされるか巻き付かれるかの未来が待っている。今まで順調とは言え、この先もそうとは限らないのだ。

 とは言え、護人も姫香も段々とこの触手のあしらいに慣れて来た感が。


 姫香は『圧縮』を器用に使って、弾かれた触手に斬り付ける戦法がまっている。時折|《豪風》込みの回転斬りも混ぜるが、突っ込み過ぎて囲まれないよう冷静だ。

 一方の護人は、“四腕”を発動して愛用のシャベルと『魔断ちの神剣』の二刀流を実行中。もちろん盾も構えているが、その全てを器用に使いこなしている。


 恐らくは《心眼》も発動しての、スキル全開の戦い振りは見事である。その上にチームの指揮までとっているのだから、リーダーとして素晴らしい成長振りである。

 それにしても、レイジーの『魔炎』が振り撒かれる度に、良い匂いが周囲に立ち込める。その炎攻撃には本体も怯んでいるようで、嫌がっているのが触手の動きからも分かる。

 そんな感じで、5分も経過すれば段々とこちらのペースに。


「よしっ、向こうも勢いががれて来たな……前衛陣は一旦離脱して、その隙に紗良とミケで魔法を撃ち込もうか。

 それで弱らせて、行けそうなら一気に本体に詰め寄るぞ!」

「了解っ、紗良姉さん頑張って!!」


 突然振られた紗良は慌てつつも、妹達から声援を貰って気合いを入れ直す。肩の上のミケはすっかりヤル気で、巨大な中ボスを生意気だなって視線で睨んでいる。

 その気力に奮起を促され、開始の先制攻撃より念を込めて魔力を練り込む紗良。最初は敵のあまりの巨体さに、どこに標準を合わせて良いのかの迷いが思考を占めていたのだけれど。


 今度は触手の数が減った事で、辛うじて本体を視認する事が出来ている。それはまさにイカを巨大化させたもので、大きいだけで怖さは無かった。

 そして前衛の統率された動きで、瞬時に射線がクリアになった瞬間に。2度目の《氷雪》の撃ち込みを開放、同時にミケも洒落にならない雷を敵に落としてくれた。

 冷気の塊と雷の雨は、巨体の中ボスを震わせるに充分な威力を伴っていた。


 たまらずクタッとなった巨大イカ、触手の動きも冷気と痺れとで緩慢に。その隙を逃さず、一斉攻撃に転じる前衛陣。姫香の勢いの良い回転斬りが、先陣を切って本体に迫る。

 それをサポートするツグミと、反対側に回って突っ込む機動力のあるレイジーとコロ助。護人も出足を遅らせつつも、強力な『掘削』込みのシャベルの一撃は強力。


 瞬く間にダメージを蓄積して行く、サンドバック状態の10層の中ボス。それ以降は大きな反撃もままならず、来栖家チームのやりたい放題の格好に。

 大きさが手伝ってタフではあったけど、最後は姫香の深い斬り込みにお陀仏の憂き目に。反撃の潮目を上手く引き寄せて、まさに快勝となった一戦だった。

 そして出て来たドロップ品は、全部で3つと大盤振る舞い。


「やった、終わった……最後は楽勝だったね!」

「いやいや、かなりタフな敵だったわよ……向こうのワンパンで、あっという間に逆転されちゃうのが分かってたんだから。

 冷や冷やしたけど、まぁ勝てて良かったわ!」


 そう言いながら、広いプールの中央でドロップ品を拾う姫香である。中ボスの戦利品だが、まずは魔石(大)が1個とオーブ珠も1つ。

 それから白い鞘に入った、刀身が透明な綺麗な片手剣が1本。魔法のアイテムらしく、妖精ちゃんが宙返りして知らせてくれている。


 香多奈はルルンバちゃんと、プールの端っこに海色の宝箱を発見して浮かれ模様。大きさは中ボスに較べたら小さいけど、中身に関してはまずまずだった。

 鑑定の書(上級)が4枚に魔結晶(大)が4個、虹色の果実も2つ入っていて出だしは順調。それから薬品は、上級ポーション800mlに中級エリクサー700mlにエーテルが900ml。


 最後にマントが1枚と空色のインゴットが7つ、金色のインゴット2本はそのまんま金かも。真珠らしきモノも1ダースほど入っていて、金銭的にも価値は高い気が。

 後は中ボスにちなんだのか、スルメが大量に箱の底に敷き詰められていた。干物は長持ちするし、売っても喜ばれるよねと紗良は嬉しそうではある。

 ただし、来栖家のペット達はそれには見向きもせず。



 それから最後のお楽しみ、売店は次の層への階段のすぐ側にあった。中ボス部屋からもそんなに離れておらず、その点はとても有り難い。

 何しろ今から、歩いて進んで来た道を帰らなければならないのだ。あまり遠くにあると、帰りに支障が出てしまう。ところがお店の売り物に、『帰還用の魔方陣』を香多奈が発見した。


 しかもコイン2枚である、それはお得と姫香は素早く購入を決定。他に何か良い品あるかなと、相当の熱を込めて商品を眺め回す子供たち。

 この売店は、区切りの10層にあるせいか、品揃えも前に較べて倍くらい多い。お楽しみ袋も3つあって、これも速攻キープの構え。

 この缶詰の寄せ合わせも良さげだねと、護人も思わず口出しする。


「あっ、コレいいね……鯖缶とかイワシとか色々あって、非常食にもいいかもっ! コイン1枚の交換はお得だね、これを幾つか買おうか、紗良姉さん?」

「あっ、そうだねぇ……コインの残りが9枚だから、お楽しみ袋と帰りの魔方陣で5枚。となると、残り4枚で4つほど買えるね。

 他に良いの無ければ、これで使い切っちゃおうか?」

「待って、他のも見てみるから!」


 元気に返事して他の商品の掘り出し物を探す末妹だが、大半がありきたりなお土産とか、変な飾り物ばかりと言う有り様。魔法アイテムの掘り出し物は、妖精ちゃんの助言を借りても見付からずの結果に。

 結果、残りのコイン4枚は、全てお魚の缶詰に変える事に。コインを使い切ってスッキリした子供たちは、勇んで帰還用の魔方陣を発動させる。


 ペット達を呼びよせて、それじゃあ帰るよと4時間以上の探索終わりでも元気な末妹である。時刻は既に夕方に差し掛かっていて、お腹空いたと呑気な子供たち。

 地上に無事に戻って来れて、今回の探索の収穫もバッチリ豊作ともなれば。浮かれるのも当然で、そこは護人も大らかに対応している感じ。


 とは言え、実はこの後にも大きなイベントをこっそり用意している護人である。小島博士の伝手つてで、この近所の食堂を夕食に貸し切りにして貰っているのだ。

 そこに家族水入らずで、夕食会兼お誕生日会の企画など。何しろ自宅で開催するとなると、来栖家の一番の料理人は紗良になってしまうので。

 自分の誕生日会の、支度を担わせる本末転倒な事態が発生するのだ。


 護人と姫香も、料理が全く出来ないわけでは無いのだけれど。紗良が来栖家にやって来てからは、その腕前の差に大人しく料理人の座を明け渡す程度のモノでしかなく。

 それで今回の発案となった訳で、ちゃんとケーキも発注済み。食糧不足の現在の事情をかんがみて、大半の素材は教授を通じて前以まえもって渡してあるので問題も無い。


 実際、誕生日会の飾りつけまでして貰えているとは思っていなかった護人と姫香。紗良はそのサプライズに完全に固まって、香多奈は無邪気に喜んでいる。

 店主の計らいで、ペット達も店内に招いてオッケーらしく。そこは貸し切り特典と言うか、幾ら騒いでも大丈夫とのお墨付きも貰ってしまった。

 それを真に受けて、途端に騒ぎ出す姫香と香多奈である。


「さあさあっ、紗良姉さんはここに座って……えっとね、紗良姉さんの誕生日と、それからちょっと早いけどウチに来て1周年記念を開催します!

 今夜はこのお店を、護人叔父さんが貸し切ってくれました。今からどんどん料理が出てくる予定だから、思う存分食事を楽しんでね。

 でも最後にケーキも出るから、食べ過ぎちゃダメだよっ!」

「ハスキー達もミケさんも、お店の中に入れて良かったね! ルルンバちゃんや茶々丸も近くで祝って貰えるし、記念日にピッタリかもっ!?

 わわっ、もう料理が来たよっ!」


 はしゃぐ姉妹に、最初はややポカンとした表情でなすがままの紗良だったけど。事態をようやく把握した途端、その瞳に感激の涙が溢れ始めて。

 心配そうに顔を近付けて来る、ハスキー達や茶々丸を姫香が忙しなくガードしつつ。優しく背中をさすりながら、ハッピーバースデーを歌い始める姉妹。


 進行もへったくれも無いが、護人もナイス進行とそれに乗っかる構え。何しろ年頃の娘さんの涙など、親代わりとは言え簡単にフォローなど出来やしない。

 余程驚いたのか嬉しかったのか、紗良の涙はなかなか引っ込んでくれなかった。終いにはツグミとコロ助に顔を舐められて、そうも言っていられない事態に。

 ミケですら、探索の相棒に元気出せと膝の上に乗っかってのご機嫌伺い。


「ありがとう、みんな……もう大丈夫、ちょっとビックリし過ぎて感情が爆発しちゃっただけだから。ふうっ、完全に油断してたよっ。

 祝ってくれてありがとう、とっても嬉しい」


 その言葉を聞いて、少々照れた風な姫香と香多奈の姉妹である。取り敢えずお腹も空いたし、料理が温かい内に食べようかとの姫香の提案に。

 すかさず末妹が乗っかって、運ばれた料理の給仕を護人に強請ねだり始める。それを受けて、大皿に盛られた美味しそうな魚料理を、小皿に移して子供達へと配る護人。


 司会進行は完全に姫香に丸投げだが、今は食事をしながらこの1年の思い出話に花が咲いているようだ。紗良が来栖家にやって来て、考えてみれば本当に色々とあった。

 今では子供達も、まるで本当の姉妹の様に仲が良いし。家事の一切をこなしてくれる長女には、本当に頭の下がる思いの護人である。

 給料が発生しているとは言え、それ以上の恩恵を授かっているのは事実。


 この後の誕生日会は、プレゼントを渡したりケーキを食べたりが待っている。今後の日常も喜びばかりが訪れれば良いが、そうもいかないのが人生でもある。

 辛い場面が訪れた時に、支え合うのが家族の役割でもある。この誕生日会は、そんな決意表明を改める場でもあるのかなと、護人は何となく思ってしまう。


 それはもちろん、側に控えるペット達も同様だ。来栖家に限っては、家族の定義が他より大きくて本当に助かる思い。助け支えられ、これからもお互い歳を取って行くのだ。

 年長者として、これからもしっかりと子供達を支えて行かねば。





 ――浮かれ模様の子供達を前に、そんな事を考える護人だった。








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[一言] 六階のお楽しみ袋は1つコイン三枚だったけど、十階のお楽しみ袋は3つでコイン三枚?
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