遊園地のプールを戦闘で満喫する件
コーヒー豆のセットをコイン2枚と交換して、ウキウキ模様の護人である。一方の子供達も、商品の並びを見てどれを交換しようかと熱心に話し合っている。
そして結局は、バラの紅茶や香水は見送りして、お楽しみ袋の交換のみに留める事に。ここでは残念ながら、1個しか置かれてなかったのはアレだけど。
取り敢えずそれをコイン3枚で交換して、子供達の買い物はそれで満足した様子。早速の中身確認で、香多奈は姉達と一喜一憂して騒いでいる。
中身はまずは定番の薬品2種、ポーション600mlと毒薬700mlが入っていた。他にもバラのティーカップセットとスプーンセット、それから何故か昔流行ったダンシングフラワーが。
ついでの様に、お土産用のしゃもじも何種類か入っていた。
実用的なカップやスプーンはともかく、音に誘われて踊り出すオモチャには微妙な表情の子供たち。これならまだ、鳥居や鹿のプリントされたしゃもじの方がマシ。
護人はコインを余らせてもアレだから、もっと派手に使っていいよと言葉を掛けるけれど。先にも売店がきっとあるよと、香多奈は妙な自信で貯めて置くアピール。
あんたの予知は変に当たるからねと、姫香も一応は信用している感じのセリフ。そんな訳で、この層はこれ以上の買い物は控えて次の層へと移動する事に。
ハスキー達の偵察部隊も、数分も待たずに戻って来たのは推測通り。ここのフロアも、すぐ近くに8層への階段があった様子で何よりである。
そんな訳で、一行は揃って次の層へと進出を果たす。
そこも前の層と似たような感じで、出迎えて来たのもラプトルとパペット兵士の群れだった。空中からの襲撃も同じく、来栖家チームもそれらを慌てず撃退して行く。
ちょっとした相違点と言えば、空と陸の恐竜の中に大型タイプが1~2匹混じっていた事くらい。それもあまり苦労せず倒してしまうのは、チームの底力が上がった証拠かも。
襲来したモンスターの群れを倒し切ったのは、戦い始めて約10分後くらいだろうか。このダンジョンに突入して、そろそろ3時間が経過しようとしている。
ややスケジュールは押しているが、そこまで酷い遅れではない。そもそも広域ダンジョンにしては、順調に進んでいるとも取れる探索道中ではあるかも。
幸いペット勢も子供達も、疲労度はそれ程でもないみたい。
「今度はどんな遊具があるかなぁ……ちょっと楽しみだよね、売店も含めてさ」
「あるのは確定なんだ、香多奈ちゃん……見付かるとしたらそろそろかな、移動した距離的に言っても」
「かもね、紗良姉さん……あっ、あったみたい。ハスキー達が、何か見付けたって報告しに戻って来てるよ」
姫香の言葉通り、ハスキー軍団が前方に異物を発見したよと揃って戻って来た。ここからは見えないので、恐らく大きな施設では無いのだろう。
そんな護人の推測は大当たり、タイル張りの広場にあったのはメリーゴーランドだった。それを囲むように、奥には何かの小さな舞台があって、左右には派手なネオンの施設が。
中央のメリーゴーランドは稼働していて、賑やかな音楽に乗ってクルクルと回っていた。楽しそうと、思わず燥ぎ声を上げる香多奈だったけど、それに乗るのはまた別の話。
ってか、既に先客のパペット騎士が乗っていたみたい。豪華な鎧と槍を持つソイツ等は、広場に入り込んだ来栖家チームに反応した模様で。
一斉に、台座から抜け出してこちらに突っ込んで来ると言う派手な演出。
「わわっ、遊具だと楽しみにしてたら敵の待ち伏せだった! 酷いっ、今回こそ遊べると思ったのに!」
「今回の敵は堅そうだね、ハスキー達には辛いかも……うわっ、奥の舞台から恐竜も出て来てるよ、護人叔父さんっ!?」
「そっちをハスキー軍団に任せよう、あの騎士たちは俺と姫香とルルンバちゃんで食い止めようか。後衛は大変だけど、両方に目を光らせてサポートしてくれ」
「分かりました、護人さんっ!」
パペットホース(騎士付き)は、機動力もあるし強そうだ。おまけに追加のラプトル一団の意地悪は、ひょっとしたら後衛まで抜かれる可能性も出て来る。
周囲に気を付けてと護人の言葉に、末妹の香多奈も任せといてと張り切った返事。今回は仕掛けエリアに入り込んでの戦闘なので、いつ新たな仕掛けが発動するか分かったモノではない。
そして斬り結んだと言うより、衝突に近いパペット騎士との開戦に。護人と姫香は吹き飛ばされそうになり、思わず慌てた声を上げる破目に。
そんなパペット騎士は、全部で10騎ほどいて全く侮れなさそう。何より馬の馬力込みの突進は、護人の盾と姫香の『圧縮』防御をもってしても防ぐので精いっぱい。
そこに紗良の《氷雪》と、香多奈の魔玉の投擲が見舞われる。
ルルンバちゃんの魔銃の攻撃も合わさって、これで半数の騎士の動きが大幅に鈍ってくれた。前衛が全く足りてなかったので、この手助けには護人も大助かり。
その勢いに乗って、動きの鈍ったパペット騎士に止めを刺して行く姫香。護人も“四腕”を発動させて、とにかく壁となって元気な奴を後ろに通さない構え。
そんな中、護人の恐れていた事態が……騒ぎを聞きつけた飛行モンスターが、遅ればせながらと参加を決め込んで来たのだ。豹顔の翼人の群れは、手に立派な剣を持って強そう。
まかりなりにも8層の敵だ、それを発見して悲鳴混じりの警告を発する末妹。慌てて迎撃に向かうルルンバちゃんだが、向こうは1ダースもいて数の釣り合いは全く取れてない。
それを見て、仕方ないなと“最終兵器”のミケが発動。
その暴風振りは、紗良の《氷雪》より輪を掛けて酷かった。荒れ狂う派手な落雷の鞭は、空を飛んでいた翼人たちを次々と蹴散らして行く。
無慈悲なミケの一撃に、思わず周囲の戦闘も一瞬止まってしまう程。
「なっ……ナニ今の音、護人叔父さんっ?」
「物凄い音と光だったな、多分だが落雷か何か……ああっ、ミケの仕業だろう。追加の敵は、これで心配しなくて済みそうだ。
しかしまぁ、ミケも段々と凄味を増して来たな!」
「さすが来栖家の最終兵器だねっ、ハスキー軍団の方も優勢みたいだし……このまま押し切ろう、護人叔父さんっ!」
そんな感じでの作戦会議、パペット騎士も既に半数が魔石に変わっているとは言え。距離を取られての突撃は、槍との相性も合わさって侮れないレベル。
機動力の高い敵は厄介だが、護人も黙って距離を取られてはいない。『掘削』を乗せた『射撃』スキルで、離れた敵には容赦の無い追撃を喰らわせている。
お陰で向こうのパペット騎士の作戦はグダグダで、弱った所に姫香に襲い掛かられて数を減らして行く有り様。結局はそれ以上の見せ場も作れず、全滅の憂き目に。
ハスキー達も、やや手強くなっていた恐竜達の群れにも関わらず、完勝に近い成果を引っ提げて戻って来た。分捕って来たドロップ品を、誇らしげに取り出すツグミ。
姫香が思いっ切り褒めてあげると、嬉しそうに尻尾をブンブン振り回す。
「良かった、みんな怪我は無さそうだな……レイジーもお疲れさま、もう敵の姿は見当たらないみたいかな。
それじゃあ休憩しながら、あの売店のチェックに向かおうか」
「やったぁ、それじゃあ私の番だねっ……あっ、コロ助と茶々丸もお疲れ様! 一緒に売店を見に行こうっ、何かいいモノ売ってたら買ってあげるね!」
独特な労い方だが、褒められたコロ助と茶々丸はとっても嬉しそう。香多奈の後について行って、良く分からない売店の商品の並びを一緒に眺めている。
今回の売店も、メリーゴーランドとお馬さんに紐づけられた商品が結構並んでいた。メリーゴーランド型オルゴールとか馬のマスク、それから馬の立体パズルや馬毛の筆など。
実用性は全く無いが、面白そうな品揃えに興奮する子供たち。そしてここにもお楽しみ袋が2個ほど、端の方に吊り下げられているのを発見。
今回もコイン3枚の値段らしく、香多奈は躊躇いもせずそれを買ってとお強請りモード。姉妹で相談した結果、それ2つを含めてオルゴールも購入する事に。
合計コイン8枚の買い物だが、精巧な細工のオルゴールは皆が気に入った模様。
ちなみに先程の戦闘でも、魔石やスキル書などドロップは豊富だった。スキル書を落としたのはパペット騎士で、魔石(小)も今回はかなり多かった。
それに加えて今回のお楽しみ袋だが、1個目には魔玉(水)が5個と木の実が4個。魔結晶(中)が2個に、何故かニンジンが8本入っていた。
何かの冗談なのか、袋の中身のチョイスは全く見当もつかない。取り敢えず当たりは無いねと、香多奈は次の袋の開封へとさっさと移行する。
そっちの中身も似たような感じで、魔玉(風)が5個と木の実が4個。それから魔結晶(小)が7個に、馬の蹄型の首飾りみたいなアクセサリーが1つ。
妖精ちゃんによると、幸運のお守り系じゃないかなとのコメント。
彼女が反応したって事は魔法アイテムで、つまりはこちらは当たりと言って良い様子。素直に喜ぶ香多奈だが、ついでに入っていた乗馬ムチには微妙な顔付きに。
取り敢えず、袋のチェックは終わってハスキー達のMP補給も順当に終了。それじゃあ次の層に行こうかと、B級ダンジョンとは思えない気楽な素振り。
そんな香多奈に、姉の姫香はしっかりと釘を刺しての注意喚起。長時間の探索になると、後半ややダレて来るのは致し方ないとは言え。
それで変に怪我とかしたら、アンタ次回から連れて行って貰えないよと忠告を飛ばす。それは困る末妹は、珍しく姉に向けては~いと素直な返事。
そんなやり取りをしながら、一行は9層へと到達する。
そのフロアの構造は、思い切り来栖家チームの意表を突いた。何と階段を降りたすぐ先に、波の発生するプール施設が拡がっていたのだ。
おおっと驚く子供たち、ハスキー達も同じくナニこれみたいなリアクションで、進んで偵察に赴こうとしない。それもその筈、波のプールの中には巨大クラゲや巨大ヒトデなどの敵がわんさか。
波打ち際には巨大イソギンチャクもいて、何とも賑やかではあるのだが。如何せん、どのモンスターも積極的に動く手段を持っていないと言う。
とは言え、魔法を使う奴もいるかもだから油断は全く出来ない。チームは何度も、水魔法を使う巨大アメンボなどの敵にダンジョン内で遭遇しているのだ。
油断するなとの護人の言葉に、了解と元気な返事が。
そして水の魔玉を、敵の密集地点へと投げ込む末妹の香多奈。ヤンチャなその行為が、9層の戦闘開始の合図となった。その勢いに押され、ハスキー軍団も各々が得意なスキルを使い始める。
レイジーの『魔炎』もそうだが、ツグミの『土蜘蛛』やコロ助の『牙突』も遠隔攻撃に対応している。クラゲには毒があるかもなど、変に気を回す必要も無し。
そして魔法を撃って来る敵は、今の所巨大イソギンチャクのみと言う。その水弾の的にされているのは、護人達より前に出ているハスキー軍団なのだけど。
持ち前の運動神経で、3匹ともが魔法の射撃をひょいひょい避ける高スペック振りを披露する。そんな厄介な敵も、護人が弓矢で始末のお手伝いに介入して。
ほんの数分で、波際の敵は全て魔石に変わって行った。
「終わったかな、急に水属性の敵が出て来るってビックリするよね、護人叔父さん。あっ、でも……奥の方は相変わらずジャングルなのかな?
あの大きい目印の観覧車も、ここからしっかり見えてるし」
「ナタリーって、確かプールも付いてた遊園地だったのかな? すぐ近くのチチヤスにも、確か遊ぶ所とプールがあったような気もするけど。
プールサイドが通路になってるから、進むのに苦労はしないな」
「まだ冬なのに、何だか泳ぎたくなっちゃうねぇ……ここは割とあったかいから、水遊びとか出来ない事も無いのかなぁ?」
そんな危険な行為、遊ぶのが大好きなコロ助だって御免だよって顔である。そんなハスキー達は、護人が示したプールサイドを伝って先行偵察に赴く構え。
魔石は大半が水中に落ちてたけど、そこは優秀なツグミの《闇操》で全て回収済み。空と陸の王者のルルンバちゃんも、さすがに水中での魔石拾いは無理な様子。
ガッカリしている彼を慰めながら、用心しつつ水際を進む来栖家チームの面々。水は透き通っているので、水中からの不意打ちは心配しないで良いとは言え。
反対側はジャングルだし、更には空からの襲撃にも用心しないといけない。なかなか大変なフロアだが、目標の10層まであと少しでもある。
気合いを入れて頑張ろうと、一番気の抜けてる香多奈の号令に。
――すっかり影の薄い萌だけが、尻尾を振って相槌を返すのだった。




