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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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ダンジョン内の売り場で商品を見定める件



「ほら香多奈、子供用の替えのパンツ売ってるよ……チビってたら、こっそり買ってそこの茂みで着替えて来たら?」

「お姉ちゃんはうるさいのっ、そんなの要らないったら!」

「ほらほら、喧嘩しない……」


 毎度の姉妹喧嘩と、護人の取り成しのセットを華麗に聞き流しながらも。紗良はチーム所有の橙のコインの枚数が、37枚だと仲間に報告する。

 割と集まってたねぇと、すぐに機嫌を直す末妹はともかくとして。売り物に関しては、ペナントやしゃもじ(宮島名物)や、キーホルダーやお土産品が大半。


 実用的なモノと言ったら、さっき姫香が言ってた替えのパンツやタオルやTシャツ位のモノ。何故かもみじ饅頭の箱も売ってたが、誰もがここでは買いたくないと見向きもせず。

 売り場の面積はそれ程広くもなく、お化け屋敷の出口の一角を占めていた。その佇まいは、まるで駅のホームのお弁当売り場に似ていない事もない。

 まぁ、今の時代はそんなモノも稀になっているけど。


「あんまり欲しいモノが無い……あっ、そこの壁に掛けてあるのはお楽しみ袋らしいよ? アレを買おうよ、叔父さんっ!

 きっと福袋みたいな感じじゃないかなっ!?」

「へえっ、1袋がコイン3枚なのか……でも3個しか置いてないね、全部買っちゃっていいかな、護人叔父さん?」


 コインなど、どうせこのダンジョン内でしか使えないだろう。使っちゃいなさいとの護人の返答に、パペット店員に早速コインを支払う末妹の香多奈。

 そして購入したお楽しみ袋を、1つずつ開けてのワクワク共有タイム。最初の袋には、まず薬品がポーション700mlと浄化ポーション800ml、それからちゃちな水鉄砲が2つ。


 それからTシャツが2枚入っていて、そのプリントはゾンビ顔のドアップだった。あまりの趣味の悪さに、微妙な顔になる子供たち。

 取り敢えず回収しながら、次のお楽しみ袋を開封する香多奈。次に出て来たのはMP回復ポーション700mlと上級ポーション500ml、それから魔結晶(小)が5個。

 この袋は、どうやら当たりだと喜ぶ子供たち。


 ただし、これにも被り物のホラーマスクが1個入っていて、何と言うか微妙な気分にさせられる。妖精ちゃんの話だと、それはいっぱしに魔法の品らしい。

 こんなの誰も欲しがらないよと言いつつ、それでも一応は持って帰るのは誰かに売れるかもだから。青空市は、たまに変な顧客に遭遇する事もあるのだ。


 最後の袋にも、やっぱりペットボトル入りの薬品が2種。色合いからしてエーテル600mlと解毒ポーション500mlを入手、他にもカラフルな魔玉セットがビー玉みたいに入っていた。

 それから当たりのスキル書が1枚に、見慣れた色の木の実が4個。後はグッズ系で、迷彩のキャップが1つと赤ヘルのカープ帽が2つ入っていた。

 それからオマケに、古いゾンビ映画のDVDが5本ほど。


「うわっ、帽子はちょっと嬉しいけど……このゾンビ映画のタイトルとか知ってるのある、護人叔父さん?」

「ああ、『バイオハザード』系は定番のゾンビ物だな……確か日本のゲームが原作だよ、ホラーってよりアクション寄りだからみんなも楽しめると思うよ。

 帰ったら、試しに1作目をみんなで観てみるか」

「いいねっ、観終わったら青空市で売ってもいいんだし……あっ、ハスキー達が戻って来た。次の階段が、すぐ近くにあるらしいよ!」


 お楽しみ袋の開封作業中に、軽く偵察に出ていたハスキー軍団なのだが。次の層への階段を発見したらしく、相変わらず探索するぞの意欲は高い感じ。

 紗良はゲットしたMP回復ポーションをペット達に振る舞って、英気を養って貰う。《変化》にMPが大量に必要な茶々丸も、遠慮なく瓶から直飲みしている。



 そんな休憩が終わって、再び探索へと戻る来栖家チームの面々。程無くハスキー達の見付けた階段を降りて、7層へと突入を果たして。

 相変わらずの景色だが、先行するハスキー軍団に迷いは無い感じ。早速の団体の恐竜&パペット兵士の群れのお出迎えに、勇んで戦闘に突入して行く。


 途中から、その戦闘音を聞きつけて豹顔の翼人と翼竜の群れが空から飛来して来るのも毎度の事。あらかじめ見張っていた香多奈の言葉で、ルルンバちゃんが対応に当たる。

 それを護人もお手伝いして、『射撃』スキルで次々と空からやって来る敵を撃ち落として行く。その網を抜けた敵は、後衛に近付く前に姫香が鍬で退治する。

 そんな訳で、何だか最近すっかり後衛の護衛役の2人である。


 そんな7層最初の戦闘も、何とか10分後には沈静化した。魔石を拾いながら、毎度のお互い怪我がないかのチェック。ハスキー軍団も茶々丸も元気なモノで、人間組も怪我は無し。

 それから探索を開始して間もなく、先行していたハスキー軍団がまたしても稼働している施設を発見。報告を受けた護人たちは、それを見ておおっとため息をつく。


 そこには見事なバラ園が拡がっており、その中を何故かコーヒーカップ遊具がゆったりと行き来していた。良く分からない仕組みだが、その乗り物はルートに従って動いている。

 それにしても、見事な満開の薔薇園である。思わずダンジョン内と言う認識も忘れそうになるが、しっかりと罠は存在していたようで。

 ミケの放つ雷光に、動いていた薔薇の蔦は黒焦げに。


「わっ、ミケさん……何に反応したのかな、遊具ばっかり見てて全然気が付かなかったよ!」

「魔石が転がってるから、モンスターがいたみたいだねぇ……あっ、アレが本体かも? 薔薇の蔦が、いっぱいウネウネ動いてるよっ!?」

「おっと、さすがミケは天然のハンターだな。他にも襲撃や待ち伏せトラップがあるかも、各自注意して周囲を見張っててくれ。

 レイジーと俺で、あの蔦をやっつけて来る」

「了解、護人叔父さんっ!」


 そんな訳で、子供達はその場で待機しつつ周囲の見張りに注意を向ける。残されたツグミとコロ助は、さすがにこんな施設での単独行動の愚は犯さない。

 ところが、一緒にいた茶々丸が次に来たコーヒーカップの中に小さな宝箱を発見。結果、うっかり単独でその遊具に乗っかってしまってさあ大変っ!


 いや、傍目に見たらちょっと笑えるかも……急にスピードを上げて回転し始めたカップ内で、パニックにおちいってるのは茶々丸だけ。

 それに気付いた香多奈が、慌ててそちらに駆け寄って行く。そして、離れて行くスピニングコーヒーカップを見て唖然とした表情。次いで、笑い出しそうになるのを必死にこらえて茶々丸の安否を心配する仕草。

 それからコロ助に向かって、アレを助けて来てあげてとお願いする。


「このお馬鹿っ、単独行動は駄目だって叔父さんが言ったばかりでしょ!? 全く、ボスのレイジーがいないとすぐ勝手な行動取るんだから。

 目が回る程度の仕掛けで済んで、本当に良かったよ」

「救出作業ご苦労様、コロ助……香多奈も試しに乗ってみたら、次の奴が来てるよ。おっと、これにも何か乗ってるみたいね?」


 騒ぎを聞きつけて、カップ乗り場で合流した一同だったけど。コロ助の《韋駄天》で救出された茶々丸は、それでも手にした宝箱は離さなかった様子。

 完全に目を回してへたり込んでるが、まぁ根性は凄いかも。そんな仔ヤギを叱咤する末妹に、姉の姫香が揶揄からかいの文句を投げ掛けて来る。


 姫香の言葉通り、次のカップはゆっくりと乗り場へと近付いて来ていた。その中には、今度は宝箱では無くてピンク色のナニカが入っている様子。

 透明ゼリーのようなソレは、薔薇の芳香を放って何だかゴージャス。それに酔ったようになる鼻の良過ぎるペット勢、不味いと思った姫香は一撃必殺の攻撃を繰り出す。

 それを受けた薔薇のスライムは、呆気なく昇天して行った。


「どうしたっ、姫香……こっちにも敵が湧いたのかっ?」

「あっ、護人叔父さん……何か、凄い薔薇の匂いのスライムがカップに乗って来てさ。ハスキー達の嗅覚、ひょっとして駄目にされたかもしれない」

「えっ、アレってそんな危ない仕掛けだったの!?」


 今更驚く香多奈だが、匂いにやられたツグミとコロ助は腰砕けでノックダウン状態。茶々丸も、目を回した後の匂い攻撃に具合が悪そうである。

 モンスターが倒れた後には、そんな匂いの痕跡は見当たらない。その点では、離れていたレイジーは大丈夫そうなのは幸いである。


 とは言え、探知の得意なハスキー犬2匹の途中離脱はとっても痛過ぎる。そんな訳で、紗良が何とかならないかと、ポーションとの併用で治療に当たり始める。

 念の為にと、乗り場からは離れてちょっと長めの休憩を取りながら。そんな紗良の頑張りで、何とかツグミとコロ助の体調は元に戻ったようで何より。

 末妹の呑気なコメントに、ホッと脱力するヒーラーだったり。


 ちなみに、茶々丸の体調も何とか元通りに回復してくれた。そして彼がカップの中で獲得した宝箱には、鑑定の書が4枚と魔玉(炎)が4つと橙のコインが5枚入っていた。

 その成果を素直に喜ぶ、香多奈と茶々丸である。


 護人の最終チェックで、みんなの体調は探索に影響は無さそうと判断が下された。20分余りの休憩の後に、再び探索を開始する来栖家チーム。

 途中で予期せぬ中断に見舞われたが、そこはまかりなりにもB級指定のダンジョンである。こちらも相当の余裕を作って、油断などせずに進むのが吉。


 そして先に進むには、ジャングルの藪を掻き分けて行くか、この良く分からないコーヒーカップに乗るかの二択らしく。仕方なしに、一行は二手に分けてカップに乗り込む事に。

 まずは護人と香多奈のペアに、レイジーとコロ助の護衛犬。それに加えて、茶々丸と萌も一緒に乗る事に。かなり賑やかな一行だが、ゴールまで無事なのかがとっても不安である。

 香多奈と茶々丸については、それを含めて楽しんでいたけど。


「あははっ、割と楽しかったね……ただクルクル回って移動するだけの遊具なのにね? コロ助はちょっとビビってたけど、茶々丸は楽しんでたね」

「あんな目に遭ったのに、本当に茶々丸は元気だな……それより姫香と紗良は、無事にここまで来れるかな?」


 大丈夫でしょと、飽くまで呑気な末妹の返答は恐らく天然のモノ。その言葉通り、紗良と姫香とミケとツグミを乗せたコーヒーカップは、2分後には無事に終点へと到達してくれた。

 ちなみにルルンバちゃんは、その上を優雅に滑空しての護衛任務に終始していた。お疲れ様と姫香に声を掛けられて、この位平気と言わんばかりのAIロボ。


 そして向こうも呑気なモノで、バラ園の遊覧は楽しかったよと感想を述べて来る。普通のコーヒーカップは、同じ景色の中をクルクル回るだけなのだけど。

 それよりずっと楽しめたと、姉妹揃っての呑気な高評価の遊具であった。


「本当に満開に咲いてるバラは綺麗だったよね、匂いも良かったし……あの位の匂いだったら平気だよね、ツグミ?」

「アレって何で、コーヒーカップって名前なの、叔父さん? 形から来てるのは、何となく分かるんだけどさ?」

「何でだろうな、何も考えず形から名前を取ったんじゃないのかな? 確かにメリーゴーランドとか、他の遊具の名前はそれなりに洒落しゃれてるのにな」


 そこは謎だが、とにかく終点で寛ぎまくりの来栖家チームである。そしてその視界の隅に、やっぱりパペット店員のいる売店を発見済み。

 全員揃ったし、売り物チェックに行こうかと言う話に。それを見て、ハスキー達はいつも通りに階段を探しに偵察へとおもむいて行く。


 足取りは3匹とも普段通りで、その点はリーダーの護人も安心ではある。当然の様にくっ付いて行く茶々丸に関しては、ちょっと思う所もあるけれど。

 それはともかく、今回のパペット店員は植物の蔦に巻かれて何とも個性的。ただし丁寧な会釈と言い、店員としてのスペックは割と高い気がする。

 そして商品の並びも、6層よりも豪華だった。


 バラのハーブティーやティーカップ、バラの香りの香水などバラ園関連の商品も豊富である。売り場は相変わらず広くは無いのだが、その商品の並びは紗良も感心する程。

 コーヒー飲料のセットも売っていて、これには護人も思わず関心を示す。何しろこんな時代なので、諸外国からの輸入品は極端に制限されているのだ。


 コーヒー豆も同じく、一般的に売れられているのはほとんどがまがい物で。来栖家の愛用品も、実はタンポポの根を乾燥させたモノが大半である。

 何とも世知辛い世の中だが、ここで売られているのは本物のコーヒー豆のよう。それに気付いた姫香が、これは買っておこうよと護人に催促してくれる。

 何とも有り難い計らいに、ついホロリとしてしまう護人。





 ――危険はともかく、ダンジョン探索は人を成長させる試練なのかも?







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