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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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海辺の町に家族でドライブに赴く件



 始まりはやっぱり、小島博士の我が儘発言からだった。お隣同士の何気ない会話から、今年の冬は全く牡蠣かきを食べてないねとの話になって。

 どうやら博士は、殊の外牡蠣が好きらしい。アレを食べないと、春を迎えられないとの大仰な嘆き節に。来栖家の子供達も、最近は魚を食べてないねとウッカリ発言。


 それじゃあ一緒に、山を下りて海辺のお店で海鮮の食材を楽しもうじゃ無いかと。お隣同士の、車を出し合ってのドライブの提案などを持ち掛けられてしまって。

 そう言うお出掛けイベント大好きな香多奈が、さっそく叔父の護人におねだり大作戦。植松の爺婆にも、大量のお魚を買って帰ってあげたいと孝行を持ち出しつつ。

 護人の弱い所を、思い切り突っつく作戦に。


「いやまぁ、雪も今年はそんなに積もって無いしな……週末にドライブくらいは全然構わないけど、それじゃあ敷地内ダンジョンは今週はお休みでいいんだな?」

「えっ、探索はお休みなの……? それも勿体無いよね、お姉ちゃんっ。どっか海辺に、楽しそうなダンジョン無いかなぁ?」

「探索の難易度が高い所でいいなら、例えば“ナタリーダンジョン”とかはB級だね。ドロップは凄く良いらしいし、宮島口なら牡蠣のお店はいっぱいある筈?」


 “大変動”以降はどの程度かは分からないが、まぁ牡蠣の本場ではある。紗良の言葉に、特にドロップの良いダンジョンって話に超乗り気な姫香と香多奈。

 そんな訳で、子供達で勝手に春前のお魚買い出しドライブ案は、バッチリ骨組みが完成して。運転役の護人は、唯々諾々と子供たちの指示に従うだけに。


 ついでにゼミ生も、全員参加で教授に付き添うらしい。その表情は楽し気で、さすがに田舎の家屋に籠っての日々に刺激は足りていなかった模様。

 段取りの見事な子供たちは、凛香チームにお出掛け後の家の事をお願い完了していて。これで憂いなく、日帰り海の幸堪能ドライブ案は完成したっぽい。

 それによると、朝の家畜の世話と朝食が終わったら、すぐの出発みたい。



 その当日だが、朝からお出掛けの準備に大忙しな来栖家チームの面々。下手に探索予定まで組み込んだモノだから、ルルンバちゃんの機体やらは、絶対に持ち運ばないといけない。

 何しろ難易度の高いダンジョンとの触れ込み、しっかり用意しないと大変。しかも護人が姫香と香多奈姉妹に、こっそりと紗良の誕生日のお祝い話を持ち掛けて。


 海辺近くで、外食が可能なお店を予約したりと、そちらの準備も水面下では進行していて。何だか詰め込み過ぎな気がしなくもないドライブだが、何とか予定時刻に出発は出来た。

 来栖家のキャンピングカーには、今は来栖家の面々しか乗っていない。大学生チームと教授のお隣さんは、別の彼らの車で朝の県道を並走している。

 道は朝から空いていて、今の所は快適なドライブだ。


「調子良いな、道もそうだけどこの車もエンジン交換して本当に良かったよ。装甲も追加してかなり重くなったんだけど、グイグイ進んでくれる。

 早川モータースの社長には感謝しなくちゃ、白バンもして貰うかなぁ?」

「いいんじゃない、護人叔父さん……お金も探索の稼ぎで貯まってるし、あの車にも少し装甲加えて貰おうよ。

 それより牡蠣とか、ウチじゃああんまり食べないよねぇ?」

「叔父さんがあんまり好きじゃ無いんでしょ、私も前に食べた時はそんなでも無かったよ。紗良お姉ちゃんはどんな、牡蠣とか穴子とか?」

「私もそんなでも無いかなぁ、でも……将来的にはお魚を上手にさばけるようになりたいかな? 植松のお婆ちゃんは、何でも上手だから。

 お土産にお魚買って帰ったら、お魚捌くの練習させて貰う約束なの」


 何とも勉強家の紗良の言葉に、魚触ると臭いが付くからなぁと子供な香多奈の発言。実は護人も、骨を取って食べるのが面倒で魚はそんなに好きでは無いのだが。

 “大変動”以降の流通の悪化で、山に魚が入って来難くなってからは。何だか恋しいなとの感情はつのるので、やっぱり日本人ってそうなんだと思う次第。


 なおも車内は賑やかで、主にメインの話題は魚類はナニが美味しいかと言う話に。お寿司とか食べたいねぇと、香多奈は勝手に盛り上がっているけど。

 夏の旅行での因島では、そう言えばたらふく食べさせて貰った記憶が。みっちゃんも1月のお泊りでは、どっさりとお土産を持って来てはくれたモノの。

 さすがに生のお魚は無理で、干物やワカメが主だった。


 そんな話をしている内に、ようやく国道2号線が見えて来た。この辺になると、ようやく車の行き来も少しは賑やかになって来ている。

 ガソリン燃料が希少になって、ここ5年は昔ほどの交通量では無くなってしまったけれど。電気自動車をメインに、復興はそこそこ軌道に乗っている感じだ。


 その点、魔石エンジンなどはまだ一般普及には至っていない。魔石の供給に関しては、探索者の頑張りと高価格の買い取りで安定している筈なのだが。

 恐らく値段の高さがネックなのだろう、生産ラインに乗れば価格も下がるのだろうけど。何にしろ、新しい魔石エンジンは快調で、護人はドライブを楽しんでいた。

 国道に入ると、すぐに瀬戸内海の景色が見えて来る。


「小島先生の予定では、昼食で牡蠣を食べれるお店に入るって言ってたけど。大丈夫かな、ちゃんと開いてればいいけど」

「電話で張り切って予約入れてたし、多分大丈夫だろう。そのお店で少し早めのお昼にして、それから“ナタリーダンジョン”に4時間くらいの予定で探索しようか」

「了解っ、楽しみだねぇミケさん? でも食べ過ぎちゃダメだよ、お昼から探索なんだから」


 お姉さんみたいな口調でそう諭す末妹に、ミケはお座なりにミャアと鳴いて返事をする。愛想の良いのは家族に対してだけだが、ペットなんて多少なりともそんなモノ。

 ハスキー軍団は、家族でのお出掛けに全く動じた様子は無し。思い思いの場所で寛いで、ただし探索に向かっているのは了解している模様である。


 逆に茶々丸は、先程からソワソワして落ち着きがない感じ。車に乗るのに《変化》して穂積の姿になっているけど、景色を見たりレイジーにじゃれついたり。

 そんな車内の様子に関係なく、先行するゼミ生チームの運転する車は、地御前と言う地名の場所で停車した。この近くに、どうやら小島博士の行きつけのお店があるらしい。

 車から降りた教授は、テンション高く皆を先導する。


 皆で歩きながら、牡蠣は広島県民のソウルフードとかのたまってるけど、そうかなぁと姫香の疑問符。絶対にお好み焼きだよねと、最年少の香多奈からは反撃を喰らっている。

 あの味の良さを分からないとはお子様めと、子供相手にムキになる大人気の無い教授はともかくとして。直売所には、ちゃんと定食屋も入っていて全員がお昼を食べられた。


 牡蠣定食もそうだけど、生牡蠣やら普通にお魚を煮たり焼いたりしたのやら。店員さんに鍋を進められた来栖家は、家族でそれを頼んでつつく事に。

 そこの店舗もどうやら家族経営らしく、融通を利かせてくれて大助かり。小島博士の顔利きと言うより、レストランは経営したりしなかったりなのだそう。

 本業はつまり、牡蠣や魚の販売との事で。


 食事しながら、買い取りのお魚の目処も立ってしまってこれも大助かり。食後に護人と紗良で、持って来たクーラーボックスが溢れるほど購入して。

 その隙に、香多奈がハスキー軍団とミケに、焼いたお魚を分け与えていたり。茶々丸は変身した後も草食なので、そんなモノには見向きもしない。


「いやぁ、食った食った……これでようやく、今年を生きる気力が湧いて来たな。さてさて、午後の予定はどうするかな?

 来栖家チームは“ナタリーダンジョン”に潜るんだっけか、それじゃあ我々は宮島にでも参ろうか」

「宮島にもダンジョンあるんでしょ、治安は大丈夫なの?」

「フェリーも便数は減ったけど出てるし、平気だよ。宮島で生活してる人もいるし、観光業的には随分と縮小したけどね」

「そうなんだ……どうする、ウチも探索取り止めて観光にしようか?」


 護人の提案も、子供達は探索に行くと言ってそちらに票を投じる有り様。そんな訳で、2組の午後の計画は呆気なく決定してしまった。

 海辺へのドライブ目的の半分を、既に達成してしまった来栖家だったけど。車内の勢いはとどまる事を知らずで、探索に向けて盛り上がっている様子。


 “ナタリーダンジョン”の入り口は、現在のナタリーマリナタウンの敷地内に生えているそうだ。昔の遊園地の敷地だが、マンションと商業施設が新たに設立されて。

 その商業施設もウエストとイーストに分別されているけど、前情報によるとウエストのスーパー跡地の施設内に出来てしまったそうだ。

 まぁ恐らく、行けば入り口も分かるだろう。


 実際、すぐに子供たちが案内板を発見した。程々の広さの駐車場にキャンピングカーを停めて、ルルンバちゃんの機体を降ろしてやって。

 興味深そうに海の匂いを嗅いでいる茶々丸を、香多奈が落ち着かせている。ハスキー達は入り口はあっちだよと、既にダンジョンの気配に気付いている様子。


 B級ダンジョンだけあって、休日だと言うのに訪れている探索者はいない様子。間引きの度合いがどの程度か、魔素濃度からある程度は分かるけれど。

 紗良の前情報では、このダンジョンは恐竜系の敵が出没するとの事。去年の夏の因島でも戦った覚えがあるが、あの時は5層到達がやっとだった。

 果たして今日は、4時間程度でどの位潜れるだろうか。


「それじゃあ、忘れ物が無いなら入ろうか……地元の間引き依頼とは違うけど、気を付ける点は一緒だからな。安全には注意して、慎重に進んで行こう」

「は~い、頑張ろうねコロ助に茶々丸っ! 萌は無理しないでね、新しいスキルを試そうとか思わなくてもいいんだからねっ?」


 萌に対しては過保護くらいが丁度良いかなと、家族の全員が思っている様子。確かに新しくオーブ珠で、《竜の心臓》なんてモノを覚えた仔ドラゴンだったけど。

 その体格は、やっぱり急には大きくならずミケと同じくらい。『巨人のリング』を使用しても、ハスキー達より少し大きくなれる程度でしか無いのだ。


 今から戦う恐竜と、タイマン張れと言うのがそもそも無理な話である。それが出来てしまうハスキー軍団が、ちょっと異常なのには違いなく。

 レイジー達のレベルだが、最新の鑑定の書での確認によると、レベル20は軽く超えていた。たった1年にしては立派と言うか、上がり過ぎな気がしなくも無いけど。

 敷地内にダンジョンを持つ身としては、そのくらい無ければ気は休まらないかも。




 とにかく探索開始と、来栖家チームは揃って初の“ナタリーダンジョン”へと突入する。注目する点だが、恐竜が出現するのと昔の遊園地がフロアに窺える所だろうか。

 子供たちの反応も、うわぁとビックリして周囲をキョロキョロ。護人も実は、昔の遊園地には訪れた事が無くて少し面食らってしまった。


 モロに遊園地フィールド型のそこは、確かに見て回るのには楽しそう。残念ながら貸し切りとは行かず、モンスターも同伴なのはアレだけど。

 近寄って来るのは、毎度のラプトルだろうか。小型恐竜だが、確実にハスキー達より大きくてすばしこい印象だ。それを苦もなく、撃退する前衛陣。

 半ダースの群れは、あっという間に魔石へと変わって行った。


「凄いね、このダンジョン……でも普通の遊園地ともちがうかな、向こうはジャングルみたいになってるし。でも遊園地のテイストもあるよね、変なネオンがあるし」

「あるねぇ、誘ってるみたいに木の間で輝いてるよ……向こうに観覧車も見えるし、面白いねぇお姉ちゃんっ!」

「意外と障害物が多いな、動画で観たのとも少し雰囲気が違うし。不意打ちに注意して進もうか、まぁハスキー達がいるから敵の接近は感知してくれるだろうけど」


 は~いと元気な返事と共に、前進を始める一行。フロアはそれなりに広いようだが、遊園地の面影か柵で囲われているみたいで一安心。

 ジャングル仕様に思われたけど、地面は綺麗なタイル張りで歩きやすい。ルルンバちゃんも元気に進んでいて、改造パーツにも慣れつつある様子。


 今回も小型ショベル形態なのは、家族で話し合った結果の事でもある。大型の恐竜が出て来たら、やはりこちらとのサイズ感に差があり過ぎるとの思惑なのだが。

 この形態にしても、以前の因島の巨大恐竜に較べると全く歯が立たなそう。何しろあの時の恐竜は、大型トラックより大きかったのだ。

 知略で何とか勝てたかなって感じ、力比べなどとても挑めない。


 それでも安心感は得られるし、そのパワーはお墨付きだ。今も木々の間から出現したパペット兵士を、アームの一撃で簡単に粉砕している。

 ジャングルエリアは割と広いようで、牙が巨大な剣虎も出没して来た。ハスキー軍団も序盤からスキルを使用しないと、なかなかに大変な敵の強さである。

 さすがB級ダンジョン、侮れない難易度だ。





 ――そんな訳で、気を引き締め直して探索を続ける来栖家チームだった。








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