溜まった魔法アイテムを仕分けする件
その日は結局、2軒のお宅にお邪魔して協会へ行く暇が無かった来栖家の面々。協会でメインに行う動画チェックは、どうしても2時間以上掛かるのでそこは仕方がない。
探索自体が3時間オーバーで、余計な場所を早送りしてのチェックでもその位は必要なのだ。向こうを急かすのもアレだから、子供達と相談して翌日に繰り越す事に。
そんな訳で、香多奈の放課後を待っての再度の午後の家族でのお出掛け。その前の午前中は、溜まりに溜まった魔法アイテムの仕分けを3人で行って。
何しろお正月過ぎから、割と毎週の如く週末は探索へと出掛けていたので。平日はゼミ生達の勉強会や訓練に時間を取られ、その辺はお座なりになっていた経緯が。
護人も自治会の集会やら近所の寄り合いやら、後は植松夫婦の頼まれ事やらで家を空ける事が多くて。無理に時間を作っての、仕分け作業をする流れに。
これは紗良の発案で、彼女は探索回収品の管理役も担っていて。とは言え、勝手に売りに出したり使ったりは出来ないので、毎回その運用に悩んでいたのだ。
何しろ、魔法アイテムを死蔵させるのは確実に勿体無い。
「うわっ、しばらく触らない内に溜まっちゃってるねぇ……これは紗良姉さんが、悲鳴を上げるのも頷けるよ。あっ、ゼミ生チームと凛香チームも呼んで、使えそうなの持って行って貰うのもアリだね、護人叔父さん」
「それは良い案だね、姫香……ついでに2チームのポーション類の補充もして、万全の状態で探索に送り出せるようにしておこう」
「了解です、それじゃあ2チームを呼んできますね?」
そんな訳で、魔法アイテムの仕分け会はギルド内での融通会へと昇進して。紗良と姫香が手すきのお隣さんを招集して、賑やかに説明を始める。
ついでにと、家に余っていたオーブ珠とスキル書も2チームに相性チェックを勧める太っ腹振り。紗良は進行を姫香に丸投げして、和香を助手に昼食の準備。
最近は、ご飯の御呼ばれにも遠慮の無くなって来た2チームだけど。スキル書や魔法アイテムの贈与には、額が大きいだけに戸惑いもあるようで。
姫香の勧めにも、ご近所さんはギルマスの護人の顔色を窺う素振り。護人の方が柔らかい性格なのだが、そこは大人だし決定権があるのは当然だ。
振られた形の護人は、この町の状況を説明し始める。
「ええっと、春先の予知については多分みんなが耳にしていると思うんだけど。“アビス”と“浮遊大陸”はともかく、“喰らうモノ”と言う異界のダンジョンがこの町に出現するそうだ。
それに加えて、“大変動”以降の大きな異変が地上を襲うと言う話もある。それぞれのチームが、それに向けて備えてくれればと思っている。
残された時間は、あまり無いかも知れないんでね」
「はあっ、その話はそこまで信憑性があったんですねぇ……こんな事なら、私たちのチームももう少し探索で力をつけるべきだったねぇ、大地君」
「今からでも遅くは無いんじゃないかな、美登利さん……春先ってのが曖昧だけど、多分まだ1~2ヶ月は先だろうから。
午前の授業は、春まで取りやめにしてもいい位だ」
凛香のその返答に、美登利はしかし待ったの構え。せっかくお隣さんの年少組、和香と穂積の学力が、何とか一般レベルに追いついて来たのだ。
今年の春から地元の小学校に編入すると言う、ある意味壮大な計画は崩したくはない。だがまぁ、勉強を見る方は教授や坂井戸達に任せるって手もある訳で。
自分達の研究やら論文作成の時間を削れば、鍛錬の時間はずっと増やせる。美登利は大地と短く相談して、その方向へとシフトする事に決定。
ついでに魔法アイテムやスキル書の融通も、有り難く頂戴する流れに。
何しろ、自分の命には代えられないと言うか、まぁギルドとしては町の安全も担っている訳だし。その辺は『民泊移住』で、日々の生活を支えて貰っているのだ。
受け取った恩は、しっかりと実労で返さないと。小島博士も、その発言にはそうだねぇと軽く了承の構え。実際、汗水たらして働くのはゼミ生達なのだけど。
それはともかく、今回の“滝下ダンジョン”で獲得した魔法アイテムを妖精ちゃんが選り分けてくれて。それを鑑定の書で鑑定して、溜まった仕分け分に追加する。
そんな今回の、回収した魔法アイテムは以下の通り。
【強化の巻物】使用効果:全属性強化(茶の魔石使用)
【蟲のイヤリング】装備効果:敏捷up・小
【蛙のスーツ】装備効果:サイズ補正&水耐性up・中
【結晶の腕輪】装備効果:魔力&氷耐性up・中
【魔テルテル坊主】設置効果:天候操作&氷耐性up・中
【沼竜の爪】使用効果:鋭刃&魔突&水耐性up・骨素材
【沼竜の鱗】使用効果:衝撃耐性&斬耐性&水耐性up・骨素材
【沼竜の血】使用効果:魔血液体・秘薬素材
【魔蒼結晶】使用効果:希少魔石・秘薬素材
「わっ、今回もレア素材が混じってるよ、紗良姉さんっ。そりゃそうか、だってドラゴン倒したもんねぇ?」
「凄いねぇ、そろそろ手元の錬金レシピで何かスゴイ薬品が出来そうかも? 試作品ならボチボチあるんだけど、実戦投入するまでには至らなくって。
妖精ちゃんも手伝ってくれてるんだけど、口に含むモノだしねぇ」
「うわぁ、素材も凄そうなのが混じってる……相変わらず来栖家チームは、イケイケなんだねぇ。このテルテル坊主、本当に天候操作が出来るのっ!?」
そこまで行くと破格な性能だが、小鳩の呟きはお隣さん達の総意でもありそう。前回の探索動画はまだアップされてないが、話はお喋りな香多奈から聞き及んでおり。
今回も波乱に満ちた探索をこなして来たのは、ギルド内では既に周知の事実。そのおこぼれに与るのも、少々情けなくはある2チームだけれど。
プライドよりも、“大変動”を生き延びた両チームは生き延びる事こそ正道だと理解しており。そんな訳で、スキル書やポーション類の分配も有り難く受け取る事に。
とは言え、高価な素材系は貰っても仕方が無いので、それは紗良に仕舞って貰って。受け取って問題の無い品だけに、限定しての分配作業の開始。
目的はチーム強化、その上で波乱の未来を生き延びる事。
賑やかなリビングに、お昼も食べて行ってねと紗良の掛け声。ありがとうと常識的な返答の美登利と、相変わらずミケに警戒されて肩身の狭い小島博士。
そんなミケだが、新たに《九魂九尾》と言う名のスキルを獲得したと聞いて。キッズチームの面々は、この猫凄いなと遠巻きにちょっかいを掛け始める。
子供には優しいミケは、そんな事では怒りはしない。まぁ、家族以外に愛想は振り撒きはしないけど。ついでに今回の相性チェックでは、萌がオーブ珠から《竜の鱗》と言うスキルをゲット。
ドラゴンを倒してのオーブ珠だったので、ある意味順当なのかもだけど。効果も秀逸で、妖精ちゃんの説明だと主に防御系の竜の特性アップらしい。
普段の姿は、ミケと似たり寄ったりの可愛さだと言うのに。
その後も色々あって、結局は雑談交じりのお昼ご飯の後に配分作業は行われる事に。素材系および、来栖家チームで使うアイテムは前もって抜いておいて。
扱いに慎重さが求められる、『鶏パペット兵』や『不死者の骨壺』も同じく。『魔テルテル坊主』も、天候を操ると言うとんでもない性能なので安易に人の手に渡せない。
まぁ、恐らくその天候が操れる範囲は限定的なのだろうけれど。周囲にどんな影響が出るかも不明なので、おいそれと試してみる気にもなれない。
それでも農家にとって、天候の良し悪しは死活問題にもなる訳で。手元に持っておいて損は無いかなって、そんな話し合いでのチーム所持となった。
ついでに、ここにいない香多奈用にと『術者のネックレス』と『召喚士の杖』をキープ。後で文句を言われないよう、特訓でもたまに使っていた装備は選り分けておいて。
そんな雰囲気に反応したのか、妖精ちゃんもアイテムの仕分けに参加。魔法アイテムでは無いけど、立派な造りの金の王冠を自分の巣へとお招きに。
これで2個目だが、家族の誰も文句を言わず。
何しろ、妖精ちゃんも一応は家族の扱いだし。鑑定などでお世話になってるし、その位の出費は安いモノだとの認識だ。天井の梁のその巣を、羨ましそうに見上げる萌は良いとして。
仔ドラゴンも、将来的にはお宝いっぱいの豪華な寝床を欲するようになるのかもだが。恐らく香多奈は、それは自分で集めなさいとか平気で言いそう。
チームで確保したアイテムは、後は護人が『魔人の弓』を自分で使う用に。それから結局、吸血や回避効果のある『吸血のマント』は薔薇のマントが食べてしまった。
姫香の防御アップに良いかなと、考えていた護人は大きく当てが外れる結果に。油断していた隙の犯行に、しかし姫香辺りは擁護の構え。
護人叔父さんの強化になれば、子供達も満足らしい。
他にも『妖狐の尻尾』は一応チームで保持、『劣化防止魔方陣プレート』は完全に紗良のモノに。姫香が水耐性アップの『蛙のスーツ』も、薔薇のマントに食べさせようとしたけどこの試みは敢え無く失敗。
その代わり、何故かルルンバちゃんがその緑色のスーツを吸い込んでしまった。まさか《合体》効果で、スーツを取り込めるとは思っていなかった一同。
凄いねと紗良と姫香に持て囃されて、有頂天になるルルンバちゃんに。何故か嫉妬模様の薔薇のマントが、壁を行ったり来たりしている始末。
そんなルルンバちゃんの表皮は、何だか緑色のカエルチックに変化していて。確かにカエル型スーツを取り込んでいて、恐らく水耐性もゲットしたのだろう。
恐るべし《合体》スキル、彼は一体どこまで進化するのか。
それは薔薇のマントも同じなのだが、この不思議装備は護人にしか懐いておらず。子供達には愛想の1つも振り撒かないので、家族内の人気はイマイチなのだ。
とにかく特殊な素材系と、来栖家チームで使う分の魔法アイテムの仕分けはこれにて完了。残った魔法アイテムと、それからポーション類や矢弾などの消耗品を2チームに分配する。
ポーションも、上級ポーションや中級エリクサーに始まって、硬化ポーションや浄化ポーションも分配して行って。ついでにと、余ってる強化の巻物も魔石とセットで付ける。
何しろ2チームとも、前衛陣の負担がとっても心配な布陣なので。何をおいても防御強化は、あった方が良いのは当然で。妖精ちゃんに頼んで、防具強化の錬金術をお願いする。
ついでに武器強化も、各チームの前衛陣の武器へと施して貰って。
それから微妙な性能の『蟲のイヤリング』2種と、耐火の付いた『毛皮のマント』や耐衝撃の付いた『皮のブーツ』を凛香チームへ。目玉は、後衛用の魔力&氷耐性アップの付いた『結晶の腕輪』だろうか。
それを貰った譲司は、大喜びで自分の攻撃魔法のパワーアップをチームに報告している。和む情景に、紗良と姫香もほっこり模様で。
ウチの愚妹とは大違いねと、いない香多奈の悪口を言ってみたり。それを嗜める紗良だけど、まぁ末妹が少々生意気なのは周知の事実でもある訳で。
遊び仲間の和香と穂積も、カナちゃんにも良い所はあるよと小声でお茶を濁すのみ。何しろ香多奈は、家のアイテムを勝手に持ち出す常習犯なのだ。
それを知ってる2人は、真っ向から反論も出来ないと言う。
それはともかく、他にも隼人が『銃撃のナックルガード』に防具チェンジ。ゼミ生チームの2人は、相談した結果『質量軽減』を利用して美登利が『魔人の長斧』を試してみる事に。
今までのボウガンを使っての後衛仕様から、大きく方向転換する事になるけど。実は前衛の動きは、ずっと前から特訓していた美登利である。
大地は『魔人のズボン』と『オーガ角の兜』を貰って、これで随分と硬くなった。良かったねと話を振る相棒の美登利に、無表情が売りの大地も嬉しそうな表情。
何しろ先程のスキル書の相性チェックで、新スキルまで取得出来たのだ。妖精ちゃんの鑑定によると、『不屈』と言う踏ん張りの利く根性系スキルとの事。
新たなスキルを獲得したのは、キッズチームからもう1人。しかもリーダーの凛香の取得で、残りの面々からお祝いが巻き起こる始末。
本人は大いに照れていたが、3つ目取得の『追撃』と言うスキルは名前からして強力そう。妖精ちゃんによると、文字通り追加ダメージが増える戦闘系スキルだそうだ。
これにより、両チームめでたくパワーアップは成功の運びに。
「良かったね、早速午後からの訓練で身体に馴染ませなくちゃ、2人とも。装備交換した人も、馴染ませて行かないとねっ!」
「それはそうだけど、私たちは午後から協会に行く用事があるよ、姫香ちゃん? 昨日、行くって言っといて結局行けなかったから、これ以上延ばすのはちょっと」
あっ、そっかと慌てた様子の姫香は困った表情。しかもそろそろ、香多奈から学校終わったよコールが届く時間だ。ギルドの面々は話し合った結果、合同訓練は明日の午後に実施する流れに。
その後に、各チームの週末の探索日程も話し合って。
――ギルドの結束は、良い感じに強固になっている模様。




