表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
269/859

滝下ダンジョン”も10層を超えて敵が手強くなる件



 手を繋いでの仲直りも終わり、9層に辿り着いた時には香多奈の調子も元通りに。少々立ち直りが早い気もするが、そこは末妹の長所と捉えておきたい。

 それとは逆に、仲の良過ぎる2人に焼きもちを焼いて機嫌が悪くなる姫香。お姉ちゃんも手を繋いだらの茶化しの文句に、すかさず妹に鉄槌を喰らわす姉である。


 そんな家族間の喧騒も、敵が出てくれはキッチリと気を引き締めての探索進行に。そこは当然と言うか、あれだけ叱られてそこが治って無かったら本末転倒である。

 ハスキー達も、家族の仲直りを受けてすっかりと元気を取り戻して。今は勇ましく、やっぱり先行しての狩りを再開している始末。

 なおも怒っているのは、ミケだけと言う有り様。


 お陰で肩を貸している紗良は、ミケがイライラと動き回るので不安定で仕方がない。幾ら彼女が話し掛けても無駄で、挙句の果てには護人の肩へとひらりと飛び移ってしまった。

 薔薇のマントが一瞬だけ過剰に反応するが、それを気力で黙らせるミケランジェロ。護人は気にせず、周囲への警戒とまたもや出て来た桟橋の敵の殲滅に集中。


 今度は姫香と紗良のコンビで、紗良は《氷雪》を最小で敵に撃ち込む練習を行っている。敵の魔法攻撃には《結界》で対応して、姫香も『圧縮』でたまにお手伝い。

 それを眺めていたミケも、ようやく落ち着いて来たようだ。香多奈も後方から、『応援』でそれをお手伝い。護人もミケを撫でながら、あちこちに気を配っている。

 内心では、高い授業料にならずに良かったなぁと安堵しつつ。


「ミケもようやく落ち着いて来たな、香多奈もあんまり家族に心配を掛けるんじゃないぞ。あんまり無茶が酷いと、探索に同行させるのも考え直す事になるからな?」

「分かってるよ、叔父さん……でも、叔父さんもミケも過保護過ぎると思うけどな。探索者なんだもん、怪我くらいはするでしょ」


 怪我で済めば良いが、たった1回の攻撃で死んでしまう事も有り得るのだ。それを防ぐためのお高い防具なのだが、それでさえ決して万全では無い。

 とは言え、確かに護人とミケに過保護すぎる面があるのも確か。香多奈がまだ子供なので仕方のない事なのだが、少女はその事を分かっていない感じ。


 まぁ、末妹の香多奈が大人扱いして貰えるまで、まだまだ時間が掛かるとして。この9層も、探索は順調に経過して行って。姫香と紗良のコンビは、桟橋通路の先に置かれていた宝箱を発見。

 崖下の奥まった場所に簡易的な東屋あずまやがあって、そこに隠すように置かれていたらしい。中からは、毎度の薬品や魔玉や鑑定の書が出て来た。


 当たりは中級エリクサー600mlだろうか、その他にも何故か新品の竹箒が3本と麦わら帽子が4つ。紗良は普通に、青空市で売れるかもとそれらを回収。

 今回は回収品が渋いねと、姫香は戻りながらの愚痴モード。敵の数は割といるのだが、強さからするとこの後もそれ程の収益は見込めないかも。

 そんな事を各々が思いつつ、何事もなく9層も突破。



 そして辿り着いた区切りの10層、相変わらずの沼地だがハッキリとした相違点が2つ。まずは中間地点の沼の中央、何故か案山子かかしが水の上に突き出ている。

 その奥にはハスの超巨大な葉っぱがあって、そこが恐らく中ボスの間って事らしい。遠くてよく見えないが、階段と宝箱と中ボスのセットが窺える。


 それを見てテンションの上がる子供達だが、護人は途中の案山子が何となく気になって。麦藁帽を被った布地の“へのへのもへじ”、アレはただのオブジェ?

 ただ敵は他にもいるし、ルルンバちゃんは相変わらず水中を進むしかない状況だ。取り敢えずはチームの気を引き締めて、中ボスの間目指して出発の合図。

 それと共に先行する、ハスキー達と茶々丸のハッスル軍団。


 その辺は織り込み済みだが、丁度沼の中央に位置する案山子がどうしても気になる護人。そこで後衛の守りをミケに任せて、姫香と2人で沼の中央へと向かう事に。

 そこはハスの葉のルートからやや逸れてはいたが、幸いルルンバちゃんはそんな事なと物ともしないので。2人で狭いコクピットに乗り込んで、怪しい案山子の元へ。


 その瞬間、グリンッと水面に串刺しになっていた案山子がこちらに向き直った。顔文字の筈の顔面は、表情豊かに怒ったような笑っているような視線を向けて来て。

 水の弾丸を撒き散らして、まずは挨拶代わりの先制攻撃。すかさず『圧縮』でそれをガードする姫香と、『射撃』での反撃に打って出る護人。

 しかし藁のボディには、何の痛痒も与えてい無さそう?


「わっ、護人叔父さん……前方に渦が巻いてるっ! ルルンバちゃんは平気かなっ!?」

「多芸だな、何でこんな奴が中ボス部屋の前にいるんだ? 矢弾が効かないな、本体を始末すれば魔法の渦も収まると思うんだが」


 両方の距離は、そんな訳で10メートルをキープ。ルルンバちゃんの魔銃弾も、ヒットするけど痛痒は与えていない様子。近付こうにも、渦潮の中央は小型ショベルでも通過は厄介そう。

 炎が有効そうな敵なのだが、生憎と護人&姫香ペアには炎系の使い手はいない。レイジーを呼び戻そうにも、ハスの葉の通路からは割と遠い。


 さすがのレイジーも、水の上は歩けないだろうし。その間も、案山子の放つ水の魔法弾は、定期的にルルンバちゃんのボディを震わせて来る。

 姫香も魔法で防御するが、速度が意外と早くて全ての範囲のカバーは無理。突然の難敵の出現に、後方で見守る紗良と香多奈も不安そうに戦闘を見守っている。

 とは言え、香多奈の『応援』も今の所は空振っている模様。


「くっそ~、腹の立つ案山子だなぁ……護人叔父さんっ、ここから飛び掛かって首を切り落としてやろうか? この距離なら、何とか行けるよっ!?」

「魔法だって飛んで来てるのに、無茶はよしなさい、姫香。あの案山子の身体は、恐らく藁で出来てそうなんだけどな……何とか燃やせないかな?」

「……あっ、爆裂玉っ! ルルンバちゃんの魔銃にセットされてないかなっ!?」


 護人もその姫香の叫びを聞いて、なるほどと正解を得た思い。炎の魔玉なら、着弾して敵を燃やす事が可能な筈。ところがセットされた弾丸に、炎属性の奴は無かったようで。

 何よ香多奈のアンポンタンとか姫香が妹をののしってると、妖精ちゃんが赤い弾を手にヒヨヒヨ飛んで来た。空中輸送してくれたそれは、まさに魔玉(炎)だ。


 姫香は律儀に不思議生物にお礼を言って、ルルンバちゃんの魔銃ライフルにそれをセット。身体と言うか小型ショベルを震わせて、喜びの感情を示すAIロボ。

 そのルルンバちゃんの一撃は、狙い違わず水の使い手の案山子を撃ち抜いた。そこから一気に、派手に燃え上がって行く動かぬ難敵モンスター。

 やったぁと、ルルンバちゃんの上で姫香が飛び上がる。


 その敵の消失と共に、進行を阻んでいた渦潮も消えてなくなって。水の上に浮かび上がったスキル書を、ルルンバちゃんが回収しに進み始める。

 その後は、護人と姫香は無事に後衛組と合流を果たして。先行して、雑魚を殲滅していたハスキー軍団と茶々丸とも、何事もなく戻って来た。


 見渡した限り、既に周辺のモンスターは間引き済みっぽい。さすが優秀なハンターである、茶々丸はどの程度活躍したかは不明だけれど。

 レイジーの教育が、どの程度行き届いているのかちょっと知りたい気もする護人だが。まずは中ボス戦だと、ようやく近付いて来た反対側の陸地を見遣る。

 その前の広場は、超巨大なハスの葉の広場。


 お陰でルルンバちゃんは上陸出来ず、遠回りを強いられる破目に。そんなの待っていられないぜと、ハスキー軍団と茶々丸が開戦して良いかと護人に伺いを立てて来る。

 丁度ハスの葉の広場と陸地の境目に構えているのは、どうやらザリガニ獣人の戦士団らしい。中ボスは3メートル級で、いかにも強そうな鋏を持っている。


 部下たちも2メートル級の巨体揃いで、全部で5匹ほど確認出来た。全員武器は持たず、恐らく両手の鋏で戦うのだろうと思われる。

 ザリガニだけあって殻も硬そうな上、装備も着こんでいて防御力は厄介そう。護人は少し考えて、紗良の先制魔法の後突っ込もうと作戦提示。

 その時から、少し嫌な予感に見舞われるコロ助。


 それでもツグミに白木のハンマーを出して貰って、戦闘準備はバッチリ。うかうかしていると、ルルンバちゃんも大きく回り込んで戦場に到達してしまう。

 紗良は言われるままに、張り切って集中からの《氷雪》魔法の開放。よせばいいのに、ミケまで何かの憂さ晴らしとばかり『雷槌』を織り交ぜる。


 派手な吹雪と落雷の嵐は、たっぷり10秒間は中ボスの間に留まっていた。それが止んだ後の空間は、何だか妙に静かで敵の気配が消え去った感じ。

 実際、あの巨体の影はどこを探しても見当たらず。思わず再び、口からポロリとハンマーの柄を落としてしまうコロ助だったり。

 悪夢再び、いや中ボスは無事に討伐出来たのだが。


 無邪気に喜んでいる香多奈は、転がっているスキル書と魔石(中)を回収して行く。その頃に、ようやくルルンバちゃんも合流出来て一安心。

 護衛ザリガニ獣人5匹も魔石(小)を落としたので、やっぱりこの1戦で10万円も稼げてしまった。金銭感覚が狂うので、その辺は考えないようにする事に決めて。


 休憩しつつ、宝箱のチェックなどを始めてみたり。宝箱は5層と同じく銅色で、中身も似たような感じだったけど。それでも、強化の巻物2枚は割と当たりかも。

 他には鑑定の書(上級)が2枚に、初級エリクサー600mlとエーテル800mlが牛乳瓶に入って置かれていた。後は魔石(中)が5個に、赤い甲殻素材が数個。

 それから何故か、剪定ハサミが1個入っていた。


「宝箱はショボい感じだけど、ここまでは順調だよね! 時間もあるし、もう少し探索続けるんでしょ、叔父さん?」

「アンタね……護人叔父さんから説教受けといて、順調もへったくれも無いでしょうに」


 休憩しながら、そんな姉妹でのいつもの遣り取り。確かに反省の無い末妹の言動はアレだが、ダンジョン探索を変に怖がられるよりはずっと良いかも。

 姫香もその思いに至ったのだろう、座ってツグミを撫でながら何となく末妹を労わる言葉。コロ助も寄って来て、その態度は慰めたいのか慰めて欲しいのか。


 紗良に抱っこされているミケは、ストレスを発散出来てこの上なく満足げ。一緒にMP回復ポーションを飲む紗良は、少しだけ戦闘度胸がついて来た感じも。

 それから同時に自信と爽快感も、胸に段々と芽生えて来て。自分の成長で、前衛も楽が出来るし危険な接近戦で怪我とかせずに済むのは大変な利点である。

 控えめな性格の彼女でも、そう考えたら多少は積極的になれそう。


「今回は1層約15分くらいか……それじゃあ、あと3~4層ほど間引きしてから戻る事にしよう。ここはワープの魔方陣が無いから、歩いて地上に戻らなきゃだからな」

「そうだね、端から端まで歩くだけで、フィールド型ダンジョンは大変だもんねぇ。ルルンバちゃんも大変だよ、水の中進むのも一苦労でしょ?」


 そう話を振られたルルンバちゃんは、身体を揺らせて平気をアピール。それから紗良の元まで進み寄って、水中の敵をやっつけて確保した魔石やドロップ品を一気に吐き出す。

 ほとんどがオタマジャクシの落とした魔石(微小)だったけど、中には大タガメが落としたらしき甲殻素材も混じっている。魔石(中)は、これは案山子のドロップ品だろう。


 紗良は律儀に、彼にお礼を言ってから機体をひと撫で。その愛情表現に、やっぱり機体を震わせて反応する初心なルルンバちゃんであった。

 香多奈が立ち上がって、彼の燃料タンクに魔石とポーションを注ぎ始める。姫香もあちこち覗き込んでいるが、エンジンが変な事になってるとかは全く無さそう。

 しかしまぁ、水陸両用とはアッガイみたいと心の中で姫香は感心する。


 それから話題は、さっきの魔銃に込められていた魔玉の種類について。香多奈にも言い分があって、今回は滝のエリアだから炎系は外していたそうな。

 それでも咄嗟に思い付いて、妖精ちゃんに空輸を頼んだ思い付きはさすがである。護人がそう褒めると、少女は割と有頂天に天狗になってしまった。


 それをいつもの、きつい口調で窘める姫香である。半分は嫉妬が混じっているかもだが、毎度の姉妹喧嘩の遣り取りには間違いなく。

 何にしろ、普段通りの来栖家チームのホンワカした雰囲気だ。探索で初ダメージを受けた香多奈も、その事をケロリと忘れている程度には通常運転。

 その事が良いのか悪いのかは、取り敢えず横に置いといて。





 ――チームの探索は、そんな感じでもう少し続く模様。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ