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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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協会への報告が割とカオスな件



 次の日曜日、来栖家は朝から探索に向かうか協会に報告に行くかで、意見は2つに分かれていて。異界の探索者の実力に、追いつきたい姫香は探索推進派なのだけど。

 それより冷静な護人は、協会への報告の後回しは不義理に当たると。ついでに一昨日の探索での回収アイテムを売って、一区切りつきたい思いも。


 結局は姫香が折れて、家長の案が通る事になって。お昼前に身支度をして、家族揃ってランクルで麓まで降りる。2月のこの頃、山の日陰にはまだ雪が残っていて。

 体感温度も肌寒くて、まだまだ油断して薄い上着など着ていられない。寒さのピークは過ぎたとは言え、山の上への春の到来はもう少し先の気配が漂っている。

 それについては、何年も住んでる子供達も重々承知。


「結局はミケさんが、オーブ珠で相性チェックに成功しただけだったねぇ。まぁ、それだけでも大したモノかな……ミケさんがスキル覚えるの、結構久し振りだもんね?

 今回も、きっと凄いスキルの予感がするなっ!」

「ミケは家族の中で、一番所持スキルの数が少ないんだっけ? その割にはどれも強力で、戦闘能力もトップクラスだよね。

 お年寄りだから、積極的に戦闘には参加しないけど」

「ミケは小柄だからな、殴り合いの場に出て潰されるよりその方がずっといいさ。それより妖精ちゃんがスキルの名称鑑定を拒否したから、久々に鑑定大会しようか?

 紗良、上級の鑑定書は何枚残ってる?」

「普通のタイプも上級の鑑定の書も、10枚以上ストックはありますよ。何なら家族全員分、ステータス鑑定は可能ですね、護人さん」


 それを聞いて、私もやるよと元気に挙手をする毎度の香多奈だったけれど。勿体無いから、今回はミケさんとあと2人位で収めておきなさいよと姫香の制止の言葉。

 確かに一度に全員でやっても、混乱してしまう可能性も否めないので。紗良もそれに賛成して、多数決で末妹は渋々今回のチェックを叔父さんに譲ると殊勝な返答。


 そんな訳で、今回は護人とレイジーとスキルを新たに覚えたミケが行う事に。今は車内でわちゃわちゃしているので、これは協会についてから行う流れで落ち着いて。

 10分余りで、護人の運転する愛車は無事に協会の駐車場に到着した。相変わらず土グランドの空き地には、他の車の影は全く無し。

 それはそれで、安心してハスキー達を外に出しておけるのでグッド。


 ちなみに今回は、茶々丸と萌は来栖邸でお留守番である。大学生チームの美登利達が温室の世話をしに来たので、その辺の留守をお昼まで預けて出掛けて来たのだ。

 茶々丸は割と、一緒に行きたいと愚図ってる感じだったけれど。優しいお姉さんの美登利に頭を撫でられて、香多奈にすぐ戻って来るからと言われて。


 それでようやく納得してくれた様子、ちなみに萌は悲しい顔をしたけど我が儘は発動せず。とにかく一緒に連れて行くのは、峠道の雪が完全に無くなってからだ。

 それまでは、車内のスペース的にちょっと無理があるので無理はしたくない次第。ルルンバちゃんでさえ、飛行パーツすら諦めての元の機体のみなのだ。

 まぁそれだけ、冬の車内事情は大変って事。


「ふあっ、狭かったぁ……ハスキー達も冬の間は丸洗い出来ないから、犬の匂いが車の中に籠っちゃって大変だったよ!

 あっ、別にレイジーやコロ助が臭いって事じゃ無いからね?」

「まぁ、冬の丸洗いはさすがのレイジー達でも風邪ひいちゃうからねぇ。早く温かくならないかな、田んぼや畑で忙しくなってもやっばり春が待ち遠しいよ」

「そうだな、寒いと気分まで沈んじゃうからな。俺もやっぱり、春が待ち遠しいよ」


 そんな雑談を交えながら、協会の扉を潜る来栖家チームの面々。相変わらず賑やかだが、今回は向こうの対応がやや違っていて仁志支部長が出迎えてくれた。

 どうやら前もって大事な話があると電話したせいで、向こうも緊張と言うか警戒している風である。スタッフの増えた協会だが、多少中の居心地は良くなっていて。


 子供達はいつものブースに陣取って、能見さんがさっそく用意してくれたお茶にお礼を言っている。護人も同じく、それに仁志が緊張顔でついて来る。

 子供達は、既に能見さんと雑談に突入して物凄い会話の遣り取り。今回も短いけど探索行って来たよとか、その途中で凄い事があったんだよとか。

 その隣で、紗良は売る魔石を机に取り出している。


 姫香もスマホ撮影を皆で見る準備をしつつ、後半はひょっとして流せないかもと微妙な表現。何かあったのと尋ねる能見さんと、また何かやらかしたのかと顔色が明らかに悪い仁志支部長。

 香多奈も姉の溜めに乗っかって、動画を観て行けば分かるよと茶目っ気たっぷりに視聴会の催促。少し離れた席で、護人は仁志へとヒソヒソ声で異世界交流を告白。


 明らかに驚き顔の仁志支部長は、本当ですかと念を押して来るけど。これは流れを追って話すべきかなと、護人は鬼の家族の介入から“ダンジョン内ダンジョン”の構築まで話す事に。

 そこに異界へのルートが通ったと言う話と、異世界からの探索者(向こうは戦士団と言うらしい)と遭遇したあらましを聞き及ぶに。これは自分のキャパを超える案件だと、仁志は途方に暮れた様子。

 そんな訳で、早速本部に報告しますと力の無い返答の仁志支部長。


「いやしかし、乱暴な一団じゃ無くて本当に良かったですね……漫画染みた考えかも知れませんが、異世界同士で侵略戦争なんて良くある話じゃないですか。

 どうしても我々の立場だと、そっちを想像して構えてしまって」

「向こうは先遣隊みたいな感じで、かなりの実力者揃いだったけどね。ウチのチームじゃ足元にも及ばない力量で、普通にモンスターの生息する世界だそうだよ。

 我々の知ってるダンジョンは、倒した敵が魔石になるのに驚いてたから」

「へえっ、そりゃまた……それで、彼らの目的は一体何なんでしょう?」

「主に2つの使命で、こっちへのルートを模索していたと口にしてたかな。1つは予知で我々も存在を把握していた、“喰らうモノ”と名付けられたダンジョンの討伐。どうやらこの怪物は、向こうでも散々暴れ回って討伐依頼が掛かっていたみたいだ。

 もう1つの依頼は、向こうの国だか機関がこちらの世界との交流を望んでいるって事で。そのコネ作りと言うか橋渡し的な依頼を受けて、接触して来たそうだ。

 そう言われても、俺の一存じゃ無理なんで協会に報告した訳なんだけど」


 その判断は仁志にも無理なので、彼も本部に丸投げすると逆に潔い返答。その戦士団だが、向こうも交流師団を送るとかの準備で、一度戻ったと護人が告げると。

 鎖国時代の日本みたいに、この日馬桜町が長崎の出島みたいになるのかと仁志は感慨深げに。そんな未来の想像が出来ない護人は、なんでウチの地元ばっかりがと釈然としない表情。


 向こうは2週間程度の後に、また戻って来るそうだと話を締めくくって。話を終えてスッキリした表情の護人は、反対に顔色の悪い仁志に同情した視線を送るのみ。

 少し離れた場所では、子供達と能見さんの視聴会が華やかに行われている。事務所の奥では、新人の江川さんやらが忙しそうに何らかの処理に追われている感じ。

 恐らく来栖家の提出した、魔石とポーションの換金作業中なのだろう。


 今回は売りに出すポーション類が無かったので、代わりに誰とも相性の合わなかったスキル書を付ける事に。250個もの魔石(微小)の数に驚かれつつ、結果は150万円程に。

 最終層のドロップ回収も地味に効いていて、短時間の探索結果にしては上々だ。そんな事より、やっぱり動画にも映っていた異世界からの探索者に思わず凍り付く能見さん。


 この遭遇は、やっぱり彼女のキャパにもオーバー気味のイベントだったらしく。香多奈が呑気に、この後お家に泊まって貰ったのと事実を告白する。

 妹と護人叔父さんしか、言葉が分からなくて困ったよねと、これまた呑気な姫香の追従に。宝珠で言語系のを取り寄せられないですかと、直な質問を投げ掛けている。

 それは難しいかもと、呆けたような能見さんの返答。


 画面の中では、ダンジョン内にある異界の集落に来栖家チームがお邪魔している所。言葉は通じなかったけど、色々と買い物できたよねと姉妹はご機嫌に成果を報告している。

 その話し振りが既に異世界で、混乱模様の能見さんだったけど。動画を観る限りでは、異界の集落も3人と1機の探索者集団も、それ程には危険では無さそうな雰囲気。


 この人はエルフで350歳なんだよと、香多奈は相変わらず口のチャックが甘い。こっちに魔術師の塔を建てたいと言ってましたねと、紗良も割と爆弾発言を続けて。

 まぁ、それだけこちらの世界が気に入ったと言いたかったのだろうけれど。今後の探索では協力してくれるんだってと、多少の協議は両者間で行った事を匂わせて。

 何にしろ、異界の探索者と仲良くなれた事を誇らしく語る子供たち。


 そんな言葉を鵜吞みに出来ない大人の仁志だが、取り敢えずは上にお伺いを立てる位しか現状出来る事が無い。その了承を護人から得て、何とか一息つく。

 この辺鄙へんぴな田舎町に就任してから、全く次から次へと変な案件が舞い込んで来て。正直、スタッフが2人増員された程度では、この町の協会を支えられるかと言われれば微妙かも。


 そんな仁志の思いに関係なく、動画の視聴会は何とか終わった様子。子供達は、次は魔法アイテムの鑑定会だねといつものペースで事を進めている。

 その頃には能見さんも、何とか正気を取り戻していて。短い探索時間に対して、まずまずの魔法アイテムの数に凄いねとおべっか半分と本気が半分の言葉を漏らす。

 得意そうな香多奈は、妖精ちゃんに選り分けて貰ったアイテムの鑑定を開始。



【強化の巻物】使用効果:防具強化(青の魔石使用)

【護りの玉石】装備効果:防御up・永続

【破砕の長剣】装備効果:不壊&破砕&筋力up・小

【魔人の弓】装備効果:必殺威力&器用up・中

【魔人のズボン】装備効果:跳躍&敏捷up・大

【魔人の長斧】装備効果:必殺威力&腕力up・中

【魔人の血】使用効果:魔液体・秘薬素材×0.7ℓ



「わっ、また秘薬素材が集まっちゃった……これで幾つ目だっけ、家で保存しておくのも大変なのにね」

「秘薬って何だっけ、紗良姉さん? そう言えば、姉さんが解析したポーションの劣化防止の瓶、協会と一緒に商品化するんじゃ無かったっけ?」

「秘薬とは、一般的に“若返り”とか“老化防止”とかそんな感じの薬の事を指しますね。当然、秘薬素材もポーションとは桁違いの金額で取引されます。

 売る際には前もって一言お願いしますね、ここの支部の金庫ではとても足りませんから。それから劣化防止魔方陣入りの瓶の製造は、現在江川さんの方でデータ取りの最中ですね。

 作って売り出して、効果がありませんでしたじゃ信用を失いますから」


 さすが能見さんと、質問した姫香は感心した素振り。ただし、今回の魔法アイテムには大当たりと言えばその秘薬素材位のモノだったようで。

 魔人系の装備品は、護人叔父さんが使わなかったら売り候補だねぇと姉妹で話し合っている。それよりポーションの劣化防止用の瓶は、実用化すれば凄い事になりそう。


 そう話す能見さんは、物凄く興奮して紗良に是非パテントを取りましょうと意気込んでいる。根は商売人らしい彼女は、手続きは自分がやってあげますよと目が本気マジである。

 それから話し合った結果、今回の動画は異世界チームとの出会いのシーン以降はカットする事に。つまりダンジョン内集落とか、お泊り会とかのくだりは刺激が強過ぎると。

 ただまぁ、ムッターシャ達の存在自体は隠しても仕方が無いので。


 と言うのも、チラホラと異界の知性体との遭遇は、ベテラン探索者チームの面々は経験しているようで。来栖家チームみたいに、簡単に意思の疎通が出来ずにいるだけで。

 そう考えると、2人も翻訳が堪能な探索者を抱えるチームは珍しいのかも。香多奈に限っては、良く分からない自動取得のスキルだったりするのだが。


 その後、今度は鑑定の書(上級)を使っての鑑定大会だと張り切り始める子供たち。取り敢えずミケさんが新しく取得したスキルを、是が非でも確認しなきゃと末妹の言葉に。

 またスキルを覚えたんですかと、驚き声を上げる能見さん。でもミケはまだ4つ目だよと、何だか見当違いの返事を口にする姫香である。

 しかも特殊スキル3つ目なんて、普通の感覚だと贅沢過ぎる。


「そう言われたらそうかもね……何だかみんなが5個とか覚えてるから、感覚が麻痺しちゃってるのかも。でもまぁ、護人叔父さんとかは宝珠使って7つだもんね?」

「ほら、これが最新の俺のステータスだ……今日はレイジー呼んで鑑定して、残りのメンバーはまた日を改めてだな」

「分かった、私がレイジーの鑑定して来るねっ! 姫香お姉ちゃんは、先にミケさんの鑑定しといてっ!」


 そう言って、鑑定の書を手に外に飛び出して行く少女。元気だねぇと、姫香は呆れつつも言われた通りにミケの鑑定を行う。子供相手には大人しいミケは、唾液採取に抗議も無し。

 そんな訳で、今回のチーム3名の鑑定結果が。



【Name】ミケ/Age 12/Lv 21


HP 56/52  MP 86/92  SP 58/66

体力 E-   魔力 A- 器用 C  俊敏 B+

攻撃 D+   防御 E+   魔攻 A   魔防 C+

理力 B-  適合 B- 魔素 B-  幸運 B+

 

【Skill】『雷槌』

【S.Skill】《刹刃》《魔眼》《九魂九尾》

【Title】《準猫又》




【Name】来栖 護人/Age 38/Lv 23


HP 145/145  MP 78/78  SP 57/57

体力 B    魔力 E  器用 C+  俊敏 C  

攻撃 B-  防御 B+   魔攻 D- 魔防 D

理力 D+  適合 D+  魔素 C  幸運 D-


【skill】『硬化』『射撃』『掘削』

【S.Skill】《奥の手》《心眼》《耐性上昇》《異世界語》

【Title】《大器晩成》




【Name】レイジー/Age 5/Lv 26


HP 125/148  MP 62/89  SP 75/82

体力 B+  魔力 C  器用 B   俊敏 B+

攻撃 B+  防御 C   魔攻 C+   魔防 C-

理力 B- 適合 B   魔素 B-  幸運 D+


【skill】『魔炎』『歩脚術』『魔喰』

【S.Skill】《狼帝》

【Title】《統率者》




「うわっ、ミケさんいつの間にかステータスにAが2つも! 残りも半分がBだよっ、凄い成長振りだねぇ!」

「本当だ、レベルは護人叔父さんやレイジーの方が高いのに。それで新しく覚えたスキルは、《九魂九尾》って名前なんだね……妖精ちゃん、どんなスキルか分かる?」

「……良く分かんないって、妖精ちゃんも聞いた事無いみたい」

「こうやって見ると、レイジーちゃんのステータスも高いんだねぇ。やっぱり動物の方が身体能力は上がり易いのかなぁ?」


 紗良も混じって、始まる3名のステータスの見較べ大会。チームのエース2匹と較べられる護人は、何となく気まずい思いを味わうモノの。

 それは致し方が無い、って言うか数値を見ても以前よりは確実に成長はしているし。そして数値以外にも探索者の資質はある事が、今までの経験で分かって来た護人である。


 それはコンビプレーでの相乗効果だとか、チームワークだとか色々。異界の探索者チームにはまるで実力は敵わなかったけど、その点だけは負けないと護人は思う。

 それが家族チームの強みであり、ある意味弱点なのかも知れないが。





 ――家族の絆が弱点になる日が来ない事を、願ってやまない護人だった。








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