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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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異界の戦士団と会合を持つ件



 異界の集落をみんなで見て回るのに、大体1時間は使っただろうか。その間、リーダー同士は真面目な話をメインに、女子集団は気儘なお喋りで仲を深めて行き。

 何故か魔道ゴーレムのズブガジとルルンバちゃんも、集落の端っこで密に寄り添っている始末。両者に果たして、有効な情報伝達手段があるのかは不明だが。


 仲が良いに越した事は無いと、護人もムッターシャも敢えてそれには触れず。紗良も満足した表情で、異界の品を色々と買い込んで戻って来た。

 幸い、物流の価格は思ったよりずっと安かった様子で。今日稼いだ魔石で、買い物は充分に満喫出来た様子である。それには付き添った、香多奈とザジも満足そう。

 この両者、何だかさっきより一段と仲が良くなっている気が。


「紗良お姉ちゃんの作るご飯は、全部すっごく美味しいんだから! 今夜の献立は何が良いかなぁ、異界の人の口に合う料理って何だろうね?」

「そうねぇ……無難に和食か、それともカレーにしようかな? みんなたくさん食べてくれそうだし、いっぱい作るならやっぱりカレーよねぇ。

 向こうにも、似たような食べ物はあるのかなぁ?」

「ザジちゃんの話だと、みんな冒険中はあんまり食べないけど、終わったら滅茶苦茶食べるみたい。異界の料理は、何でも挑戦してみたいって言ってるよ?

 この娘、割と食いしん坊キャラなのかもね?」


 食いしん坊キャラに認定されたザジだが、紗良が素晴らしい料理人と知って明らかに嬉しそうなのは確か。香多奈とも話の通じる気安さから、随分と仲良くなっている。

 恐らくは元からの気質なのだろう、明るくて誰ともすぐ打ち解ける感じの。そこが香多奈と共感して、あっという間にわちゃわちゃする仲に。


 何しろ仲間も年上(37歳)のリーダーと、もっと年上(350歳)のエルフである。そして最後の1機は、話の全く通じない魔導ゴーレムと来ている。

 そんなチームでは、持ち前のキャビキャビ感を充分に発揮出来ていなかったのだろう。末妹にそう説明された紗良は、そんなモノなのかなと納得する。

 ウチのチームは、その点みんな仲良しで良かったと紗良は素直に思う。


 とにかく物欲も満たしたし、色んなお店を回って異界の集落の見分も深められた。また来る価値は充分あるし、危険な場所で無い事も分かったし。

 護人達の集団に合流して、そんな感じの事を報告して。姫香は護人のボディガードのつもりか、ずっとリーダーの後ろにツグミと控えていた模様。


 それはレイジーもそうで、ミケまで紗良の背中から降りて護人の側に控えていて。つまり最大の脅威は、依然としてこの異界のチームに違いないって事なのだろう。

 まぁ、1時間たった今は両チームのリーダーも割と打ち解けて来てはいる様だけど。短い話し合いで、それじゃあ今度はウチへとお招きする流れに。


 軽い歓迎会と聞いて、向こうの女性陣も楽しそうな雰囲気に。魔道ゴーレムのご機嫌は分からないが、ルルンバちゃんと一緒に後方からついて来てくれている。

 ようやくの帰還に、ハスキー達も足取り軽く護人達に付き従っている。そして約20分後の夕方前には、全員が揃って来栖邸へと辿り着いて。

 そこから紗良と姫香は、夕食の支度に大忙し。


 護人も一応、家の中を一通り案内した後、ホストとして向こうのチームの着替えなどを用意して。寛いで貰う為にと、香多奈と一緒に最大限の気を配る。

 向こうも、着慣れないシャツやズボンに戸惑いつつも。それでも女性2人は、姫香と紗良の普段着の洋服にとっても興味津々な様子。


 その辺の対応は香多奈に任せつつ、料理の支度もあらかた整ったとの報告に。ダイニングに漂う良い匂いに、向こうの戦士団も気もそぞろな模様。

 それから全員で着席しての、賑やかで少々異例な食事会に移行して。どうやら異界にはカレーに似た類いの食べ物は無いようで、皆が珍しがって食している。

 特に出された物を、警戒している風でも無いのは嬉しいけど。


 ってか、ムッターシャは早くもお替わりを希望していて食欲は旺盛な様子。一緒に出された野菜サラダは、どうも見向きもされない様子。

 一応こちらも、温室で育った来栖家の野菜がふんだんに使われているのだけれど。副菜の卵料理は、幸いにも女性陣には好評みたいである。


 そして猫娘のザジも、追従してお替わりの催促を紗良にせがんでいる。異界の料理は相当気に入った様子、それともずっとダンジョンに籠っていてろくな料理が食べれてなかったのか。

 両方あるのかも知れないけど、まぁ喜んでもらえて紗良と姫香は満足そう。会話は不自由なれど、何とか盛り上がっての夕食会も終了。

 その後は、客人をお風呂に招く作業が。


 いつもは探索や特訓後は、夕食より先にお風呂が習慣の来栖家なのだけれど。今回はつい客人を持て成そうと、夕食の支度を先にしてしまった為に。

 順番が前後してしまったが、客人も疲れは洗い流したい筈。そんな訳で、女性陣は恒例となった、一緒にお風呂で仲良くなろう作戦を敢行した模様。


 向こうの女性陣、リリアラとザジも普通に承諾したようで、賑やかな入浴を受け入れて。カルチャーショックを受けつつ、お湯の溜まった浴槽を眺めている。

 それからシャワーにも驚いているようで、これは何の魔法かと質問が止まらない。そんな中、紗良のお手並みで髪や身体を洗われて行く猫娘のザジ。

 どうやら、本物の猫程には水浴びは嫌いでない様子で何より。


 それより、尻尾まで付いていたのにはさすがの紗良も驚いている様子。ピンと張っているネコ耳にも驚いていたが、異界の亜人には色々と種類は豊富との事。

 翻訳した香多奈によると、人間種族の他にも軽く20種族は確認されているそうな。敵対する獣人種族となると、もっと多くて軽く50種類を超すそうなのだけど。

 そして仲が悪いのも定番で、縄張り争いで戦いは絶えないそう。


「はぁ~っ、そうなんだ……何か、ファンタジー小説そのまんまな世界だねぇ? ちょっと遊びに行ってみたい気もするなぁ、みんなで異世界に家族旅行。

 ちょっと面白そうじゃない、姫香お姉ちゃん?」

「まぁ、楽しそうではあるけど……こっちの世界より危なそうだし、行くにしてももう少し実力をつけてからじゃない?

 引率の護人叔父さんや、ハスキー軍団の負担が大きくなるのが目に見えてるよ」

「まぁ、そうだねぇ……向こうのチームは、余裕で20層とか潜ってるらしいから。せめて、その程度の実力になるまでは我慢しなさいって言われるかも?」


 それって今の倍の実力って事で、つまりは当分先って事でもある。到達出来ない可能性もあるので、実質的には駄目だよって意味でもあるのだが。

 そこまで思い至らない香多奈は、それなら頑張って強くならなきゃねと浮かれ模様である。お風呂場まで付いて来た妖精ちゃんも、向こうはそれなりに楽しいぞと変に焚き付けていて。


 やや心配な紗良ではあるが、まさか1人で行くとか妙な気は起こさないだろうと末妹を信頼する事に。何しろ、ダンジョン探索に同行する我が儘を許されているのだ、これ以上の交渉はちょっと無理。

 そんな異世界事情を聞きながら、女性陣は楽しく入浴を楽しんで。妖精ちゃんがのぼせて来たので、揃ってお風呂タイム終了の運びに。

 借りたパジャマに着替えて、テンションの上がるザジとリリアラである。


 男性陣もそれぞれ入浴を終えて、その後は明日の予定を簡単に決めて就寝する流れに。来栖家は割とお泊りして行くお客が多いので、ゲストルームの支度もそこまで大変でも無い。

 慣れた感じで部屋を準備して、女性陣に限ってはいつもの一緒の部屋で寝る事に。怜央奈などが泊まる時には、すっかり慣れた手順である。


 若い猫娘のザジなどは、このイベントに興奮模様なのだけど。香多奈も同様で、通訳そっちのけでザジやリリアラと話し込んでしまっていたり。

 一方の護人とムッターシャのチームリーダー同士は、もう少しお互いの親交を深めようと。妖精ちゃんを交えて、お酒を飲みながらリビングで語り合う事に。

 もっとも、小さな淑女は勝手に参加して来たのだが。


 それでもお酒を催促されるとは、全く思っていなかった護人は少し新鮮な感じ。甘党の癖に吞兵衛のんべえなのかと、小さなお猪口ちょこに日本酒を注いでやって。

 ムッターシャに関しては、体格からして相当にアルコールには強そうだ。先に潰れないようにと、護人はペース配分に気を配りながらの酒席を設け。


「おっ、こっちの酒は旨いな……それにしても異界の文化には驚かされっ放しだよ。お湯につかって疲れを取るとか、食事にしてもそうだが。

 色んな持て成し恐れ入る、こちらも何かで返したいんだが」

「こちらは田舎育ちでね、旅人にも親切にするのが当然みたいな風潮があるんだよ。しかも君らは、同じ探索者だからね……“喰らうモノ”の対応についても、協力出来そうだし。

 それならこちら側にも、相当な利があるからね」


 そこから話は、真面目に“喰らうモノ”についての対策方法の情報提供になって。とは言え、護人の方からは春先にこの地域に出現しそうと言う予知内容しか知らないのだが。

 向こうはそうでは無くて、奴に滅ぼされた村や町の話を細かに語り出す。それはかなり悲惨な情景で、聞いていた護人も思わず気分が悪くなる始末。


 何しろモンスターが、町や村に住んでいた人々を丸ごと喰らい尽くすのだ。そしてムッターシャの説明によると、奴は強いモンスターを喰らうだけその能力を得て行くらしい。

 繁殖力の高い動物を喰らったり、知恵の高い人間を喰らったりと、奴は自己の進化の為にその食欲を武器にして。気付けば向こうの世界でも特A級の、危険生物になっていたそうだ。

 そんな生物がこっちの世界に逃げて来たと知ったら、護人でなくてもゾッとする。


「そして奴は、恐らくは最終的にダンジョンまで喰らいやがった。“喰らうモノ”の生存本能は、厄介で今まで軍隊や戦士団に追い駆けられても逃げ切ったほどだ。

 そんな奴が知恵を駆使して新たに造るダンジョンだから、攻略も一筋縄では行かないだろうな……」

「なるほど、それはウチの戦力だけでは厳しそうだ……こちらも特訓に時間を費やして、チームの強化を頑張ってはいるんだけどね。

 何しろ春先の、最新の予知の内容がどれも酷くって」


 護人はそう言いながら、もう2つの予知内容をムッターシャに報告する。『アビス』と『浮遊大陸』とネットでは名付けられた予知に、向こうはしかし納得した様子で。

 『アビス』は確かに異界の通路になり得るし、『浮遊大陸』の古代の知性体は厄介だぞとアドバイスまでくれる始末。どうやら異世界では、戦士団なら誰でも知る類いのモノらしい。


 どちらも挑むには厄介だぞと、ベテラン探索者にそう言われてしまっては。ほんの1年間の経験しか持たない来栖家チームは、安易に近付くべきでは無いだろう。

 まぁ、最近はB級探索チームの肩書を付けられ、望んでもいない探索に担ぎ出される事態も増えたけど。今回は、さすがに地元に危機が迫っているのだ、それ所では全く無い。

 ただまぁ、春先までもう少し時間があるのが救いだろうか。


 ムッターシャも、チームで一度態勢を整え直してこちらにまた来ると口にする。その頃には、向こうの要望にあった住居などの支度をしておくよと請け負う護人。

 だがまぁ、懸念が無い訳では無い……もし再度の来訪で、こちらの手に負えない数の軍勢を引き連れて来られたらとか色々。だが人を疑い過ぎても、心が詮無いだけだ。


 実際、ムッターシャチームの実力があれば、来栖邸を乗っ取るのも容易には違いなく。恐らくだが、異世界交流と“喰らうモノ”の討伐依頼を受けている話は本当に違いない。

 誠実さと言うのは、例え荒くれ者の探索者にだって身につける事は可能である。ムッターシャにはそれがあると、護人は酒を酌み交わしながら確信する。

 この異界の探索者たちとは、良縁が築けそうだと。


「いや、しかし最初に遭遇したチームがこんなに風変わりだとは思わなかったな。これが異界のスタンダードで無い事を祈るよ、俺たちの常識じゃ測れないチーム構成だ。

 それから異界の文化……カタナに見せて貰ったス、スマホ……? アレは凄いな、出来れば交流の証として売って貰いたいんだが。

 いやいや、探せばもっと凄いのが出て来そうだ」

「スマホはこちらの世界の魔法? で動いてるから、異界やダンジョンとか圏外に持って行っても役には立たないよ。それを踏まえて、何かこちらの魔法装置をプレゼント用に準備しておくよ。

 それから拠点の候補も、明日軽く当たりを付けておくのも良いかな? 向こうに戻るにしても、そんなに急がなくてもいいんだろう?」


 有り難いと、素直にお礼を述べて来るムッターシャ。彼の顔は飲み慣れない異界の酒のせいで、朱色に染まっているけどさほど酔った感じは受けない。

 護人の方が、ペースを落としているのに酔っぱらってしまっているかも。それでも、テーブルの上で完全にノックダウンしている妖精ちゃんよりはマシだろうけど。


 護人は彼女にハンカチを被せてやって、膝の上のミケを撫でてのご機嫌伺い。ミケも酔っぱらった妖精を襲う程に、落ちぶれていないみたいで一応は安心だ。

 そんな護人の遣り様を、面白そうに眺めているムッターシャ。家の主と言うより、まるで小間使いのような態度だが、不思議と卑屈さは感じない。

 何と言うか、調和した寛ぎの空間演出をつかさどっているような。





 ――その居心地の良さは、酒の酔いもあってムッターシャを恍惚とさせた。










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