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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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異界の戦士団とうっかり遭遇する件



 こんな事態は、全く想像も出来なかった……とも言えないのが、何と言うか来栖家クオリティ。何しろ邸宅には妖精が住み付いてるし、敷地内にはダンジョンが3つもあるし。

 だから特に、護人に関しても戸惑いの感情はそれ程は無かった。香多奈など、積極的にコミュニケーションを取ってるし。他の面々も、まぁ似たようなモノ。


 ひたすら警戒しているのは、ミケでありハスキー軍団もそうなのだが。ミケは紗良が、ハスキー達も護人が制御して今の所は粗相には至っていない。

 それにしても、異界の探索者のオーラの凄まじさよ。護人など、間違っても事を構えようとは思わない。ハスキー軍団にしても、格の違いは感じている筈。

 ただ、相手が襲い掛かって来れば彼女達も必死に抗うだろう。


 護衛犬の本能として、それは染みついた反応には違いないのだが。そんな事にならないように、護人は必死にホストとしての役目を果たそうと頭を働かせる。

 外は寒いけど、ダンジョンを出てお茶にと誘うのはどうだろうか。向こうも女性が2人いるし、喜ばれるかも。それから向こうの用件をそれとなく伺い、対策を練る。


 脳内で忙しくそんな計画を練る護人だが、香多奈の馴れ合いはもっと直だった。どっから来たのと向こうの猫娘に訊ね、こちらもミケを撫でていいよと差し出す構え。

 ミケはひたすら迷惑そう、ついでに妖精ちゃんも会話に加わって。ある意味カオスだが、どうもダンジョン内に集落が出来上がっている事が会話から判明した。

 何とビックリ、そんな事ってあるのだろうか?


「あぁ、このダンジョンに出来た6個目の入り口、あれが集落に繋がってるんだ! 凄いね叔父さんっ、そんな事になってるなんて」

「なるほど、だから鬼も妖精ちゃんもクリアすべきお題のダンジョンは5つって言ってたのか。いやしかし、集落って誰が住んでるんだ?」

「そうよね、友好的な妖精ちゃんみたいな種族ならいいんだけど」


 確かに姫香の言う通り、こんな近場にもし非友好的な種族の拠点が出来ていたら大変である。その事については、後でしっかり確認しておかないと。

 それより今は、目の前の異界の探索者の素性を暴かないと。今の所は友好的だが、相手は相当の力を有する流れ者である。異界の流儀は、こちらは知り様も無いのだし。


 幸いにも、話が通じる者がこちらには2人もいる。妖精ちゃんの存在も、今は心強くもあるし。とか思っている間に、香多奈が勝手に話を纏めてしまった。

 要するに、まずはその集落がどんなのかお邪魔して、そのあとに来栖邸に夕食にお招きするって感じ。末妹的には、まずは自分の好奇心を満たすのが最優先みたい。

 護人にしても、集落の存在は直に確認したいので否は無い。


「こちらはそれで構わないが……本当に良いのかな、夕食に招いて貰って。自分で言うのもなんだが、我ら戦士団は向こうじゃ荒くれ者集団みたいな扱いでね。

 名が売れれば英雄扱いはして貰えるが、それはほんの一部のパーティだけだ。他の冒険者は、武器と魔法の扱いに長けた定まった宿を持たない流れ者って認識だな。

 事実、俺たちも拠点を持たない戦士団の1つだ」

「なるほど、こちらの探索者とは随分違うね……こっちの世界では、突然5年前の“大変動”でダンジョンが出現して大慌てだったんだ。

 それ以前にも一応は国の自衛手段はあったんだが、モンスター退治の経験など全く無くてね。そんな訳で、治安維持にと素人状態から探索者チームが立ち上がって。

 チーム同士で仲良く出来れば、ウチらとしても歓迎するよ」


 2人のリーダーの会話を、香多奈が姉たちに忙しく翻訳している。姫香はハスキー達を宥めながらも、向こうの装備や力量を抜け目なくチェック。

 何しろ敷地内に、向こうの世界との通路が繋がったと言う非常事態だ。護人叔父さんや香多奈は呑気に構えているが、裏庭にダンジョンが生えた以上の窮地かも?


 そう考えるのは普通の反応だが、末妹の香多奈はウキウキ模様で相手に案内をせがんでいる。百戦錬磨の戦士団も、子供同伴の冒険者との遭遇は初らしく。

 何だか戸惑い模様で、同じレベルで浮かれているのは猫娘のザジと紹介された少女のみ。この娘も案外若く、ひょっとしたら姫香と同い年くらいか。

 そんな2人の先導で、2つのチームはダンジョン4層へ。



 敵影もほぼ無くなった本道を、一行は10分程度で移動を果たす。そして問題の、4層の支道に出現したダンジョン内通路の元へと辿り着き。

 以前にも1度確認したけど、それはワープ魔方陣の形となっていた。確認しただけで突入はしなかったが、今は活き活きと明るい光を放っている。


 向こうのリーダーのムッターシャの説明によると、この魔方陣は移動先を指定出来るタイプらしい。集落の先からチームで色々と試していて、ようやくこの地へ行きついたとの事。

 ただし起動には、結構な量のMPか魔石を必要とするみたいで。そうホイホイと使えないのが、最大のネックらしい。だが今は、さっき起動したばかりで使用可能状態となっている。

 つまりここを潜れば、彼らが来た集落へと行けるって事に。


 魔道ゴーレムのズブガジの大きな巨体が、まずは最初にそこを潜って行った。それから猫娘が続いて、来栖家チームの面々もそれに従う事に。

 ハスキー達が躊躇ためらいつつも、主人に従って魔方陣を潜って行く。ルルンバちゃんや茶々丸に関しては、何も考えてなかっただろうけど。


 とにかく出た先は、長閑な集落の端っこみたいな場所でまずは一安心。敵が待ち受けていきなり戦闘みたいなパターンも、一応は備えていたレイジーだったけど。

 香多奈はその異世界感たっぷりの、巨大なほこらや集落の風景に興味津々の様子。緑色の髪のエルフのリリアラによると、ここはフィールド型ダンジョンの一種らしい。

 つまり集落の拡がりには、果てがあるそうな。


「それでも凄いね、護人叔父さん……でも翻訳して貰わないと、向こうの喋ってる事が分からないのは不便だねぇ。

 何とかあと2つ、翻訳のオーブ珠を入手出来ないかな?」

「もし協会に在庫があれば、必要経費で買うのもアリだな……とにかく今は、俺と香多奈の翻訳で我慢してくれ、2人とも」


 そんな感じでの情報交換は、実は移動中にも色々とやっていて。彼らの世界では、ダンジョンと言えば2種存在するとの認識で。

 その1つが、どうも“大変動”以降に急に出没するようになった“異世界ダンジョン”みたいだ。それに対応するために、元の戦士団から『彷徨う戦士団』と言うのが生まれて。


 彼ら“皇帝竜の爪の垢”チームは、その時流に上手く乗って名が売れた存在だそうな。お陰で国と魔導研究機関から密命を受け、その任務の1つが異世界交流の橋渡し役だったみたいで。

 ムッターシャは愚痴モード、ここ数か月は異界の住民と遭遇しても襲い掛かられて、話も通じなかったと口にして。確かに護人も、最初の遭遇ではギョッとしたのも事実。

 話が通じない相手だったら、ハスキー達も躊躇なく攻撃していただろう。


 ちなみに彼らのもう1つの使命は、“喰らうモノ”の捜索&殲滅らしかった。予知でしか聞かなかった名前が、思わぬ異界の探索者の口から洩れ聞いて護人もビックリ。

 どうやらその“喰らうモノ”は、異世界で大量殺戮(食事?)をして戦士団に追われて、最終的にはどこかのダンジョンに逃げ込んだそう。その後の音信が不通で、恐らくは口を閉じて自身の成長の時間に充てているのだろうと推測が出来る。


 そんな危険性の高い存在を相手取るのは、確かに怖いねぇと呑気な香多奈。猫耳娘の話では、町1つくらいは簡単に滅ぼす能力を有しているそうで。

 しかも知恵のある生き物を喰らって、余計な悪知恵を得たらしいその異界生物。ひょっとしたらダンジョンそのものを喰らって、更なる成長を遂げているかもとの事。


 護人もこちらの予知で、春先にこの近辺に“喰らうモノ”と言うダンジョンが出没するって情報を相手に知らせる。向こうがそれを追ってるのなら、協力するのもやぶさかでは無いし。

 相手もその情報には歓喜している様子、随分と長い間追跡に時間を掛けていたらしい。それから異世界交流も、出来れば続けて欲しいとお願いされてしまって。

 それを気安く受け入れる香多奈、何だかなぁって思う。


「だって、お友達は多い方が良いに決まってるじゃん! ウチには妖精ちゃんって前例もあるし、全然平気だよね叔父さんっ?」

「まぁ、色んな取り決めをしてからかな……お互いに武器を向けないとか、どの程度の交流までを許容するかとか。

 そこはさすがに、妖精ちゃんの時みたいに、なあなあって感じでは行かないよ」

「そうだな、その点はこちらも同意したい所ではあるが……出来ればあなた方の世界にも拠点を設けて、交流の足掛かりにしたいのが本音だな。

 無理は言わないが、寛げる適当な住居があれば用意をお願いしたい。何しろこちらは、チームに女性が2人もいるからな。

 もちろん対価は充分に支払うし、多少の不便は我慢する」


 向こうのリーダーの、ムッターシャの提案は意外だったが何となく理解出来る護人。向こうも恐らく、我儘とは言わないまでも女性陣の言い分が強いのだろう。

 それを叶えるのもリーダーの役目、ちょっと同情しつつも前向きに善処すると口にする護人。香多奈などは、空き家は近くにあるよと歓迎ムードだが。


 いきなりそこまで仲良くするのもどうかなと、姫香あたりは警戒を崩していない。護人の方はビジネスライクに行くようにしたようで、クールに対応しているけど。

 そんな会話を挟みつつ、辿り着いた集落の見学に移行する一行。異界の集落は、ファンタジー色が強いかと思ったけど実はそうでも無くて。

 岩やレンガ製の中世の建物は、確かにそれっぽくもあるけど。


 ただし、すれ違う住民は地人と称されるノームや鬼人が大半だった。向こうも妙な旅人が立ち寄ってるなと、たまに好奇な視線を向けて来る。

 ムッターシャの話では、この集落はそんな亜人ばかりで形成されているらしい。住民の話では、元からの隠れ里が異界の裂け目に飲まれて定着したとの事で。


 それ程に大事とは思っておらず、図太いと言うか呆れるしかない。一応は宿屋や鍛冶屋、それに薬師の経営する店もあるそうで、冒険の補給には事欠かないそうだ。

 この数か月は、彼らはここを拠点としてダンジョン探索に勤しんでいるそうで。それなりに深い階層のダンジョンも、幾つか踏破したとの事。

 稼ぎもそこそこあったし、経験値も増えたと満足そうな猫娘。


「異世界ダンジョンは、普通のダンジョンと違って倒したモンスターが魔石に変わるのがいいニャ♪ お陰で解体の時間取られずに、サクサク奥へと進めるニャ!」

「へえっ、ザジちゃんの世界には普通に生きてるモンスターもいるんだ……そりゃあ、生きて行くのも大変だねぇ!」

「こちらの世界の“大変動”だったか……大変だったそうだが、俺たちの世界では元から戦い専門の戦士団がいたからな。

 オーバーフロー騒動も、普通に対処して大事には至らなかったな」


 そうらしい、ちなみに深い階層と言うのは20層とか25層だそうで。来栖家チームなどは、全く到達した事のない深さ。A級の甲斐谷チームでも、1日で25層は無かったような。

 そこまで潜るには、こちらでは2日とか日跨ぎするのが常識なのだが。この“皇帝竜の爪の垢”チームは、日帰り出来る実力を持っているみたい。


 そんなチームが味方になってくれるのは頼もしいが、果たしてそう上手く行くのかが問題。頭を悩ます護人だが、紗良や香多奈は集落のお店に興味津々で。

 売ってる果実や野菜を見ては、質問を繰り返してみたり。珍しい、見た事のない種類ばかりで、確かに紗良でなくてもテンションが上がる。

 薬草なんかも売ってるみたいで、香多奈も翻訳に大忙しだ。


「あっちには巻物や、特殊な効果の石も売ってるわよ……私たち以外の戦士団も数組いる筈だから、物流は活発なのよね、この集落。

 支払いは魔石でオッケーだから、無ければご用立てするわよ?」

「ありがとう、幸いさっきまでダンジョンと探索で稼げていてね……魔石は充分に手元にあるよ、まぁここの物価がどの程度か分からないけど」


 緑色の髪の美しいエルフに話し掛けられ、多少ドギマギしてしまう護人。それに反応して、思わずムッとしてしまう姫香だったり。

 その辺はお年頃、それを察知したムッターシャがすかさず話題を変えて護人に話し掛ける。お宅のペット勢は優秀そうだが、君は獣使いなのかとか。

 仔ドラゴンをペットにしているチームは、こちらでも見当たらないとか。


「君の装備している薔薇色のマント、意志を持っているね? 意思を持つ装備に好かれる事は、戦士団にとっては物凄く名誉な事なんだ。

 ただし、妖精付きはこっちの世界ではあまり好まれてないな、何しろ彼女たちは幸運も呼ぶかトラブルも同じ様に招く種族だから。

 君らも精々、注意すべきかもな?」


 そんなムッターシャの台詞にも、妖精ちゃんは懲りた風もなく。この子らは自分の弟子だから、育てている最中なのだとうそぶいていたりして。

 将来的には、『万葉樹の苗』を取りに向かわせるのだと大威張りでの口調に。それは難問を与えられたわねと、多少同情するようなエルフのリリアラの返し文句。

 そのクエストは、余程の難問らしいとその表情で知れる。





 ――ただまぁ、来栖家には選択の余地が無いのも確かだったり。







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